所有するアパートの空室率が上がったり、入居者のニーズに変化が見られるようになったら、建て替えのタイミングかもしれません。適切な建て替えは、資産価値向上にもつながります。
本記事では、アパートの建て替えにふさわしい5つのタイミングや、建て替えのメリットとデメリットを解説します。
ポイント
- 空室率が増えている場合や築年数が経過している場合はアパートの建て替えを検討する
- アパートを建て替えることで空室率改善や資産価値向上につながる
- 立退料・解体費用や立退交渉など、費用や手間がかかる
アパート建て替えのタイミング5つ
建て替えとは、すでにある建物を解体した後で、新たに建築することです。オーナーがアパートの建て替えを検討すべきタイミングには、以下の5つがあります。
- 1.空室率が増えている
- 2.築年数が古い
- 3.リフォーム費用が立て続けに発生している
- 4.入居者ニーズが変化している
- 5.低金利のローンを借りられる
空室率が増えている
間取りや設備が時代のニーズと合わなくなると空室が増えてくる場合があります。古いアパートでも空室率が低ければ建て替えの必要はありませんが、空室率が改善されないのであれば建て替えを考えた方が良いタイミングです。
また、アパートを建て替える場合、現在の入居者と立退交渉をしなければなりません。所有するアパートの空室率が高ければ、入居者が少なく立退交渉の手間も少なくなります。
一般的に、アパートの建て替えを検討すべき空室率の目安は、5割とされています。立退交渉の手間をできるだけ減らしたいのであれば、8割程度で決断するとよいでしょう。
なお、空室率とは所有する不動産の部屋数に対して空室がどの程度あるかを示す指標で、以下の式で算出できます。
空室率=該当物件のうち空室の数÷ 該当物件全体の部屋数 × 100
築年数が古い
法定耐用年数は以下のとおりです。
- 木造(住宅用)は22年
- 木造モルタル造(住宅用)は20年
- 軽量鉄骨造は19年(鉄骨厚さ3mm以下)ないし27年(鉄骨厚さ3mm超4mm以下)
法定耐用年数は実際の耐久年数を示したものではありませんが、多くの構造で法定耐用年数を超える、築20〜30年が建て替えを検討するひとつの目安でしょう。
また、築年数が古いと経年劣化で耐震性や耐久性が弱まり、災害リスクが高まります。耐震性を高める修繕は、リフォームでは対応できない可能性が高いです。
参照:国税庁 耐用年数(建物/建物附属設備)
リフォーム費用が立て続けに発生
屋根やベランダのリフォームなど大規模な修繕が続くような場合は、アパートの建て替えを検討しましょう。
アパートは、年数の経過とともに劣化していきます。高額な費用を懸念して建て替えをしなかったとしても、老朽化に伴う大規模な修繕が何度も必要になれば、最終的に多大なコストがかかってしまうでしょう。
入居者ニーズが変化している
無料かつ高速のインターネット設備や宅配ボックスを条件にするなど、入居者の物件に対するニーズは年々変化しています。建物のデザインや設備が時代にそぐわなくなってくると空室率が増加にもつながりかねず、アパートの建て替えを検討した方がよいでしょう。
低金利のローンを借りられる
アパートの建て替えには、多額の費用がかかるため、金融機関からの借入れを行うことが一般的です。毎月の支払額を極力抑えられるように、低金利で借りられる時にアパートの建て替えを検討しましょう。
また、新たなローンを組みやすくなるため、既存のローン返済が終了した際もアパートの建て替えを検討するのに良いタイミングです。
アパートを建て替える際の流れ
アパートを建て替える際の全体の流れは以下の通りです。
- 1
- 業者や建て替えのプランを選定
- 2
- 見積りを確認し、建て替えを決定したら、業者との詳細打ち合わせ
- 3
- 借入れを予定している場合は、取引金融機関に相談
- 4
- 入居者と立退交渉
- 5
- 解体・工事請負契約
- 6
- アパートの取り壊し
- 7
- アパート着工(工事開始)
- 8
- アパート竣工(工事完了)
ここからは、流れの中で特に大切なポイントを紹介します。
業者との打ち合わせから竣工までのポイント
建て替えにおいて業者選びは大変重要です。1社だけでなく、複数の業者に見積もりを依頼した上で、コストや各社の実績を確認することが大切です。
解体工事と建設工事では必要な許可が異なるため、複数の業者に依頼しなければならないこともあります。スムーズに建て替えを進めるためには、建設会社に解体工事会社を紹介してもらう、もしくは解体・建設いずれも可能な業者に依頼することがポイントです。
また、建て替えの資金調達には、民間の金融機関や日本政策金融公庫からの借り入れを利用することが多いと思いますが、あらかじめ、建て替えに伴う収入・支出を理解しておきましょう。
入居者との立ち退き交渉のポイント
借地借家法により、「正当な事由」がない限り賃貸人(オーナー)の都合で賃貸借解約の申し入れをすることはできません。「老朽化による建て替え」は正当な事由として考慮されますが、それだけではなく立退料を支払うことが一般的です。また、原則として、解約の申し入れは契約満了の1年前から6カ月前までに行わなければなりません。
いずれにしても、入居者にも十分納得してもらえるよう、以下のようなスケジュールで立退交渉することが必要です。
1.建て替え開始の6カ月以上前に入居者に解約を申し入れる
2.立退交渉を開始する
3.引っ越し先を斡旋する
4.物件を明け渡してもらう
立退交渉の際には、早めに入居者に伝えること、いつまでに明け渡してもらうか明確に伝えること、入居者に転居先の良い物件を紹介することなどが重要です。
借地借家法 第二十八条 建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件
建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。
引用:E-GOV 借地借家法
アパートの取り壊し費用(解体費用)
物件の取り壊し費用が必要です。アパートの取り壊し費用(解体費用)は、物件の構造によって異なります。
木造やプレハブ造は1坪あたり4万〜5万円、鉄骨造(S造)は1坪あたり6万〜7万円、鉄筋コンクリート造(RC造)は1坪あたり7万〜10万円が相場といわれています。鉄筋コンクリート造は、頑丈で壊しにくいためほかと比べて解体費用が高くなります。
実際には、大型重機を使用する場合や、アパートの階数によっても費用が変わってきますので、あくまでも上記の金額は目安です。
入居者への退去費用
立退料という入居者への退去費用がかかることがあります。
立退料には、慰謝料や引っ越し費用、転居先の敷金・礼金分が含まれます。
一般的に、立退料として、立ち退きを依頼する入居戸数 × 賃料6カ月分の費用がかかるといわれています。
アパートの新築費用
建て替える場合、アパートの新築費用もかかります。新築費用も、解体費用と同様に物件の構造によって異なります。
建築費用は、木造で1坪あたり50万〜60万円、鉄骨造(S造)で1坪あたり70万〜100万円、鉄筋コンクリート造(RC造)で1坪あたり80万〜120万円が目安です。
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空室率改善・資産価値向上
建て替え後の物件が魅力的であれば、入居希望者が増えます。結果として、空室率の改善につながる点がメリットです。
また、不動産投資を目的としたアパート経営では、最終的にいかに高額で物件を売却できるかという出口戦略も考えておかなければなりません。古くなったアパートを建て替えれば物件の資産価値向上を期待できるため、高額で売却できる可能性がある点もメリットです。
相続税評価額の低下
賃貸物件は賃貸割合によって、評価額が変わります。アパートの建て替えにより空室率が低下し賃貸割合が増えると、相続税評価額が低下し節税になります。
貸家建付地の価額は以下の式で算出されます。
貸家建付地の価額 =
自用地としての価額-(自用地としての価額×借地権割合×借家権割合×賃貸割合)
原価償却費の計上
減価償却とは、設備投資などの費用を法定耐用年数にあわせて配分する会計処理のことです。法定耐用年数を過ぎて減価償却できなくなっていた物件も、建て替えることで新たに減価償却費として経費に計上できます。
そのほか、老朽化した建物を建て替えることで、今後発生しうる修繕費を抑えられる点もメリットです。
参照:国税庁 No.4614 貸家建付地の評価
費用と手間がかかる
アパートの建て替えにあたり、立退料・解体費用・新築費用・登記費用(登録免許税と司法書士報酬)・ローン手数料などさまざまな費用がかかる点がデメリットです。また、建て替えた後にかかる保険料も、以前より高額になる可能性があります。
さらに、各種手続きや業者との打ち合わせ、立退交渉など、手間がかかる点もデメリットです。
時間がかかる
物件を取り壊すところから始めるため、リフォームよりも長い期間かかる点もデメリットです。契約する業者や工事の規模によっても異なりますが、一般的にアパート建て替えには約1年という期間を要します。
工事期間は入居者がいないため、家賃収入を全く得られません。生活に支障がないかを十分に検討した上で、工事を進めることが大切です。
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まとめ
アパートを建て替えする主なタイミングは、「空室率が増えている」「築年数が古い」「リフォーム費用が立て続けに発生している」「入居者ニーズが変化している」「低金利のローンを借りられる」の5つです。アパートを建て替えすることで、空室率改善や節税効果を期待できます。
所有するアパートが古くなってきた方は、費用や一定の期間がかかるというデメリットを考慮しつつ建て替えを検討しましょう。
監修者
魚角 幸正
- 資格
- 宅地建物取引士
- 略歴
- 大手ハウスメーカーにて従事した後、不動産会社で土地の仕入れに携わる。建築知識と経験を活かした不動産売買にまつわる問題解決を得意としている。