
アパート経営において、地震や火災、水害などの災害は入居者の安全と自身の資産を守るうえで無視できないリスクです。災害対策を軽視してアパートが大きな被害を受けた場合、オーナーは大きな損害を被ってしまいます。
この記事では、アパート経営における災害対策について解説します。災害リスクの調べ方や保険に入るべきかどうかも解説するため、ぜひ参考にしてください。

ポイント
- アパート経営ではさまざまな災害リスクを考慮する必要がある
- 地震が原因の被害を補償できるのは地震保険のみ
- 災害リスクを調べる際はハザードマップや不動産情報ライブラリが役立つ
アパート経営におけるさまざまな災害リスク

アパート経営において、災害リスクは必ず考慮しなければなりません。災害による損害は非常に大きなものとなるため、どのような対策を講じるべきか把握しておきましょう。
ここからは、それぞれの災害リスクについて詳しく解説します。
地震
プレートの境目に位置する日本は、歴史的に地震の多い国です。地震は建物の倒壊や設備破損を引き起こすほか、津波や土砂崩れなどの二次災害が発生する可能性もあります。これらは、建物や入居者に甚大な被害を及ぼす災害です。
地震による被害を避けるためには、耐震基準を満たした建物や安全な立地選びが必要になります。建築基準法が定めている新耐震基準では、震度6強から7程度の大規模地震でも建物が倒壊や崩壊しないことを基準としてます。
ただし、耐震基準を満たしていても、複数回の中規模地震に遭ったり、想定以上の大規模地震が起こったりすればアパートが倒壊するリスクは十分に考えられます。万が一の事態を想定して地震保険への加入をおすすめします。地震保険は、火災保険とセットで加入する保険です。
火災
火災はアパート経営において重大なリスクであり、物件の消失や自身の資産だけでなく、近隣への影響も懸念されます。総務省消防庁の「令和6年版 消防白書」によると、令和5年の出火原因は「たばこ」が最も多く全体の9.0%です。次いで、「たき火」8.9%、「こんろ」7.3%、「放火」6.5%と続きます。放火は4番目の多さですが、「放火の疑い」まで含めると全体の10.6%となり、たばこを超える数値になります。

出典:総務省消防庁 令和6年版 消防白書(PDF版)火災予防
放火による火災を防ぐのは困難なため、近隣からの延焼も考慮したうえで、防火設備の設置や火災保険への加入が基本的な対策となるでしょう。火災による損害は、費用的にも時間的にも大きな負担になります。
火災保険で金銭的ダメージを軽減し、さらに「家賃補償特約」をつけることで修繕期間中の家賃収入損失をカバーすることが大切です。
参考:総務省消防庁 令和6年版 消防白書
水害・暴風雨
水害や暴風雨も、アパート経営に大きな影響を与える災害です。集中豪雨や台風による河川氾濫などで床上浸水が発生すると、外壁、室内、家財に甚大な被害を与えます。低地や河川近くはもちろん、都市部でも局地的な豪雨により排水処理が追い付かず浸水被害が発生する「都市型水害」などによるリスクがあります。暴風雨では、飛来物による屋根、窓、外壁、太陽光パネルなどの損傷が懸念されます。
これらの災害には、水災補償がついた火災保険に加入する、アパートの耐久性を高める、1階床の高さを調整する、などの対策が有効です。沿岸部や河川沿いは洪水の被害が多いため、ハザードマップを活用した立地選定も重要となるでしょう。
また、塩害地域や重塩害地域などでは、塩害対策をした建物の購入・建築がおすすめです。
人的災害
人的災害とは、人為的に引き起こされた災害のことです。人的災害の幅は広く、具体的には以下のようなものが該当します。
- 水栓外れによる水漏れ
- 車衝突による窓や外壁損傷
- 空き巣による盗難
- 施工不良による倒壊
特に交通量の多い立地では、交通事故をはじめとする交通災害のリスクが高いです。なお、事故や盗難による損害は火災保険で補償できます。
人的災害は自然災害のように予測できず、避けることはできません。発生した際に被害を最小限に抑えられるよう、入居者の安全確保と資産保護がアパート経営の課題となるでしょう。防犯カメラの設置やセキュリティの強化、設備の管理などを通じて、日ごろから人的災害の発生を防ぐ意識を持つことが重要です。
地震保険には入るべき?必要性と補償内容

地震保険は任意加入のため、「地震保険に加入するべきかわからない」とお悩みのオーナーもいらっしゃるかもしれません。
ここからは、地震保険に加入するべきかどうか、保険の必要性と補償内容を踏まえて解説します。
地震が原因の被害を補償されるのは地震保険のみ
地震保険は、一部の少額短期保険を除き、地震による建物や家財の損害を補償する唯一の保険です。地震は発生確率や被害規模の予測が難しく、巨大地震では広範囲に莫大な損害が生じるため、民間保険会社単独での広範な補償は困難とされています。
その損害の大きさから、被災後に賃貸経営を建て直すにはまとまった保険金が必要なため、地震保険の加入は大切です。「被災者生活再建支援制度」をはじめとする被災者を対象にした支援制度はあるものの、それだけでは賃貸経営を立て直すのは難しいでしょう。また、被災地では、そもそも賃貸経営を再開するかも含めて検討する必要があるでしょう。
地震保険は単独加入できず、火災保険に付帯する形で契約する必要があります。また、地震が原因の火災や建物の損壊は火災保険では補償されず、地震保険に加入していないと保険金が支払われません。
地震保険の主な補償内容
地震保険は、政府と保険会社が共同で運営しており、どの保険会社で契約しても保険料も補償内容も同じです。
地震保険の補償対象は居住用建物(店舗併用住宅含む)と家財一式です。建物のみ、家財のみ、両方の3パターンで加入できます。工場や事務所専用の建物は補償対象外です。
門や塀は建物に含められますが、単独損害は補償されません。家財は電化製品、家具、衣類などで、自動車や現金は対象外です。地震による津波や火山の噴火による被害も補償対象に含まれます。
アパートオーナーが加入する場合は建物部分の契約となり、入居者の家財は入居者自身が保険契約をする必要があります。
地震保険の保険金額は建物最大5,000万円、家財1,000万円で、火災保険の保険金額の30~50%の範囲内で設定可能です。保険金は、損害の大きさに応じて以下のように支払われます。
建物・家財の状態 | 支払額(平成29年以降保険始期) |
---|---|
全損 | 地震保険の保険金額の100% (時価額が限度) |
大半損 | 地震保険の保険金額の60% (時価額の60%が限度) |
小半損 | 地震保険の保険金額の30% (時価額の30%が限度) |
一部損 | 地震保険の保険金額の5% (時価額の5%が限度) |
補償内容を十分確認し、必要な備えを検討することが大切です。
参考:財務省 地震保険制度の概要
地域の避難場所を掲示板などで周知する
災害対策では、地域の災害リスクを理解し、入居者を守るための避難場所、避難経路マップを事前に作成・周知することが重要です。アパート近隣の避難所を事前に把握しておけば、特にオーナーが近くに住む場合、入居者をスムーズに誘導できます。
自治体は公園や学校を指定緊急避難場所や指定避難所としており、災害種別(土砂災害、洪水、津波、地震)に避難先を指定しています。アパート内に避難場所や経路を掲示すれば、特に新しい入居者にとって有益な情報となります。また、福祉避難所は高齢者や障害者向けの二次避難所として活用できます。
避難指示が出た際に速やかに避難できるよう、入居者への適切な情報提供を行っておきましょう。
備蓄庫や非常電源などの防災設備を設置する
アパートの災害対策としては、非常用発電機、太陽光パネル、雨水タンクなどの防災設備を設置することが重要です。共用部に防災設備を設置することで、入居者の安全確保と物件の価値向上につながります。
太陽光パネルや蓄電池を設置すれば、停電時も共用部や居室で電気を使用できるほか、災害対応型エネルギーマネジメントシステムで遠隔制御も可能です。災害対応型エネルギーマネジメントシステムを採用する場合は、非常電源用のコンセントを設置しましょう。
雨水タンクがあれば雨水を貯めておけるため、断水の際に効果的です。飲料水にはならないものの、洗濯や掃除などの生活用水として使用できます。
また、防災設備の定期点検と維持管理も重要です。定期点検で設備の不具合を早期発見できれば、修理費を抑えられるだけでなく、設備の長寿命化につながります。
防災グッズを入居者に配布したり共用部に備えたりしておく
共用部に管理人室や倉庫などがあれば、防災グッズを常備しておきましょう。以下のような防災グッズがあれば、災害時の初期対応や安全確保に役立ちます。
- 発電機
- 簡易トイレ
- レスキューセット(シャベルやハンマー)
- 土のう
保存食や懐中電灯、非常ラジオなどの防災グッズは、入居者に配布しておくのもおすすめです。防災グッズの備蓄や配布は入居者に安心感を与え、物件の満足度や付加価値の向上につながります。保存食は賞味期限を確認し、定期的に交換するのを忘れないでください。
なお、防災グッズは経費計上でき、高額な防災グッズは導入時から減価償却できます。そのため、防災グッズを使う機会がなかったとしても節税につながります。入居者の安全を確保するためにも、災害への備えを怠らないようにしましょう。
耐震補強を行う・耐震性能の高い建物を建てる
地震の被害を抑えるにあたり、アパートの耐震性能は非常に重要です。入居者が安心して住み続けられるよう、耐震性能の高い建物を建てましょう。新耐震基準(1981年以降)や現行の耐震基準(2000年以降)を満たす建物なら、地震による倒壊リスクを大幅に低減可能です。
建物の耐震性能は、「耐震等級」と呼ばれる指標で定められています。耐震等級は3段階あり、等級1は震度6~7の地震に耐える強度(建築基準法レベル)、等級2は建築基準法の1.25倍、等級3は建築基準法の1.5倍の強度です。耐震等級は、建物が「住宅性能評価書」を取得していれば確認できます。
管理するアパートが旧耐震基準で建てられている場合は、耐震補強を行いましょう。耐震補強工事には、自治体の補助金を活用できる場合が多いです。耐震補強を行えば耐震性能は確実に向上しますが、万全を期すためにも、建物の細部の確認と必要な修繕を怠らないようにしてください。
参考:一般社団法人住宅性能評価・表示協会 地震などに対する強さ(構造の安定)
ハザードマップ
ハザードマップは、各自治体が作成する災害予測地図です。国土交通省防災情報提供センターのホームページから閲覧できるほか、河川局、都市・地域整備曲、港湾局、国土地理院防災関連のホームページからも閲覧が可能です。
国土交通省では、全国の災害リスク情報などをまとめて閲覧できる「ハザードマップポータルサイト」(https://disaportal.gsi.go.jp/)を運用しており、各市町村が作成するハザードマップのリンク「わがまちハザードマップ」と、災害リスク浄法や土地の特徴・成り立ちなどを地図に重ねて表示する「重ねるハザードマップ」の機能があります。 洪水・内水氾濫・津波・火山などの災害種別ごとに、被害予測地域や避難経路、避難場所をまとめて調べることが可能です。物件購入時の判断材料になるのはもちろん、入居者への情報提供にも活用できる便利なツールといえるでしょう。
また、近年の台風や豪雨災害を経て、2020年8月から不動産取引時にあたって、重要事項説明時には取引対象物件の所在地についてハザードマップを用いて説明することが義務化されました。
不動産情報ライブラリ
国土交通省が提供する「不動産情報ライブラリ」(https://www.reinfolib.mlit.go.jp/)は、円滑な不動産取引の促進を目的として、以下のような不動産取引の際に参考になる情報を多数掲載しています。
- 地価公示
- 洪水浸水想定区域
- 土砂災害警戒区域
- 用途地域
- 将来推計人口
価格や周辺施設情報だけでなく防災情報も一元的に掲載されているため、掲載情報を集約し、地図上で視覚的に災害リスクを確認可能です。スマートフォンからもアクセス可能で、物件選定や顧客説明の際に役立ちます。
業者への相談
災害リスクを調べる際は、賃貸管理会社やハウスメーカーなどの業者に相談してみるのもよいでしょう。これらの専門業者は多くの建物を管理・建設してきた経験があるため、過去の災害や被害についての情報を高確率で持っています。
不動産デベロッパーの専門知識から的確なアドバイスを受けることで、個別の物件特性に応じた適切な対策を講じられます。より良い情報を得るには、業者と良好な関係を築くことが大切です。日頃から良好な関係性を構築し、災害発生時の協力体制を整えておきましょう。
まとめ

アパートを経営するうえで、地震や火災などの災害リスクは無視できません。特に日本は地震が多いため、万が一の事態に備えて地震保険の加入や耐震性能の向上をおすすめします。地震が発生した際に入居者の安全を確保できるよう、地域の避難場所を周知することや、防災設備・防災グッズを備えておくことも大切です。
ハザードマップや不動産情報ライブラリを活用すれば、管理するアパートにどのような災害リスクがあるかを把握できます。これらのツールや専門業者からの情報を参考に、今できる災害対策を徹底してみてください。

監修者
宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士
久保田 克洋
不動産業界に20年以上従事。賃貸管理を中心に管理受託業務・売買仲介・民泊運営を担った幅広い知識と経験をベースに、現在はプロパティマネジメント・アセットマネジメントを担っている。

監修者
宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士
石塚 佳穂
新卒で不動産会社に入社後、一貫して賃貸管理業務に従事。オーナーが所有する物件の価値向上に取り組み、実務経験を積んできた。現在は、セミナーやキャンペーンの企画・立案など、マーケティング業務にも携わっている。
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