土地信託とは、土地の所有者が土地を専門家に信託し、管理や運用を任せることで収入を得る仕組みのことです。不動産運用の経験がない方でも始めやすく、自己資金がなくても土地活用ができるのがメリットですが、土地を自由に利用できなくなる、信託報酬が発生するなどのデメリットもあります。
この記事では、土地信託の概要をはじめ、土地信託の流れや主な運用方法などについて解説します。土地信託に興味をお持ちの方は、ぜひ最後までご覧ください。
ポイント
- 土地信託とは、土地の所有者が不動産の専門家に委託し、その専門家が土地を管理、運用することで収益を得る仕組みのこと
- 土地信託には賃貸方式や処分方式など、さまざまな方式が存在する
- 不動産運用の知識がない人でも始めやすく、相続対策・認知症対策にもなる点などがメリットとしてあげられる
- 配当金が得られない、損失は土地の所有者が負担するなどのデメリットもある
土地信託の仕組み
土地信託とは、不動産の専門家に土地を委託し、最適な活用方法で運用してもらうという土地活用の方法です。委託先が土地を運用して利益を出し、その利益から経費や報酬を差し引いた分が配当金として支払われるというのが、基本的な土地信託の仕組みです。
土地信託は委託者と受託者、そして受益者の三者によって構成されています。
受託者
受託者は、委託者から信託された財産を信託目的に従って管理、運用する人です。
土地を信託すると土地の所有権は一時的に受託者に移りますが、信託期間が終了すれば所有権は委託者に戻ります。
土地信託において、信託銀行をはじめとする信託会社が受託者となるのが一般的です。信託会社は金融庁が監督する金融機関です。
受益者
受益者は信託財産から生じる利益を受け取る権利、つまり信託受益権を持つ人のことを指します。土地信託において、受益者は土地の元々の所有者となるケースがほとんどです。
なお、信託受益権は譲渡が可能です。口数単位で分割できるため、相続や贈与の際に平等に分けやすく、税負担の軽減も期待できます。その結果、遺産分割のトラブル回避にもつながります。
信託会社・信託銀行を選ぶ
まずは、委託先の信託会社・信託銀行を選びます。信託会社や信託銀行を選ぶ際は、複数の会社から提案を受け、比較検討すると良いでしょう。
専門性や得意分野は、信託会社や信託銀行ごとに異なります。それぞれの専門性や得意分野、過去の実績などを比較し、自身の希望条件に適した信託会社や信託銀行を見つけるようにしましょう。
また、円滑なコミュニケーションができる担当者かどうかも確認すると良いでしょう。
信託会社・信託銀行に土地の所有権を移転する
委託先の信託会社や信託銀行が決まったら、土地信託契約を締結し、土地の所有権を移転します。
土地信託では、所有権移転登記と信託登記が必要です。土地信託契約の締結後、所有権移転登記や信託登記などの手続きを進めます。手続きは、対象となる不動産の管轄の法務局で行います。
なお、土地信託契約は土地の有効活用によって、委託者に利益をもたらすことを目的に締結する契約です。運用方針や配当金の分配などに見解の相違が発生しないように、契約を締結する前にしっかり契約内容を確認しておきましょう。
信託会社・信託銀行が運用を行う
所有権の移転が完了したら、委託先の信託会社・信託銀行が土地の運用を開始します。運用方法はアパートやマンションの建築・経営が一般的ですが、テナントの募集や物件の管理などの仕事は、委託先の信託会社・信託銀行とは別の会社に任せるケースがほとんどです。
その場合、テナントの募集や物件の管理を行う業者に、別途手数料を支払うことになります。
信託会社・信託銀行から配当金を受け取る
運用が始まると、諸経費を差し引いた配当金が信託会社・信託銀行から支払われます。土地信託の運用にかかる諸経費としては、信託報酬や建物の管理費などがあげられます。
なお、配当金は毎月必ず支払われるとは限らない点に注意が必要です。たとえば、土地活用でアパートやマンションを経営しても、入居者がいなければ諸経費以上の家賃収入が得られないため、配当金は支払われません。
土地信託の主な運用方法
信託した土地の運用方法としては、信託会社がアパートやマンションなどの賃貸物件を建築し、運用するケースが一般的です。ほかにも、立地や規模によってオフィスビルや商業施設、駐車場などを運用することもあります。
多岐にわたる土地活用のなかから、信託会社がその土地に最適なプランニングをしてくれることが土地信託の魅力の1つです。
賃貸方式
賃貸方式とは、委託した土地の契約を結ぶ際に定めた期間貸し出す方式の土地信託です。契約期間は10〜30年程度で、契約期間が終了すると受託者から委託者に委託した土地が返還されます。
土地信託といえば賃貸方式を指すのが一般的で、土地の運用を検討しているものの、手放したくない人におすすめの方式です。なお、契約終了後は土地のみならず、信託会社・信託銀行が建設した建物も一緒に返還されます。
処分方式
処分方式とは、契約期間が終了したら委託者が土地を手放すことになる方式の土地信託です。処分方式は、最終的に土地を返還しないことを前提に造成工事や分譲開発を実施し、土地に付加価値を与えるため、通常よりも高い価格で売却を成立させやすい特徴があります。
土地を所有し続けたい人には適さない方式ですが、手間をかけずに土地の売却を成立させたい人、管理の負担をなくしたい人、そして使い道のない土地を現金化したい人などにはおすすめの方法といえます。
土地信託のメリット
不動産の運用方法は、1つではありません。そのため、どの方法が所有する土地や自分にあっているのか悩むこともあるのではないでしょうか。そういう場合の1つの選択肢が土地信託です。ここでは、土地信託のメリットを解説します。
不動産運用の知識・経験がなくてもできる
土地活用を行うにあたって、知識や経験の有無は重要です。知識や経験がない人は、ゼロから勉強する必要があります。
しかし、実用性の高い知識や経験を身につけるまでには時間がかかるため、なかなか運用を始められないということも多いです。なかには知識や経験が不十分な状態で始めた結果、取り返しがつかないレベルの失敗をしてしまう人もいます。
土地信託の場合、ノウハウを持った専門家に不動産の運用や管理を任せることができます。
自己資金なしで土地活用ができる
アパートやマンションを建設して土地活用をする場合、建設費をはじめさまざまな費用がかかります。そのため、一定程度の自己資金が必要です。また、融資を受けるためにさまざまな準備が必要になります。
しかし、土地信託であれば委託先の信託会社・信託銀行が建設費や運営費用などを負担してくれるため、自己資金がない人もスムーズに土地活用を始められます。
信託受益権を売却できる
土地の信託期間中は信託受益権、つまり配当金を得られる権利を売却することができます。
信託受益権の売却は、土地の売却よりも手続きが簡便であり、また、不動産取得税や登録免許税などもかからないため税金面でもメリットがあります。口数単位で分割できるため、分割の難しい土地よりも相続の分配も容易になります。
ただし、信託受益権を売却すると、土地の所有権も移ってしまう点に注意してください。
認知症対策になる
個人で土地活用をしていた場合、万が一土地の持ち主が認知症になってしまうと事業が実質的な凍結状態になってしまうおそれがあります。認知症患者は正常な判断能力がないとみなされ、各種契約行為ができなくなるためです。
その点、土地信託であれば土地の所有権は信託会社や信託銀行が有しているため、土地の持ち主が認知症になっても事業を続けることが可能です。
土地信託のデメリット
土地信託にはさまざまなメリットがありますが、当然デメリットも存在します。そのため、土地信託を利用するか否かは、自身にとってメリット・デメリットを比較したうえで決定するとよいでしょう。
土地信託のデメリットについて解説します。
土地が自由に利用できなくなる
自分で土地を活用する場合、自身の好きなタイミングで土地の活用をストップしたり、土地を売却したりできます。しかし、土地信託をすると所有権が委託先の信託会社や信託銀行に移ってしまい、土地を自由に利用したり、売却したりできなくなります。
また、土地の活用についても信託会社、あるいは信託銀行が主導して行うため、途中でやめたり、用途を変更したりするのが困難です。土地を自由に利用したい場合は、土地信託以外の方法を検討するのをおすすめします。
信託報酬が発生する
土地信託は信託会社、あるいは信託銀行に信託報酬を支払わなければなりません。不動産の運用をはじめとする作業を任せるため、別途費用がかかるのは当然ですが、その分土地の所有者に支払われる配当金は少なくなります。
信託報酬は自身で土地の活用をすれば支払う必要がない費用であるため、信託報酬を支払ってでも土地信託を選択するメリットがあるのか、よく検討しましょう。
配当金が得られない場合がある
土地信託では、委託した土地の運用によって出た利益から諸経費を引いた分が委託者に支払われる配当金です。そのため、収益がほとんど出なかったり、諸経費の金額が大きくなったりすると、配当金が得られない可能性があります。
また、土地活用を受託者に任せる関係上、リフォームを実施する、管理会社を変えるなど、自分で工夫して収益を上げることもできません。これらのリスクを踏まえたうえで、土地信託をするか決定しましょう。
損失があった場合、土地所有者の負担になる
土地信託をしたからといって、必ず土地の運用が上手くいくとは限りません。場合によっては、損失が発生する可能性があります。
そして、発生した負担は委託先の信託会社や信託銀行ではなく、土地の所有者本人が負わなければなりません。配当金を受け取るどころか、全体の収支がマイナスになるリスクがある点を理解しておきましょう。
まとめ
所有している土地を信託会社や信託銀行に運用してもらう土地信託を利用することで、土地の活用経験がない、あるいは浅い方も土地の運用が可能になります。土地信託の方式にはいくつか種類があるため、そのなかから自身の目的に適したものを選んでください。
なお、土地の利用の自由度が下がってしまう、損失が発生するリスクがある点も理解しておく必要があります。メリットとデメリットを比較したうえで、自分が土地信託を利用して土地運用を行うか、よく検討しましょう。

監修者
宅地建物取引士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士
中川 祐一
現在、不動産会社で建築請負営業と土地・収益物件の仕入れを中心に担当している。これまで約20年間培ってきた、現場に密着した営業経験と建築知識、不動産知識を活かして業務に携わっている。
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