老後の生活を考える中で、退職金をそのまま使うのではなく、運用して増やせないかと検討する方は多いのではないでしょうか。
今回は退職金の運用やその必要性、運用方法、注意点などを解説します。退職金の運用を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
ポイント
- 退職金の減少や平均寿命が延びていることで、退職金を運用する必要性が高くなっている
- 退職金を運用する場合、投資先をなるべく分散させることが大切
退職金の運用とは、資産として活用していくこと
退職金の運用とは、退職金をそのまま使わずに資産として活用していくことです。運用する場合には、預貯金として金融機関に預ける、株式の購入など投資を行う方法があります。
老後に必要な資金は、一般的に2,000万~3,000万円ほど(2人世帯/無職/65歳から約30年間/月25~30万の生活費を想定)といわれています。もちろんこれは個人の生活水準を考慮していない場合ではあるものの、公的年金のみで余裕のある老後の生活を送ることは難しい人の方が多いのではないでしょうか。そのため、資産が尽きるまでの期間を延ばす方法として、退職金を運用するのです。
退職金が年々減少している現実
退職金を運用する必要性が高まっている理由の1つは、退職金が年々減少していることです。厚生労働省が2018年に実施した「就労条件総合調査」によると、退職した年によって以下のような変化がありました。
<大学・大学院卒で管理・事務・技術職に就いていた社員の退職金>
- 2013年(平成25年)・・・1,941万円
- 2018年(平成30年)・・・1,788万円
<高校卒で管理・事務・技術職に就いていた社員の退職金>
- 2013年(平成25年)・・・1,673万円
- 2018年(平成30年)・・・1,396万円
このように、退職金の額は、平成30年と平成25年では、150万円から250万円以上と大きく減少しています。また、2002年(平成14年)に施行された厚生年金保険法改正により、年金受給は65歳に引き上げられました。今後は、さらに受給年齢が引き上げられる可能性もあるでしょう。
定年退職してもすぐに年金を受け取れない可能性や、退職金自体が減少傾向であることから、資産を自分自身で増やしていく必要があるのです。
出典:厚生労働省 「平成30年就労条件総合調査 退職給付(一時金・年金)の支給実態」
退職後の平均寿命が年々延びている
日本では、2021年(令和3年)と1955年(昭和30年)を比べると男女ともに平均寿命が約20年延びています。
2021年時点では、男性の平均寿命は81.47歳、女性は87.57歳です。女性であれば、65歳で退職しても女性であれば平均寿命までは20年以上、60歳で退職したら30年近い年数があります。退職後の時間が長くなっているため、それに伴った生活費を確保する必要性が高まっています。
参考:厚生労働省 「簡易生命表(基幹統計)」
退職金を4つに分類して管理する
退職金は、下記の4つに分類して管理することが大切です。
- 流動性資産
- 使用予定資産
- 確実性資産
- 収益性資産
退職金を管理するそれぞれの分類の特徴や違い、どのように管理すればいいのかなどを詳しくチェックしていきましょう。
1.流動性資産
流動性資産とは、いつでも引き出せる資産のことです。普段の生活費や急な出費でお金が必要になった場合には、流動性資産から使います。
流動性資産の管理には、引き出しやすくて元本が保たれるような方法がおすすめです。普通預金や定期預金に入れておくと良いでしょう。半年程度の生活費の金額が、流動性資産として預けるお金の目安です。
2.使用予定資産
使用予定資産とは、今後の使用目的がすでに決まっているお金のことを指します。住宅のリフォーム代や子どもの学費・結婚費用など、ここ数年で使うであろう予定のある資産です。
必要となる時期もある程度は決まっているため、使用時期にあわせて問題なく引き出せるように、定期預金などで運用すると良いでしょう。
3.確実性資産
確実性資産とは、なるべく元本割れのリスクを抑えたうえで、安全に運用していく資産のことです。後述する収益性資産のための資金がもしも不足した場合には、確実性資産から補います。
以前は金利が高かったため、確実性資産は定期預金や高格付け社債などで運用していました。現在は低金利政策がとられているため、バランスファンドを活用してリスクを低くした運用がおすすめです。
4.収益性資産
収益性資産とは、ある程度のリスクを理解したうえで、積極的に運用していく資産のことです。国内や海外の株式、不動産など、リスクがある代わりに高い収益性を狙えるような投資を行います。
資金を増やすために行うとはいえ、収益性資産はほかの資産よりもリスクがあるため、できる限り損をしないように慎重な運用を心がけましょう。
退職金の運用法7つ
退職金の運用法には、さまざまな方法があり、代表的な方法は、以下の7つです。
- 投資信託
- 株式投資
- 不動産投資
- ファンドラップ
- 定期預金
- 非課税制度(NISA・iDeCo)
- 個人向け国債
それぞれの運用法をチェックしていきましょう。
1.投資信託
複数の投資家の資金を集め、いくつかの投資先で資産運用したうえで、投資額に応じてその運用成果を分配する仕組みの商品が「投資信託」です。投資信託のファンドごとにファンドマネージャーがおり、投資する銘柄を選んでいます。
投資信託を活用して投資する場合には、どのファンドに投資するのかを自身で選定し、売買のタイミングを見計らって取引します。日経平均株価などのベンチマークと同じ値動きをする、「インデックスファンド」も選択可能です。
2.株式投資
「株式投資」は退職金の運用法の代表的な方法の1つです。株式投資とは、企業が発行する株式を売買することにより、値上がり益などの利益を狙います。株式投資の場合は、売買による利益のほかに、企業の利益を投資家に分配する配当金や、株主優待制度での利益もあります。
株価が安いときに購入し、高いときに売却できれば、値上がり益によって資産を大きく増やせます。ただし、利益が大きい分リスクも大きい運用法であり、大きく資産を減らす可能性があることに注意が必要です。
3.不動産投資
不動産投資は、マンションやアパートなど不動産を購入し、入居者に貸し出すことによって家賃収入を得る、もしくは不動産売買によって利益をあげる投資方法です。
特に家賃収入を得る不動産投資は、長期的な収入が見込めるとして人気が集まっています。上手に収益をあげるには、好立地・好条件の不動産を見つけ、安定して入居者が集まるような不動産を見つけることが重要です。不動産に投資する場合は、ノウハウを持った専門家に相談すると良いでしょう。
不動産投資に関する詳しい内容は以下の記事で解説しているので、興味のある方はこちらをお読み下さい。
4.ファンドラップ
「ファンドラップ」とは、一人ひとりに適したリスク水準での資産運用を提供するための、さまざまなサービスを金融機関が一貫して請け負う商品のことです。
金融機関が、顧客ごとの投資の目的を確認したうえで「投資一任契約」を結び、投資先の選定から資産の配分、運用状況の報告などを行います。顧客の投資に対する考えや投資可能期間、保有する金融資産額などに応じてプロが運用してくれることがメリットです。ただし、手数料がかかることや、元本割れの可能性があることに注意しましょう。
5.定期預金
「定期預金」とは、定めておいた預入期間が過ぎるまでは、原則引き出すことのできない預金のことです。3ヵ月、6ヵ月、1年といったように一定の期間預けることを決めておくことで、普通預金に比べて高い金利が適用されます。途中解約も可能であるものの、利息がつかない可能性があります。
投資信託などの投資方法を実行した場合の期待リターンと比較すると、受け取れる利子は少ないです。しかし、元本が変動しないという点では優れているでしょう。
6.非課税制度(NISA・iDeCo)
「NISA」や「iDeCo」といった非課税制度を活用した運用法もあります。非課税制度とは、投資信託などで利益を得た場合に通常発生する税金を、支払わなくてもいいようにする制度を指します。
NISAには「一般NISA」と「つみたてNISA」があり、投資信託などの金融商品に投資をする場合に使えます。またiDeCoとは、老後資金を自分で貯める個人型確定拠出年金のことです。
7.個人向け国債
「個人向け国債」も退職金の運用法の1つです。個人向け国債とは、個人向けに国が発行する債券のことです。一定期間国にお金を貸している状態になるため、元本割れするリスクがなく利子を受け取れます。
最低でも年0.05%の利率が保証されており、一般的な定期預金や普通預金の金利よりも高いです。満期は3年や5年、10年であるため、ある程度の期間引き出せなくてもいい金額のみを投資しましょう。
運用した退職金の取り崩し方法2つ
上記の方法などで退職金を上手に運用したとして、その資産をどのように取り崩していくのか、ということも理解しておく必要があります。
取り崩し方には以下の2種類が挙げられます。
- 定額法
- 定率法
それぞれの特徴やメリットデメリットをみていきましょう。
1.定額法
定額法とは、指定した額を毎月一定に取り崩す仕組みを指します。
公的な年金年収とあわせて毎月一定額を受け取れるため、生活設計や管理がしやすい点が特徴であり、メリットです。
一方で、経済情勢や金融市場が不調になっている場合にも同様に一定額を引き出し続けるため、次に挙げる定率法よりも資金に対する取り崩し額が大きくなってしまいます。
不況時に資金の目減りがはやくなってしまうため、注意が必要です。
2.定率法
毎月一定額を引き出す定額方法に対して、定率法は資金残高に一定率をかけた金額を取り出す仕組みです。
定率法のメリットとしては、定額法と比較して、経済情勢や金融市場の調子によらず引き出せる点が挙げられます。金融市場が不調の場合は、自身の資産残高にあわせて少額を取り出し、好調の場合は高額を取り出せるため、安定した資産管理が可能です。
ただし、定額法と違って毎月の受取額が一定ではないため、生活設計は慎重に行う必要があります。
退職金を運用する時の注意点5つ
ここまでで退職金の運用のおおまかな流れを解説しましたが、加えて退職金を運用する際には下記の注意点があります。
- 退職金に税金が課せられる可能性がある
- 長期的な目線で運用する
- リスクを抑えた運用方法を選択する
- 投資先はなるべく分散する
- 投資の経験がない方は要注意
1.退職金に税金が課せられる可能性がある
「退職金が〇〇万円受け取れるはずだから……」と運用を考えている方は、退職金がそのまま手に入るわけではなく、税金が課せられる可能性があることに注意が必要です。
国税庁のホームページでは、勤続年数20年以下の方と20年を超える方では、退職所得控除額の計算方法に違いがあることなどがわかります。控除された後の課税金額によって所得税率が異なるなどの注意点もあるため、実際に国税庁のホームページで確認するようにしましょう。
参考:国税庁 「退職金と税」
2.長期的な目線で運用する
退職金を運用する際に短期間で大きな利益を求めると、ハイリスクとなる場合があります。退職金が一度に減って老後の生活に影響が及んでしまわないよう、リターンが少なめでもリスクの低い方法で長期的に運用することがポイントです。
長期的な資産運用でも、リスクゼロにはなりません。しかし、長期的な目線で運用することで、ローリスクローリターンの運用が成功しやすくなるといわれています。
3.リスクを抑えた運用方法を選択する
退職金の運用には、リスクの高い投資を避けることが重要です。投資する対象によってリスクに違いが生じるため、資産ができるだけ減らないようにリスクの低い投資先を選ぶようにしましょう。
定年後はこれまでと同水準の収入は得にくいため、資産が減らないようにすることが大切です。短期的な利益が出なくても、今ある資産を守りながら運用することを心がけましょう。
4.投資先はなるべく分散する
退職金を運用する際は、なるべく投資先を分散することが必要です。たとえば、退職金を全額株式投資してしまった場合、株価が下落した時につぎ込んだ退職金の価値も同時に減ってしまいます。
一方で、定期預金などの元本割れするリスクがないもので運用した場合、すべてを預け入れたとしても退職金はあまり増えません。複数の金融商品に分散して投資することで、元本割れのリスクを減らしながら、リターンも期待できるようになります。
5.投資の経験がない方は要注意
今まで投資の経験がない方にとって、退職金の運用はとくに注意が必要です。万が一元本割れした場合には、想像以上に大きなショックを感じるでしょう。
短期的に元本割れしたとして、その後も長期的に投資を続けていればプラスになることもあるかもしれません。しかし、元本割れになった時点で投資をしたこと自体を後悔してやめた場合、損失が確定してしまいます。
早めに資産運用の経験や知識をつけて、長期的な視点で投資できるようになりましょう。
まとめ
退職金が年々減少していること、平均寿命が延びていることなどによって、退職金を運用する必要性が高まっているといわれています。そのようなかでもゆとりのある老後の生活を送ろうと、注目を集めているのが退職金の運用です。
退職金の代表的な運用法には、投資信託や株式投資、不動産投資などがあります。退職金を運用する際は、流動性資産や使用予定資産、確実性資産、収益性資産に分けて管理します。できる限り分散させながら退職金の運用をしていくこと、長期的な目線で運用することなどに注意して、上手に資産運用しましょう。
長期的な家賃収入が見込めるとして人気が高い不動産投資を検討する場合は、まずはノウハウを持った専門家に相談してみることをおすすめします。
監修者
宅地建物取引士
佐藤 智彦
東京・仙台を中心に、20年以上アパート・マンション建築賃貸業界に従事している。これまで500棟以上の新築アパート・マンションの企画・設計・建築・運営に携わり培ってきたリアルな知見が強み。
無料資料ダウンロード
不動産投資を始める方へ、こちらの資料をご活用ください!