
不動産の相続にはさまざまな手続きが必要です。なかでも所有する建物の建っている土地を借りている場合、建物とともに借地権についても正式に手続きしなければなりません。ただ借地には地主という土地の所有者がいるため権利関係をきちんと理解しておくことが大切です。
この記事では相続のうち借地権相続によくある疑問を解消するため、その基本となるポイントや手続きの流れ、注意点を解説します。

ポイント
- 借地権とは、他人の所有する土地に建物を建てて利用することを前提に、適切な地代を支払って土地を利用できる権利
- 借地権は相続の対象であり遺産分割の対象であり、相続にあたって地主の承諾を得る必要はない
- 借地権は、上に建っている建物の名義を変更すれば相続されたとみなされる
借地権相続の知っておきたい10のポイント

借地権は、該当する土地の上に建物を建てて利用するために土地を借りる権利です。アパートや借家の賃貸契約のように契約締結によって発生する一時的な権利に思えるかもしれませんが、そうではありません。これは借地権の前提や性質に原因があります。
ここでは借地権の相続をよりスムーズに進めるため、前提となる10のポイントを解説しましょう。
借地権は相続の対象になる
借地権は相続の対象であり、その上に建っている建物の名義を変更すれば、同時に借地権も相続したものとされます。ただし、借地権が認められるのはあくまで賃料を支払って借りていること、また借地の上に建っている建物を所有していることが前提です。
そのため、たとえば被相続人が親族の土地に家を建てて住んでいても賃料を支払わずにいたなら借地権は認められません。借地権が認められるかどうかは、権利金の支払いや支払っている地代の金額相場などから判断されます。
特に地主が法人の場合は、税務署への「土地の無償返還に関する届出書」を提出しているかどうかの確認も必要です。なかには判断の難しい場合もあるため、その際は相続税に詳しい税理士などに相談しましょう。
借地権は遺産分割協議の対象になる
相続では、相続人が複数の場合、被相続人の遺産をどのように分けるか話し合う「遺産分割協議」が行われます。借地権も相続の対象となる以上、話し合いがまとまるまで相続人全員の共有状態となるため、売却するにしても相続人全員の同意が必要です。
遺産分割協議では、さまざまな遺産の価値を計算し、相続人全員の同意できる分割が求められます。しかし、不動産は建物の一部だけを相続するといったわかりやすい分割がしにくく、これは借地権においても同様です。
こういった財産の分割には現物を相続した相続人から他の相続人に金銭を支払う代償分割や、遺産を売却して得られた現金を分ける換価分割などの方法がありますが、相続人全員の同意を得るまで時間がかかる場合も少なくありません。
借地権は地主の許可なく相続できる
借地権を相続する際、所有者である地主の許可などは必要ありません。借地権の相続は「譲渡」ではなく、もともとの契約がただ相続人に引き継がれるだけだからです。被相続人の契約上の地位は、そのまま相続人が引き継ぎます。
とはいえ相続人にとって、地主はこれから将来にわたって土地を借り受け、対価として地代を支払う相手です。今後のより円満にお付き合いし、無用なトラブルを避けるため、相続の事実は速やかに伝えておく必要があるでしょう。その際は「土地の借地権を相続により〇〇(相続人の氏名など)が取得しました」などと通知するだけでも十分です。
ただしこれはあくまで土地の借地権に関することであって、借地の上に建っている建物については相続人の名義に変更する必要があります。
借地権相続時に新たな土地賃貸借契約書の締結は不要
土地を借りるにあたって被相続人は地主と土地賃貸借契約書を締結している場合、相続によって新たに契約を締結する必要はありません。これは借地権が「譲渡」ではなく「相続」されるためです。相続によって相続人は、被相続人の関連の債権債務だけでなく、締結した契約内容もそのまま引き継ぎます。
このような土地賃貸借契約は、地主が亡くなった際も同じように新たに締結する必要はありません。借地権と同様、所有権を相続した相続人がすべての権利義務関係を引き継ぎ、契約内容もそのまま、賃貸借の契約関係も維持されます。
しかし、なかには、相続のタイミングで地代の値上げなど条件の変更を求められる場合もあるため、注意が必要です。契約書に定められた見直しであれば従うしかありませんが、そうでない場合は原則として従う必要はありません。たとえば固定資産税の◯%など地主とはルールを協議する必要があるでしょう。
借地権の遺贈には地主の許可が必要
借地権を法定相続人が相続するのであれば地主の許可は必要ありませんが、被相続人の遺言によって法定相続人以外の第三者に譲渡する場合は、相続ではなく「遺贈」とされ、下記のような手続きと地主の承諾、譲渡承諾料が必要となります。
- 1.
- 承諾請求:遺贈を受ける受遺者と遺贈義務者が連署で、地主に対して借地権の遺贈があることを通知する
- 2.
- 承諾:地主が遺贈を承諾する場合、その旨を受遺者または遺贈義務者に通知する
- 3.
- 移転手続き:借地権付き建物の所有権移転登記を行う
もし地主の承諾が得られなかった場合は、家庭裁判所への申し立てによって借地権譲渡の承諾に代わる許可を得られる可能性があります(借地借家法第19条1項)。申し立てが却下されれば遺贈はできません。
譲渡承諾料の相場は、借地権価格の10%程度とされますが、土地の状況によって大きく異なります。最終的には個別の事情を考慮し、話し合いで決定するのが一般的です。
参考:e-GOV 借地借家法
借地上の建物の名義変更は取得から3年以内
借地の上に建っている建物の名義は、相続人に変更する必要があります。これは以前から不動産の相続人に求められていた手続きで「相続登記」といいます。
相続登記は令和6年4月1日の不動産登記法改正により義務化され、その所有権の取得を知った日または遺産分割の成立した日から3年以内に申請しなければならなくなりました。
違反すると10万円以下の行政上のペナルティ「過料」の適用対象となるため注意が必要です。またこの義務化は令和6年4月1日以前に開始した相続にも適用されますが、3年の猶予期間が設けられているため、その間に登記するとよいでしょう。
ただ相続人が多数にのぼる、戸籍謄本などの書類の収集や相続人全体の把握に時間がかかるなどの場合は「正当な理由」としてペナルティは課されなくなる可能性があります。確認するのであれば、事前に最寄りの法務局へ問い合わせるとよいでしょう。
参考:東京法務局 相続登記が義務化されました
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原則、借地権の相続人に名義変更料や承諾料を支払う義務はない
借地の土地賃貸借契約書には借り手が明記されています。そのため相続によって借地権の名義も相続人に変更する必要はありますが、その際名義変更料や譲渡承諾料といった費用の支払いは原則として不要です。
相続は譲渡ではありません。相続は被相続人の持つ権利がそのまま相続人に引き継がれる手続きです。本来は契約書の名義変更も必須ではありませんが、契約履行の事実に合わせて変更しておくと、今後のスムーズな手続きやトラブル回避に役立つ可能性があります。
注意したいのは、相続のタイミングで地主が名義変更料などの費用を請求したり、契約内容の変更を申し出たりするケースです。契約書に明記されていれば別ですが、そうでなければ原則としてこのような要求に法的な強制力はないため拒否できます。
このように借地権を相続するときは、土地貸借契約書の内容もしっかり把握しておくことが大切です。
相続後の借地権は地主の許可があれば売却できる
相続後は、借地権も売却できます。ただし売却する場合は地主の許可が必要です。これは借地権の譲渡先が、土地賃貸借契約に明記される新しい借り手であることを考えればごく当然といえるでしょう。
借地権の売却には次のようなケースが考えられます。
- 相続人が借地の上の建物に住まない
- 複数の相続人に適切に遺産を分割するため現金化したい
どのような事情にせよ、地主の承諾なしで勝手に売却すると契約違反となり、土地賃貸借契約そのものを解除されてしまう可能性があるため注意が必要です。ほかにも地主に買い取ってもらうという方法もあり得ます。売却を検討する際は、あらゆる売却先を柔軟かつ慎重に検討する必要があるでしょう。
また、借地権の譲渡には地主の承諾の他、地主への譲渡承諾料などの支払いが発生します。譲渡承諾料は借地権価格の10%程度が目安とされますが、土地の周辺エリアの状況や状態などによって変わることも多いため、事前の確認が必要です。
借地権には相続税がかかる
借地権を相続した相続人には、相続税が課せられます。相続の発生を知った日から10カ月以内に相続申告しなければなりません。
ただ相続税額は「普通借地権」や「一時使用目的の借地権」、「定期借地権」といった借地権の種類ごとに、元となる評価額も計算式も異なります。具体的な金額を知るには、土地賃貸借契約書を参考に、まずはどの種類に該当するかを確認することが大切です。
借地権は相続放棄することができる
借地権も他の財産や権利と同様、相続放棄することもできます。相続放棄には、相続を知った日から3カ月以内に、家庭裁判所への「相続放棄申述書」の提出が必要です。
相続では財産と負債をすべて引き継ぐ「単純承認」が一般的です。しかしなかには負債が財産を上回るなどの理由から財産を限度に負債を引き継ぐ「限定承認」や、財産・負債の一才を引き継がない「相続放棄」が選択される場合もあります。
相続放棄を選択すると、借地権以外のすべての財産が相続できなくなり、たとえば「借地権だけ放棄して現金は相続する」ことはできません。
借地権相続の手続き

借地権を相続するポイントが把握できたところで、次は具体的な手続きについてみていきましょう。借地権の相続ではその性質上、土地の上に建っている建物の名義変更や、必須ではないものの土地賃貸借契約の名義変更も必要です。
ここでは借地権を相続するにあたって必要または一般的に求められる手続きについて解説します。
地主に連絡する
借地権を相続しても「必ず地主へ連絡しなければならない」わけではありません。しかし、借地権相続はつまり「土地賃貸借契約」の契約相手だと考えれば、これからの円満な契約関係のためにも必要に応じて早めに連絡するような配慮は欠かせないといえるでしょう。
必須といえるのは最終的な相続人の決まったときですが、その前にまずは被相続人が亡くなった時点で相続が発生すると伝えるくらいの配慮は必要です。これは他の財産・負債も含めた相続手続きが完了するまで時間がかかるため、地主に不安を感じさせない配慮でもあります。
借地権付き建物の名義変更登記を行う
借地権付き建物の相続人が決まったら、建物の名義変更登記を行います。相続人が複数の場合は、借地権の相続人が明記された遺産分割協議書の作成が必要です。ただし相続人が遺言書で決められている場合は必要ありません。
また、名義変更登記には専門的な知識が必要なため、登記の専門家である司法書士に依頼するという方法もあります。その場合は、次のような書類の事前準備が必要です。
- 遺産分割協議書または遺言書
- 相続人全員の印鑑証明書
- 固定資産税評価証明書
- 被相続人の出生から死亡まで記載されている戸籍謄本
- 被相続人の住民票の除票もしくは戸籍の附票
- 相続人全員の現在の戸籍謄本
- 相続人の住民票もしくは戸籍の附票
戸籍謄本や戸籍の附票は戸籍のある市区町村から、住民票は登録している各市区町村から、固定資産税評価証明書は建物の所在を管轄する市税事務所や市区町村から取得できます。
かかる費用は戸籍謄本で1通あたり450円、除籍謄本や改製原戸籍なら1通750円、自治体によって異なりますが住民票または戸籍の附票は1通300円程度です。
また、登記手続きには、登録免許税として建物の固定資産税評価額のうち0.4%、司法書士に依頼した場合は別途報酬を支払わなければなりません。相続人は相続するにあたり、必要な費用も考慮しておくようにしましょう。
相続税評価額の計算方法

借地権の相続税を計算するもとになる相続税評価額は、普通借地権の場合、次の計算式で表されます。
普通借地 権の相続税評価額 = 自用地の評価額 × 借地権割合
※自用地:他人に使用する権利のない、自分の土地のこと
※借地権割合:土地の価値のうち借地権が占める割合を表す指標で、都市部など地価の高い地域ほど高くなる傾向がある
「自用地の評価額」はさらに、土地が路線価地域(市街地)に該当するのか、倍率地域(郊外)に該当するのかによって計算式は異なります。この分類は、国税庁ホームページの「路線価図」での確認が可能です。
路線価地域に該当する場合の自用地の評価額 = 路線価 × 土地の面積
倍率地域に該当する場合の自用地の評価額 = 固定資産税評価額 × 倍率
2,500万円 × 60% = 1,500万円
相続にあたり、発生する相続税の金額は重要です。納められる金額かどうか、その後の借地権をどう取り扱うかの検討にとって重要な要素といえるでしょう。
借地権の基礎知識

ここでは借地権相続の前提となる「借地権」そのものについて解説します。不動産関連の財産には土地や建物といった「目に見える対象」が多いなか、相続の対象となる資産として取り扱われる借地権はやや異質なものといえるでしょう。
また借地権には種類があることも重要です。相続にあたり、借地権という資産のより詳細な内容についてみていきます。
そもそも借地権とは何か
借地権とは、建物を建てることを前提に、土地を所有者から地代を支払うことを条件に借り受け、利用できる権利をいいます。なかには借地だからと上に建っている建物まで他人のものと勘違いする方もいますが、建物は建てた人の名義、つまり建てた人の所有物です。この場合、土地は借地、建物は自己所有と分けて考えます。
建物を建てない駐車場や資材置き場として土地を利用しているなら、借地権は認められません。また地代を支払わずただ利用している状態も同様です。
借地権の種類
借地権は大きく「普通借地権」と「定期借地権」の2つに分けられ、次のような違いがあります。
普通借地権 | 定期借地権 | |
---|---|---|
存続期間 | 原則30年(契約により30年以上も可能) |
・一般定期借地権:50年以上 |
契約更新 | 借主が求めれば地主は正当な理由がない限り拒否できない | 契約更新できない(再契約が必要) |
契約終了時の建物買取請求権 | 認められている | 認められない(建物は借主が取り壊し、立ち退き料も請求できない) |
契約更新ができ、契約終了時の建物は地主に買い取ってもらう権利を有する普通借地権は、土地の借主にとって有利な権利です。一方、定期借地権は契約終了時、建物は借主が取り壊さなければならないことからも、地主に有利といえるでしょう。
このように単に「借地権」といっても、普通借地権と定期借地権とでできることとできないことは大きく異なります。相続にあたり「どちらの借地権か」を把握することは、その後の取り扱いを決める上でも重要です。
借地権相続時のよくあるトラブル

不動産に限らず資産の相続には難しく複雑な問題が伴いがちです。なかでも借地権は、不動産ではなく「権利」を引き継ぐことによる制約やルールがあるため、関係者などとトラブルになってしまうことがあります。
ここでは借地権相続時によくあるトラブルを紹介し、回避するまたは対処する方法をみていきましょう。
借地権者と地主とのトラブル
特に普通借地権による土地賃貸借契約は借主にメリットが大きいことから、契約者の死去をきっかけに地主が契約の変更や解除、地代の値上げなどを求めるようなケースもあります。
原則としてこのような要求に応じる義務はありませんが、地主の事情を一切聞かないというのは、これからの取引に影響する可能性があるため注意が必要です。
その代表的な例が、借地権の売却・譲渡でしょう。地主との関係がよくないと、必要な承諾が得られない、または承諾料相場である借地権価格の10%を大きく超える金額を請求されるようなこともあり得ます。
原則、応じる必要がないことであっても、原則論を盾にするだけではなく、きちんと協議し、お互い納得していることが大切です。
兄弟姉妹で借地権を共有する
相続の際、特に不動産は現金のように単純に分割しにくいものです。そのため兄弟姉妹などの相続人同士で借地権を共有するケースも少なくありません。借地権も共有することにすれば、無理に分割する必要もないため「よい方法」に見えます。
しかし、借地権を共有名義にすると、借地権や建物の売却や譲渡、建物の建て替えに共有名義人全員の同意が必要になるため、手続きが煩雑になり書類の準備だけでも大きな手間と長い時間がかかるでしょう。そのうち1人でも反対すれば法的に手続きが進められないのも問題です。また将来、共有する借地権が複数名に相続されれば、手続きはさらに煩雑になります。
借地権や借地権付き建物は、できる限り単独名義で相続しておけばこのようなトラブルの回避は可能です。現物分割ができない財産は、代償分割や換価分割といった分割方法を検討しましょう。
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定期借地権の相続の場合

借地権の1つである「定期借地権」も相続の対象です。定期借地権は契約の存続期間が定められているため、期間満了になると借主負担で建物を取り壊し、土地は更地にして地主に返還しなければなりません。
契約は更新・延長できず、建物買取請求権も認められていないため、相続する際は期間満了がいつか、その際の建物の取り扱いや取り壊しにかかる費用なども把握しておく必要があります。
まとめ

借地権は、建物を建てて利用することを前提に地代を支払って、土地を借り利用する権利です。借地権は建物や土地の所有権と同じように相続の対象であり、遺産分割協議の対象でもあります。
しかし相続では、被相続人の契約を相続人がそのまま引き継ぐため、名義変更料や地主の承諾、新たな契約締結は原則として必要ありません。
相続の手続きでは、土地の上に建っている建物の名義変更によって借地権も自動的に相続人が引き継ぎ、その後であれば売却や譲渡が可能です。その場合は、土地の所有者である地主の承諾と承諾料の支払いが必要なため、できるだけ円満な関係の維持が求められます。
また遺産分割において借地権の共同名義はできるだけ避け、単独名義としていたほうが後々のトラブルになりづらいでしょう。相続人が複数の場合は、将来に起きるさまざまな自体を踏まえておきましょう。

監修者
宅地建物取引士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士
中川 祐一
現在、不動産会社で建築請負営業と土地・収益物件の仕入れを中心に担当している。これまで約20年間培ってきた、現場に密着した営業経験と建築知識、不動産知識を活かして業務に携わっている。
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