空き家になった実家を相続した場合、どうするのが一番よいのでしょうか? 放置するとさまざまなリスクが発生します。しかし、建て替えて相続税を抑ることや、売却したり不動産投資に活用したりして利益を得ることも可能です。この記事では実家を相続した場合の税金や活用法の選択肢について解説します。
ポイント
- 実家を相続する場合にどうすべきか、選択肢は複数ある
- 相続した実家を放置すると、さまざまなリスクが発生する
- 建て替えてから相続すると相続税額を抑えられる
実家を相続したときの選択肢
実家や別荘などを相続した場合、どのように活用すべきでしょうか。選択肢として、「住居にする」「売却する」「不動産投資に活用する」があります。それぞれの内容を見ていきましょう。
住居にする
もっともストレートな活用の仕方として、相続人がそのまま、あるいは建て替えて住居にするという選択肢があります。
現在住んでいるところよりも、相続した実家のほうが総合的に見て暮らしやすい場合は、そうすることによって他にもメリットが生まれます。
それは、引っ越して空いた方の住居を活用できる点です。家族が分散して住むことができるほか、賃貸住宅として不動産投資に活用することも可能です。
売却する
その実家が不動産物件として価値があるのなら売却するという選択肢があります。そのままでは売れにくそうであれば、売却できる見込み額とのバランス次第ですが、建て替えて価値を上げて売却することも可能です。
この場合に譲渡所得が発生すると譲渡所得税や住民税、復興特別所得税などがかかってくるので、注意を要します。要件を満たせば税金が優遇される特例があるので、使えるものがないか調べて上手に活用しましょう。
相続して空き家のまま放置することのリスク
実家を相続したものの、空き家のまま放置してしまうと、近隣への迷惑になるだけでなく、犯罪に利用されかねない、税負担が増える可能性があるなど、さまざまなリスクが考えられます。想定されるリスクを見ていきましょう。
近隣に迷惑をかける
家は人が住んでいれば適度に清掃がなされ、空気の入れ替えが行われ、害虫も寄りつきにくく綺麗に保たれます。しかし、一旦人が住まなった家は、急速に劣化が進みがちです。
朽ちた屋根や壁が台風で飛ばされて近隣に被害を及ぼすリスクが生まれます。害虫、害獣が棲みつけば、糞尿などの悪臭で周辺環境を壊すリスクがあります。また、湿気がこもった空き家がシロアリの温床となり、周辺にも拡散するかもしれません。
遠方に住んでいるからと放置していると、気づかない間に大きなトラブルが発生し、損害賠償を請求されるケースもありえるのです。
犯罪に利用されおそれがある
ずっと空き家のままだと、犯罪に利用されてしまうリスクが懸念されます。過去には所有者が何も知らぬ間に、放置していた家で大麻が栽培されていた事件がありました。
何かが起こってしまうと、所有者が関知していなくとも共犯を疑われるリスクもあるでしょう。また、放火されるリスクもあり、周辺の住宅を類焼させてしまっては大変です。
固定資産税が増額されるおそれがある
建物が建っている土地は特例によって固定資産税が最大6分の1、都市計画税が最大3分の1に軽減されます。ところが、空き家を管理せずに放置していると、特定空家等と認定されてしまい、その特例が適用されなくなる場合があります。
こうなると、固定資産税や都市計画税を多額に請求されてしまいます。また、特定空家等の所有者が適切な管理などの対応を怠ると、過料が科せられるリスクもあります。
悪質な場合、最終的には自治体が強制的に取り壊しを行うこともあります。その費用は所有者に請求され、拒否した場合は財産を差し押さえられます。
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資産活用のチャンスを失う
厳密にはリスクではないかもしれませんが、少し視点を変えると、本来あったはずの資産活用のチャンスを失うおそれがあるとも言えます。不動産物件を所有している場合、工夫次第でさまざまな利益が得られる可能性があります。
しかし空き家として放置しているかぎり、マイナスはあっても一切プラスにはなりません。固定資産税や都市計画税が課せられるうえ、前述のさまざまなトラブルのリスクが伴います。
空き家になった実家を相続した場合の相続税
相続が発生して空き家になった実家を受け継ぐ場合には、資産価値によっては相続税が課せられます。
相続税は基礎控除が本来高額なので、対象外になる場合も多くありますが、平成27年の法改正で、基礎控除が大幅に減額されました。そのため、以前と比べれば相続税の課税対象となるケースは増えています。
相続税評価額の計算方法や相続人別の相続税計算方法について、解説しておきましょう。
実家の相続税評価額の計算方法
相続税評価額は土地と建物、それぞれ以下のとおり求めます。
- 建物:固定資産税評価額
- 土地:路線価に基づいて算出した額
建物に関しては固定資産税納税通知書に記載されている「固定資産税評価額」が相続税評価額です。
土地は国税庁による路線価に基づいて算出します。路線価は、国税庁のホームページの「財産評価基準書」で調べることが可能です。
路線価図には「400D」のように記載されています。数字の部分が土地の平米あたりの千円単価となります。400Dなら平方メートルあたり40万円という意味です。
【実家の土地が200平方メートルの場合】
400,000円/平方メートル × 200平方メートル =80,000,000円
相続税評価額は8,000万円となります。
間口狭小の土地であれば、少し複雑ですが奥行価格補正などの調整を行い、相続税評価額を算出します。また、郊外であれば所有する土地の前の道路に必ずしも路線価が振られていません。
そうしたエリアは「倍率地域」と呼ばれます。国税庁の「財産評価基準書」から市区町村の「評価倍率表」を確認し、土地の評価額に倍率を乗じたものが相続税評価額です。
参考:財産評価基準書|国税庁
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相続人別の相続税計算方法
相続税の課税対象額は、平成27年(2015年)の法改正にて大幅に減額されました。そのため、以前に比べれば相続税の課税対象になるケースは増えています。
各相続人の相続税の計算は複雑なので、順を追って説明します。
第一に、相続税基礎控除額は以下の計算式で求められます。
【基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)】
法定相続人が3人いた場合、3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円が基礎控除額です。
第二に、相続税は累進課税で、その税率は相続額が増えるにつれて上がります。税率は以下のとおりです。
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | – |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
第三に、各相続人の相続額に税率を掛けて、相続人ごとの相続税額を出します。ただし、それが各人の納税額とはなりません。
第四に、各相続人の税額を合計して「総納税額」を出します。
第五に、総納税額を「遺産分割の割合」で割ったものが各人の相続税納税額になります。
相続税額早見表で見当をつけよう
上記のように各相続人の相続税は計算が複雑ですが、以下の相続税額早見表でおおまかな見当をつけることができます。
課税価格 | 配偶者と子供1人 | 配偶者と子供2人 | |||
相続税額 | 1人あたり納税額 | 相続税額 | 1人あたり納税額 | ||
6,000万円 | 180万円 | 90万円 | 120万円 | 30万円 | |
7,000万円 | 320万円 | 160万円 | 225万円 | 56万円 | |
8,000万円 | 470万円 | 235万円 | 350万円 | 88万円 | |
9,000万円 | 620万円 | 310万円 | 480万円 | 120万円 | |
1億円 | 770万円 | 385万円 | 630万円 | 158万円 | |
1億5,000万円 | 1,840万円 | 920万円 | 1,495万円 | 374万円 | |
2億円 | 3,340万円 | 1,670万円 | 2,700万円 | 675万円 | |
2億5,000万円 | 4,920万円 | 2,460万円 | 3,970万円 | 993万円 | |
3億円 | 6,920万円 | 3,460万円 | 5,720万円 | 1,430万円 | |
3億5,000万円 | 8,920万円 | 4,460万円 | 7,470万円 | 1,866万円 | |
4億円 | 1億920万円 | 5,460万円 | 9,220万円 | 2,305万円 | |
4億5,000万円 | 1億2,920万円 | 6,480万円 | 1億985万円 | 2,746万円 | |
5億円 | 1億5,210万円 | 7,605万円 | 1億3,110万円 | 3,278万円 | |
5億5,000万円 | 1億7,460万円 | 8,730万円 | 1億5,235万円 | 3,809万円 | |
6億円 | 1億9,719万円 | 9,855万円 | 1億7,360万円 | 4,340万円 | |
6億5,000万円 | 2億2,000万円 | 1億1,100万円 | 1億9,490万円 | 4,873万円 | |
7億円 | 2億4,500万円 | 1億2,250万円 | 2億1,740万円 | 5,435万円 |
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建て替えをすると相続税が抑えられる?
建て替えてから相続した場合には、課税対象となる資産額が減少するので、相続税を抑えられます。具体的には建て替え費用の30~50%が課税対象から控除されます。借入して建て替えることも、相続税対策として有力です。金利負担が発生するものの、借入などの負債は資産から差し引かれるので、課税対象額が減少します。
まだそれほど老朽化していないなら無理に建て替えるべきではありませんが、近い将来建て替える予定がある場合、相続前に建て替えを前倒しすることで節税が可能です。
二世帯住宅にする場合に活用できる特例
小規模宅地等の特例は、要件を満たせば土地の評価額が50〜80%減額される措置で、適用されれば大きな節税効果があります。
小規模宅地等の特例の種類の中で「特定居住用宅地等の特例」は二世帯住宅にも適用できます。ただし、対象の不動産名義を「共有登記」にしておかなければ特例が適用されませんので、登記方法には注意を要します。
建て替え業者と解体業者を分けると費用が抑えられる
家を建て替える際には解体が必要です。建設会社に解体も併せて依頼することも可能ですが、多くの場合解体工事は下請け会社を使います。
つまり、下請け会社に支払う費用に、数万円から10万円、あるいはそれ以上のコストが上乗せされることがあります。
自力で解体業者に直接発注すれば、出費を抑えることが可能です。解体工事と新築工事を分けて発注すると少しでも総費用が抑えられます。
建て替えの補助金「地域型住宅グリーン化事業(令和5年度最新版)」
国土交通省の「地域型住宅グリーン化事業」という補助金制度があります。地域の木造住宅関連事業者でつくったグループが国土交通省に採択されると、省エネルギー性能やが耐久性能に優れた木造住宅を建築した際に、補助金を受けられるというものです。この制度は要件を満たせばアパートにも利用できます。ただし、国土交通省の採択を受けたグループに所属する事業者に依頼をする必要があります。
また、地域型住宅グリーン化事業の対象となる住宅のタイプと補助額上限が決まっていますが、令和5年度に大きな変更がありました。地域型住宅グループ化事業のホームページ等で最新の情報を確認するようにしておきましょう。
地域型住宅グリーン化事業に参加しているグループを探す https://chiiki-grn.kennetserve.jp/index/#search
地域型住宅グリーン化事業の最新情報 http://chiiki-grn.jp/
長寿命型(認定長期優良住宅)135万円
「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」に基づいて、認定を受けた「認定長期優良住宅」であることが求められます。各種加算などを含めた場合の補助金の上限は135万円です。
ゼロ・エネルギー住宅型(長期対応)140万円
年間のエネルギー消費量の収支が概ねゼロとなる住宅(ZEH、Nearly ZEH)のうち、上記の「認定長期優良住宅」と認定された住宅を指し、延べ面積50m2などの要件があります。各種加算も含めた補助金の上限は140万円です。
ゼロ・エネルギー住宅型(ZEH)135万円
ZEH、Nearly ZEH、ZEH Orientedが対象で、延べ面積50m2以上などが要件となります。各種加算も含めた補助金の上限は135万円です。このうち、ZEH、Nearly ZEH住宅で「認定長期優良住宅」は上限が140万円に引き上げられます。
ゼロ・エネルギー住宅型(認定低炭素住宅)110万円
「都市の低炭素化の促進に関する法律」に基づいて、認定を受けた「認定低炭素住宅」で、延べ面積50m2以上であることなどが要件となります。各種加算を含めた補助金の上限額は110万円です。
※2023年5月現在の情報です。最新の内容は変更されている場合があります。
参考:地域型住宅グリーン化事業 令和4年度事業からの変更点
参考:国土交通省 令和5年度地域型住宅グリーン化事業のグループ募集を開始します~地域の工務店等が連携して取り組む良質な木造住宅等の整備を支援します~
まとめ
相続が発生して空き家になった実家を相続する場合に、その後どうすべきかを悩む人は多くいます。少なくとも空き家のまま放置することはリスクが多く避けたいところ。
不動産は活用の仕方で価値を生み出せる可能性が高い資産なので、さまざまな切り口から活用方法を考えましょう。
また、自分で決めるのが不安な場合には、プロからアイデアの提案をもらうこともおすすめです。建て替えや活用法を含めて相談してみてはいかがでしょうか。
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監修者
佐藤 智彦
- 資格
- 宅地建物取引士
- 略歴
- 東京・仙台を中心に、20年以上アパート・マンション建築賃貸業界に従事している。これまで500棟以上の新築アパート・マンションの企画・設計・建築・運営に携わり培ってきたリアルな知見が強み。