アパートが古くなると、利回りの低下や空室リスクが心配されます。これらを解消する方法の1つが、建て替えです。とはいえ、費用が気になり踏み切れないという方もいるでしょう。
そんな方へ、この記事ではアパート建て替えにかかる費用の相場と安く抑えるコツ、注意点について解説します。
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ポイント
- アパートの建て替え費用は3種類
- 種類ごとに相場と節約のコツを紹介
- 建て替えの最終的なメリットと比較しながら費用を把握、調整するのがおすすめ
アパート建て替え費用の概要
アパートの建て替えには、「アパートの解体にかかる費用」「アパートを新しく建てるための費用」「現在の入居者の立ち退きにかかる費用」の主に3種類の費用がかかります
。
更地にアパートを新築するときと比べ、追加費用がかかることは間違いありません。とはいえ、アパートの建て替えは、建物の老朽化による回転率の低下や修繕費の発生など、さまざまな問題を解消または改善できる有効な手段でもあります。
まず重要なのは、これらの費用を正しく理解することです。ここでは、アパートを建て替えるときにかかる費用の概要とそれぞれの相場について解説します。
アパート解体の費用相場
アパートの解体には、大きく分けて「建物自体を解体するための費用」「解体後の廃材の運搬・処分にかかる費用」「駐車場など土間コンクリートを解体するための費用」「屋根付きガレージなど建物付属の建築物の解体にかかる費用」の4種類の費用があります。
これらの中で高い比率を占めているのが建物自体の解体費用ですが、これは建物の構造によって相場が異なります。
建物の構造 | 解体費用の相場(坪単価) |
---|---|
木造 | 4万~5万 |
鉄骨造 | 6万~7万 |
鉄筋コンクリート造 | 7万~8万 |
鉄骨造や鉄筋コンクリート造の場合、木造と比べて必要な重機の種類や大きさ、廃材の処分方法、手間がかかります。なお、これはあくまでも建物の構造による相場の違いです。実際にかかる費用は、アパートが建っている場所や規模、周辺の環境によって変化します。
また、一部の自治体では、解体を含めて建て替えについて補助金制度を設けている場合もあります。要件に合致すればかかる費用を抑える効果が期待できるので、事前に調べたり、問い合わせたりしておくとよいでしょう。
アパート新築の費用相場
アパートの新築時には、アパート本体の建設だけでも、基礎工事から木工事、屋根・外装工事、内外装工事や電気工事、給排水衛生工事まで、実に多岐にわたる費用がかかります。また、実際にこれらの費用は個別ではなく、総額で表されます。
総額は、「坪単価」に「延べ床面積(坪数)」をかけて求めるのが一般的です。この場合、建物の構造によって坪単価の相場が変わります。
建物の構造による新築費用相場の違いがわかる具体的な例として、「2階建、1戸9坪X10戸(90坪)」の新築費用の概算を比較したのが次の表です。これは、国土交通省「建築着工統計調査」2021年度の共同住宅(貸家)工事費予定額の全国平均から計算した結果ですので、建てる場所によって金額は変わってきます。
建物の構造 |
新築費用の坪単価 |
建物のみの概算の新築費用 (90坪の場合) |
---|---|---|
木造 | 56.2万円 (17万円) |
5,058万円 |
鉄骨造 | 82.3万円 (24.9万円) |
7,407万円 |
鉄筋コンクリート造 | 84.0万円 (25.4万円) |
7,560万円 |
鉄骨鉄筋コンクリート造 | 94.9万円 (28.7万円) |
8,541万円 |
参考:国土交通省 建築着工統計調査(2021年度)第34表
建物の構造は建築費用だけでなく、その後の家賃設定にも大きく影響します。どの構造で建て替えるかは、賃貸を再開したときの家賃相場も考慮して決めるとよいでしょう。
また新築の場合、外構工事費や地盤改良工事費などの「付帯工事費」や、火災保険料や不動産取得税といった「諸経費」も考慮しなくてはなりません。アパートの建て替えを検討するときは、これらの費用もすべて細かく考慮する必要があります。
建て替えに伴う入居者の退去費用
建て替えの場合、解体するには、入居者が退居しなくてはならないという、新築との大きな違いがあります。アパート経営において大きな決断ですが、これはあくまでもオーナー側の事情です。
入居者にとって退居は、まさに生活の基盤を失うことであり、大変な負担を強いられる一大事に違いありません。
そのため、借地借家法は入居者に対し「正当な理由がなければ、入居者は解約に応じなくてもよい」と定めると同時に、オーナーに対しては「賃貸借の解約の申し入れは、6カ月前までに行わなければならない」と定めています。借地借家法では、正当な理由について以下のように定められています。
建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。
(1)建物の賃貸人及び賃借人が建物の使用を必要とする事情、(2)建物の賃貸借に関する従前の経過、(3)建物の利用状況、(4)建物の現況、(5)建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出、これら5つを総合的に考慮して判断されます。
通常、アパートの建て替えだけでは、入居者の居住権に対して「正当な理由」にはあたらないとされます。入居者にスムーズに退居してもらうために、多くの場合オーナーは立ち退き料を支払います。
立ち退き料の相場は一般的には賃料の6カ月分とされていますが、地域や状況によってさまざまです。なかなか合意に至らない場合には、引越し費用などを加えることもあるようです。
アパートを建て替える3つのメリット
アパートの建て替えには新築以上の費用がかかりますが、それを差し引いてもメリットがあることも事実です。ただし、それはあくまでも建て替え前と比べた場合という意味です。建て替え前の状況と、建て替え後の綿密な比較と計画との比較があって初めて現実的に検討を始めることができます。
ここでは、建て替え前と建て替え後の変化と合わせて建て替えのメリットについて解説します。
家賃収入の増加が期待できる
建て替えの大きな理由の1つは、家賃収入の改善でしょう。たとえ立地条件が良かったとしても、建物が老朽化すれば賃貸物件としての魅力は下がり、だんだんと空室期間が長くなってくるものです。
空室対策のため、家賃を下げざるを得なくなるかもしれません。さらに老朽化が進めば、よほどのことがない限り、再び家賃を上げることは難しいでしょう。
そのような場合にアパートを建て替え、新築に変われば、これまでより家賃も高く設定できる可能性があります。Wi-Fiを完備したり防犯設備を追加したりすれば、追加費用はかかるでしょうが、それ以上のリターンが得られるかもしれません。
メンテナンス費用を軽減できる
建物は老朽化するほど、雨どいが割れたり壁にひび割れが入ったり、さまざまなほころびが目立つようになります。大きな問題でなければまだよいのですが、雨もりのように入居者の生活に悪影響を与える時は早急な対応が必要です。
しかし、建て替えれて新築に変われば、当分の間老朽化による修繕は必要なくなります。エアコンや給湯システムなどの設備には保証期間があり、新調すれば一定期間は余計な出費はありません。オーナーにとっても、急な出費に対する不安の軽減につながるでしょう。
税金対策になる
アパート経営における重要な費用項目の1つに、減価償却費があります。減価償却費は、収入を得るために必要な固定資産について、経年劣化する分として毎年計上できる費用です。
アパートの建物は、不動産収入を得るために必要な固定資産にあたるため、一定期間、減価償却費を計上できます。逆にいえば、期間を過ぎると費用計上できなくなるということでもあります。費用計上できなくなれば、その分所得が増えることになり、より高額な所得税を納めなくてはならなくなります。
減価償却できる期間は建物の構造により異なります。アパートの場合、木造で22年、鉄骨造で19〜34年、鉄筋コンクリート造または鉄骨鉄筋コンクリート造で47年と定められています。現在それぞれの期間を超えているアパートは、建て替えれによって減価償却費を計上して所得税を抑えられる、つまり節税が可能になります。
また建て替えは、相続税対策にもなり得ます。アパートを建て替えたとき、オーナー名義のローンを利用していれば、相続時、資産総額からローン残高が差し引かれ相続税を抑えることができるからです。相続する子どもや孫にとっても、築古のアパートより、資産価値が高く、節税にもなる新築アパートの方が良いでしょう。
アパートの建て替えは目先の数年だけでなく、5年・10年先のメリットまで見越して計画・実行したいものです。
参考:東京都主税局 償却資産の評価に用いる耐用年数
アパートの建て替え費用を抑える4つのコツ
アパートの建て替えにはメリットがありますが、まとまった費用がかかることでもあります。経営を考えれば、収入はできるだけ高く、支出はできるだけ抑えたいもの。ここでは費用を抑えるコツについて解説します。
解体費用と新築費用、退去費用、その他の支出を抑えるコツを、1つずつ見ていきましょう。
解体費用を抑える
解体費用を上手に抑えるには、「複数の解体工事会社から見積もりをとって比較する」「建物の周辺や近隣住民には十分に配慮する」「固定資産税の課税のタイミングを避けて解体する」の3つに留意することです。
複数の解体工事会社から見積もりをとって比較する
解体費用には相場がありますが、建っているエリアや周囲の状況など、さまざまな理由によって実際にかかる費用は異なります。そのため解体費用の見積もりを、1社だけでなく2〜3社からとって比較し、金額と内容を詳しく検討することをおすすめします。
また解体から新築まで、まとめて依頼できれば、それぞれ別の会社に依頼するよりずっと手間が少なく済むだけでなく、解体から新築までスムーズに移行できるというメリットもあります。
ただし、そのためには解体前の時点で、建て替えと資金に関する綿密な計画が必要です。ある程度の時間の余裕をもって計画しましょう。
建物の周辺や近隣住民には十分に配慮する
また解体や新築では騒音や振動などによって近隣住人とトラブルになることも少なくありません。対処を誤るとその後の関係が悪くなったり、余計な工事費が発生したりする可能性があります。
工事前には丁寧に、ご近所へ挨拶に回り、連絡先を記したチラシも忘れずに配布しておきましょう。
固定資産税の課税のタイミングを避けて解体する
固定資産税の課税価格は、毎年1月1日時点における土地の状況・要件によって決まります。通常、アパートが建っている土地は、アパートが建っていることを条件にもとの課税価格の約4分の1程度に軽減されています。しかし、1月1日に解体を終えていると、土地の固定資産税は4倍になってしまいます。
できるだけ、建物が建っている状態で1月1日を迎えられるよう計画すると良いでしょう。
新築費用を抑える
新築費用も解体費用と同様、複数の業者の見積もりを比較することが重要です。加えて新築の場合、どのようなアパートにするかというプランも比較する必要があります。
特に大手ハウスメーカーであれば、自社で製造した建築部材を使用していたり、中堅メーカーでも独自の工業加工法で高品質ながら価格を抑えていたりと、各社さまざまな特色があります。相見積もりをとることで、オーナーはより理想に近いプランを選ぶことができるでしょう。
また、もし計画時点で土地が余る場合は、その土地を売却または活用して新築費用に充当すると、結果として新築費用を抑えることができます。なお、土地の一部を売却する場合は、土地の境界を確定し、文筆しなくてはならない点は注意が必要です。
退去費用を抑える
退居費用を抑えるには、まず入居者と丁寧に対面交渉する必要があります。最低でも退居の6カ月前までに通知しなくてはなりませんが、それ以上前から協力を仰ぎ、立退料を含めスムーズに退去してもらえるよう、立ち退き料も含めて交渉していきましょう。
もし建て替えまでに期間があるようなら、自然退居の後、新しい入居者を入れない、または賃貸契約を定期賃借契約に切り替えて短期間入居を募集するなどして、全体の入居戸数が減るタイミングで建て替えられるよう調整するこおとも1つの方法です。
建て替え以外の方法も検討する
費用が高額で工面できなかったり物件が再建築不可だった場合など、建て替えが難しい場合は、建て替え以外の方法も検討するとよいでしょう。たとえば間取りや古い設備のために入居率が伸び悩んでいるだけなら、リフォームで十分対応できるかもしれません。
リフォームの良い点は、1戸単位から可能なことです。自然退居した後にリフォームを行えば、ニーズの多い間取りで設備の備わった物件として、家賃を高めに設定することもできます。そうすれば解体費用はもちろん、退居費用も発生させずに物件の価値を上げることも可能です。
建て替えだけが、収支改善の手段ではありません。今抱える問題は何か、原因を正しく分析し、それに対する最適な解決方法を模索することが重要なのです。
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アパート建て替えの3つの注意点
アパートの建て替えは、費用も高額で時間もかかる一大事業です。スムーズに計画を進め、効果的に収支を改善させるためには注意すべき点がいくつかあります。計画立案の際は、ぜひ注意点を加味して検討してください。
収支を詳細にシミュレーションする
アパート建て替えに必要な費用と、建て替え後に想定できる家賃や利回りを試算してみると、より実現性の高いアパート建築費を算出することができます。そのためには周辺の家賃相場やニーズの傾向といった情報収集が欠かせません。
不動産会社や管理会社、ハウスメーカーなどに相談し、収支計画のための情報を集めましょう。
綿密な収支計画であるほど、将来のトラブルを避けることにつながります。細かい費用やその支払いタイミング、支払い方法に至るまでできる限り細部まで把握することが大切です。
退去には時間がかかる場合がある
建て替えに欠かせない入居者の退居は、6カ月以上前に通知しなくてはなりませんが、通知したからといって期日までに退居が完了するとは限りません。
建て替えが「やむを得ない事情にあたらない」と判断される以上、オーナーと入居者の双方の合意が必要なため、期間を制限することはできないからです。
通知後スムーズに合意できる場合もありますし、1年たっても合意できない場合もあるでしょう。建て替えたい期限があるのなら、入居者に相応の時期と条件を提示し、丁寧に交渉することが大切です。
信頼できる建築会社を選ぶ
解体にしろ新築にしろ、信頼できる会社を選ぶことは重要なポイントです。しかし、費用は安いが仕事が荒くてトラブルが多い業者や、期待以上の仕事をするけれど費用は驚くほど高額、などさまざまな業者が存在します。
アパートの建て替えを前提とする場合、新築の後のメンテナンスや経営について相談できるような不動産のプロフェッショナルへの依頼であれば、ある程度費用がかかってもそれ以上の価値があるかもしれません。
アパート経営には、厄介なトラブルが発生する可能性があります。そのようなときも、信頼できる会社であれば、毎日不安が少なく安心して経営できるでしょう。せっかく建て替えるのであれば、建てた後の経営の相談にも乗ってくれるような、頼れる会社を選びたいものです。
まとめ
アパートの建て替えに関する費用について、さまざまな視点から解説してきました。建て替えには高額な費用がかかるものの、それに見合うだけのメリットも期待できます。
ただし、そのためには、それぞれの費用の特徴や抑えるためのコツや注意すべき点を正しく把握し、実際に計画に盛り込むことが大切です。
ただ費用を抑えればよいのではなく、建て替え後の想定家賃や収支計画とのバランスを考えて適切に投資する必要があります。アパートを上手に建て替えるためには、十分な情報収集と、時間に余裕をもって始めることが大切です。
監修者
宅地建物取引士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士
中川 祐一
現在、不動産会社で建築請負営業と土地・収益物件の仕入れを中心に担当している。これまで約20年間培ってきた、現場に密着した営業経験と建築知識、不動産知識を活かして業務に携わっている。
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