
貸経営オーナーにとって、入居者死亡リスクは避けられない問題です。実際に孤独死などが発生した場合、賃貸借契約はどうなるのか、どのような対応をすればよいのか、不安に感じているオーナーも多いでしょう。
今回の記事では入居者が死亡した場合の賃貸借契約の取り扱いについてや適切な対策方法、入居者死亡によるリスクなどを紹介します。

ポイント
- 入居者が死亡しても、賃貸借契約は解除されない
- 未払賃料や各種費用は相続人や連帯保証人に請求できるが、オーナーが負担する場合もある
- 入居者死亡リスクは、保険や家賃保証会社の活用などの対策が有効
賃借人・入居者が死亡しても賃貸借契約はなくならない

賃借人・入居者が死亡した場合でも、賃貸借契約はなくなりません。賃借人の賃貸物件を借りる権利は、相続により相続人に引き継がれます。そのため賃借人が亡くなった場合でも管理会社やオーナーは、一方的に賃貸借契約を破棄できません。勝手に家財などの処分を進めることのないよう注意が必要です。
相続人に承継される
基本的に亡くなった方の資産は相続人に相続されます。引き継がれる資産には保有している金品のほか、権利も含まれるため、賃借人が死亡した場合は賃借権も相続人に引き継がれることになります。とはいえ相続人が実際に物件の賃借権を使用することはほとんどなく、賃貸借契約を解約する場合が多いでしょう。
また、相続人が賃借人と疎遠であったり海外など遠方に住んでいたりという理由で、なかなか相続人と連絡がとれない場合もあります。相続人と連絡がとれなければいつまでたっても解約ができなくなってしまいます。
賃借人が亡くなった場合は、相続人を特定することから始めましょう。まずは緊急連絡先や連帯保証人に連絡することになります。孤独死などのケースでは警察が親族などの調査を行うため、警察に相続人の有無を確認できます。
相続放棄された場合も勝手に契約解消できない
相続人がいることが分かっても、もともと賃借人とは疎遠であったり遠方であったり、亡くなった方に財産がなかったり、さまざまな理由で相続人が相続放棄をすることもあります。すべての相続人が相続放棄すると、賃貸借契約は相続人に引き継がれることはなくなり、解約できる人がいないという状況になってしまいます。
その場合は、相続財産管理制度を利用し、選任された相続財産管理人と契約解除を進めることになります。相続財産管理人とは家庭裁判所に選任され、亡くなった人の財産を管理する人のことです。亡くなった人の利害関係者としてオーナーが家庭裁判所に相続財産管理人の選任を請求できます。
ただし、この制度による手続きには長ければ1年近くかかったり、100万円程度の費用がかかる場合があるなど、オーナーには負担が大きい方法といえるでしょう。
相続人がいない場合は相続財産管理制度を利用できる
相続人がいない場合は、相続放棄されたときと同様に相続財産管理制度を利用して対処することになります。
相続財産管理制度は説明したとおり、オーナーには負担の多い制度です。そのため、単身の賃借人が亡くなった際の賃貸借契約の解除や残置物の処理に対する懸念から、特に高齢者や低所得者の賃貸物件への入居が難しい課題がありました。そこで、国土交通省と法務省が2021年にアパートなど賃貸物件で賃借人が亡くなったときに契約関係や居室内の残置物を円滑に処理するための契約条項「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を策定したり、2025年10月には高齢者などの賃貸住宅への入居を支援するために「住宅セーフティネット法」が改正されたり、行政の対応が進んでいます。
参考:国土交通省 残置物の処理等に関するモデル契約条項
住宅セーフティネット制度
原状回復費用・退去費用を負担する人の順位

賃借人が室内で孤独死や自殺、犯罪死などが発生した場合の原状回復費用や遺品整理費用・退去費用は、契約していれば保証会社が負担します。ただし、オーナーが保証会社を利用していない場合は誰かが負担しなければいけません。
ここでは、保証会社が利用できない場合に、原状回復費用や退去費用などの費用を負担する人の順位について、紹介していきます。
1位:連帯保証人
原状回復費用や退去費用を負担する人の順位の1位は、連帯保証人です。連帯保証人は借主と連帯して支払い義務を負う立場なため、借主が亡くなった場合は連帯保証人が支払うことになります。入居の際に保証会社をつけない場合では、連帯保証人を立てる場合が一般的です。
とくに高齢の方は室内で亡くなってしまうリスクも高くなるため、連帯保証人を立てておくことは、リスク管理の観点からも重要です。
2位:相続人
連帯保証人がいない場合は、亡くなった方の相続人が支払いの負担を負います。相続では資産のようなプラスの財産だけでなく、負債などのマイナスの財産を引き継ぎます。そのため退去費用や原状回復費用のような未払い費用も、相続人が引き継ぎ、支払いをしなければなりません。
3位:オーナー
相続人も連帯保証人もいない場合は、原状回復などの費用はオーナーが負担することになります。また、連帯保証人に支払い能力がない場合や、相続人が相続放棄をした場合もオーナーが負担することになります。
ただしオーナーは、連帯保証人や相続人と違って、支払いの義務があるわけではありません。そのため無理に原状回復を行わないで、そのまま放置することも可能です。
しかし、現実的には原状回復を行わなければ、次の賃借人へと貸せません。そのため建物の耐用年数や貸し出し賃料などを考慮してオーナーとしては空室のままとするのか、原状回復を行うのか判断することになります。
賃借人・入居者が亡くなった際に取るべき対応

万が一賃借人や入居者が亡くなってしまった場合のオーナーの対応を紹介します。孤独死や室内での死亡の場合、第一発見者となる割合が高いのが近隣住人のほか、管理会社やオーナーです。突然のことで驚いてしまうかもしれませんが、冷静に対処しましょう。
警察と遺族に連絡
孤独死などが発生した場合、まずは警察へ連絡します。また、遺族の連絡先がわかる場合は、あわせて遺族へも連絡を行います。室内で人が倒れていると慌てて救急車を呼んでしまうかもしれませんが、死亡している場合救急隊員は遺体を動かせませんので警察へも連絡しましょう。死亡していることが明らかな際は、遺体には触れないように注意しましょう。
事件性の有無が確認できない場合、警察は現場検証を行います。
また、オーナーが物件の近くに住んでいない場合は、近隣住民からの異臭や害虫の発生などの連絡で発覚するケースもあります。異変に気付いた場合は自己判断せず、速やかに警察に連絡するようにしましょう。
遺品・残置物の整理
入居者が亡くなってしまった場合、遺品や室内に残された残置物を整理しなければなりません。しかし、遺品や残置物の整理は、オーナーが勝手に行うことはできません。遺品などの資産は相続人に引き継がれるため、相続人に依頼して対応してもらうことになります。
また、相続人がいない場合や相続人が相続放棄した場合も、勝手に処分はできません。前述のとおり相続財産管理制度を利用することになります。
損害賠償に関する協議・請求(自殺の場合)
死亡の原因が自殺の場合は、相続人や連帯保証人と損賠賠償に関する協議を行います。自殺が発生してしまった部屋は、当分の間貸し出すことはできません。また、ある程度の期間を空けて貸し出しする場合でも、賃料の低下は避けられません。
室内での自殺などは告知事項に該当するため、次の借主へ説明する義務があります。また、インターネットサイトでは自殺などが起こった物件は今ではすぐに調べられるため、物件の売却価格にも大きな影響があるでしょう。
自殺の場合はこのような損害について、請求できます。一方、死因が病気や事故などによる不可抗力なことが要因である際には、損害賠償請求できません。
相続人や連帯保証人へ退去時の家賃などを請求
退去までの未払い賃料や、原状回復費用は相続人や連帯保証人に請求可能です。孤独死などで死亡から時間が経過している場合、室内の汚れや損傷が深刻になることがあります。
臭いが室内にしみつくなど、通常の清掃では対応できないケースも多く、特殊清掃が必要となる場合もあります。このような費用は遺族などへ請求できますが、遺族は家族を亡くしたばかりの悲しみの中にあるため、費用を請求する際でも配慮は忘れないようにしましょう。
家賃の未払い・未回収が発生する可能性がある
賃借人や入居者が死亡してしまうリスクの1つに、家賃の未払いや未回収が発生してしまうことがあります。
先述したとおり、賃借人が死亡しても賃貸借契約が消滅するわけではありません。賃貸借契約を解除するためには、相続人の協力が必要です。
しかし、相続人をすぐに特定できなかったり、相続人が協力的でなかったりなどの理由で手続きが長引いてしまうこともあります。その間も毎月の賃料が発生しており、時間が経てば経つほど未払いの賃料が増えてしまいます。
未払いが発生しても保証会社や保険に加入していたり、そうでない場合でも相続人が最終的に払ってくれればよいですが、相続放棄をする可能性もあり、その場合は回収することができなくなります。
退去に関する費用をオーナーが負担する場合がある
賃借人や入居者が死亡してしまうと、退去費用や原状回復費用をオーナーが負担しなければならないリスクもあります。賃料と同様に退去費用や原状回復費用は、相続人や連帯保証人に請求が可能です。
しかし、相続放棄や連帯保証人に支払い能力がない場合は回収できません。このような場合はオーナーが費用を負担することになってしまいます。
退去の手続きや残置物の処理に手間がかかる
退去の手続きや残置物の処理に手間がかかってしまうことも大きなリスクです。退去の手続きや残置物の処理などはオーナーや管理会社では行えず、相続人と協力しなければなりません。相続人がすぐに協力してくれればよいですが、遠方に在住などさまざまな理由で連絡に時間がかかる場合もあるでしょう。
また、事件性が疑われる場合には、警察の捜査が必要です。近隣に聞き込みを行うなど捜査には時間がかかります。さらに残置物の処理なども、オーナーや管理会社だけでは行えないため、賃貸借契約を解除して、室内を貸せる状態に戻せるまでには多くの時間と手間がかかります。オーナーと管理会社だけでは対処しきれない場面も多く、相続人との調整も含め、相当な負担がかかる点もリスクといえるでしょう。
家賃保証会社や保険を利用する
入居者死亡リスクへの対策の1つが、家賃保証会社や保険の活用です。家賃保証会社を利用していれば、賃料の未払いが発生しても立て替えてくれます。
以前は連帯保証人を立てて契約するケースが一般的でしたが、連帯保証人に支払い能力がないこともあるため確実とはいえません。
また2020年4月1日の民法改正により、保証契約における限度額を定めることが義務化されました。多額の未払い家賃が発生した場合に、連帯保証人に対して契約時に想定しなかった負担が生じないようにする目的があります。民法改正の施行前に締結された賃貸借契約も合意更新後は適用となります。
ただ、近年では、さまざまな理由から連帯保証人を頼める人がいない入居者も多く、家賃保証会社を利用するケースが増えています。
孤独死に対する対策としては「孤独死保険」の活用もあります。孤独死保険に加入しておけば孤独死が発生した際の清掃費用などを賄えます。
入居者に定期的に連絡をする
自主管理を行っている場合は、入居者と定期的に連絡を取っておくことも対策の1つです。定期的に連絡をしていれば入居者の異変にいち早く気付くことができ、万が一孤独死が発生しても早期発見につながります。
早期に発見できれば、室内の損傷や臭いの発生などを最小限に食い止められます。また、管理会社に管理を任せているのであれば、巡回などを活用し、入居者の様子を定期的に確認するようにしましょう。
終身建物賃貸借契約を結ぶ
終身建物賃貸借契約を活用するのも、入居者死亡に対する対策の1つです。終身建物賃貸借契約とは、入居者が死亡した場合に賃借権が相続されず、契約が終了する契約です。終身建物賃貸借契約を活用すれば契約の解除ができず、未払い賃料が発生するリスクを防止できます。
しかし、事前にオーナーが都道府県知事の許可を受ける必要があるなど、通常の賃貸借契約とは手続きが異なります。利用する場合は契約内容や条件をよく把握しておきましょう。
参考:東京都住宅政策本部 終身建物賃貸借制度
国土交通省 終身建物賃貸借標準契約書
まとめ
賃貸経営において入居者の死亡は、避けられない大きなリスクです。4人に1人が後期高齢者となる2025年問題を迎え、そのリスクは今後さらに高まることが予想されます。ここまでお伝えしてきたように、入居者が死亡してしまうと、原状回復や残置物の処理などは、相続放棄や連帯保証人の支払い能力によってはオーナーに大きな負担となります。
家賃保証会社や保険などの活用、管理会社の見まわりなど、入居者死亡リスクへの適切な対策をとっておくことで、安定した賃貸経営を行うことができるでしょう。

監修者
宅地建物取引士、賃貸経営管理士
長谷川 憲一
20年以上にわたり不動産業界に従事。中古物件の仕入れ販売、賃貸管理業務、マンスリーマンション事業の立ち上げ、リーシング事業の立ち上げなどに携わる。現在は、幅広い経験と知識を生かし、プロパティマネジメント・アセットマネジメントを担っている。

監修者
宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士
久保田 克洋
不動産業界に20年以上従事。賃貸管理を中心に管理受託業務・売買仲介・民泊運営を担った幅広い知識と経験をベースに、現在はプロパティマネジメント・アセットマネジメントを担っている。
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