BIMとはコンピュータ上に作成した詳細な3Dモデルに、管理情報やコスト情報などの属性データを反映させる技術です。建築、土木などに有効な新技術として注目されています。今回の記事ではBIMと従来のCADの違いを紐解き、BIMを掘り下げて解説します。
ポイント
- BIMとは建設に関するオブジェクトの集合体である
- BIMはCADの後を継ぐDX時代のCADシステムである
- BIMには優れたメリットがあり、実用化されている
BIMとは何か?
BIMとは、Building Information Modeling(ビルディング インフォメーション モデリング)の略称で、コンピュータ上に3DCGとして作成した建造物のデジタルモデルに、管理情報やコストなどの属性データを反映させる技術です。
設計はもちろん、施工や維持管理までのすべての工程における必要な情報を有効活用するための新しいソリューションとして注目されています。
あらゆる情報をBIMによって反映させることで、コスト効率や業務効率の向上を実現し、建築物のデザインやクオリティにイノベーションを起こす革新的な技術です。また、同じモデルのデータを社内の全部門やパートナー企業と共有できるため、さまざまなミスの発生リスクを減らせます。
BIMはオブジェクトの集合体
BIMはいわば情報をもったオブジェクトの集合体です。各パーツにはサイズや仕様、素材や組み立ての工程と所要時間なども盛り込むことができ、通常の図面ではカバーできない、膨大なデータを反映できます。 設備機器の品番、製造元、価格も詳しく入れられるので、資材管理やメンテナンスにも有効です。
この技術は世界的に注目されており、BIMの使用状況や導入した際の効果についてのレポートも公開されているため、日本でも技術向上のため導入する企業が増えつつあります。
BIMの普及状況
単なる3Dモデル作成のツールとしてではなく、経営戦略の観点からBIMを導入する企業が増えています。
日経BPコンサルティングが建設関連企業に勤め、BIMに興味を持つ設計者や技術者などを対象に行ったアンケート(2020年)によると、全回答者のうち6割弱が「勤務先企業はBIMを導入している」と答えています。2010年の前回調査では導入率が3割強だったので、10年で約2倍となっています。
この調査によると、BIMの導入時期は、国内におけるBIM元年といわれる2009年以降が多くなっており、すでに導入から5年以上を経た企業が全体の約4割です。
一方、導入してまだ3〜4年の企業も約半数で、導入する企業が今後ますます増えることが想定できます。
CADとBIMの違い
従来の3DモデルといえばCAD(Computer Aided Design)システムを使用したものでした。しかし近年ではより高度な機能を備えた、DX時代のCADシステムともいうべきBIMモデルへのシフトが進行しています。
CADの特徴
CADの大きな特徴として、導入のハードルが低いことと普及が進んでいることがあげられます。
CADは、BIMと比べれば安価で、オペレーターさえ確保できればすぐに導入することができます。 また、CADは純粋な設計ツールなので、操作を習得する研修も短期間ですむでしょう。また、CADは普及が進んでおりほとんどの企業が対応できるので、大規模建築は複数企業による協業が容易です。
BIMの特徴
BIMの大きな特徴は、すべてのデータが連動することです。修正があれば、自動的にすべてに反映されるため、作業手順を作業手順を効率化できます。
BIMは設計の段階ですべてのオブジェクトの関連情報をモデルに盛り込むことができます。展開作業の必要がなく、1カ所でも変更があれば自動で関連するすべての部分に反映されます。極めて効率的に作業を進められることがBIMの強みです。
BIMのワークフロー
実際にBIMを使用する場合は、以下のようなワークフローに沿って作業することになります。
【3Dモデル構築】
建築のオブジェクトとして、パーツである建具や資材建具を仮想空間で組み合わせ、建造物の完成形を3Dモデルで構築します。各オブジェクトにはサイズはもちろん、品番、素材、単価などの属性情報を付与することができます。
【ビュー作成】
構築されたモデルから基礎となる平面および立体図や配置図などのビューを作成し、必要に応じて2次元の製図も用意しておきます。
【集計表作成】
寸法や面積などの集計表を作成します。モデル上で、たとえば壁の位置を変更すると、集計表も連動して変更されるため、手戻りを避けられます。
【設計図面作成】
図面枠用のシートにビューを貼り付け、設計図面として仕上げます。平面図および建具表などを作成し、出力すれば設計図面が完成です。
Revit
3DCADツールに関して世界で最高のシェアを誇るAutodesk社が提供するソフトです。設計中は、立体データの整合性を常に保持し、頻度の高い作業を自動化するなど、BIMならではの機能を提供しています。
設計データからマテリアルやコンポーネントの集計表も作成可能です。違う専門分野の作業者が、モデルを共有しつつ共同作業を進めることができます。
Rebro
NYKシステムズ社が開発したBIM対応建築設備CADソフトです。配管や建築物内部の設備の設計や施工がしやすいという特徴を持っています。3Dモデルと断面図や平面は常に連動していて、配管の微妙な勾配なども高精度で再現可能です。
設備の設計に関しては配管の勾配や天井、壁、ドアなどの距離が重要なパラメーターになり、一部の設備データが変更されても、常に全体の整合性を維持します。RevitやARCHICADとの連携も可能です。
ARCHICAD
ハンガリーのGRAPHISOFT SE社が開発したBIMソフトです。BIMの生命線であるバーチャルビルディングコンセプト(コンピューター上で3次元モデルの建築物を構築する考え方を)いち早く提唱した企業として知られています。
ユーザーインターフェースは感覚的に操作しやすく、短期間で使い方をマスターできて設計作業の効率が向上します。
VectorWorks Architect
日本国内でよく知られている3DCADのVectorWorksのBIM対応バージョンです。
3DCADをベースにしつつも、オブジェクトへの情報の追加やデザインの途中での可視化、データ管理、Revitとの連携などの機能を強化しています。3DCAD版のユーザーであれば、違和感なく移行できます。
GLOOBE
日本発のBIM建築設計システムとして福井コンピュータアーキテクト社が開発したソフトです。日本の建築基準法に沿った法規的なチェックをはじめとして、日本の設計手法に最適化された機能を備えています。
BIMのメリット
主なメリットは以下の3つです。
- コスト削減
- コミュニケーションの円滑化
- 作業効率向上
1つ目のメリットはコスト削減です。設計段階での検討を容易にし、ミスを軽減できます。その結果工数も抑えられ、コスト削減が可能です。
2つ目はコミュニケーションの円滑化です。分かりやすくビジュアライズして共有するので、関係者の情報共有を円滑にし、意見交換の成果も迅速に反映できます。
3つ目は作業効率の向上です。さまざまなプロセスを迅速、的確に進行でき、部分的な変更も同時に全体に反映されるため、ワークフロー全体の作業効率を向上させます。
BIMのデメリット
主なデメリットは以下の3つです。
- イニシャルコストの負担
- 使用できる人材の確保が必要
- 設計段階で時間がかかる
1つ目のデメリットはイニシャルコストの高さです。BIMのソフトは高額です。導入の際には、必要数の確保やBIMソフト専用のパソコンの準備などがあり、経費や予算をよく検討して導入コストを考える必要があります。
2つ目のデメリットは、ソフトを扱える人材の確保が必要なことです。普及途上のBIMソフトを操作できる人材の確保は、決して容易ではありません。育成するにしても時間がかかります。
3つ目のデメリットは設計段階で時間がかかることです。BIMモデルを作成するためには、詳細情報をオブジェクトに盛り込む分、2D図面はもとよりCADによる3D図面よりも、かなりの時間がかかります。
建設業界におけるBIMの活用事例
逆円錐型の曲線的なデザインが特徴的な「富士山世界遺産センター」は、BIMを活用して建築されました。
BIMモデルにて鉄骨と木格子を組み合わせることで、美しくも高難易度のデザインを生み出しました。この難易度の高いデザインを実現させる要となったのがBIMです。
設計者、木格子業者、鉄骨業者の各分野のデータをBIMでまとめ上げることにより、完成度の高さだけでなく優れたコスト効率や無駄のない竣工期間の実現に成功しました。
土木業界におけるBIMの活用事例
マカオにある海上橋建設のプロジェクトは、人工島やトンネル、橋梁、トンネルが含まれる上に軟弱な地層という環境もあって、複雑で難易度が高い建造物でした。
このプロジェクトではRevitを使ってすべてのBIMモデルを作成し、パラメーター化技術によって膨大な情報をモデルに反映させることで、高度な技術的問題を解決して建造に成功しました。
参照:AUTODESK 中国鉄建(CRCC)による世界初の海上橋交通クラスター プロジェクト
まとめ
BIMはCADの後継となるDX時代のCADシステムであり、多くの機能を備えた設計ツールです。建造物を構成するすべてのオブジェクトに属性を与えられるので、造形美や強度計算、コストや納期などあらゆる面で最適化が図れます。
ただし、使いこなせる人材の確保が容易ではないことやイニシャルコストの負担、設計初期に時間を要するなどの課題も抱えています。それでも、このまま順調に普及が進めば、諸々の課題も解決していくと考えてよいでしょう。
監修者
石井 宗弘
- 資格
- 一級建築士
- 略歴
- 大学院修了後、アトリエ系設計事務所、ゼネコン設計部にて、主に学校や役所などの公共建築やオフィスビルの設計・管理を担当。2011年からは、不動産会社の設計部にて集合住宅の設計に携わっている。社内でBIM導入プロジェクトも牽引。