
アパートを高く売却するには、収益性が高いときや築年数が浅いときなど適切なタイミングを見極めることが大切です。売却の方法には、賃貸借契約をそのまま引き継ぐオーナーチェンジのほか、入居者のいない状態で売却する方法もあります。
本記事では、アパート売却のタイミングや事前に確認すること、売却の手順について解説します。

ポイント
- アパートを売却する際はタイミングを見極めることが大事
- 売却前にはローン残高や相場を確認したうえで、売却方法を決めておくことが重要
- アパートの売却には費用と税金がかかる
アパート売却に適したタイミング

アパート経営は、安定した家賃収入を長期的に見込めることから、人気のある投資手法です。物件の価格が高い時期であれば、売却も出口戦略として選択肢の1つです。
ここでは、アパート売却に適したタイミングについて、4つの観点から解説します。
収益性が高いとき
アパートが満室状態で高い収益を上げているときは、売却に適したタイミングです。収益性が高く、物件価値が維持されているうちに売却することで、より高い査定価格が期待できます。
高稼働の物件を手放すのは惜しいと感じるかもしれませんが、将来的に売却を検討しているのであれば、物件の価値が高いうち、つまり満室状態や利回りの良いタイミングで手放すことで、最大限の利益を確保しやすくなります。
築年数が20年に満たないとき
アパートを売却するタイミングを検討する際に重要なポイントの1つが、築年数です。一般的に、築年数が浅いほど建物の評価額が高く、修繕費用もかかりにくいため、比較的高値で売却しやすくなるでしょう。特に築20年以内であれば資産価値が残っているとみなされ、買主にとって魅力的な物件となります。
ただし、「所有期間による税率の違い」には注意が必要です。アパートを購入してから5年以下で売却した場合、譲渡所得にかかる所得税・住民税の税率が高くなる「短期譲渡所得」として扱われます。5年を超えて保有してから売却した場合は「長期譲渡所得」となり、税率が低くなるため、税負担が軽減されます。
アパート売却では、築年数と所有期間の両方を考慮することが損をしないための大切なポイントです。
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地価や不動産価格が上昇傾向にあるとき
アパート売却のタイミングを見極めるためには、地価や不動産価格の動向にも注意が必要です。再開発の予定や将来の環境の変化などを見極め、地価や不動産価格が上昇傾向にあると判断できれば売却のタイミングといえます。
たとえば、近隣で再開発の計画が進んでいたり、大型商業施設や駅の整備といったインフラの改善が予定されていたりする地域では、今後の地価上昇が見込まれるでしょう。物件の資産価値も高まりやすく、売却価格が上がる可能性があります。
反対に、人口減少や空室率の上昇が見られる地域では、今後不動産価格が下がるリスクもあるため、売却時期を早める判断が必要になることもあるでしょう。
地価や周辺環境の変化に注意を払い、価格が上昇傾向にあると判断できる時期は、アパートを高値で売却できるチャンスといえます。
大規模修繕が完了したとき
築年数が経過したアパートの場合は、大規模修繕を完了したあとが売却のタイミングに適しているといえます。大規模修繕を実施しておくことで物件の価値の低下を抑えられ、買主がスムーズに決まりやすくなるでしょう。
購入を検討する際、買主はまず物件の概要書や外観を確認します。その際、長期間にわたって大規模修繕が行われていない物件は、「今後、自分が所有している間に建物全体の修繕が必要になるのではないか」といった不安を抱きやすくなります。
一方、すでに大規模修繕が実施されている物件であれば、それらの不安を軽減でき、しばらくは大きな出費を伴う修繕が発生しにくいと判断されやすくなります。検討者に安心感を与え、購入意欲を高める要因となるでしょう。
アパートを売却する前に準備・確認すべきポイント

アパート売却前には、ローン残高や売却相場など、確認しておくべき項目があります。また、売却方法は入居者がいるかどうかで異なるため、状況に応じた方法の決定も必要です。
ここでは、アパートを売却する前に準備・確認しておくべき内容を解説します。
ローン残高を確認する
アパートを売却する際にまだローンが残っている場合、まず残債額の確認が必要です。ローンの完済前でも売却は可能ですが、売却代金を使って残債を一括で返済することになります。
売却価格がローン残高を上回っていれば、差額が手元に残りますが、売却価格がローン残高を下回ってしまうと、不足分を自己資金などで補い、完済しなければなりません。
残債と売却相場を確認し、ローン残高が売却価格を上回る場合には、不足分に備えて返済計画を立てておきましょう。
相場を調べておく
アパートを適正価格で売却するためには、あらかじめ相場を調べておくことが大切です。
相場を把握することで、相場より安く手放して損をするリスクを防げるほか、高すぎる価格を設定して買主がつかず、売却が長引くことも避けられます。
不動産会社の査定を複数受けたり、周辺エリアで実際に売買された物件の情報を参考にしたりして、適正な価格帯を見極めましょう。
入居者がいる場合
入居者がいる状態でも、アパートの売却は可能です。この場合、賃貸借契約は引き継がれ、「オーナーチェンジ物件」として売り出されます。買主にとっては、購入後すぐに家賃収入が得られるため、主に投資家層からの需要があるでしょう。
売却時には、入居者との賃貸契約内容や現在の家賃収入・支出など、物件の収益状況を明確に提示することが求められます。
なお、売却の際に入居者へ通知する法的義務はありませんが、所有者や家賃の振込先が変更となるため、事前に周知しておくことでトラブルを防止につながります。
入居者がいない場合
入居者がいない、あるいは入居者に立ち退いてもらったうえで売却する場合、物件の用途がより柔軟になるため、居住用・投資用のどちらのニーズにも対応できます。
買主は、自由にリフォームしたり、入居者募集を計画したりできるため、個人・法人問わず幅広い層にアピールできるでしょう。
ただし、空室が多い場合は「なぜ入居者が集まらないのか?」という疑念をもたれる可能性もあります。立地や建物の状態、市場環境を踏まえて、価格設定や見せ方(清掃・修繕など)を工夫することが大切です。
また、入居者がいる状態から退去を依頼して売却を目指す場合には、いくつか注意が必要です。まず、貸主から一方的に契約を解除することはできません。正当事由が認められた場合でも、契約満了の1年前から6カ月前までに書面で通知する必要があります。
さらに、円満に立ち退いてもらうためには、立ち退き料の支払いなど、条件面での交渉が必要になることもあるでしょう。
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アパートの売却にかかる費用と税金

アパートの売却では収入が得られる一方で、さまざまな費用や税金が発生します。あらかじめ内容を理解し、準備をしておきましょう。
ここでは、売却にかかる費用と課税される税金の内容を解説します。
売却にかかる費用
アパートの売却ではさまざまな費用がかかります。主にかかる費用は、以下の5つです。
費用の種類 | 概要 | 費用の目安 |
---|---|---|
測量費用 | 隣地、道路との境界を明確にするために必要 | 30〜80万円程度 |
仲介手数料 | 不動産会社を介してアパートを売却する場合に必要 | 「売却金額(税抜)×3%+6万円+消費税」(売却金額が400万円を超える場合) |
印紙税 | ・不動産売買契約書に貼る印紙の購入費用 ・契約書に記載された契約金額に応じて金額が異なる |
200円〜60万円 |
抵当権抹消費用 | 住宅ローンの利用で抵当権を設定した場合、抹消手続きに費用が発生 | 登録免許税(数千円程度)と司法書士報酬 |
立ち退き料 | 入居者に退去を依頼するときは、入居者への立ち退き料を負担するのが一般的 | 入居者一人当たり家賃の6カ月~1年分程度が相場 |
実際に必要になる費用は状況により異なるため、あらかじめ想定される費用の内訳と概算金額を確認しておきましょう。
売却で課税される税金
アパートを売却して利益(譲渡益)が出た場合、「譲渡所得」として所得税と住民税が課されます。
譲渡所得は、次の計算式で求めます。
譲渡所得 = 売却価格 -(取得費 + 譲渡費用)
計算式中に登場する各用語の意味は下記のとおりです。
- 売却価格:アパートを売った金額
- 取得費:アパートを購入した金額 + 購入時の諸経費(登記費用・仲介手数料など)
- 譲渡費用:売却時にかかった費用(仲介手数料・測量費・解体費など)
なお、特定の要件を満たした場合、特別控除が適用されます。一例として、マイホーム(居住用財産)を売却したときは、所有期間に関係なく譲渡所得から3,000万円まで控除が可能です。
譲渡所得の税率は、以下の表のように所有期間によって異なります。
所有期間 | 税率 |
---|---|
5年超 | 20.315%(所得税:15%・復興特別所得税:0.315%・住民税:5%) |
5年以下 | 39.63%(所得税:30%・復興特別所得税:0.63%・住民税9%) |
所有期間は売却した日ではなく、「売却した年の1月1日時点」で判定されるため、注意してください。
また、2037(令和19)年までは、復興特別所得税として各年分の基準所得税額の2.1%を所得税と併せて申告・納付します。
発生した譲渡所得は、売却の翌年に確定申告が必要です。
売却を仲介する不動産会社を探す
アパートを売却する際は、まず信頼できる不動産会社を探し、仲介を依頼することから始めます。不動産会社には、それぞれ得意とするエリアや物件種別があるため、物件があるエリアが得意で、アパート売却の実績がある会社を選ぶと安心です。
売却に関する相談では、市場動向や売却にかかる期間・費用など、気になる点をしっかり確認しておきましょう。不動産会社との相性も重要なポイントです。
査定を依頼する
不動産会社を探す際は、アパートの価格査定もあわせて依頼しましょう。査定では、現在の市場動向や物件の立地・築年数・間取り・収益性などをもとに、どの程度の価格で売り出すべきかを見積もってくれます。提示された査定額は、事前に自分で調べた売却相場と比較して、妥当かどうかを見極めることが大切です。
不動産会社によって仲介手数料や広告の方法、販売戦略、売却までにかかる期間やサポート体制が異なるため、単に査定額が高いという理由だけで即決するのは避けましょう。
これまでの実績や対応の丁寧さ、地域に精通しているかどうかなど、総合的な観点から信頼できる会社を選ぶことが、後悔のない売却につながります。
媒介契約を締結する
売却を依頼する不動産会社が決まったら、次のステップとして「媒介契約」を結びます。
媒介契約は大きく分けて「一般媒介契約」「専任媒介契約」「専属専任媒介契約」の3種類があり、それぞれの特徴は以下のとおりです。
契約の種類 | 特徴 |
---|---|
一般媒介契約 | ・複数の不動産会社に同時に仲介を依頼できる契約 ・自分で買主を見つけて契約でき、自由度が高い |
専任媒介契約 | ・特定の1社にのみ仲介を依頼する契約 ・自分で買主を見つけて契約することは可能 ・不動産会社には2週間に1回以上の報告義務が課される |
専属専任媒介契約 | ・特定の1社にのみ仲介を依頼する契約 ・売主が自分で買主を見つけた場合でも不動産会社を通じて契約が必要 ・不動産会社には1週間に1回以上の報告義務がある |
どの媒介契約が適しているかは、物件の市場価値や希望する売却時期など、状況によって異なります。そのため、「これが最も良い契約方法」とは一概にいえません。信頼できる不動産会社に相談し、物件の特性や自分の希望に応じて選ぶことが大切です。
買主を探す
売却計画に基づき、アパートの販売活動を開始します。不動産会社は広告の作成や不動産ポータルサイトへの掲載など、多様な手段を用いて購入希望者の募集を行います。
「オーナーチェンジ物件」として売り出す場合は、現在入居中の賃貸契約内容や家賃の収支状況、入居者の属性などの詳細な情報を提供し、投資用物件としての魅力を伝えることが大切です。
また、問い合わせや内覧対応も不動産会社がサポートしてくれるため、売却までのプロセスをスムーズに進められます。
売買契約を締結する
買主が見つかり、売却価格や条件について合意が成立すると、売主・買主・双方の仲介業者の4者が集まって、売買契約に向けた最終調整を行います。この場では、価格の確定はもちろん、引き渡しの時期、引き渡しまでの費用負担、設備の引き継ぎ、契約解除の条件など、細かい取引条件が決められます。
最終調整のあとは売買契約書を作成し、売主・買主双方が署名・押印するという流れです。買主は通常、売買代金の一部として手付金(契約金)を売主に支払います。手付金は、契約が成立したことを示すとともに、取引が途中でキャンセルされた場合の違約金の意味も兼ねるものです。
さらに、宅地建物取引士から買主に対して重要事項説明が行われます。これは物件の状態や法的制限、契約内容の重要なポイントを詳しく説明し、買主が理解した上で契約に臨めるようにするために必要な手続きです。
これらのステップを経て正式に売買契約が成立し、以降は引き渡し準備やローン手続きなどの作業に進みます。
アパート売却以外の方法

アパート経営で収益性が低下した場合、売却以外にもとれる対策があります。建て替えやリフォームにより収益性を高める方法です。
ここでは、アパートを手放さずに現状を変える方法について解説します。
建て替える
アパートの老朽化や収益性の低下が気になる場合、建て替えによって収益力を高めるという方法があります。
たとえば、現在の建物が老朽化していて耐震性能や断熱性に不安がある場合、最新の建築基準に適合した新しい建物にすることで安全性と快適性が向上し、入居者の満足度向上が期待できます。また、間取りや設備も現代のニーズに合わせて設計できるため、競争力の高い賃貸物件として入居率を高めることが可能です。
さらに、敷地に余裕がある場合には、従来よりも戸数を増やして建築する方法もあります。戸数が増えれば家賃収入が増加し、建て替えに要したコストを回収しやすいでしょう。
建て替えには高額な初期費用がかかるため、事前に収支計画を立て、慎重に判断することが大切です。
リフォームする
初期費用を抑えたい場合、建て替えではなくリフォームやリノベーションという選択肢があります。
リフォームとは、経年劣化した部分の修繕を行い、建物の機能や外観を元の状態に近づける工事です。たとえば、外壁を塗り直したり、古くなったキッチンやバスルーム、トイレなどの設備を交換したりといった工事があげられます。リフォームにより、老朽化による古いアパートという印象を改善し、入居者の満足度を高めることが可能です。
一方、リノベーションは、間取りの変更やデザインの刷新などを通じて、建物に新しい価値を生み出すことを目的としています。たとえば、2DKの部屋を1LDKに変更したり、室内にデザイン性の高い内装材を使ったりする工事が該当します。単なる原状回復にとどまらず、ターゲット層のニーズに合わせて設備や仕様をアップデートするのが特徴です。
特に若年層や単身者向けに人気の高い「デザインリノベーション」や「スマートホーム(家電や住宅設備の遠隔操作)対応」などを行うことで、周辺の競合物件との差別化が図れ、空室対策につながります。
これらの工事は、建て替えに比べてコストが低く、工期も短いことが多いため、収益が得られない期間を最小限に抑えられる点もメリットです。ただし、築年数や建物の構造によっては、リフォームやリノベーションだけでは対応しきれないケースもあるため、事前の建物診断や専門家への相談が必要です。
まとめ

アパートの売却では、適切なタイミングを見極めることが成功のポイントです。家賃収入が安定しており収益性が高いときや、築年数が20年未満の場合は資産価値が比較的高く、買主もつきやすいため、有利な条件で売却できる可能性があります。また、不動産市況が上向いている時期も売り時といえるでしょう。
売却により収入を得られる一方で、仲介手数料や登記費用、譲渡所得税などのコストが発生するため、あらかじめどれだけのコストがかかるか把握しておくことが大切です。
売却前にはローン残高や相場を確認し、慎重に売却計画を立てましょう。

監修者
宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士
石本 貴大
業界歴13年。これまでに関わった建築・売買物件は木造からRC造まで、延べ百数十件を超える。近年は自社開発案件の推進、投資物件の販売及びアジア圏への販路拡大、賃貸住宅の建築提案と、建築業界で活躍の場を広げている。
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