軽量鉄骨の耐用年数は、3mm以下は19年、4mm超は34年のように、鉄骨の厚さによって異なります。また、耐用年数は融資の期間や節税期間とも関係が深いです。
減価償却費や期間による影響は、税引き後のキャッシュフロー、いわゆる手残り額にも大きな影響を与えますし、利益を追う上で収益の次に大切な項目になります。
利回り契約や銀行の与信判断時にも減価償却費は、大事なクライテリアになりますので、本記事では、軽量鉄骨の耐用年数をはじめ、アパートの経営をするにあたって覚えておきたい減価償却の基礎知識、軽量鉄骨を採用するメリットとデメリットなどについて解説します。
ポイント
- 軽量鉄骨の法定耐用年数は、厚さによって異なる
- 法定耐用年数はアパート経営においてローンや節税期間と関係がある
- 軽量鉄骨造は、建築コストが抑えやすく、品質が安定している
- 軽量鉄骨造は、間取りや防音性は鉄筋鉄骨造と比較すると低い
厚さによって異なる軽量鉄骨の耐用年数
軽量鉄骨造の耐用年数は、骨組みとして使用される鉄骨の厚さによって変化します。耐用年数には、「法定耐用年数」と「物理的耐用年数」、「経済的耐用年数」があり、厚さ別鉄骨造の法定耐用年数は以下のとおりです。
構造 | 法定耐用年数 |
---|---|
鉄骨造(3mm以下) | 19年 |
鉄骨造(3mm超4mm以下) | 27年 |
鉄骨造(4mm超) | 34年 |
出典:国税庁 No.2100 減価償却のあらまし
上記の一覧表で紹介した法定耐用年数とは別に、軽量鉄骨造の耐久性は一般的に30年とされており、これは、ハウスメーカーの保証期間の影響が大きいといわれています。
国税庁による法定耐用年数
法定耐用年数とは、減価償却の計算をするために用いる法律で定められた年数で、価償却資産がその価値を保つと考えられている期間のことです。減価償却資産の種類、そして用途などによって期間が異なります。耐用年数を迎えた減価償却資産は、会計上ではその価値がなくなったとみなされます。
減価償却資産とは、事業などの業務のために用いられる建物や設備など年月の経過によって「資産としての価値」が低下していく資産の総称です。土地や骨董品などは年月が経過しても価値は低下しない資産のため減価償却資産ではなく、法定耐用年数は決まっていません。
建物の構造別法定耐用年数
構造別の法定耐用年数は、以下のとおりです。
構造 | 耐用年数 |
---|---|
木造 | 22年 |
木造モルタル | 20年 |
鉄骨造(3mm以下) | 19年 |
鉄骨造(3mm超4mm以下) | 27年 |
鉄骨造(4mm超) | 34年 |
鉄筋コンクリート造 | 47年 |
鉄骨鉄筋コンクリート造 | 47年 |
木造や木造モルタルの耐用年数が20年前後であるのに対して、軽量鉄骨は3mmを超えると30年前後まで耐用年数が長くなります。最も耐用年数が長いのが、鉄筋コンクリート造と鉄骨鉄筋コンクリート造で、どちらも47年です。
物理的耐用年数と経済的耐用年数
「物理的耐用年数」とは、建物の構造材が物理的原因や科学的原因によって劣化を伴う耐用年数のことで、工学的な判断をもとに決定されます。
実際の建物の寿命は、メンテナンスの頻度や建物の周辺環境によって異なります。近年は建築技術が発展している影響もあり、物理的耐用年数の方が、法定耐用年数よりも長い建物も少なくありません。海の近くに建てられた軽量鉄骨造の場合、潮風で鉄骨が錆びてしまい、通常よりも早く建物が寿命を迎えてしまう可能性が高いです。
「経済的耐用年数」とは、物理的な面に加えて、市場価値も含めた耐用年数のことです。建物の市場価値は、間取りや外観のデザインなどによって変化します。
需要が続く限り経済的耐用年数は続きますが、需要がなくなれば経済耐用年数もなくなってしまいます。一般的な軽量鉄骨造のアパートの場合、30年程度が経済的耐用年数の目安です。
減価償却とは
減価償却とは、固定資産の価値の低下を事前に考え、取得額を使用可能な期間全体で分割して必要経費とする会計手続きのことです。その期間が法定耐用年数である、耐用年数に応じて1年ずつ分割して経費計上することで、実際の使用と費用計上のタイミングを合わせることができるようにしている制度です。
減価償却とは、減価償却資産の取得に要した金額を一定の方法によって各年分の必要経費として配分していく手続きです。
減価償却費の計算方法は、定額法と定率法の2種類です。
定額法とは、毎年一定金額を償却する計算方法で、毎年の償却費がわかりやすい点がメリットです。
定率法は、未償却の残高に対して、一定の割合をかけて減価償却費を求める方法です。定額法と比較すると、購入した年に多くの金額を経費計上できます。
事業用不動産の減価償却
新築物件と中古物件で、事業用不動産の減価償却の計算方法は異なります。新築物件の場合の計算方法は、以下のとおりです。
新築物件の計算方法
減価償却費 = 建物購入価額 ×減価 償却率 × 業務に供された月数 ÷ 12
中古物件の場合、平成19年4月1日以降に取得した建物であれば、計算式は新築物件の場合と同じです。
ただし、中古物件の場合は、取得時点での残存耐用年数を考慮しなければなりません。 法定耐用年数を満了している場合かどうかで、残存耐用年数の計算が異なります。
法定耐用年数を満了している場合
残存耐用年数=法定耐用年数 × 0.2(年)
法定耐用年数が残っている場合
残存耐用年数=法定耐用年数―経過年数+経過年数×0.2(年)
たとえば、築年数が10年経過した耐用年数19年の軽量鉄骨造の場合の残存耐用年数は 19‐10+10×0.2=11年となるため、償却率は0.091です。
耐用年数とアパート経営の関係
アパートを経営するにあたって、短期間で利益を出そうとするのは、あまり現実的ではありません。そのため、アパートは長期的な視点で運用する必要があります。
アパートの長期運用において欠かせないのが、耐用年数に対する理解です。融資の期間、そして節税期間と耐用年数の関係について解説します。
融資の期間
耐用年数と融資期間は、深い関係があります。
金融機関は、融資期間を建物の耐用年数に連動して設定している場合がほとんどです。融資期間が長ければ、毎月のローンの返済額を抑制できます。たとえば、同じ6,000万円のローンを20年で返済する場合と、30年で返済する場合とでは、後者の方が1回あたりの返済額を抑えられます。
アパートの経営において、ローンの返済額は大きな割合を占めます。返済額が小さくなれば、キャッシュフローに余裕が生まれるだけでなく、設備の故障をはじめとする、突発的な支出に対しても対応が可能になるでしょう。
節税できる期間
節税できる期間も、耐用年数によって異なります。
減価償却費は、計算の手続きによって発生する費用であり、実際に払うものではありません。しかし、費用が増えればアパート経営によって得られる利益は減るため税金も少なくなるため、節税効果が期待できます。
アパート経営において、減価償却費が計上されなくなると、利益が増えるため、税金も多くなってしまいます。ローンの返済金額が残っている状態で税金が増えてしまうと、アパート経営が苦しくなり、最悪の場合自己破産にいたる可能性も否定できません。
そのため、節税期間を少しでも長くしたい場合は、耐用年数が長い建物を取得するのがおすすめです。
法定耐用年数が過ぎたアパート経営
法定耐用年数が過ぎると減価償却が終わり、アパート経営にはさまざまな影響があります。
減価償却が終わったアパートには融資がつきにくくなるため、売却しにくくなります。売却の時期の選択肢を広げるには、法定耐用年数が長い構造を選択するのがおすすめです。
また、先述のとおり、減価償却が終わると節税効果がなくなります。その場合は、建て替えや資本的支出にみなされるリフォームを行うことで再度、減価償却の対象となります。
アパート経営と減価償却、法定耐用年数には非常に密接な関係があります。減価償却による節税などには専門的な知識も必要なため、信頼できる不動産会社や税理士に相談すると良いでしょう。
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そもそも 軽量鉄骨造とは
そもそも軽量鉄骨とは、厚みが6mm以下の鋼材のことです。軽量鉄骨を骨組みに使用する構造を軽量鉄骨造と呼びますが、スチール(Steel)の頭文字からS造とも呼ばれます。軽量鉄骨は、戸建てを建設する際に使用されるのが一般的です。
軽量鉄骨の特徴やメリット、デメリットについて、詳しく解説します。
軽量鉄骨造の特徴・メリット
軽量鉄骨は、アパートを建設する際に採用されやすい建材の1つです。木材や鉄筋コンクリートなど、建材の種類はさまざまですが、軽量鉄骨が建材として選ばれるのには、きちんとした理由が存在します。
軽量鉄骨にどのような特徴があるのか、またアパートを建設するにあたって、軽量鉄骨を採用するとどのようなメリットが享受できるのかについて解説します。
建築コストを抑えられる
軽量鉄骨造は、建築コストの安さが魅力です。
軽量鉄骨造の建物は、プレハブ工法が採用されることが一般的です。プレハブ工法とは、住宅の一部、またはすべての建材を工場であらかじめ作ってから、現場で組み立てる工法のことです。使用する建材は工場で規格化された大量生産品のため、材料費自体が安く、工程が決まっている分工期も短いため、高額な人件費もかかりません。
品質が安定している
品質が安定しているのも、軽量鉄骨造の強みです。
軽量鉄骨は、汎用されている建材のため生産技術が確立されており、品質が安定しています。また、組み立てが決まっているため、経験が浅い職人でも問題なく住宅を完成させられる点も、大きなメリットです。
工期を短くできる
工期が短い点も、軽量鉄骨造のメリットです。木造は建材を1つずつ手作業で用意する関係上、工期が長くなりやすく、工期の目安は6カ月前後といわれています。
鉄筋コンクリートの場合はさらに工期が長くなり、8カ月前後が目安です。地盤補強が必要な場合は、さらに工期が長くなるケースも考えられます。
軽量鉄骨造は、規格化された建材を現地で指定された方法で組み立てるため、工費が短いです。工期が短くなれば、その分人件費や重機の利用料金も安くなります。
耐震性がある
耐震性の高さも、軽量鉄骨造を採用するメリットの1つです。耐震性が不十分だと、建物が倒壊する恐れがあります。
軽量鉄骨造に使用されている鋼材は、衝撃に強いのが特徴です。適度な柔軟性も備わっているため、地震の揺れに対する抵抗性があります。災害に強いアパートであれば、資産としての建物を守りつつ、住民の安全も守ることが可能です。
また、昨今は災害に対する備えの意識が高まっているため、耐震性の高さをアピールできれば、入居者探しもスムーズに進むでしょう。
アパートの家賃を抑えられる
軽量鉄骨造は、アパートの家賃を適正価格で設定しやすいです。アパート経営において、家賃はそのまま大家の収入になるため、家賃設定は重要なポイントです。
その際重要になるのが、建築コストの管理です。建築コストが高くなれば、それだけ維持費用もアパートローンの返済金額も高くなるため、その分家賃を上昇させなければなりません。
しかし、軽量鉄骨は建築コストを抑えやすいため、場合によっては相場よりも安い値段で部屋を提供できます。価格競争を有利に進められれば、入居者集めに苦労することもないでしょう。
軽量鉄骨造のデメリット
軽量鉄骨造には、木造住宅やコンクリート住宅にはない、さまざまなメリットが存在します。しかし、メリットのみならずデメリットももちろんあります。アパートの建設に使用する建材を選択するにあたっては、メリットとデメリット、両方に目を向け総合的に判断することが大切です。
軽量鉄骨造の具体的なデメリットは、以下で詳しく解説するので、ぜひ参考にしてください。
柱が多く間取りの自由度が低い
軽量鉄骨造の建物は、柱が多く、間取りの自由度が低いのがデメリットです。これは使用している鋼材が薄く、一定の強度を確保するために壁や柱を設置して、重量を分散する必要があるためです。
その際、どうしても動かせない柱が多数発生します。動かせない柱が存在するということは、間取りの自由度も必然的に制限されてしまいます。たとえば、単身向けの部屋からファミリー向けのアパートにリフォームするにあたって、壁や柱を壊して2つの部屋を合体させたいと思っても、その壁や柱が建物を支える重要な役割を担っている場合、工事そのものが実施できません。
理想の間取りやデザインがある場合は、軽量鉄骨で実現できるのか、またできない場合は木造のように設計の自由度が高い建材の採用を検討するなどしましょう。
鉄筋コンクリート造と比較すると防音性が低い
軽量鉄骨は、鉄筋コンクリート造と比較した場合、防音性に難がある点もデメリットです。
アパート経営において、住民同士の間でトラブルが発生するケースがあります。トラブルのなかでも、比較的発生しやすいのが騒音問題です。騒音問題で住民同士の関係が険悪になった結果、暴力沙汰に発展する可能性も否定できません。また、住民同士のトラブルによってアパート全体の雰囲気も悪くなってしまい、入居者が減ってしまう恐れもあります。
そのため、アパートを建てるにあたって、ある程度防音性を確保すべきです。防音性を確保するためには、鉄筋コンクリートのように、密度の高い建材を採用するのがおすすめです。
しかし、軽量鉄骨は鉄筋コンクリートと比較すると密度が低く、木造とほとんど差はありません。軽量鉄骨でアパートを建てる場合、気密性の高い設計にする、防音シートを導入するなどの工夫で防音性を確保することができます。
通気性が低い
通気性の低さも、軽量鉄骨の無視できないデメリットです。日本の夏は高温多湿のため、通気性の確保は、アパートで暮らしている住民の快適な暮らしを守る重要なポイントです。
しかし、木造と比較すると、軽量鉄骨は通気性や調湿性に問題があります。通気性が悪い建物は、結露が発生しやすいです。結露が発生すると、建材が錆びてしまい、建物自体の寿命が縮みやすいです。
また、結露によって屋内の湿度が高まると、鼻炎や皮膚炎など、アレルギー症状を引き起こすカビやダニが増殖しやすい環境が整ってしまいます。結露の問題が発生した場合、除湿機を使用することである程度状況を改善できますが、光熱費の負担が増えるのが問題点です。
そのため、軽量鉄骨特有の欠点をどこまで我慢できるか、事前に考えておく必要があります。
まとめ
軽量鉄骨の耐用年数は、使用する鉄骨の厚みによって19〜34年まで幅が大きいです。耐用年数が長いと、それだけアパートローンの返済期間や節税期間も長くなります。
また、軽量鉄骨の建物は建設コストが低く、建物自体の強度も高いです。長期的なアパートの運用を検討している場合は、軽量鉄骨造のアパートの建設がおすすめです。
ただし、軽量鉄骨で建設された建物は、通気性や防音性に問題が発生しやすい傾向にあります。軽量鉄骨造を採用するか否かは、メリットとデメリットを比較し、どのようなアパートの経営をするのか考慮したうえで決定しましょう。
近年では、同じ建物内でも使用する場所によって鉄骨の厚みが違う構造で建築している物件や、鉄骨と木造を合わせて建築している物件などもあります。こうした建物の場合の減価償却などは、建築会社と税理士へ問い合わせをしていく必要があるかもしれません。
監修者
杉田 裕蔵
東京を中心に、20年以上アパート・マンション建築賃貸業界に従事。現場に密着した営業経験と建築知識、不動産知識を活かして業務に携わっている。
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不動産投資家Kとその仲間たちでは、「土地を相続する予定だけど、どうすれば良いか検討している」「管理が大変なので、土地を売却したいと思っている」など、土地・建物のさまざまなご相談を承っております。
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