
アパートの経営において、リフォームや修理・修繕は欠かせません。費用とのバランスを考えると、どこまで投資するか頭を悩ませているオーナーも多いでしょう。
自治体や国の補助金を活用すれば費用負担を軽減できるケースもあります。今回の記事ではリフォーム/修理・修繕費用の相場や、利用できる補助金について詳しく紹介していきます。

ポイント
- リフォームや修繕の費用相場は、工事内容や建物の規模によって変わる
- リフォームに失敗しないためには、入居者のニーズを汲み取ることが重要
- リフォーム費用は、各種制度の活用で節約できる
賃貸アパートのリフォーム費用相場

賃貸アパート経営において、リフォームや修理・修繕は重要な取り組みです。ただし、その内容や規模によって費用は大きく異なります。
ここでは、アパートにおいて特にリフォームや修繕が必要となることが多い代表的な下記5つの箇所について、一般的な相場やポイントを解説します。
- 外装
- 内装・間取りの変更
- キッチン
- トイレ
- お風呂・洗面台
外装
外装のリフォームにかかる費用の相場は、下記の通りです。
費用相場 | |
---|---|
外壁塗装 | 120~300万円 |
ベランダの防水塗装 | 2,750~7,000円/㎡ |
一般的な2階建てのアパートの外装塗装費用は120~300万円と、使用する塗料の種類やグレードによって金額に幅があります。
外壁は特に重要な箇所であり、アパートの印象に影響するだけではなく、建物を守る役割もあります。具体的には、外壁塗装の防水性が落ちると塗料の劣化により顔料などが粉末状になって剥がれ落ちるチョーキング現象が発生し、ひび割れ(クラック)から雨水が入り込む原因となります。長期間にわたり水が建物内部に浸透すると、腐食が始まり、最終的には防水シートを超えて構造に影響を及ぼし、建物の耐久性が損なわれることになります。
ただし、雨水の主な侵入経路は、窓などの開口部が一般的です。そのため外壁塗装に加え、開口部のコーキング補修も重要です。
外壁はアパートの印象も左右するため、入居希望者への訴求力にもかかわってくるでしょう。
外壁のリフォームによって、建物の資産価値や耐用年数の延長も期待できます。
内装・間取り変更
内装や間取り変更の相場は、次の通りです。
費用相場 | |
---|---|
フローリングの張り替え | 2~6万円(1畳あたり) |
壁紙張り替え | 1,000~1,500円(1㎡あたり) |
和室を洋室に変更 | 50~200万円(6~8畳あたり) |
室内のドアを交換 | 4~10万円 |
押し入れをクローゼットに変更 | 20~25万円 |
窓の交換 | 10~35万円 |
間取りの変更 | 80~200万円 |
内装のリフォームは多岐にわたります。また外壁同様に、使用する建材や設備のグレードによって、価格は変動します。
賃貸物件の内装は、入居希望者が重点的にチェックするポイントのひとつです。壁や室内が古い印象だったり汚れがあったりすると、いくら外観がきれいでも部屋には良い印象をもてないでしょう。和室や押し入れなども若い方には敬遠されてしまい、賃料にも影響が出るかもしれません。賃貸アパートの経営においては、内装は入居率にも影響する重要なポイントです。
キッチン
キッチンのリフォーム費用の相場は、次の通りです。
費用相場 | |
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システムキッチンの交換 | 50~150万円 |
ミニキッチンの交換 | 25~40万円 |
キッチンの交換も、導入する設備のタイプなどによって価格が大きく変わります。上記は一般的な壁付きタイプのシステムキッチンの相場ですが、ペニンシュラキッチンやL型キッチンであればさらに高額になります。逆に単身者向けのミニキッチンであれば、もう少し費用が抑えられます。
キッチンの重要性は、入居者の属性によっても変わります。ファミリータイプの物件であれば日常的に料理をする世帯が中心となるため、キッチンを重視する入居者は多いでしょう。単身者向けの部屋を探している入居者でも、ある程度の規模のキッチンを希望されることもあります。
コンロの数やガス・IHなど、キッチンにはさまざまな種類があります。やみくもに費用をかけるのではなく、入居者の属性に合わせるようにしましょう。
トイレ
トイレのリフォームにかかる費用相場は、次の通りです。
費用相場 | |
---|---|
トイレの交換 | 15~50万円 |
和式トイレから洋式トイレへ変更 | 4~50万円 |
水回りの中でも、トイレを入念にチェックする入居希望者は多いです。きれいで清潔感があることはもちろん、洋式のトイレやシャワー付きトイレなど最低限の設備がなければ検討物件から外されてしまう可能性もあります。
設備の故障などで入居者からクレームが出てしまうことも珍しくありません。数ある住宅設備の中でもトイレの故障は緊急性が高く、早急に対応する必要があります。入居者の生活の質を確保する意味でも、トイレのリフォームは非常に重要です。
お風呂・洗面台
お風呂や洗面台のリフォーム/修理・修繕にかかる費用の相場は、次の通りです。
費用 | |
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浴槽交換 | 10~50万円 |
洗面台の交換 | 10~30万円 |
ユニットバスへ変更 | 45~60万円 |
浴室内パネル貼り | 20~25万円 |
トイレ同様に、お風呂や洗面台などの水回りの快適性を重視する入居者は多いでしょう。また物件を内覧した際に、水回りが汚れていると室内の印象も悪くなってしまいます。
入居率を下げないためには、お風呂や洗面台のリフォームも重要です。ほかの設備同様に、入居者の属性に合わせたリフォームや修繕を行いましょう。
賃貸アパートのリフォームを行う際のポイント

リフォーム/修理・修繕は内容によっては数百万を超える高額な出費がかかることがあります。しかし、目的を明確にせず、自分好みの設備に交換するだけでは、必ずしも投資効果が得られるとは限らないでしょう。失敗しないためにも、賃貸アパートのリフォーム/修理・修繕のポイントを紹介します。
現状維持のためか、バリューアップのためか目的を明確にする
リフォームや修繕の目的を明確にしましょう。現状維持のためか、グレードアップやバリューアップのためかで、その範囲やかける費用も変わってきます。
現状維持を目的とする場合、老朽化した設備や内装の修繕という、必要最低限の費用と範囲に重点をおくことになります。
一方、資産価値を高めたり、より快適で魅力的な住環境にするためのバリューアップを目指す場合には、間取りを変更したり、よりデザイン性の高い内装にするなど、広範囲で高品質なリフォームに時間と費用を投資する必要があるでしょう。
目的に応じてリフォームの範囲や予算配分を検討することで、満足のいく結果を得ることができるでしょう。
入居者・ターゲット層のニーズを調査したうえで行う
リフォームを成功させるためには、ターゲットのニーズに合わせて行うことが重要です。せっかく高い費用をかけてリフォームや修繕を行っても、入居者のニーズに合っていなければ意味がありません。たとえば単身者向けの物件に、ファミリー向けの豪華なキッチンを導入しても効果は出ないでしょう。
入居者のニーズを探るためには、周辺エリアのニーズを把握する必要があります。ファミリー層が多いのか、単身層が多いのかなどによって入居者のターゲットも変わり、ニーズも違ってきます。
ターゲットとなる入居者のニーズに合ったリフォームでなければ、入居者も集まらず収益につながりません。リフォームを行う際は自分の好みや感覚で行うのではなく、ニーズに合わせて行いましょう。
費用対効果や費用回収までの時間を確認しておく
リフォームを行う際は、費用対効果や回収までの期間を計算しておくことも重要です。賃貸経営において、リフォームは収益をあげるための投資です。いくらリフォームに費用をかけて、その費用をどれくらいの期間で回収できるかは必ず事前に計算しておきましょう。
たとえば1室100万円かけてアパートの内装をリフォームしたとします。従来の賃料が10万円であった場合、仮に10年で回収しようとすると単純計算で賃料を20万円にしなければ10年での回収はできません。いくら居室を豪華にしても、室内のリフォームだけで賃料を倍にすることは難しいでしょう。
リフォーム費用を短期間で回収することは難しく、長い期間で検証する必要があります。築年数がかなり経過した古い物件であれば、いくらリフォームしても、かけた費用によっては回収できない可能性もあります。リフォームや修繕を行う際は、かかるコストと回収期間を検証するようにしましょう。
住宅の構造を確認したうえで行う
リフォームを行う前に、建物の構造を確認しておくことは重要なポイントです。アパートなどの集合住宅の場合、「ラーメン構造」と「壁式構造」が採用されていることが多いです。ラーメン構造とは柱と梁で建物を固定する工法で、木造アパートにはよく採用されています。
壁式構造は壁と床などの面で建物を支える方法で、高層マンションなどに多く採用されます。一般的には、ラーメン構造のほうが間取り変更などがしやすいといわれています。ラーメン構造は柱と梁で支えているため、壁などを思い切って外せるためです。
一方壁で建物を支えている壁式構造は、壁を抜いてしまうと耐震性能などに影響が出てしまう可能性があります。このように構造による制限があるためリフォーム/修理・修繕を行う前に、建物の構造を確認しておきましょう。
メーカー推奨の方法で対応する
メーカーが推奨している方法に従うことも非常に重要です。たとえば、塗装で使用される材料や施工方法は、サイディング、タイル、ALC、モルタルなどの素材ごとに異なります。吹付け塗装と手塗り塗装とでも、それぞれに適した方法や材料、工程が存在します。
メーカー推奨の方法に従うことで、施工の品質や耐久性が高まり、長期間にわたって安心して住み続けることができます。また、不適切な施工や素材の選択は、後々のトラブルや修繕の必要性を増やす原因となるため、専門的な知識を持つ施工業者に相談し、メーカーの指示に従った適切な対応を心掛けましょう。
基本的にDIYは避ける
リフォームや修繕をDIYで行うことは基本的に避けた方が良いでしょう。内装や壁紙などのリフォームくらいであれば自分でできるだろうと、費用を抑えるためにDIYを考えるかもしれません。しかし、結局はうまくいかず、失敗箇所のリカバリーを業者に依頼することになり、かえって費用が高くなってしまうことも多いのです。
また自分の考えだけでリフォームを行ってしまうと、入居者のニーズにマッチしない可能性もあります。どのようなイメージの部屋にしたいかを伝えて、プロのアドバイスを受けながらリフォームの内容を決定しましょう。
長期優良住宅化リフォーム推進事業
長期優良住宅化リフォーム推進事業は、既存住宅に適切なメンテナンスを行うことで長寿命化を目指す取り組みを支援している事業です。要件を満たすことで、下記の金額を上限に補助を受けられます。
事業タイプ | 補助限度額 |
---|---|
評価基準型 | 1住戸につき80万円 |
認定長期優良住宅型 | 1住戸につき160万円 |
補助金はリフォーム工事にかかる資金のほか、インスペクションと呼ばれる建物診断を行った費用も対象です。また、この補助を受けるためには、「延床面積の過半が住宅であること」、「リフォーム後の住宅が一定の性能基準に適合すること」などの要件があります。詳細は、長期優良住宅化リフォーム推進事業公式サイト(https://www.kenken.go.jp/chouki_r/)で確認しましょう。
子育て支援型共同住宅推進事業
子育て支援型共同住宅推進事業とは、共同住宅に対して事故や防犯など子どもの安心な暮らしを提供するための取り組みに対して、補助を行う事業です。本事業には建設型・改修型があり、リフォームの内容ごとに下記の上限額が定められています。
補助対象事業 | 補助率 | 補助金の上限 |
---|---|---|
子育て支援型共同住宅 | 1/3 | 1戸あたり100万円 |
居住者等による交流を促す施設の建設 | 1棟ごとに500万円 | |
宅配ボックスの設置 | 1棟ごとに50万円 |
この制度を利用するためには、アパートの入居者が子育て世代であることなど、細かい要件が定められています。またリフォームだけでなく建設型では、新しくアパートを建築する際に利用できます。利用する際には、募集要項などをよく確認しましょう。
子育て支援型共同住宅サポートセンター https://kosodate-sc.jp/
既存住宅における断熱リフォーム支援事業
既存住宅における断熱リフォーム支援事業は、公益財団法人北海道環境財団による既存住宅エネルギー消費効率の改善や低炭素化を促進するための事業です。この事業では建物全体をリフォームする「トータル断熱」のほか、家族の集う「居間だけ断熱」という区分もありリフォーム内容に合わせて申請できます。
補助対象となる製品は高性能建材に限らず、下記のような製品も補助の対象です。
- LED照明
- 蓄電システム
- 蓄熱設備
- 熱交換型換気設備等
- EV充電設備
補助金の上限は、次の通りです。
補助対象製品 | 補助率 | 補助金の上限 | |
---|---|---|---|
高性能建材 | ガラス・窓・断熱材 | 1/3以内 | 集合住宅:15万円/戸 |
玄関ドア | |||
LED照明 | 1か所あたり8,000円 | ||
蓄電システム | 20万円 | ||
蓄熱設備 | 20万円 | ||
熱交換型換気設備等 | 5万円 | ||
EV充電設備 | 5万円 |
予算上限があり、公募期間中であっても予算が上限に達した場合は公募が終了します。詳細は公式サイト(https://www.heco-hojo.jp/danref/index.html)で確認して、早めに応募するようにしましょう。
各自治体のリフォーム支援制度
各自治体もそれぞれ多彩な支援制度を行っています。たとえば東京都港区では、20個もの支援制度を展開しています。
賃貸アパートをリフォームする場合は、自治体が行っている制度も必ず確認するようにしましょう。各自治体でどのようなリフォーム支援事業を行っているかを調べるには、一般社団法人住宅リフォーム推進協議会のサイト(https://www.j-reform.com/reform-support/)で調べられます。
まとめ

賃貸アパートの経営において、入居率や賃料を維持するためにはリフォームや修繕は欠かせません。リフォームと一口にいっても工事内容はさまざまで、利用する設備の種類やグレードによって費用は大きく変わります。高い費用をかけてリフォームを行うのであれば、失敗しないためのポイントを押さえておく必要があります。
オーナー自身が自分の好みでリフォームを行うのではなく、入居者のニーズに合った設備や工事を行うことが重要です。またリフォーム費用を少しでも抑えるためには、助成金などの制度を活用するとよいでしょう。リフォームに関する支援制度は数多くあるため、工事内容に合ったものを利用するようにしましょう。

監修者
杉田 裕蔵
東京を中心に、20年以上アパート・マンション建築賃貸業界に従事。現場に密着した営業経験と建築知識、不動産知識を活かして業務に携わっている。
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