
相続で引き継いだ土地が処分できず、困っている方も多いのではないでしょうか。売却も活用もできない土地でも、保有しているだけで管理負担が発生してしまいます。
相続土地国庫帰属制度を利用すれば、不要な土地を手放すことが可能です。今回の記事では制度の概要や申請方法、メリットや注意点などについて詳しく紹介します。

ポイント
- 相続土地国庫帰属制度を利用すれば不要な土地を手放せる
- どのような土地でも制度を利用できるわけではなく、要件を満たす必要がある
- 制度を利用するためには、一定の負担金を支払う必要がある
相続した土地を国が引き取る制度
相続土地国家帰属制度とは、相続や遺贈によって引き継いだ土地の所有権を、一定の要件を満たした場合に、国に引き渡すことができる制度のことです。
どのような土地でも引き取ってくれるわけではなく、所有者の申請によって法務大臣(法務局)の審査が行われます。審査によって要件を満たしていると判断された土地だけが、国に引き渡することが可能です。土地の要件については後ほど詳しく紹介します。
相続土地国庫帰属制度の背景
相続土地国庫帰属制度が創設された背景には、次のような理由があります。
- 相続した需要の低い土地を手放したいと考える人が増加
- 相続で望まない土地取得をした人の費用や管理負担の増加
- 不要な土地だけを選択して相続放棄ができない
都市部ではイメージしづらいかもしれませんが、山間部や地方では土地の需要が減っています。活用ができない山林の土地を相続で引き継いで、困っている方も多いでしょう。土地は持っているだけで固定資産税などの費用がかかるだけでなく、手入れをしなければ荒れてしまいます。
しかし、土地だけを相続放棄することができず、一度手にした土地は捨てることはできません。需要の低い土地は売却することも難しく、自治体が引き取ってくれる可能性も低いです。利用価値のない土地は放置されてしまうことが多く、相続が続いて所有者が不明になってしまう可能性もあります。
使えない土地が増えてしまうことは、土地の管理上、国や自治体にとっても望ましいことではありません。このように需要が低い土地を国が引き取って、将来の公共的な利用に備えるため相続土地国庫帰属制度が創設されました。
制度を利用できる人
制度を利用できるのは、相続で土地を引き継いだ人です。相続以外の理由(売買など)で土地を引き継いだ人は、制度を利用することはできません。そのため相続で土地を引き継ぐことのない法人も、利用できません。
また、土地に共有者がある場合は、共有者全員の同意があれば利用できます。共有者の中に売買など相続以外の理由で取得した人がいる場合でも、相続で取得した共有者がいれば制度の利用は可能です。
この制度は令和5年4月27日に開始されましたが、制度開始の前に相続した土地も対象になります。
認められる土地の要件
前述のように、すべての土地が対象になるわけではありません。法務局に審査によって要件を整えていると判断された土地のみ制度の利用が可能です。具体的にはどのような土地が利用できないか、紹介していきます。
申請できない土地
下記に該当する土地は、管理や処分をするのに費用や労力がかかると判断され、申請の段階で却下されます。
- 建物がある土地
- 抵当権や地上権などの担保が設定されている土地
- 道路など他人に利用されている土地
- 土壌汚染されている土地
- 境界や所有権が曖昧な土地
建物が建っている土地は、管理に手間がかかることから利用できません。また抵当権・地上権・地役権・賃借権などが設定されている場合も、対象外です。道路や墓地、水道用地やため池など他人に利用されている土地も、使用者との調整が必要になることから利用できません。
土壌汚染があれば汚染除去のために莫大な費用がかかる可能性があることから、国庫に帰属できません。ほかにも境界確定が曖昧だったり、土地の所有権でトラブルになっている土地の場合も、管理が困難なことから対象外とされています。
申請が承認されない土地
下記の要件に該当すると審査の過程で判断された場合は、不承認とされます。
- 一定の勾配や高さの崖がある土地
- 土地の管理を疎外するような有体物がある土地
- 除去しなければならない有体物が地下にある土地
- 隣接する土地の所有者と争訟しなければ管理できない土地
- 管理・処分するのに費用や労力のかかる土地
- 動物によって周辺に被害を与える可能性のある土地
- 適切な管理が行われていない山林
勾配30度以上で高さが5メートル以上の崖があり、管理に通常以上の費用がかかるような土地は、処分できないため承認されません。古く錆びてしまった車両など、土地の管理を疎外するような物体が放置されていたり、地下に埋まっていたりする場合も不承認とされてしましいます。
また無道路地で、隣地所有者が通行を認めていない場合のように隣地の所有者とトラブルになっている土地も、管理や処分に支障があるため不承認とされます。
ほかにも適切な管理が行われていない山林や、災害の発生の危険性の高い土地なども管理に通常以上の負担がかかることから制度の利用はできません。
1.法務局への相談
申請の前に法務局に事前相談しておくとよいでしょう。相談は対面、もしくは電話でも可能で、1回30分です。相談は事前予約制となっており、下記の法務局手続案内予約サービスから、予約を取れます。
予約の手順は下記の通りです。
1.管轄の法務局を選択し、「手続き一覧」の中から、「相続土地国庫帰属制度 相談予約」を選択する
2.予約申込に関する事項に同意欄にチェックして、相談したい日時と、対面相談・電話相談のうち希望する相談方法を選択する
3.利用者としてログインして予約するか、ログインなしで予約するを選択する
4.メールアドレスを登録し、届いたメールに記載されたURLにアクセスする
5.相談する内容や予約者の氏名などを入力、確認へ進む
6.入力情報に間違いがないか確認し、予約の申込を完了する
7.予約完了メールが届く
また事前相談の際には、次の資料を準備しておきましょう。
- 相続土地国庫帰属制度相談票
- 相談したい土地の状況について(チェックシート)
- 土地の状況がわかる資料や写真
相談票には相談者の氏名のほか、土地の状況などを簡単に記載します。チェックシートは申請できない土地に該当するかどうかのチェックが可能です。どちらの書式も法務省のWebサイトから取得できます。
法務省 相続土地国庫帰属制度の相談対応について
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00498.html
土地の状況がわかる資料については、謄本や地図、測量図や固定資産税納税通知書などを可能な範囲で準備しておくとよいでしょう。
2.申請書類の提出
申請するには、次の書類を準備する必要があります。
- 申請書
- 土地の位置・範囲を明らかにする図面
- 隣地との境界点を明らかにする図面
- 土地の形状を明らかにする図面
- 申請者の印鑑証明
申請書の書式や、各書類の記載例・作成方法は法務省のWebサイトで確認できます。
申請は窓口に持参するか、郵送で提出することも可能です。窓口に持参する場合は混雑などで待たされる場合があるため、事前に連絡してから持参するほうがよいでしょう。窓口を訪問するのは申請者本人が原則ですが、難しい場合は家族でも差し支えありません。
また、申請書類の作成が自分では難しい場合、親権者や成年後見人等の法定代理人以外では、弁護士・司法書士・行政書士に限って作成を依頼できます。
3.現地調査
申請後、法務局が審査を行います。審査は書面による審査のほか、対象の土地を訪れる現地調査も行われます。申請した土地に行くのに案内が必要な場合などは、現地調査に同行を依頼される場合もあるでしょう。申請から審査の結果が出るまでは、半年~1年程度です。
4.負担金の納付
審査が承認になり、土地を国庫に帰属することになった場合、一定の負担金を払う必要があります。申請が承認されると、法務局から申請者に対して承認通知と合わせて負担金の納付に関する納入告知書が送られてきます。
負担金の支払いは郵便局や都市銀行などの金融機関で可能です。負担金の納入は通知が届いてから、30日以内に行わなければなりません。期限内に支払わないと承認が取り消しになってしまい、再度申請しなけなればいけなくなるため注意しましょう。
負担金を納付すると、土地の所有権が国に移転します。その後は財務大臣または農林水産大臣が、管理および処分を行うことになります。
審査手数料
制度を利用するためには法務局の審査を受ける必要があり、審査手数料がかかります。審査手数料は、土地一筆あたり14,000円です。申請する際の申請書に収入印紙を貼って納付します。一筆あたりの手数料のため、筆数が多いと手数料も高くなってしまいます。
負担金
制度を利用するためには、一定の負担金を払わなければいけません。制度を利用することで土地の所有者は土地の管理負担を国に任せることになるため、負担金が必要です。負担金は、土地を10年間管理するのに必要な標準的な費用とされています。
具体的な金額や算定式は、法務省のWebサイトで開示されています。
土地の地目や面積などによって細かく決められているため、事前に確認しておきましょう。
申請の相談先
制度の利用を考えている土地の管轄する法務局で、制度に関して相談できます。ただし住んでいる場所が遠方で管轄の法務局まで行くことが困難な場合は、最寄りの法務局でも相談に対応してくれます。しかし相談には対応してくれますが、申請は管轄する法務局でなければ対応してくれません。
相談内容は制度の利用ができそうかどうかや、書類の作成方法など個別の具体的な相談にも対応してくれます。土地所有者本人のほか、家族や親族でも相談が可能です。
不要な土地だけを手放すことができる
制度を利用することで、利用価値のない不要な土地だけを手放せます。相続で土地を引き継いだ場合、通常は売却や有効活用を考えるでしょう。しかし、利用価値のない土地有効活用も売却も、簡単にはできません。
手放せない一方で、荒廃させないための管理負担などが発生することになってしまいます。制度を利用することで不要な土地を手放すことが、可能になります。
土地の管理負担が不要になる
国に土地を引き取ってもらえば、管理する必要がありません。近年では管理されていない土地が増えており、防犯や衛生面から問題になっています。土地の所有者は土地を管理する負担が発生しますが、制度を利用することで管理負担から開放されます。
農地や山林も申請できる
相続土地国庫帰属制度では、農地や山林も対象です。農地は転用や売却するにも農業委員会の許可がいるなど、処分が簡単ではありません。山林も有効な活用方法は少なく、売却も困難です。処分したくてもできない農地や山林を処分できる点も、メリットの1つです。
申請できない土地がある
不要な土地を手放せる制度ですが、どのような土地でも利用できるわけではありません。制度を利用するためには、要件を満たす必要があります。とくに建物が建っている土地は利用できないため、相続した財産に空き家などがある場合は注意しましょう。
費用がかかる
制度を利用するためには、調査費や負担金などの費用がかかる点にも注意しましょう。通常土地を処分すると、売却によって代金が手に入ります。制度を利用する場合は資金はいっさい入らないため、売却できそうな土地であれば売却したほうがよいでしょう。
共有持分の土地も申請できる?
共有持分で所有している土地も、申請が可能です。相続では親族間で土地を共有して引き継ぐことも多いでしょう。共有者全員の同意があれば、申請できます。また制度を利用できるのは相続で土地を引き継いだ所有者だけですが、共有者の中に売買など相続以外で土地を引き継いだ人がいても申請は可能です。
いつ所有権が国に帰属する?
負担金を納付した時点で、所有権が国に帰属します。負担金は法務局による審査が終了すると、通知書が届けられます。通知が届いて30日以内に負担金を納付しなければ、承認が取り消しとなってしまうので注意しましょう。
相続土地国庫帰属制度以外に土地を手放す方法

不要な土地を手放せる制度ですが、負担金が発生するなどの注意点もあります。また要件を満たしていなければ、制度は利用できません。制度を利用する以外に、土地を手放す方法を紹介します。
遺産分割
相続人の中に土地を引き継ぎたい人がいるのであれば、遺産分割で土地をほしい人に引き継いでもらうとよいでしょう。相続人全員の同意があれば、遺産分割は自由に決められます。長男が土地をすべて引き継がなければいけない、のような決まりはないため不要な土地をあえて相続しないという方法もおすすめです。
相続放棄
不要な土地を引き継ぎたくない場合は、相続放棄する方法もあります。ただし相続放棄はすべての相続財産を放棄することになるため、土地だけでなく金融資産なども引き継げません。
亡くなった方に借金など負の財産があると、資産と一緒に相続人が引き継ぐことになります。資産と借金を比較して、借金が多い場合に相続放棄を検討するなど慎重に判断する必要があります。また相続放棄をする場合、相続を知った日から3カ月以内に手続きする必要があるので注意しましょう。
売却
制度を利用すると負担金などの支払いが必要になるため、売却できるのであれば第三者に売却したほうがよいでしょう。
一般的には利用しにくい場所でも、隣地の所有者であれば購入を検討してくれるかもしれません。また、不動産業者の中には難しい物件でも買い取ってくれる業者もあります。
制度を利用する前に、一度不動産会社に相談するなど売却方法を検討してみましょう。
まとめ

相続土地国庫帰属制度を利用すると、相続で引き継いだ不要な土地を処分できます。相続で引き継いだ土地の中には有効活用や売却しにくい、利用方法が難しい土地が含まれていることもあるでしょう。
土地は保有しているだけで固定資産税や、荒廃させないための管理負担が発生します。そのため売却も活用もできず、管理負担だけが発生する土地の処分に悩んでいる方も多いでしょう。制度を利用することで、負担金などの費用はかかりますが、土地の管理負担から開放されます。
不要な土地を保有している方は、ぜひ今回の記事を参考にして制度の利用を検討してみましょう。

監修者
宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、不動産コンサルティングマスター
米森 芳幸
不動産・建築業界歴25年以上。住宅やアパートの用地仕入れ、注文住宅営業、区分マンションのリフォーム、不動産仲介などを経験し、その不動産・建築知識を活かして業務に携わっている。
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