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事業承継に不動産を活用するには?メリットや税制、注意点を解説

事業承継に不動産を活用するには?メリットや税制、注意点を解説

事業承継では、後継者選びや自社株の引き継ぎに目が向きがちです。しかし、店舗や事務所、工場、倉庫などの不動産を事業の拠点としている場合、その不動産を誰が所有し、承継後も利用できるのかは重要な問題です。

例えば、経営者である父名義の土地・建物を会社に貸しているケースを考えてみましょう。父の死後、長男が会社の株式を、次男が土地・建物を相続した場合、次男が土地の売却や賃料の引き上げを希望すれば、会社の経営にも影響しかねません。

このように、事業用不動産は会社の経営と密接に関わっています。不動産の持ち方を早めに見直しておけば、事業拠点の安定確保に加え、経営者の引退後の収入確保や相続時の税負担軽減につながることもあります。

本稿では、事業承継に不動産を活用する主な方法と税制、注意点を解説します。

ポイント

  1. 自社株だけでなく、事業用の土地・建物も含めた事業承継
  2. 承継・賃貸・法人保有・売却など、不動産の状況に応じた活用方法
  3. 小規模宅地等の特例や事業承継税制、納税資金・借入れなどの注意点
目次

事業承継では「会社」と「不動産」を分けて考えない

中小企業では、経営者個人名義の土地に会社の店舗や工場が建っている例もよく見られます。会社自身が不動産を所有する形や、資産管理会社から借りる形もあります。

普段は問題がなくても、事業承継を機にこうした所有関係が経営上の問題として表面化します。

冒頭の例のように、会社の株式と事業用不動産が別々の相続人に渡ると、承継後の経営に影響するおそれがあります。事業と不動産は一体で考える必要があります。

事業承継に不動産を活用する主な方法

事業用不動産を後継者に引き継ぐ

店舗や工場など、事業を続けるうえで欠かせない土地・建物は、会社の株式や事業とあわせて後継者へ引き継ぐのが選択肢の一つです。この形なら、承継後に他の相続人との調整が必要になる場面も減らせます。

ただし、不動産は金融資産と違い、簡単に分けるのが難しい資産です。後継者に不動産を集中させると、事業を継がない相続人との間で取得する財産額に差が出やすくなります。その場合は、預貯金や生命保険など、不動産以外の財産でバランスを取ることもできます。

具体例を挙げると、事業で使っている土地・建物の評価額が1億円、それ以外の財産が預貯金2,000万円だったとします。後継者である長男に不動産をすべて相続させると、事業を継がない長女との間で取得する財産額に大きな差が生まれます。こうした不公平感をなくすため、長男が長女に代償金を支払う(代償分割)、あるいは親が生前に長女を受取人とする生命保険に加入しておく、といった対策が考えられます。

経営者が不動産を所有したまま後継者へ貸す

経営権だけを先に後継者へ移し、不動産は先代経営者が所有したまま会社や後継者へ貸す形も考えられます。

賃料収入を得られるため、引退後の生活資金にも充てられます。事業承継と資産承継の時期を分けられるのも利点です。

一例として、引退する父が会社の事務所ビルを所有し続け、後継者である息子が経営する会社に貸し出すケースがあります。父は毎月安定した家賃収入を得て、老後の生活資金に充てることができます。ただし、親子間であっても賃貸借契約書をきちんと作成し、賃料や修繕費の負担、契約期間などを明確にしておかないと、将来のトラブルの原因になります。

とはいえ、不動産そのものの承継問題は残ります。将来誰に引き継ぐのかも、あわせて考えておく必要があります。

不動産を法人で保有する

事業会社や資産管理会社の名義で不動産を保有する方法もあります。法人所有であれば、経営者が亡くなっても不動産自体は原則として遺産分割の対象になりません。経営者が株主であった場合は、その保有株式等が相続の対象となります。不動産が相続によって共有名義になることは避けられます。

個人から法人へ既存の不動産を移す場合、方法によっては、譲渡所得に対する所得税・住民税や登録免許税、不動産取得税などの負担が生じます。

具体的には、時価1億円の土地を法人に売却して譲渡益が生じれば、個人側に所得税・住民税がかかります。また、法人へ無償で譲渡(贈与)した場合も、個人側では原則として時価で譲渡したものとみなされ、法人側では受贈益が法人税の課税対象となります。

不動産の保有状況は、自社株評価や法人版事業承継税制の適用にも関わります。一定の資産保有型会社や資産運用型会社は、原則として制度の対象外です。

事業承継の直前に法人が不動産を購入しても、すぐに株価を引き下げられるとは限りません。取引相場のない株式を純資産価額方式で評価する場合、課税時期前3年以内に取得・新築した土地や建物などは、原則として通常の取引価額に相当する金額で評価されます。

例えば、相続開始直前に会社が1億円の不動産を購入しても、純資産価額方式による株価評価では、課税時期前3年以内に取得した不動産は、原則として課税時期の通常の取引価額に相当する金額で評価します。仮に通常の相続税評価額が7,000万円であっても、その差額を利用した株価引き下げ効果はすぐには期待できないため、「会社で不動産を買えば株価を下げられる」と単純に考えるのは禁物です。

遊休不動産を活用・売却する

会社や経営者が保有する不動産の中に、長期間使っていない土地や収益性の低い物件があるなら、事業承継はこうした不動産の使い方を見直す機会にもなります。

立地や周辺の需要によっては、賃貸住宅や商業施設、物流施設などへ転用し、新たな収益源に変えることも可能です。

今後の利用が見込みにくい物件は、無理に後継者へ残さず、売却して現金化する手もあります。設備投資や借入金の返済、経営者の退職金に充てることもできるでしょう。

遊休不動産の活用例として、会社の資材置き場として使っているだけで収益を生んでいない土地があるとします。もし立地が良ければ、売却して数千万円の現金を得られるかもしれません。その資金を最新設備への投資や借入金の返済に充てれば、後継者はより健全な財務状態で経営を引き継ぐことができます。

「持っているから残す」のではなく、承継後の事業に本当に必要かどうかが、残すか売るかの判断基準になります。

事業用不動産の承継で利用できる税制

事業用不動産の相続では、一定の土地に「小規模宅地等の特例」を適用できます。

被相続人の事業に使われていた「特定事業用宅地等」は、400㎡まで相続税評価額を80%減額できます。また、被相続人が所有する土地を一定の同族会社が事業に使っていたときは、「特定同族会社事業用宅地等」として、同じく400㎡まで80%の減額が可能です。いずれも、事業や土地の保有を相続税の申告期限まで継続するなど、所定の要件を満たす必要があります。

相続税評価額が1億円の事業用の土地(400㎡以内)にこの特例を適用できれば、評価額は80%減の2,000万円(1億円 × (1 - 0.8))となり、相続税の課税価格を大きく圧縮できます。

個人事業者向けには、「個人版事業承継税制」も設けられています。一定の要件を満たす後継者が先代から事業用資産を引き継いだ場合、宅地等は400㎡まで、建物は床面積800㎡までなどを対象に、相続税や贈与税の納税猶予を受けられます。不動産貸付業等は制度の対象外で、特定事業用宅地等に小規模宅地等の特例を使う際は、併用に制限があります。

なお、法人版事業承継税制は不動産そのものではなく、後継者が取得する非上場株式等を対象とした制度です。

相続税対策だけを目的に不動産を増やさない

不動産は、現預金とは相続税評価の仕組みが異なります。土地は原則として路線価方式または倍率方式、家屋は固定資産税評価額をもとに評価されます。賃貸している土地や建物では、借地権や借家権なども評価に反映されるため、取得価額や市場価格を下回る相続税評価額となるケースもあります。

こうした評価差は、以前から相続対策に利用されてきました。いわゆる「タワマン節税」のように、市場価格と相続税評価額の差を利用する対策が典型例ですが、2024年1月以後は居住用の区分所有財産について評価方法が見直されています。相続税評価額を抑えられることと、物件としての収益性や資産価値は別の話です。

さらに、2026年度税制改正では、賃貸用不動産の相続税評価をめぐり、いわゆる「5年ルール」の導入が示されています。

大綱では、2027年1月1日以後の相続等について、被相続人等が課税時期前5年以内に対価を伴う取引で取得・新築した一定の貸付用不動産は、原則として課税時期の通常の取引価額に相当する金額で評価するとしています。課税上の弊害がない限り、取得価額をもとに地価変動等を考慮した金額の80%相当額で評価することも認められます。

そのため、相続が近づいてから不動産を取得し、路線価や固定資産税評価額との評価差だけで税負担を抑える短期対策は、これまで以上に取りにくくなります。5年を超えて保有すれば、必ず有利になるわけではありません。

被相続人の借入金は一定の要件のもとで債務控除できますが、借入れを伴う不動産取得の節税効果は、資産の評価や借入残高などによって変わります。節税だけを理由に購入を決めるのは避けるべきだと言えます。

不動産を使った事業承継で注意したいこと

不動産を後継者へ残す際は、資産価値だけでなく、承継後の資金繰りも重要です。

特に気をつけたいのが換金性です。評価額の大きな土地や建物を引き継いでも、相続税の納税資金が不足することがあります。不動産は短期間で希望どおりに売却できるとは限らないため、納税資金は別に確保しておくのが現実的です。

借入れが多く残っている物件では、承継後の返済がもう一つの課題です。空室や修繕費、金利上昇が重なれば、想定していた収支が崩れることもあります。事業を支えるはずの不動産が、承継後の経営を圧迫するようでは本末転倒です。

まとめ

事業承継で不動産をどう扱うかは、「残すか、売るか」だけでは決められません。後継者へ引き継ぐ、先代が所有したまま貸す、法人で保有するなど、事業との関係によって選択肢は変わります。

小規模宅地等の特例や事業承継税制などを利用できれば、税負担を抑えられることもあります。ただし、節税を優先して収益性の低い不動産や大きな借入れを後継者に残せば、かえって後継者の負担が重くなりかねません。

会社をどう引き継ぐか考え始めたら、事業に関わる不動産の名義や利用状況、借入れも一度洗い出してみてください。相続が起きてからでは対応できる範囲が限られます。

税理士などの専門家にも相談しながら早めに準備するほど、後継者にとっても会社にとっても、より適した承継方法を選べる可能性が高まります。

(※2026年9月時点の公表情報を基に作成しています。)

執筆者

1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP®認定者、宅地建物取引士

水野 崇

水野総合FP事務所代表。東京理科大学理学部卒業。相談、執筆・監修、講演・講師、取材協力、メディア出演など多方面で活躍する独立系ファイナンシャルプランナー。テレビ朝日「グッド!モーニング」、BSテレ東「マネーのまなび」などに出演。NHK土曜ドラマ「3000万」の家計監修を担当。学校法人専門学校東京ビジネス・アカデミー非常勤講師。一般社団法人相続・事業承継コンサルティング協会会員。

<保有資格>1級ファイナンシャル・プランニング技能士|CFP認定者|宅地建物取引士|日本証券アナリスト協会検定会員補|証券外務員1種 ほか

【URL】https://mizunotakashi.com/

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