不動産投資の成功のためには、収入と同じくらい支出も適切に管理しなくてはなりません。なかでも複数の契約単位を持つ集合住宅「アパート」 は、借主の使い方がそれぞれ異なるため、「修繕費」に注意が必要です。 この記事では、アパートオーナーに向けて、修繕費の考え方と概要、注意すべきポイント、費用の目安を解説します。優良な物件をより長期間運用するために、ぜひ参考にしてください。
ポイント
- アパート経営における修繕費には 種類があり、貸主と借主のどちらが負担すべきかを示すガイドラインがある
- アパートで修繕が必要 になる箇所 は多く、それぞれ 丁寧にチェック、管理しなくてはならない
- アパート経営における 修繕費は、長期的に収益に影響する重要な要素であるため、計画的に実施することが大切
アパート経営に必要な修繕費とは?
アパートを投資対象として適切に維持するためには、修繕が欠かせません。 漠然と「ずいぶん高い費用がかかるのだろう」と不安に思っている方もいるでしょう。 アパート経営において修繕費は大きく4種類に分けられます。まずはこれらの一つひとつをしっかり把握しておくことが肝心です。
ここではアパート経営に必要とされる4種類の修繕費を解説します。
原状回復
原状回復とは、一般には入居した当時の状態に戻すことのように思われがちですが、国土交通省では「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義しており、「賃貸人が借りた当時の状態に戻すことではない」ことに注意が必要です。畳の日焼けや家具の設置によるカーペットのへこみのような、一般的な使用でも時間が経過することで発生してしまう経年劣化は含まれません。
通常、原状回復にかかる費用は借主が、経年劣化にかかる費用は貸主が負担するものです。しかし、賃貸借契約に原状回復に関する特約が設けられていれば、特約が優先されます。気になる劣化の可能性があれば、賃貸借契約時にあらかじめ同意を得ておくことが大切です。
補修
補修とは、設置されている設備の故障や、突発的な事故または災害による破損の修繕をいいます。エアコンや給湯器といった機械設備であれば、一定の期間は必要なものの、費用は数万円から数十万円程度にとどまることが多いようです。しかし雨漏りや水漏れ、事故や災害によって起こる規模の大きな損壊には、より長い期間と高額な費用のかかる可能性があります。
事故や災害による補修を予想するのは困難です。しかし水回りや雨漏り、機械類の故障についてはある程度予想できるため、それらの修繕が発生するまでの間に、計画的に修繕費を確保することはできます。
大規模修繕
大規模修繕には、屋根や外壁、ベランダといった建物の構造や機能全般に関係する建物そのものの修繕が含まれます。築年数が古い場合は、さらに耐震補強工事が必要になるかもしれません。
大規模修繕をしないでいると、外観が劣化するのはもちろん、雨漏りや実際に使うときの安全性に問題が出てきます。すると入居しても短期間で退去したり、入居者を募集しても借主が決まらなかったりといった収益面に影響する可能性もあるため注意が必要です。
大規模修繕は修繕の周期が長い分、かかる費用も高額になります。費用は修繕周期を見越した積み立てや、金融機関からの借り入れなどで確保するのが通常です。
予防修繕
予防修繕とは、より大規模な損害や破損が発生する前に、あらかじめ対処しておく修繕をいいます。そういう意味では、大規模修繕も予防修繕の1つといえるでしょう。
予防修繕には、次のようなものがあります。
- シロアリの防除
- 屋根や外壁、配管の劣化調査
- 機械類の点検 など
予防修繕は借主の満足度向上に役立ちますが、退去による空室リスクの防止や、資産価値の維持にも大いに役立ちます。かかる費用は、修繕する内容によってさまざまです。経営を広い視野でとらえ、より高い費用対効果による実施が求められます。
オーナーが負担すべき費用の考え方
アパートの修繕費は、貸主が負担するものと、借主が負担するものに分けられます。借主の 故意あるいは重大な過失によって発生した修繕は借主が、それ以外は貸主が負担するとはいうものの、どちらか判断が難しい場合もあります。
そこでここでは、貸主が負担すべき修繕費はどのように定義されているか、国土交通省が示すガイドラインを元に解説します。
貸主(オーナー・大家)が負担するもの
オーナーや大家さんといった貸主が負担するべき修繕費は、室内にあるものの経年劣化や自然消耗を原因とする修繕または交換、大規模修繕が該当します。たとえば畳や壁紙、フローリングの日焼けや色褪せは、時間が経てばどうしても発生してしまう劣化であって、借主には責任がありません。
ほかにも画鋲を刺した穴跡は 通常使用の範囲内であり、オーナーが負担すべきとされています。貸主としては「画鋲の穴跡は借主が勝手に作ったのだから借主負担だ」と感じるかもしれませんが、これは国土交通省が示す「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に示されている項目の1つです。
国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」
「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」とは、賃貸物件からの退去によって判明した損壊の修繕費を、貸主と借主のどちらが負担するのが妥当なのかを、賃貸住宅標準契約書の考え方や裁判例および取引の実務を考慮した上で、国土交通省がガイドラインとしてまとめたものです。
このガイドラインはトラブルの解決にあたって基準となるガイドラインであって、制限や罰則を設けた「法律」ではありません。発生したトラブルは原則として契約内容に沿って判断されるべきですが、なかには曖昧だったり明示されていないケースもあります。その話し合いにおいて参考にしてほしい基準です。
そのため、賃貸借契約を締結するときは、退去時にトラブルが発生しないよう、あらかじめ条文としての明記が求められます。
このガイドラインは平成10年3月にまとめられ、その後平成16年2月、平成23年8月に改訂されています。今の契約内容が適切かどうか、見直すためにも利用できる基準といえるでしょう。
参考:国土交通省 「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」について
借主が負担するもの
借主が負担するべき修繕費は、借主が賃貸借契約の内容にそぐわない使い方をした結果発生した損壊のための修繕にかかる費用といえます。次のような損壊は、ガイドラインにおいても借主が負担すべきとしている例の1つです。
- 畳・フローリング・壁紙にタバコの焦げ跡をつけてしまった
- 水道の水を出しっぱなしにして水浸しにしてしまった
- 喫煙によって壁紙についてしまったヤニ汚れ など
しかし、ガイドラインに記載されているからと言って借主全員がこの基準に納得するとは限りません。契約時に特約等として条項を加え、負担を明記しておいた方が安心できるでしょう。
修繕の時期と費用の目安
修繕は、内容ごとに適切な実施時期があります。そのため、かかる費用を想定し、実施時期に合わせて修繕費が確保できるよう備えることも可能です。国土交通省が公開している「民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック」では、1LDK〜2DKと1Kの2つの間取りの木造10戸賃貸アパートの修繕時期と費用について、次のような目安を示しています。
場合によっては1年目から、建物や設備の修繕費は必要です。室内設備や給湯器、浴室設備等には、それぞれ交換時期の目安はあるものの、実際の交換では各設備の耐用年数や減価償却具合も考慮して判断しましょう。
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参考:国土交通省 「民間賃貸住宅 計画修繕を含む投資判断について」
アパートの主な修繕費用15カ所
アパートは築年数が増えるに従って、修繕が必要になるところがたくさん出てきます。 借主の満足度を適切に維持するためには、まずどのようなところにどのような修繕が必要になるのかを把握することが大切です。
ここではアパートで修繕を必要とする15カ所それぞれの費用相場や修繕のポイントを解説します。
建物全体
アパートの各部屋を考える前に、まずはアパートの建物全体について考えてみましょう。とくに屋根や外壁は日光の光や熱、雨や雪といった水分にさらされるため劣化も激しいため、十分な注意が必要です。
また外部からの「見た目」も、アパートそのもののイメージに影響するためできるだけ清潔に、キレイに整えておく必要もあります。
屋根・屋上防水
屋根は瓦などの割れやズレ、塗装の色褪せなどがないかを確認します。確認するには建物より高い場所からの視点が必要です。 近隣から確認できない 場合は、多少距離のある建物から双眼鏡を使う、カメラ付きドローンを使うことでも確認できます。日頃から自身で 確認したり 、定期的に専門家へ依頼して点検したりするのもオススメです。
一般的なスレート屋根の防水処理は、おおむね10〜15年で劣化するといわれており、その時期での修繕には、面積85平方メートルとすると足場工事代込みで約33万円かかります。
また築20〜30年のタイミングでは、屋根の葺き替えも検討しましょう。その場合は同じ85平方メートルで約82万円程度が必要です。
外壁補修
外壁では、ひびやシーリング部の劣化、汚れ、色褪せを確認しましょう。外壁は屋根より確認しやすいところですが、できるだけ専門家に点検してもらうことをオススメします。外壁は雨や雪だけでなく、常に日光にさらされている劣化しやすい部分です。通常、防水、耐熱のための塗装が、10〜15年ごとに必要とされています。
費用は、平均的な2階建て10戸の建物だと150万円以上が必要です。業者を選ぶときは費用だけでなく、施工内容と塗料の品質も検討しましょう。
雨どい
屋根をつたって流れ落ちる雨水をまとめて排水する雨どいは、といの割れやジョイントの接合状況、支える金具の劣化の様子などを確認します。 見落としがちですが、ゴミや枯れ葉などで詰まらせてしまうと流れが悪くなり、大雨や積雪のとき負荷で破損することもあるので注意が必要です。
塗装した雨どいは、5〜10年ごとの塗りなおしと 長持ちする上、見た目もよくなるというメリットがあります。塗装費用がおおむね5〜15万円程度かかり、2階建てアパートの場合は足場も必要になります。足場には別途費用が掛かるため、同じように足場が必要な外壁塗装や屋根補修などと一緒に施工すれば節約できます。
ベランダ
ベランダも屋根や外壁と同様、雨や雪、強い日差しにさらされるため劣化しやすい部分といえます。近年、防水効果の高い素材がよく使われるようになりましたが、なかには見た目以上に内部の腐食など激しく劣化していることもあるようです。とくに鉄製の手すりや床のジョイント部分は、借主の身の安全にも大きく影響するため、こまめに点検しましょう。
ベランダには、床の防水工事が10〜15年周期、床面の塗装工事は5年周期での修繕が必要とされています。費用はウレタン塗装で1平方メートルあたり3,000〜5,000円程度です。
階段・廊下
2階建てアパートの場合、階段が建物の外に設けられていることも少なくありません。その場合、階段全体が鉄骨でできていることが多く劣化しやすいため、注意が必要です。サビによって手すりや階段が抜け落ちてしまえば、借主の命にも関わります。サビ対策として定期的な塗装は欠かせません。階段の塗装はおおむね5年ごとで、費用相場は5〜30万円程度です。
廊下のメンテナンスは、主に床面の防水工事であるため、内容が同じベランダの修繕と合わせて依頼すると一度に済ませられます。ウレタン塗装なら1平方メートルあたり3,000〜5,000円程度ですが、まとめることで交渉すれば少し安く抑えられるかもしれません。
給排水管
給排水管は、生活する上で欠かせない「ライフライン」の1つです。ただ給水・排水できればよいというわけではなく、給水管のサビや汚れ、排水管の詰まりはそれだけで生活に大きな影響を与えてしまいます。突然のトラブルを防ぐためにも、定期的なメンテナンスが必要です。
給排水は生活している限り常に利用する設備であるため、メンテナンス時は利用できない時間帯ができてしまいます。できるだけ利用の少ない平日の日中などを狙い、効率よく点検・修繕したいものです。
排水管
排水管には通常、給水管とは異なる塩化ビニール製のパイプを使っているためサビによるつまりはありません。しかし、一方で固形物が溜まりやすいためやはり詰まりを防止するためのメンテナンスは必要です。
排水管のメンテナンスはおおむね5年ごとで よいでしょう。また排水管は通常交換する必要がありません。メンテナンス用に設けられている排水桝からの高圧洗浄機による洗浄で十分対応できます。
給配水管
比較的最近建築されたアパートの給配水管には、錆びない新素材であるポリブデン管が使われていることが多いため、長期修繕計画における配管替えは省略してもよいほど劣化しにくい素材です。
しかし、従来使われてきた塩ビライニング管には、継手部分が腐食しやすいという特徴があるため、15年も経過すれば腐食は進行しています。ただ実際には、30年経過の時点で給配水管をすべて交換することが多いようです。
給配水管は交換の際、大工工事が必要となる場合があり、そうなると費用は最低でも300万円以上の高額にのぼります。15年で交換されることが少ないのはこの費用負担が大きいためです。
建具や外構
建物にはこれ以外にも必要とされるものはあります。たとえばドアや窓、建物以外でいえば通路やフェンス、駐車場はその代表です。ドアや窓であれば 借主は間違いなく利用しますが、その他の設備の中には借主がまったく使わないものもある可能性があります。
しかしどれもアパートを維持・運営するために必要であり、かつ借主が管理しないものであるため、やはり貸主によるメンテナンスが必要です。
外部建具
代表的な外部建具には次のようなものがあります。
- 各部屋の玄関ドアやサッシ、網戸
- 共用部ドア:アパート全体の入り口に設けられたドア
- パイプシャフトドア:各部屋への配管をまとめたスペースへの入り口となるドア
これらの外部建具には、あらかじめ防錆対策がされているため、10年ごとの点検や調整でも十分対応できますが、退去や入居に合わせて実施するという方法もあります。交換時期を記録しておき、10年以上入居している借主には、事前に通知して立ち会いのもと点検するとよいでしょう。
かかる費用は、建具の種類やグレードによって異なります。たとえば、玄関ドアクローサー交換にかかる費用はおおむね15,000円程度です。
外構
いわゆる外構には次のような設備が含まれます。
- 共用となる外部通路:道路からアパート入り口までの通路
- フェンス:隣の土地との境界に設置
- 駐車場や駐輪場:アスファルトなどによる整地や設置されている屋根など
- 外部電灯:夜間にアパート周辺を照らすための電灯
- 敷地内の植木
それぞれ修繕方法が異なるため、個別の管理や依頼が必要です。とはいえ外構は共通して劣化が少なく、およそ20年に1度ほど補修や調整が発生します。かかる費用もさまざまですが、たとえば駐車場の再舗装だと1平方メートルあたり10,000円弱程度が相場です。
室内
室内の設備は雨や日差しにさらされることは少ないのですが、毎日頻繁に使うものも多いため劣化や 故障してしまう可能性は高いといえます。また「室内設備」とまとめてはいるものの性質はそれぞれ異なるため、修繕の周期や費用は個別に把握することが大切です。
とくにエアコンなど複雑な機構を持つ設備の修繕周期は、経年劣化だけでなく使い方や設備の品質やグレードに影響されやすいため、予想しづらいといった特徴もあります。突然故障し、素早い修理対応が求められるため、普段から修理業者とコミュニケーションをとっておくなどの対策も効果的です。
クロス・床
劣化したクロス(壁紙)や床の修繕は、通常退去後や入居前に実施することが多いようです。クロスの修繕はおおむね6〜8年に1度ほどで、かかる費用は1平方メートルあたり1,000〜1,500円程度とされています。
また床材、とくにクッションフロアの交換周期は8〜12年程度です。費用は材質によりますが、平均すると1平方メートルあたり3,000〜5,000円程度とされています。
エアコン
エアコンはメーカーやモデル、年式などによって修繕周期にはかなり違いがある設備です。1〜2年で故障が頻発するものもあれば、長期間故障しないものもあります。そのため定期的に点検・交換するよりも、不具合が発生するごとに個別対応するのが一般的です。
ただ、それでもあえて修繕や交換の周期を示すとすれば、5〜10年で修繕、11〜15年で交換を目安とするとよいでしょう。交換の場合は、8畳用で設置工事・撤去費用を合わせておよそ100,000円が相場です。
給湯器
給湯器は一般に毎日使う設備です。そのためお湯が出ないなどの不具合が発生したらすぐにでも修理・交換する必要があります。通常給湯器は10年に1度交換するのが目安です。
しかしメーカーやモデルによっては早くに故障することもあります。1台なら個別対応で構いませんが、2台、3台と続くようなら全戸の給湯器を交換した方がよいかもしれません。なぜならその時期が、そのモデルに必要な交換時期と考えられるためです。
費用は、都市ガス20号で追い焚き機能つきの給湯器で、工賃込みでおよそ10万円ほどとされています。
温水洗浄便座
最近はコンビニや大型ショッピングセンターでも、TOTOのウォシュレットに代表される温水洗浄便座が利用できるようになりました。賃貸物件の条件に温水洗浄便座をあげる入居希望者もおり、 入居者募集において重要な要素となることがあるかもしれません。
しかし温水洗浄便座はエアコンと同じ電化製品であるため、普通に使っているだけでも壊れたり不具合が発生したりします。交換・修繕の周期は7〜10年、費用はその性能や機能によっても異なりますが、おおむね2〜4万円程度です。
交換では退去後だけでなく入居前に、正常に動作することを確認しましょう。
ガスコンロ
備え付けのガスコンロも一般に毎日使う設備であるため、できるだけ早くに修繕または交換する必要があります。ガスコンロの交換周期は通常10年とされていますが、なかにはまったく使わない借主もいるため個別にかなり変わってしまうのが現実です。
そのためガスコンロは退去・入居のタイミングで点検して問題がないことを確認し、もし問題があったら交換するという対応でもよいでしょう。費用は、修理で6,000〜10,000円、交換であれば50,000〜200,000円ほどとされています。
浴室・洗面
アパートの浴室がユニットバスであれば、ユニットバス全体の交換は、長期修繕計画から除外してもよいかもしれません。「蛇口を閉めても水が止まらない」「お湯が出ない」といった不具合が発生したら、迅速に対応することが大切です。おおむね10年ごとに部品を交換し、26〜30年頃の修理を目安としましょう。かかる費用は、一般的な折戸タイプの扉の交換に5〜10万円ほどが相場です。
洗面台も、基本的に浴室と同様、迅速に対応する必要があります。ただ洗面台は使えなくなるトラブルよりも、水栓やタオル掛けなどの付属品の外れのようなトラブルが多いようです。こちらもおよそ10年ごとに部品を交換し、26〜30年を修理の目安にしましょう。費用は、シングルレバータイプの水栓交換であれば5〜6万円程度です。
アパート修繕費を効果的に削減するポイント3つ
アパートを所有し運用している以上、ある程度の費用がかかるのは仕方ありませんが、できれば余計な出費を抑え 、効果的に費用削減したいものです。修繕は、ある日突然必要になり、すぐにでも実施しなくてはならない場合もあり得ます。
ここではそのような修繕にかかる費用を、効果的に削減するために押さえておきたい3つのポイントを見てみましょう。
修繕費も含めた建築プランニング
アパートを経営するときは、開始後の経営計画に修繕にかかる費用や、修繕のための積み立ても含める必要があります。目先の収支を追っているだけでは、突然の支出に対応できず、本来不要な支出を発生させかねません。修繕費は基本的に、まだ必要のない段階から先を見越して積み立てておきましょう。
定期的な修繕の実施
修繕は、深刻なほど、大規模なほど、即対応が必要なほど、費用は高額になりがちです。だからといって定期点検で判明したささいな不具合を見逃していると、やがて深刻で 大規模な修繕になりかねません。修繕が必要なところは定期的に点検し、判明した不具合はできるだけ早くに修繕しておくことが、結局はトータルの修繕費を抑えることにつながります。
定期的な点検や修繕の判断には、それぞれの専門知識も必要です。建物のことであれば建築会社、エアコンや温水洗浄便座であれば電気店や電気工事店というように専門家に相談して、いざというときに備えて役立つ知識を蓄積しておきましょう。
しっかりした入居者審査の実施
専門家から得た情報を元に綿密な修繕計画を立てても、一部の借主のマナーが悪いためにいくつも修繕が発生すれば意味がなくなってしまいます。なぜならマナーの悪い借主は次のようなことの原因になりやすいためです。
- (禁止事項にもかかわらず)ペットを飼う
- タバコの焦げ跡をつけたり、クロスや床に傷をつけたりする
- 部屋や設備を乱暴に使い、壊したり汚したりする
このような借主の入居を防ぐには、賃貸借契約の段階で入居者をしっかり審査することが重要です。どの借主も同じ家賃を支払いますが、修繕費がかさむマナーの悪い借主と契約すれば、マナーのよい借主と契約するより収支が悪化するだけでなく、本来必要ない修繕の手間もかかります。
修繕費を抑えるためにも、賃貸契約時の入居者審査は重要なのです。
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アパート修繕の必要性
アパート経営において修繕とは、収支の中では費用となるため「できればない方がいい」「少ないに越したことはない」と考えがちです。しかし適切に修繕すれば、次のようなメリットを得ることもあるため、あまり軽視するのはオススメできません。
- 空室リスクを軽減
- 入居者の満足度を向上
- 建物の資産価値を維持
これらは長い目で見れば、どれも収支に影響する重要な項目です。
空室リスクの軽減のため
適切に修繕し、各戸を常によい状態に保つことは、空室リスクの軽減につながります。アパート全体の賃貸物件としての品質として評価され、市場においていわゆる「よい物件」として信用を得られるためです。
これから物件を借りようという人は、同じ家賃を払うのであれば少しでも条件のよい、キレイな住み心地のよいアパートを選びたいと思うでしょう。競合する他の物件との差別化を図るためにも、修繕によって建物の外観や室内だけでなく設備の機能も整えておく必要があります。
入居者満足向上のため
入居者がアパートに求めるのは、「駅から近い」「家賃が安い」「設備が多い」といったことだけではありません。たとえば「キレイに整っている外観」「快適に生活できる設備 」といったアパートそのものの価値も重視されるようになってきています。
もし入居者が今の住まいに満足できず退去を繰り返せば、原状回復にかかる費用も増え、多くの入居希望者が同じように満足できず空室期間が長期化するかもしれません。つまり適切に修繕することは、アパート経営をより広い視野でみると欠かせない要素といえるのです。
アパートを修繕するのは、修繕しなくてはならないためではなく、より収益を上げやすくするためでもあるといえます。
建物の資産価値を維持するため
建物もモノである以上、時間が経つほど劣化は進みます。 1つの劣化が 他部分の 劣化する原因になることも あるため、放置すると見た目はもちろん建物の構造にも影響し、建物の価値そのものの低下の原因になりかねません。建物の修繕は、災害への耐久性や住まいとしての安全性を維持、向上させるためにも必要です。
もしアパート経営をやめて売却するときも、劣化が進んで手もつけられない状態なら、買い手がつかない可能性もあります。修繕費は、一定の収入を得るための必要経費として、やはり避けられない要素です。
計画的なアパート修繕のポイント3つ
適切な修繕がアパート経営には欠かせないこと、しかし修繕費は費用であるため無用に増えるのは避けるべきという考え方は、修繕が計画的に実行される必要があることを示しています。ただそのためには、まず実際にどのような行動が必要なのかを知ることが大切です。
ここでは、計画的なアパート修繕に必要な行動のポイントを3つ解説します。
修繕計画を立てる
修繕を計画することは、アパート経営におけるたくさんの修繕項目1つひとつに対して、タイミングやかかる費用、そして費用の確保の計画を立てることです。
ただ、項目は非常に多く、なかには高度に専門的な予測を必要とするものもあります。そのため計画を立てるときは、資金的にはある程度の余裕を持つこと、内容 は専門家に相談してより正確な情報を得ることが大切です。
できるだけ出費を抑えるなら、定期点検や依頼する専門家への相談も必要になるでしょう。修繕をより効果的に、スムーズに実施するには修繕の綿密な計画が必要です。
修繕の記録をする
計画を立てて実際に修繕し終わっても、アパート経営を続ける限り修繕の必要がなくなることはありません。 次回の修繕に備え、実施の経緯や細かなやり取り、タイミングなどを 詳しく記録しておけばこれからの経営に役立つでしょう 。
修繕を計画し、時期になったら修繕を実施、そして実施内容を記録したら、次の修繕を計画するというのは1つの周期です。今回の実施の経験からは、今後より効率よく進めるためのヒントが得られるかもしれません。 次回の修繕の段取りで活かせる可能性もあります。
修繕したという事実は貴重な経験です。忘れないうちにできるだけ詳しく記録しておきましょう。
修繕費の積み立てを行う
修繕がいくらアパート経営に必要だとしても、修繕費として支払える資金がなければできません。現に修繕ができないというアパートオーナーの多くが理由として「資金に余裕がない」ことを挙げています。
しかしあらかじめ修繕を計画し、費用も前もって確保しておけば修繕は可能です。修繕費の積立は修繕計画に基づき、無理が少ない資金確保の方法といえます。
積み立て金額の考え方
たとえば分譲マンションでは、10〜13年ごとに行われる大規模修繕に備え、管理組合が修繕積立金を徴収しますが、アパート経営ではオーナー自身が決めない限りこのようなルールはありません。しかし修繕が必要だという意味ではどちらも事情は同じで、無理なく備えるには定期的に積み立てる方法がオススメです。
積み立てる金額は、修繕にかかる費用を想定し、家賃収入の5%程度を目安とするとよいでしょう。
アパート修繕費の経費計上の注意点
アパートの建物や設備を修繕するためにかかった費用は、アパート経営に必要な経費として計上できます。しかし、修繕費として計上できるのは、あくまで期中に発生した実際の修繕にかかった費用だけです。
一見修繕のように見える次のような行為にかかった費用は、修繕費にはあたりません。
- 階段を新しく追加した:増築工事=建物の価値を上げる工事であり修繕ではない
- 機械類をより高品質のものに交換した:機械を交換しているため修繕とはみなされない
修繕とは原則として、資産の劣化した部位・部材または機器の性能・機能を元の水準または実用上支障のない状態にまで回復されることです。
新しく追加した階段はアパートの建物としての価値が上がる、つまり資産価値の増加であり、機械自体の交換は元の機械の廃棄および新しい機械の追加、やはりアパートの資産価値の増加です。資産の増加は、修繕とは異なります。修繕費には該当せず、計上できないのはこのためです。
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修繕まで計画したプランができる不動産会社を選ぶ
土地を遊ばせるのはもったいないと、何かに活用できないか不動産会社に相談すれば、きっといくつかの活用方法を提案してもらえるでしょう。そのなかにアパート経営が含まれているかもしれません。そのときどれほど魅力的な収益の事業計画書でも、修繕費や修繕積立金が綿密に組み込まれていなければあまり現実的とはいえないでしょう。
選ぶ不動産会社は、知識や経験だけでなくオーナーの事情や意向を適切に汲み取り、場合によっては厳しい現状を突きつけてくるくらいの信頼できる存在であってほしいものです。記載されている修繕費も含め、さまざまな事情を考慮した納得できるプランを提示してくれる不動産会社を選ぶことをオススメします。
まとめ
アパート経営のような不動産経営では、突発的に発生することもある修繕費の把握と管理には大きな意味があります。なぜなら金額が小さければ数千円から、高ければ数百万円と高額にのぼることもあり、事情によっては対応に時間がかかる上、すぐに支払わなくてはならないケースもあるためです。
ただ修繕には資産価値の維持や収益向上に欠かせない要素でもあるため、発生に備えて定期的に積み立てるなどして確保する必要があります。積み立てた金額は確定申告などの会計書類に計上できませんが、定期的な点検や専門家の意見を聞くなどして情報を集め、万が一に備えることが大切です。
アパート経営を始める際、いざというとき慌てずにすむよう修繕費や修繕積立金は毎月無理なく確保するよう努めましょう。
監修者
宅地建物取引士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士
中川 祐一
現在、不動産会社で建築請負営業と土地・収益物件の仕入れを中心に担当している。これまで約20年間培ってきた、現場に密着した営業経験と建築知識、不動産知識を活かして業務に携わっている。
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