不動産投資は、相続税評価額を下げることにつながるため相続税対策になります。また、自分に万が一のことがあった際に、家族が引き続き家賃収入を得られる点もメリットです。本記事では、不動産投資と相続税対策の関係や、相続税評価額の計算方法について解説します。
ポイント
- 現金を不動産に変えることで相続税評価額を下げられるため、不動産投資は相続税対策として有効
- 相続税対策として不動産投資をはじめると、インフレに対応できる点がメリット
- 一方で、現金と比べると平等に分割しにくく、相続人間のトラブルにもつながりかねない点がデメリット
そもそも相続税の計算方法は?
亡くなった親族からお金や土地などの相続財産を受け継ぐ際に、相続税が課されることがあります。相続財産とは、現金・預貯金・有価証券・宝石・土地・家屋・貸付権など、金銭に見積もることのできる経済的価値のあるものすべてを指します。
相続財産に限らず、死亡退職金や被相続人が保険料を負担していた生命保険契約の死亡保険金なども、みなし相続財産として相続税の対象となります。
ここから、相続税や相続税評価額の計算方法を確認していきましょう。
参考:財務省 相続税について教えてください。
国税庁 No.4105 相続税がかかる財産
相続税の計算方法
課される相続税を計算する際の大まかな流れは以下の通りです。
- 相続財産を取得した人ごとに課税価格を計算する
- 1で計算した金額を合計する(課税価格の合計額)
- 課税価格の合計額から基礎控除額を控除する(課税遺産総額)
- 課税遺産総額を法定相続分に従って分けたものとして、各法定相続人の取得金額を計算する
- 各法定相続人の取得金額に所定の相続税率をかける
- 5で算出した各算出税額を合計する
- 6の計算結果に、各自が取得した課税相続財産の割合をかけてそれぞれの相続税を算出する
3に記載した基礎控除額とは、各自の生活保障のために設けられた一定の非課税枠のことです。基礎控除額は、 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数 で計算できます。
また、5に記載した相続税率は、法定相続分に応じた取得金額によって異なります。たとえば、法定相続分に応じた取得金額が2,500万円であれば、相続税率は15%です。
参考:国税庁 No.4152 相続税の計算
国税庁 No.4155 相続税の税率
相続税評価額の計算方法
現金の場合、相続税評価額は額面通りに計算できますが、その他の相続財産はそれぞれ評価方法や計算方法が異なるため注意が必要です。
預貯金は、原則として相続開始日の預入残高と相続開始の日現在において解約するとした場合に支払を受けることができる既経過利子の額の合計額で評価します。上場株式は、以下のうちもっとも低い価額です。
- 相続の開始があった日の終値
- 相続の開始があった月の毎日の終値の月平均額
- 相続の開始があった月の前月の毎日の終値の月平均額
- 相続の開始があった月の前々月の毎日の終値の月平均額
また、建物は固定資産税評価額が相続税評価額に相当します。宅地は、路線価方式か倍率方式かによって異なります。
路線価が定められている地域で用いる路線価方式の計算式は、(路線価) × (奥行価格補正率) × (面積)です。
一方、路線価がない地域では、倍率方式を用いて、(固定資産税評価額) × (倍率) で計算します。
なお、路線価や倍率は、国税庁HPの「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」で確認が可能です。
参考:国税庁 相続税の仕組みの分かりやすい解説「相続税のあらまし」
財産評価基準書 路線価図・評価倍率表
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不動産投資が相続税対策として有効な理由3つ
不動産投資とは、購入した不動産を運用、管理することで、家賃収入や売却益などを得る投資方法を指します。不動産投資は、相続税対策としても有効です。
ここから理由を3つ紹介します。
現金を不動産に変えて評価額を下げられる
先述のとおり、現金を相続人に遺す場合、相続税課税評価額は額面どおりです。一方で、同額の不動産に変えると、現金のまま遺すよりも相続税課税評価額が下がりやすいため、相続税の節税につながります。
たとえば、宅地を評価する際に用いられる路線価は、時価の80%が目安です。また、アパートやマンションなどの貸家建付地の場合は以下の式によって評価額を算出するため、賃貸割合に応じてさらに不動産の評価額が減少します。
さらに、建物の評価額を算出する際に用いられる固定資産税評価額が、時価の70%を目処に評価されている点も、相続税の節税につながりやすい理由です。
参考: 国税庁 令和4年分の路線価等について
国税庁 No.4614 貸家建付地の評価
小規模宅地等の特例を適用できる
被相続人が所有している相続対象の不動産が、居住用や事業用の宅地の場合小規模宅地等の特例を適用できるという点も、不動産投資が相続税対策になる理由のひとつです。
小規模宅地等の特例を適用すれば、被相続人の居住用宅地や事業用宅地を相続する際、一定の面積に対して相続税課税評価額を50〜80%減額できます。
ただし、特例を適用するには、所定の要件を満たした上で、相続税の申告書に特例の適用を受ける旨を記載し、必要書類を添付しなければなりません。
地積規模の大きな宅地の評価を適用できる
状況によって、地積規模の大きな宅地の評価という制度を適用し、相続税課税評価額を大幅に下げられる点も、不動産投資が相続税対策になる理由です。
不動産投資の対象が三大都市圏の500平方メートル以上の地積の宅地や、三大都市圏以外の1,000平方メートル以上の地積の宅地であれば、同制度を適用できる可能性があります。
参考:国税庁 No.4609 地積規模の大きな宅地の評価
相続税対策に不動産投資を選ぶメリット3つ
不動産投資以外にも、生命保険に加入する、生前贈与で相続財産を減らす、相続時精算課税制度を利用するなど、さまざまな相続税対策が存在します。
そこで、ここから相続税対策として不動産投資を選ぶメリットを3つ紹介します。
インフレに対応できる
インフレーション(インフレ)はモノの値段やサービスの価格が全体的に上がり、現金の価値は相対的に下がることです。不動産はインフレに対応しやすい点がメリットです。
不動産がインフレに対応できる理由として、家賃も上昇しやすい点や、物件購入の際の借り入れ(=借金)の価値も下がるため、返済しやすくなる点があげられます。
自分の死後も家族が定期収入を得られる
不動産投資をしていれば、自分が亡くなった際に家族が投資物件を相続できます。そのため、自分の死後も家族が定期的な家賃収入を得ることができ、生活を安定させられる点がメリットです。
相続した家族が多忙な場合や不動産投資の知識がない場合には、物件を売却してまとまった資金を確保するという選択肢もあるため、不動産管理の心配をする必要もありません。
金融機関から融資を受けられる
一般的に、各金融機関で不動産投資ローンやアパートローンといった商品を取り扱っています。そのため、金融機関から融資を受けることで、少ない自己資金から大きなリターンを生み出すレバレッジ効果を期待できる点がメリットです。
なお、団体信用生命保険に加入できるローンを選択すれば、自分に万が一のことがあった場合にローンの返済が免除されるため、家族に迷惑をかける心配もありません。
相続人の手間が増える
相続財産として不動産を遺すと、相続人は相続登記の手続きや物件の管理を行わなければなりません。そのため、相続人のためを考えて遺したにもかかわらず、かえって相続人に負担をかけてしまうおそれがある点がデメリットです。
2022年7月31日現在、相続登記申請の手続きは義務ではありません。しかし、2024年4月1日に不動産登記法が改正され、不動産を取得した相続人に対し、その取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をすることが義務付けられる予定です。
物件によっては値下がりする可能性がある
不動産を購入してから数年後に、物件の価格が下がってしまったり、入居率が落ちて家賃収入が少なくなってしまうことで、当初期待していたよりも不動産から得られる収入が減る場合があります。
そのため、相続税対策として不動産投資を選んだにもかかわらず、現金のまま遺していた方が相続人の受け取り額が多かったという結果を招く可能性がある点もデメリットです。
不動産投資には維持費用や管理費用などのコストがかかるため、物件の価格が大きく変動しなかったとしても、トータルでは赤字になってしまうケースもあります。
現金と比べると平等に分けにくい
不動産を相続人間で分ける際、共有名義にする方法を選ぶことがあります。
しかし、共有名義にすると1人の決断だけでは物件を売却できなかったり、相続人の死後の権利関係がさらに複雑になったりすることなどから、現金と比べ、平等に分けにくい点がデメリットです。
現金であれば、単純に割り算で持分を計算できる上、相続後は各自それぞれ自由に使い道を決められます。
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相続税対策として不動産投資する際のポイント3つ
相続税対策として不動産投資を選択する上で、いくつか気をつけなければならない点が存在します。ここでは、不動産投資を行う際のポイントを3つ確認していきましょう。
不動産投資にはリスクがあることを理解する
投資を始める前に、不動産投資には空室リスク、家賃滞納リスク、修繕リスクなどさまざまなリスクが伴うことを理解しておかなければなりません。
空室リスクや家賃滞納リスクとは、入居率が下がったり入居者が家賃を滞納したりすることによって、得られる家賃収入が減少することです。また、修繕リスクとは、老朽化や自然災害などの理由から物件の修繕費用が必要になるリスクを指します。
人口減少の可能性が低いエリアに注目する
不動産投資は、家賃収入だけでなく最終的な売却の可能性やその場合の価格(出口戦略)まで考えておかなければなりません。
不動産価格が購入時より下がるリスク(不動産価格下落リスク)を抑えるためには、人口減少の可能性が低いエリアに注目することがポイントです。
まずは、全国平均と比べると今後人口が急減する可能性が低い、東京都の物件を探すとよいでしょう。
不動産投資の収入次第で法人化も検討する
法人化して今まで個人で所有していた不動産を法人所有にすれば、自分に万が一のことがあっても不動産に対する相続税がかかりません。また、個人よりも法人として不動産投資した方が節税になるケースもあるため、収入次第で法人化を検討するとよいでしょう。
なお、個人と法人の所得税率の比較から、年間の所得合計が900万円を超えた時が法人化の1つのタイミングです。
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まとめ
自分に万が一のことがあった場合、残された親族が相続する財産に対して相続税が課される可能性があります。生前に不動産投資をはじめていれば、現金を不動産に変えて相続税評価額を下げられる点やさまざまな税制を適用できる点から相続税対策として有効です。
リスクを伴うことを理解した上で、インフレにも対応できる不動産投資を相続税対策として活用してみましょう。
監修者
中川 祐一
- 資格
- 宅地建物取引士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士
- 略歴
- 現在、不動産会社で建築請負営業と土地・収益物件の仕入れを中心に担当している。これまで約20年間培ってきた、現場に密着した営業経験と建築知識、不動産知識を活かして業務に携わっている。