
相続で引き継いだ賃貸アパートの経営がうまくいかず、管理会社の変更を考えている方も多いでしょう。管理会社の変更は、相続が発生した後でも可能です。
今回の記事では管理会社の変更の流れや、メリット・デメリット、起こりやすいトラブルについて詳しく紹介します。

ポイント
- 相続後でもアパートの管理会社の変更は可能
- 相続時はあらためて管理内容を見直すタイミング
- 管理会社を変更する際には、メリット・デメリットを理解しておくことが大事
- 相続で困らないためにも、賃貸アパートは早めの承継がおすすめ
アパート相続時に必要な手続き

賃貸アパートが相続財産に含まれている際、相続発生時に必要となる手続きは、遺産分割協議・相続登記・債務引受・賃借人への連絡などがあります。遺産分割協議とは、相続人が複数いる場合に相続財産を誰に分割するかを協議することです。
相続が発生し、賃貸アパートの相続人が確定したら、相続登記と名義を変更する必要があります。従来、相続登記は努力義務でしたが、令和6年4月1日から義務化されました。遺産分割が成立してから3年以内に相続登記を行わなければ、10万円以下の過料が科せられる場合もあるので気をつけましょう。
また、アパートに借入が残っている場合は、アパートを引き継いだ相続人が借入も引き継ぐことになるため債務引受の手続きが必要です。
亡くなった方の口座が凍結してしまうと、家賃の振込もできなくなります。管理会社を利用している場合は、管理会社へ連絡しましょう。
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アパートの相続後でも管理会社の変更は可能?

アパートを引き継いだものの、運営がうまくいかない場合は管理会社の変更を検討すると良いでしょう。管理会社は相続後でも見直しができます。
アパート経営において、管理会社の果たす役割は非常に大きく、建物や共用部分のメンテナンス、定期的な修繕の実施など、アパートの資産価値をどれだけ維持できるかは管理会社にかかっています。
入居者募集も、管理会社の重要な仕事です。管理会社の入居者募集の営業が弱いと、空室が中々埋まらず賃料収入が思ったように得られません。このようにアパート経営がうまくいくかどうかは、管理会社の影響がかなり大きいといえます。
運営や管理に不安がある場合、先代の頃の付き合いというだけで現在の会社が必ずしも管理が得意ではない可能性もあります。また、長く管理会社の見直しがされていなかった場合、新しい管理会社も選択肢にあがるかもしれません。
よりよいアパート運営を行うためにも、相続は管理会社を見直すタイミングのひとつといえるでしょう。
空室状態が1カ月以上続いている
空室が1カ月以上続いていて空室対策の提案がない場合は管理会社の変更を検討してもよいでしょう。空室が長引いているということは、管理会社が積極的な空室対策を行っていない可能性があります。たとえばリーシングのための営業活動や空室を埋めるための積極的な動きができていない場合です。
周辺のライバル物件に比べて設備が劣っているのであればオーナーに提案するなど、リーシング対策をしっかりと行うのが管理会社の業務です。賃料の見直しなどの提案もなく、数カ月も空室を放置している管理会社はリーシングが弱い、もしくはその管理会社では業務が回っていない可能性があります。
空室状態が続くということは、オーナーにとっては収入が下がることに直結します。その場合、金融機関の返済ができなくなってしまう可能性もあるでしょう。このような場合は、管理会社の変更を検討しましょう。
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管理状況や担当者の対応に不満がある
管理状況や担当者の対応がよくない場合も管理会社の変更を検討しましょう。
建物の清掃や修繕などの管理も、管理会社の業務です。共用部分にゴミが散乱していたり、駐輪場が荒れていたりすると、建物の印象も悪くなってしまいます。また、年数の経過によって劣化した箇所は、適切に小規模修繕をすることによって、今後発生する大規模修繕の費用にも影響してきます。修繕をしなければ建物の価値は維持できません。
管理会社の担当者の対応もアパート経営においては重要な要素です。入居者のトラブルやクレームへの対応が悪いと、入居者の満足度低下に繋がりかねません。
トラブルやクレームへの対応が遅ければ、入居者が引っ越してしまう可能性もあります。担当者の対応が悪く、担当者の変更にも応じてもらえないのであれば管理会社の変更を検討するようにしましょう。
管理会社へ支払っている費用が高い
管理会社に支払っている管理費用が高い場合も、管理会社の変更を検討してもよいでしょう。アパート経営では、いかに費用を減らすかが重要です。賃料を上げることは簡単ではないため、収支をよくするためには費用を減らす必要があります。
アパート経営の費用において代表的なものが、管理会社への費用です。管理費は賃料収入の5%程度が一般的ですが、管理会社によってさまざまです。管理会社を変更して管理費を節約できれば、収支が改善できる可能性があります。
しかし、管理会社を選ぶ際には、管理費だけで選ばないようにしましょう。安かろう悪かろうで、費用が安くても管理内容が悪ければ、かえって収支を悪くさせてしまいます。管理会社を選ぶ際には費用だけでなく、管理の内容もしっかりと確認しましょう。
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管理会社を変更するメリット
管理会社を変更するメリットには、管理手数料が安くなる可能性があるだけでなく、管理業務の質が向上する可能性があります。管理会社の変更によって空室改善や、建物維持管理が向上するだけでなく、前の管理会社とは違った提案をしてもらえる可能性もあります。
管理費用は管理会社によって違うため、管理会社の変更によって管理費が安くなり収支が改善できる可能性があります。管理費用は賃料の〇%と設定されていることが一般的です。年間の家賃収入が1,000万円あれば、管理費が1%下がるだけで年間10万円もの収支改善に繋がります。
また、管理会社を変えることで管理業務の質を上げられることもメリットです。適切な修繕や清掃によって、建物の価値を維持できます。さらにリーシングが強い管理会社に変更することで空室を減らし、賃料収入を増やせる場合もあるでしょう。
管理会社を変えることで、以前の管理会社とは異なった視点で物件の管理をしてもらうことができ、入居者の満足度アップや建物の資産価値向上につながるかもしれません。
このように管理会社の変更には多くのメリットがあります。
管理会社を変更するデメリット
メリットの多い管理会社の変更ですが、デメリットもあることに注意しましょう。
管理状況などに不満があって管理会社を変更しても、必ずしも状況が好転するわけではありません。最悪のケースでは、さらに管理状況が悪化する場合もあるでしょう。そのため管理会社の選定は、慎重に行う必要があります。
また、管理会社を変更することで、入居者に負担が発生する場合もあります。管理会社が協力的でない場合や入居者から預かっている敷金を引継げない場合、保証会社の契約が引き継げず再加入が必要になる場合など、入居者に手間が発生してしまうこともあるでしょう。
管理会社を変えたからといって必ずしも状況がよくなるわけではなく、かえって悪くなってしまったり、入居者へ迷惑をかけてしまったりする可能性があることは認識しておきましょう。
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管理会社を変更する流れ

管理会社を変更する流れは、次の通りです。
- 1.
- 現在の管理会社の契約内容や問題点を確認する
- 2.
- 複数の管理会社を比較する
- 3.
- 現在の管理会社との契約を解除する
- 4.
- 新しい管理会社と契約する
- 5.
- 新しい管理会社に引継ぎをする
- 6.
- 入居者へ管理会社変更の連絡をする
それぞれ詳しく解説します。
1.現在の管理会社の契約内容や問題点を確認する
管理会社の変更を行う際は、まず今の管理会社の問題点を明確にしましょう。管理状況や担当者に不満があるなど、現在の不満点を明確にすることで、次の管理会社選びもスムーズに行えるでしょう。
合わせて管理会社の契約内容を確認しておきます。マスターリースの契約では契約期間に縛りがあるケースがほとんどですが、マスターリース以外の契約でも違約金などが発生する場合もあります。また解約する際には○カ月前に通告する、などの解約予告期間を設けている場合もあります。
違約金などで思わぬ出費が発生しないようにするためにも、まずは現管理会社との契約内容を確認しましょう。
2.複数の管理会社を比較する
管理会社を選ぶ際には、必ず複数の管理会社を比較するようにしましょう。1社だけの見積りで決めてしまっては、適正な管理委託料かどうかの比較ができません。3~5社程度の見積を比較検討することで、適正な費用が見えてくるでしょう。
費用の次は、管理内容もしっかりと比較しましょう。管理会社の変更によって改善したい問題点が解決できるかどうかを慎重に見極めましょう。
管理会社が費用算出する際には、エリア調査のため現地確認を行うことが一般的です。そのため管理会社選びの際には、各社とのスケジュール調整も必要になります。公正に見積もってもらうためにも、各社同じ条件での見積りを出してもらうようにしましょう。
3.現在の管理会社との契約を解除する
新しい管理会社が決まったら、現在の管理会社へ契約の解除の申し出を行います。そのまま受理されることが一般的ですが、管理料の減額などで引き止められてしまうこともあります。管理費の圧縮が理由で管理会社を変更するのであれば、管理費の減額交渉を行ってもよいでしょう。
一方で現在の管理会社が協力的でなく、まれに即刻解除されてしまうようなケースもあります。そのため、新しい管理会社と契約段取りも併行して行っておくようにしましょう。
4.新しい管理会社と契約する
現在の管理会社へ解除の通知をしたら、速やかに新しい管理会社と契約を行います。
また、新しい管理会社と契約する際は、契約内容をしっかりと確認するようにしましょう。令和3年6月15日以降、管理契約でも重要事項説明が必要になっています。見積り通りの金額や管理内容になっているかを確認したうえで契約書への署名を行いましょう。
新しい管理会社へは、現在の管理会社との契約の終了日や担当の連絡先を伝え、預かっている資料などがある場合は渡しておきましょう。
5.新しい管理会社に引継ぎをする
管理会社との契約が終わったら、新旧の管理会社で引継ぎを行います。多くの場合は問題なく引継ぎが行われますが、従前の管理会社が協力的でないこともあります。スムーズに引継ぎができているか、オーナーとしてもしっかりと確認しておくようにしましょう。
管理会社間で引き継がれる内容には、次のようなものがあります。
- 物件の管理や修繕の履歴
- 契約条件の内容
- 入居者の属性や内容
- 家賃保証会社の有無
- 火災保険の加入状況
- 預かっている敷金
- 物件の鍵の引き渡し
引継ぎ項目は多岐にわたります。旧管理会社の動きが悪い場合は、オーナーから催促してもらうよう新管理会社より依頼がある場合もあります。
6.入居者へ管理会社変更の連絡をする
引継ぎが終わったら、入居者へ管理会社変更の案内を行います。家賃の支払いを振込で行っている場合は管理会社が変わることで振込先も変わります。取引銀行によっては入居者の負担する振込手数料が増えてしまうこともあるでしょう。
そのため、管理が切り替わる1カ月前までには新管理会社より入居者へ連絡を行うことが大切です。入居者への通知は書面で行うことが一般的ですが、電話や訪問をしてご挨拶することもあります。
家賃保証会社との契約が切れる
管理会社との契約を解除することで、契約内容によっては保証会社との契約も切れてしまうケースがあります。家賃保証会社とは名前の通り、入居者が家賃を滞納した場合に賃料を保証してくれる会社です。
オーナーにとっては入居者の滞納があっても収入が保証されるため、アパート経営にリスクを抑える効果があります。家賃保証会社との契約がなくなると滞納リスクをオーナーが負うことになるため、事業リスクが高まる点には注意しましょう。
入居者からのクレームが発生する
管理会社を変更することで、入居者からクレームが発生する可能性があります。
基本的に管理会社の変更はオーナーの都合で行われますが、入居者からすれば管理会社が変更となることで、振込先の変更などの手間が生じます。さらに、先述のとおり保証会社の引継ぎができず、加入し直しになるケースもあります。
オーナー都合で管理会社を変更するにもかかわらず、入居者に負担を強いることで入居者の不満がたまり、クレームが発生したり、退去につながったりする可能性もあるでしょう。
入居者の負担が増える部分もありますが、管理会社の変更によって管理状況が改善されるなど、入居者にとってメリットがあることも多いです。入居者へのフォローも管理会社と連携して行う必要があります。
管理会社変更完了までの管理が疎かになる
管理会社を変更する際に起きるトラブルの1つに、管理会社を変更するまでの期間の管理が疎かになってしまうことがあります。管理会社変更の際には旧管理会社と新管理会社が引継ぎを行いますが、どうしてもタイムラグが出てしまうことが少なくありません。
旧管理会社に契約の解除を告げても、すぐに新管理会社に変更できるわけではありません。通常、解約には予告期間が設けられており、引継ぎなどの期間を含めれば切り替えまでに3カ月程度がかかることが一般的です。
その3カ月の期間は、旧管理会社は引継ぎを優先しますし、新管理会社も物件をあまり把握していません。この間に空室が出てしまったり管理が行き届かなかったりしてしまう可能性もあります。
また、退去がある場合は、旧管理会社に確認のうえで先行して新管理会社にて募集をし、入居した部屋から新管理会社の管理になるというのが一般的です。
管理物件の入居率
管理会社を選ぶ際に確認したいポイントの1つは、管理物件の入居率です。アパート経営において最も重要ともいえるのが、高い入居率を保つことです。入居率の高さは収入に直結するため、管理会社のリーシング能力はアパート経営の収支に直結します。
そのため、管理会社を選ぶ際にはリーシング能力の高さを見極める必要がありますが、リーシング能力の判断基準となるのが管理物件の入居率です。目安としては管理している物件の入居率が95%を超えていれば、リーシング能力が高いといえるでしょう。
また、単に入居率を見るだけでなく、根拠のある数値となっているか数字管理の厳格さにも注目するようにしましょう。
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連絡や問題発生時などの対応速度
管理会社を選ぶ際には、連絡や問題発生した場合への対応速度も重要です。入居者からのトラブルやクレームに対する対応速度は、入居者の満足度へも直結します。また、問合せなどへの反応が早い管理会社は、リーシング能力や営業の強さにも比例する傾向があります。
管理部門に、どれだけの人員を割いているかも対応速度を測る目安にもなります。多くの人員を管理部門に配置しているのであれば、その会社は管理に力をいれている会社といえるでしょう。
管理戸数
管理会社を選ぶ際には、管理戸数も確認するようにしましょう。管理戸数が多ければ多いほど、その管理会社は豊富な管理実績を持っているといえます。多種多様な物件の管理ノウハウを持っていれば、緊急事態への対応力も高いでしょう。
管理戸数の多さは管理会社の経験に直結するため、管理会社のホームページなどで管理戸数を確認するようにしましょう。
相続前から引き継ぎの準備しておくことも重要
相続は、アパートの管理会社を見直すひとつのタイミングです。
ただ、アパートの引継ぎ以外にも相続にはさまざまな手続きもあり、相続してすぐに管理会社を変更するのは、手続きの煩雑さや体力的にも実際には難しい場合が多いです。
特にお勤めの方が相続でアパートを引き継いだ場合、相続で手続きが大変な時期に働きながら賃貸経営を行わなければなりません。そのため管理会社の見直しが疎かになってしまい、数年経ってから見直す方も少なくありません。
運営が順調ではない場合には、管理会社の見直しを先延ばしにした数年間は機会損失にもつながります。そのため相続が発生する前から物件の運営を引き継いだり状況を把握しておくと、急な相続による管理会社の見直しよりも余裕をもった対応ができるでしょう。
まとめ

相続で引き継いだ後でも、アパートの管理会社の変更は可能ですし、相続を管理会社の見直しのタイミングと考える方も多いです。しかし、相続発生時ではなく、事前に賃貸経営の引継ぎを進めておくと管理状況をしっかりと把握でき、よりスムーズに管理会社の変更を進めることができるでしょう。
アパート経営をスムーズに承継・相続するためには、代替わりを早めに行い、建物の状況や賃貸状況などを共有しておくようにするのがおすすめです。

監修者
宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士
久保田 克洋
不動産業界に20年以上従事。賃貸管理を中心に管理受託業務・売買仲介・民泊運営を担った幅広い知識と経験をベースに、現在はプロパティマネジメント・アセットマネジメントを担っている。

監修者
宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士
長谷川 憲一
20年以上にわたり不動産業界に従事。中古物件の仕入れ販売、賃貸管理業務、マンスリーマンション事業の立ち上げ、リーシング事業の立ち上げなどに携わる。現在は、幅広い経験と知識を生かし、プロパティマネジメント・アセットマネジメントを担っている。
