家屋や土地を売買・譲渡するときは、登記簿謄本(登記事項証明書)が必須とされています。これは登記簿謄本(登記事項証明書)が公式に、家屋・土地の場所や大きさだけでなく、まつわる権利関係についても詳しく記載されているためです。
この記事では、不動産を適切に取引するために欠かせない登記簿謄本(登記事項証明書)の種類と読み方、注意点、取得する方法と費用を解説します。
ポイント
- 登記簿謄本(登記事項証明書)は、不動産のさまざまな取引に必要な書類である
- 登記簿謄本(登記事項証明書)には4種類あり、それぞれ記載されている内容が違うため必要な種類のものを手に入れることが重要
- 取得する方法には法務局の窓口や郵送、オンラインがあり、それぞれかかる費用や取得までの日数が異なる
登記簿謄本の読み方
登記簿謄本は土地や戸建住宅などの建物、マンションなど不動産をより安全に取引するための書類です。不動産の場所や大きさ、構造など不動産そのものの情報だけでなく、所有などの権利情報も記載されています。
ただ実際に登記簿謄本を見ると、記載されている内容や用いられている用語にはあまりなじみがなく、一見して分かりづらいという方も多いでしょう。ここでは登記簿謄本から分かることをはじめ、記載の各部分の内容について詳しくみていきます。
登記簿謄本と登記事項証明書
登記簿謄本と登記事項証明書は、基本的に同じものを指します。
「謄本」は原本を複写または書き写したもののことです。紙で管理している場合に登記簿原本を複写したものを取得することから、登記簿謄本といいます。
近年、登記情報はコンピュータで処理されており、データとなった登記事項を専用の用紙に印刷した書類を登記事項証明書といいます。
名称や書類としての体裁は異なりますが、証明している内容は同じであり、どちらでも不動産の登記情報は確認できます。現在は厳密には登記事項証明書である場合が多いですが、日常的な場面では同じ意味に使われることが多いです。
参考:法務局 不動産登記のよくあるご質問等 登記事項証明書と登記簿謄抄本とは,どう違うのですか?
登記簿謄本から分かること
登記簿謄本から分かるのは、該当する不動産の所在地や、その登記上の所有者の氏名と住所、建物があればその新築された年月日、権利関係です。
ただしこれらの情報はあくまで「登記上(登録上)」であり、実際の情報と同じであるとは限りません。そのため取引する際は必ず権利証または登記識別情報と照らし合わせて確認します。
記載されている内容は書類の上から順に次の4つです。
- 表題部
- 権利部(甲区)
- 権利部(乙区)
- 共同担保目録
それぞれ異なる種類の情報が簡潔かつ正確に記載されています。
表題部
書類の一番上にある表題部(ひょうだいぶ)には、該当する不動産の物理的状況が記載されています。ただし不動産は状態によって「土地」「建物」に分かれ、それぞれ記載される項目が異なることには注意が必要です。
どのような状況であっても、次の項目は共通して記載されます。
調製 | 登記簿謄本をコンピュータのデータとして移記した年月日 |
不動産番号 | 不動産を特定するため、不動産ごと個別に割り振られた番号 |
地図番号 | 不動産の所在を示す公図(公式に作成された地図)の番号(作成されておらず「余白」とされていることがある) |
所在 | 不動産の所在地のことで、都道府県名はなく市区町村および丁目・字(あざ)までの記載 |
上記のうちとくに重要なのは所在です。ほかにも重要とされる項目はありますが、不動産の状況によって異なります。
土地の場合の記載項目
土地の場合に記載される項目は次の通りです。
参考:法務省 【参考1】 登記事項証明書(不動産登記)の見本(土地・PDF形式)
筆界特定 | 土地の境界が筆界特定登記官によって明らかにされた場合に記載 |
地番 | 土地1筆ごとに割り振られた土地の番号 |
地目 | 宅地や田畑、公衆用道路など23種類に分類される土地の用途(土地の現況とは異なる場合があるため注意) |
地積 | 土地の面積(単位は平方メートル) |
原因及びその日付(登記の日付) | 登記をする原因とその日付(登記の申請日ではないため注意) |
上記でとくに重要とされるのは地目と地積です。地目は今後の土地の利用目的との適性の、地積は隣接地との境界や広さの確認に役立ちます。
建物の場合の記載項目
建物の場合、状況によっては「主たる建物の表示」と「付属建物の表示」に分けられる場合もありますが、次の通り多くの項目は共通しています。
参考:法務省 【参考2】 登記事項証明書(不動産登記)の見本(建物・PDF形式)
家屋番号 | 建物を特定するための番号(同じ土地に複数の建物がある場合は枝番で区別) |
種類 | 居宅・店舗・工場など建物のつかいみち(複数ある場合は床面積の大きい用途を先に表示) |
(附属建物の表示部分での)種類 | 建物ごとに符号(番号)が振られ、構造・床面積など以降の項目も個別に記載 |
構造 | 建物の主たる構造や材質、屋根の状況、階数など |
床面積 | 建物の床面積を階ごとに小数点第2位まで表記(単位は平方メートル) |
原因及びその日付 | 建物が新築・増築された日付 |
登記の日付 | 法務局が登記を処理した日付 |
所有者 | 登記建物の所有者 |
もし、建物が2筆以上の土地にまたがって建っている場合は、1階の床面積が最も広い土地を地番とします。また床面積に用いられるのは、戸建住宅なら壁芯面積(壁の中心を基準に測量した面積)、マンションなら内法面積(壁の内側を基準に測量した面積)が一般的です。
権利部(甲区)
権利部には不動産にまつわる権利関係の情報が記載されます。権利部は甲区と乙区に分かれ、このうち甲区に記載されるのは次のような項目です。
参考:法務省 【参考1】 登記事項証明書(不動産登記)の見本(土地・PDF形式)
順位番号 | 登記の順番 |
登記の目的 | 所有権の移転など登記が必要となった目的 |
受付年月日・受付番号 | 法務局が登記を処理した日付と割り振られた受付番号 |
権利者その他の事項 | 所有権が移転した原因(売買・相続など)と移転した日付、移転後の所有者の住所・氏名(複数の場合はそれぞれの持分割合も記載) |
また甲区には次のような登記が記載される場合もあります。
差押登記(さしおさえとうき) | 不動産の競売手続きまたは公売手続きが正式に開始されたことを公示する登記 |
仮登記(かりとうき) | 本登記前に順位を確保するための仮の登記 |
権利部(乙区)
乙区には所有権以外の権利に関する情報が記載されます。
参考:法務省 【参考1】 登記事項証明書(不動産登記)の見本(土地・PDF形式)
登記の目的所有権の移転など登記が必要となった目的受付年月日・受付番号法務局が登記を処理した日付と割り振られた受付番号権利者その他の事項所有権が移転した原因(売買・相続など)と移転した日付、移転後の所有者の住所・氏名(複数の場合はそれぞれの持分割合も記載)乙区には次のような権利について記載される場合があります。
抵当権 | 債務が履行されない場合に不動産を強制的に売却できる権利 |
根抵当権 | 不動産を担保として貸し出せる上限を定め、その範囲内で何度も借入・返済できる権利 |
地上権 | 借地権の一種で、建物や工作物、樹木や竹などを所有するために他人の土地を利用できる権利 |
地役権 | 他人の土地を自分の土地のために利用できる権利 |
賃借権 | 土地や建物を、賃料を支払うことで利用できる権利 |
共同担保目録
共同担保目録とは、担保の対象となっている不動産を一覧にしたものです。抵当権を設定するとき、1つの不動産だけではなく複数の不動産と一緒に担保とする場合があります。不動産が共同で担保とされている場合、同じ抵当権の担保とされている不動産を記載しているのが共同担保目録の部分です。
共同担保目録には次の情報が記載されます。
参考:法務省 【参考1】 登記事項証明書(不動産登記)の見本(土地・PDF形式)
番号 | 共同担保とされている不動産の通し番号 |
担保の目的である権利の表示 | 不動産の所在と種類(土地、建物など |
順位番号 | 抵当権の順位 |
予備 | その他必要事項(とくに何もなければ「余白」) |
共同担保目録に記載のある不動産は、取引する場合あらかじめ設定されている抵当権に対処する必要があります。
表題部の内容にほかの情報と異なる点がないか
注意点の1つめは、表題部の内容がすべて正しいとは限らないことです。たとえば地目の変更や土地を分割する「分筆」、附属建物の追加といった内容は、所有者が自身で変更したことを登記しない限り登記簿謄本は変更されません。
登記内容の変更は所有者の義務ですが、なかには事実とは異なる情報のままとなっていることもあり得ます。トラブルを避けるためにも、実際の状況と登記簿謄本の情報が異なっていないか事前に確認しましょう。
取引額に影響する権利部(乙区)の債権額と利息を確認
2つめは権利部(乙区)に記載されている債権額と利息から、実際の不動産の価値を推定できる可能性があることです。
債権額と利息の数字からは、金融機関が該当の不動産に対してどのくらい評価しているかが分かります。これは実際の取引における、所有者の提示する金額の推定に役立つ情報です。
根抵当権がついていれば抹消できるかどうか
3つめの根抵当権は、ついているだけで不動産は原則売却できないためとくに重要です。 根抵当権がついていれば所有者は借入可能額の上限まで借り入れられるため、金融機関にとっては融資のいわば「顧客」となります。根抵当権の抹消は「顧客を失う」ことにもなりかねません。金融機関は抹消に難色を示すことが考えられるため、時間をかけてでもじっくり相談・交渉する必要があります。とはいえ取引はできるだけスムーズに完了させたいのが通常で、時間がかかる取引は敬遠されがちです。
そのため根抵当権がついている不動産は、取引までに抹消できるかどうかが重要です。登記簿謄本に根抵当権の記載を見つけたら、できるだけ早く抹消できるかどうかを確認する必要があるでしょう。
登記簿謄本の種類
登記簿謄本は、記載されている内容によって4つの種類に分かれます。それぞれに記載されている内容は次のとおりです。
全部事項証明書 | 登記されているすべての記録 |
現在事項証明書 | 登記記録のうち現在も効力を持つ記録のみ |
一部事項証明書 | 登記記録の一部の記録のみ(マンションのよう権利者が多い不動産の場合に用いられる) |
閉鎖事項証明書 | 登記記録のうち閉鎖された記録(コンピュータデータとなる前の謄本または滅失した建物など) |
不動産に関する手続きにはそれぞれ、必要な登記簿謄本の種類があります。業者などから求められたときは、どの証明書が必要か確認しましょう。
登記簿謄本の取得方法と費用
不動産の登記簿謄本は、不動産の売買や相続だけでなく、融資や確定申告などさまざまな場面で必要とされる書類です。なかには緊急で手に入れなければならない場合もあるため、取得に必要なものや取得する方法はあらかじめ把握しておく必要があるでしょう。
ここでは登記簿謄本の取得に必要なものと、取得できる窓口・方法について解説します。
登記簿謄本の取得に必要なもの
登記簿謄本は、法務省に申請して取得する書類です。
請求する際に提出する「登記事項証明書・登記簿謄本・抄本交付請求書」には次の項目の記入が必要です。
- 請求する人の住所・氏名・氏名のフリガナ
- 請求する不動産の地番や家屋番号
- 請求する登記簿謄本の種類
上記のうち、「請求する不動産の地番や家屋番号」と「請求する登記簿謄本の種類」については事前に権利書等で確認する必要があります。また、申請には手数料が必要ですが、取得方法によって納付の金額や方法は異なるため、事前に確認する必要があるでしょう。
交付請求書は法務局窓口で手に入りますが、法務局のWebサイトからダウンロードして印刷すれば事前に作成できます。
参考:法務局 不動産登記の申請書様式について
法務局の窓口
登記簿謄本は全国にある法務局で申請・取得できます。申請・取得は不動産の所在地と異なる地域での取得も可能です。
もし不動産の地番や家屋番号が分からなければ、法務局員に相談するか、法務局にある公図(ブルーマップ)で確認しましょう。
郵送
法務局の窓口で申請できない場合は、郵送での申請・取得もできます。その場合の手順は以下の通りです。
- 1.
- 交付申請書を手に入れる(ダウンロードして印刷または法務局で取得)
- 2.
- 手数料600円分の収入印紙を手に入れる
- 3.
- 交付申請書の必要事項に記入し、収入印紙を所定の位置に貼る
- 4.
- 返信に必要な切手を貼った返信用封筒と交付申請書を封筒に入れ、切手を貼って法務局窓口宛に郵送する
申請書を郵送後、書類が届くまでには数日から1週間程度かかります。できるだけ早くに手に入れたい場合は事前に法務局に問い合わせ、確認しましょう。
オンライン
登記簿謄本は、法務局の公式サイトからオンラインでの請求もできます。
オンラインによる申請手順は次の通りです。
- 1.
- 法務局の公式サイトに申請者の情報を登録する
- 2.
- 交付申請書を作成し送信する
- 3.
- 手数料を納付する(納付方法はペイジー・インターネットバンキング・モバイルバンキングなどによる電子納付)
- 4.
- 法務局窓口か郵送で書類を取得する
ただし、オンラインでの申請は、月曜日から金曜日まで(国民の祝日・休日と、12月29日〜翌年1月3日までを除く)の8時30分から21時までとされており、これ以外の時間帯では受け付けてもらえません。
また、システムメンテナンスなどによって申請できないこともあるため注意が必要です。オンラインの稼働状況は「登記ねっと 供託ねっと」から確認できます。 また申請に必要な手数料は、書類の受け取り方法ごとに異なります。手数料は法務局の窓口であれば1通につき480円、郵送の場合は500円です。交付申請書を送信するまでにどちらにするか決めておきましょう。
まとめ
登記簿謄本(登記事項証明書)は、不動産に関係するさまざまな手続きなどに必要な書類です。登記簿謄本には不動産にまつわる多くの情報が記載されており、とくに売買などの取引では所有権や抵当権、根抵当権など権利に関する情報の確認などに利用されます。 ただし登記簿謄本には記載されている内容ごとに4種類あるため、必要な内容によって適切なものを手に入れることが大切です。
手に入れる方法は、法務局の窓口に直接申請し取得する方法と、郵送で申請し取得する方法、法務局の公式サイトでのオンライン申請で取得する方法があります。手数料や郵送料など事前に用意しなければならないこともあるため、どの方法で取得するかは申請前に決めておきましょう。
監修者
宅地建物取引士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士
中川 祐一
現在、不動産会社で建築請負営業と土地・収益物件の仕入れを中心に担当している。これまで約20年間培ってきた、現場に密着した営業経験と建築知識、不動産知識を活かして業務に携わっている。
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