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特定事業用資産の買換えの特例とは?満たすべき要件とメリット・デメリットを解説

特定事業用資産の買換えの特例とは?満たすべき要件とメリット・デメリットを解説

事業用不動産を所有していても、以前に比べて収益が下がった、あまり有効な活用法がないといった悩みが生まれてしまうことがあります。しかし、売却すれば高額な譲渡税が発生するため、放置されるケースも少なくありません

そのようなときは、特定事業用資産の買換え特例の利用を検討しましょう。ここでは、特定事業用資産の買換え特例の概要とメリット・デメリット、注意すべきポイントを解説します。

購入検討チェックリスト

ポイント

  1. 特定事業用資産の買換え特例を適用するためには一定の要件をすべて満たす必要がある
  2. 特定事業用資産の買換え特例は譲渡税を抑えられるなどのメリットもあるが、税金が増える・課税されるなどのデメリットもあるため注意が必要

特定事業用資産の買換え特例とは

特定事業用資産.jpg

特定事業用資産の買換え特例は、一定の要件を満たす事業用資産を売却する際、譲渡税の課税が一時的に繰り延べられる制度です。

この制度は、今所有している資産Aの収益性が低いまたは低下しているため、より高い収益が得られる資産Bに買い換える際に適用するとメリットが得られます。

たとえば、資産Aの譲渡益が1,000万円だったとすると、通常であれば譲渡税は20%の200万円です。しかし、要件を満たせば譲渡益の最大80%が繰り延べられるため、この場合、譲渡益は最大800万円が繰り延べられ、当面の譲渡税は残りの200万円の20%である40万円まで下がり、実質4%になります。譲渡税が16%違えばキャッシュフローの負担はかなり下げられるでしょう。

ただし、繰り延べた譲渡益はあくまで繰り延べているだけで、いずれ譲渡税が課税され納税しなくてはならないことには注意が必要です。

買い換えた資産Bの収益性が高ければ、繰り延べ分の譲渡税額を確保することもできるでしょう。それなら資産Aをそのまま所有しておくより、有効に活用できたといえるはずです。

特定事業用資産の買換え特例は、収益に貢献しづらい資産の流動性を高め、市場全体を活性化させるために設けられたしくみといえます。

特定事業用資産の買い換え特例概要.png

参考:国税庁 「No.3405 事業用の資産を買い換えたときの特例」

特定事業用資産の買換え特例を適用するための要件

特定事業用資産2

特定事業用資産の買換え特例は、「特定」「特例」とあるように、どのような資産の買い換えにも適用されるわけではありません。大きく分けても以下の要件を満たす必要があるため、適用できるかどうか詳細に確認する必要があります。

  1. 譲渡資産と買換資産はともに事業用であること
  2. 譲渡資産と買換資産の組み合わせが特定の条件にかなっていること
  3. 買い換える資産が土地の場合には、譲渡する土地の面積の5倍以内であること
  4. 買い換え不動産は譲渡不動産を売却した年の前年か翌年に購入すること
  5. 買い換えた資産を購入後1年以内に事業に使うこと
  6. その他の要件

譲渡資産と買換資産はともに事業用であること

特定事業用資産の買換えの特例適用の前提となるのが、買い換えで譲渡する資産と購入する資産の両方が事業用資産であることです。店舗やテナント用物件、アパートや一戸建でも、賃貸事業を営むための賃貸用物件であれば対象に含まれます。

ただ、どちらかの資産のすべてまたは一部が、たとえば自分の住居用のように事業に与しない資産であれば適用されません。

譲渡資産と買換資産の組み合わせが特定の条件にかなっていること

譲渡する資産と買換資産の組み合わせが定められた条件にかなっていること、という要件は複雑なため、注意が必要です。

定められた組み合わせは10通りですが、多くが一般的な組み合わせとはいえない特殊なケースのため、ここではよく活用されている、9号買い換えの組み合わせを紹介します。

譲渡不動産の条件と買い換え不動産の条件

譲渡不動産は、10年以上事業用として所有していなくてはなりません。所有しているだけで、事業に与しない資産は対象外です。また、買替不動産の特定施設には次の施設が該当し、福利厚生施設は対象となりません。

<買換不動産に含まれる特定施設>

  • 事務所
  • 工場
  • 作業場
  • 研究所
  • 営業所
  • 店舗
  • 倉庫
  • 研究所

買い換える資産が土地の場合には、譲渡する土地の面積の5倍以内であること

買い換える資産が土地であれば、面積は譲渡する土地の5倍以内とされています。しかし、5倍を超えるとすべての特例が適用されないわけではありません。5倍までに相当する金額には適用され、それ以上は特例から除外されるだけです。

つまり、5倍以上の面積の土地を購入する場合には、元の土地の5倍までの金額に関してのみ特例が適用され、それ以上の部分は通常の20%の譲渡税が課税されるということになります。

買換不動産は譲渡不動産を売却した年の前年か翌年に購入すること

この制度は、資産の買換えのタイミングについても定めています。買換えとは一般的に手放して「すぐ新しく購入する」か、購入して「すぐ以前のものを手放すこと」です。

特定事業用資産の買換えの特例では、譲渡不動産を売却した年を基準として、前後1年以内に購入することを条件としています。

買替不動産を先に購入した場合は、取得した年の翌年3月15日までに「先行取得資産にかかる買換えの特例の適用に関する届出書」を税務署に提出しなくてはなりません。

逆に、譲渡後に買換不動産を購入する場合は、税務署に「買換不動産の明細書」を提出します。

買い換えた資産を購入後1年以内に事業に使うこと

特定事業用資産の買換えの特例では、「取得してから1年以内」に事業用として利用していなければ要件を満たしたことにはなりません。

また当初は事業用として利用していても、1年以内に利用しなくなれば対象外となり、制度が適用できないため注意しましょう。

その他の要件

上記5つの要件のほかに、以下の要件も満たしている必要があります。

重ねて他の特例を受けることはできない

特定事業用資産の買替えの特例を受けようとする資産には、たとえば長期譲渡所得の課税の特例や減価償却資産、所得税額の特別控除の特例など、重ねて他の特例を受けることはできません。

原則所有期間は5年

譲渡については原則として譲渡した年の1月1日現在の所有期間が5年を超えている必要があります。ただし、令和5年3月31日までの譲渡についてはこの要件は停止されています。また、2つ目の要件で説明したとおり、組み合わせによって10年以上の所有が個別に求められます。

代物弁済ではないこと

譲渡資産の譲渡は、収用等、贈与、交換、出資、代物弁済の譲渡ではないこと、買替資産の取得は、贈与、交換、現物分配、所有権移転外リース取引、代物弁済によるものではないことが求められます。

特定事業用資産の買換え特例のメリット

特定事業用資産3

特定事業用資産の買い換え特例の要件やしくみから、どのようなメリットがあるのかよく理解しておけば、買い換え後の資金計画や事業の目標も定めやすくなるはずです。

ここでは、制度のメリットを3つ、解説します。

譲渡税を抑えられる

大きなメリットは、資産の譲渡における譲渡税を、譲渡の際に大幅に抑えられることでしょう。資産の買い換えには、資金的なリスクがつきまといます。

譲渡する資産がいくらで売却できるのか、希望に沿う買い換え資産があるか、買い換える資金が確保できるか、などどれも思うようにいくとは限りません。

その中には、譲渡する資産を売却するときの譲渡税も含まれます。譲渡税は譲渡益の20%のため売却する資産が大きいほど金額は大きくなり、それを1年以内に納税するための資金を確保しなくてはなりませんが、当面の間、譲渡税が最大16%抑えられれば、資金計画にかなり余裕が生まれます

参考:国税庁 「No.3405 事業用の資産を買い換えたときの特例」

事業用不動産の買い換えが簡単にできる

譲渡税を抑えた分を買い換え資産の購入に充てれば、資金確保がかなり簡単になります。借り入れを減らすことができ、将来支払わなくてはならない利息も節約できるでしょう。

所有している資産も、別の事業者の資産としてなら活用できるかもしれません。

この制度は、いわば塩漬けとなってしまっている不動産の流動性を高め、市場全体の収益性を高めるためにあるともいえるでしょう。

新しい不動産での事業へ有効活用できる

特定事業用資産の買い換え特例は、当面の譲渡税を将来に繰り延べる制度です。繰り延べた譲渡益の分の譲渡税を、いずれは納めなくてはなりません。

とはいえ、事業が順調であれば資金の余裕もできるはずです。逆にいえばこの制度は、今あまり収益の望めない資産を、より大きな収益が見込める事業への転換を後押ししているといえるでしょう。

事業には新しい展開のために、大きな決断が必要なことがあります。不動産の買換えは大きな決断ですが、将来を見極め綿密な計画を立てることで、今ある資産をより有効に活用することも、事業における重要なポイントです。

購入検討チェックリスト

特定事業用資産の買換え特例のデメリット

特定事業用資産4

特定事業用資産の買換えの特例にはメリットもありますが、デメリットについても正しく理解しておく必要があります。事業はより広い視野で、綿密に把握し進めることが大切です。

ここでは、この制度によるデメリットについて、2つの視点から解説します。

事業利益の金額が増えると税金も増える

会計のしくみにおいて税金は、費用として取り扱われます。特定事業用資産の買換えの特例で将来に繰り延べられる譲渡税が最大16%抑えられるということは、それだけ費用が減り、利益が増えることになります。利益が増えれば、譲渡税とは違う税金が増える可能性があります。

法人においては法人税、個人事業主においては所得税です。費用の1つである減価償却費も通常より少なく計上しなくてはならないため、利益が増え、法人税または所得税が増加する原因になります

短期譲渡の課税が発生するケースがある

制度の適用の要件として定められているのは譲渡する資産の所有期間であって、買換資産の所有期間ではありません。

もし「事業がうまくいかなかったらまた売却すればいい」と思っているなら、不動産の短期譲渡による納税額の割り増しがあることを含めて、計算する必要があります。

不動産売却で譲渡益が発生すると、譲渡税が発生します。この場合、不動産の所有期間が5年以内なら短期譲渡にあたるため、譲渡所得の39.63%を納めなくてはなりません。5年を超える長期譲渡の20.315%と比べると、2倍に近く高額であることがわかります。

ただこのデメリットは、買い換え後の資産がうまく活用できれば関係ありません。

参考:国税庁 「No.3211 短期譲渡所得の税額の計算」
参考:国税庁 「No.3208 長期譲渡所得の税額の計算」

特定事業用資産の買換え特例で押さえておくべきポイント

特定事業用資産5

特定事業用資産の買換えの特例には、他にも用途に応じてより大きなメリットを得るためのポイントがあります。せっかく検討するなら、できるだけ多くのメリットを得るよう事業全体や将来までを見据えておきたいものです。

ここでは、特定の状況における抑えておくと役立つポイントを2つ解説します。

売却と購入の地域が限定されていない

最初のポイントは、譲渡する資産と買い換える資産それぞれの地域が限定されていないことです。地方の資産を都市圏の資産に買い替えるときにも、都市圏の資産を地方の資産に買い替えるときにも適用されます。

ただ、地方の不動産を大都市、東京23区に買い換えるとき、繰り延べられる譲渡益の割合が少なくなることには注意が必要です。

買い換えエリアと譲渡益割合

譲渡益の70%以上が繰り延べられるため、負担を大きく減らしてくれるのは間違いありません。上記の割合は、詳しい資金計画を立てるときの計算に利用するとよいでしょう。

参考:国税庁 「No.3405 事業用の資産を買い換えたときの特例」

毎年計上する減価償却費が小さくなる

会計上、買い換えた資産の取得原価は、譲渡した資産の取得費を含めて計算するものです。多くの場合、買い換えた資産の購入金額より小さくなり、取得原価をもとにして費用計上する減価償却費もおのずと小さくなるため、法人税または所得税は逆に上がってしまいます

特定事業用資産の買換え特例の適用で、当面の譲渡税を16%抑えても、結局は法人税または所得税の増加になる可能性があります。事業は決算で一区切りとなるため、制度の利用もその後の事業展開や減価償却、決算内容までを見越して計画しておく必要があるでしょう。

まとめ

特定事業用資産6

事業で利用する資産は、時とともに事業への貢献度が変わる場合があります。すでに収益が見込めなくなった資産でも、譲渡益にかかる税金や売却の手間など考えれば面倒で、そのまま放置してしまうといったことも起こりがちです。

特定事業用資産の買換えの特例は、まさにこのような塩漬け資産を有効に活用するための手助けになります。譲渡益が大幅に繰り延べされるため当面の税負担が少なく済み、キャッシュフローの負担を減らすことにつながるためです。

ただ、法人税または所得税や買い換え後の短期譲渡課税など、税負担が増える可能性もあります。賢く利用するなら、将来の資金計画や決算も含めて緻密な計画を立て、全体を把握する必要があるでしょう。

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監修者

千葉 洋佑

アパート・マンション建築賃貸業界に従事し10年目。東京、神奈川、埼玉エリアでの営業経験と建築・不動産の知識を活かし、現在、都内を中心に不動産業務に従事している。

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