
親子や親族などの血縁関係や社会におけるさまざまな人間関係のなかで、お金や物品などの資産を無償で贈る「贈与」という行為は一般によくあることといえます。しかし、資産の性質や金額によっては、受け取った側が「贈与税」を納めなくてはなりません。
ここで気になるのは「いくらから贈与税が課せられるのか」でしょう。ただそれを理解するには贈与税のしくみや計算方法をきちんと理解することが大切です。この記事では贈与税のしくみと計算方法、軽減できる特例や控除について解説します。

ポイント
- 贈与税の対象になるのは個人から個人への贈与
- 贈与税の課税方式は暦年課税制度と相続時精算課税制度の2種類から選べる
- 教育や結婚・子育て、マイホーム購入といった特定の用途の贈与には贈与税の負担を軽減できる制度がある
贈与税とは

民法第549条によると贈与とは「当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。」とされています。
贈与税が課せられるのはそのうち「個人から個人への贈与」のみであり、さらには一定の要件を満たしている贈与です。
ここでは贈与税の対象となる贈与の要件と相続税との違いをみていきましょう。
参考:e-GOV 民法第五百四十九条
贈与税の対象となるのは?
贈与税の対象となるのは、毎年1月1日から12月31日までの1年間に受けた贈与です。
贈与では財産を譲る側は「贈与者(ぞうよしゃ)」、譲られる側は「受贈者(じゅぞうしゃ)」と呼ばれます。贈与税は贈与の金額に応じて、受贈者に課せられる税金です。
贈与の「金額」と表現していますが、対象となる財産は現金だけでなく、不動産や自動車、家財、株券などの有価証券、債権などの資産も含まれます。不動産や有価証券といった「価格が変動する財産」は、贈与日の評価額が適用され、特に有価証券に適用されるのは贈与日の終値、贈与月の終値の平均、前月の終値の平均のうち最も低い評価額です。
また直接の贈与ではなくても、無利子での金銭の借り入れや借金を肩代わりしてもらうこと、極端に低い金額での財産の譲渡といった行為は「みなし贈与財産」として贈与と判断されます。
相続税との違い
贈与と、亡くなった人から財産を受け取る相続には次のような違いがあります。
贈与 | 相続 | |
---|---|---|
財産を譲る人の要件 | 所有する財産を贈与する個人(贈与者) | 財産を所有していた亡くなった個人(被相続人) |
財産を受け取る人の要件 | 贈与者が指定し、財産の贈与を承諾した個人(受贈者) | 財産を相続した個人(相続人) |
財産を受け取るタイミング | 財産の所有者の存命中、任意のタイミングで可能 | 財産の所有者が亡くなった後 |
たとえば親が子に財産を贈与もしくは相続する場合、「子が親から財産を受け取る」という点で贈与も相続も同じといえますが、原則として親が生きている間に受け取ると贈与、亡くなってから受け取るのが相続です。また、贈与は両者の同意によって成立し、相続は被相続人の死亡時に法律にしたがい相続人に自動的に権利が発生します。
贈与税も相続税も、財産を受け取る人にかかる税金です。
ただ、将来相続するまたは相続される関係にある場合、贈与税と相続税では税率も控除額もまったく異なります。納めるべき税額も大きく変わるため、どちらが適用にされるかは大きな問題です。
暦年課税制度:110万円まで非課税
暦年課税制度は、毎年1月1日から12月31日までの1年間に贈与として受け取った財産の合計額を対象とする課税方式です。
合計額から「基礎控除額」である110万円が差し引かれた金額をもとに、金額ごとに定められた税率を乗じて税額を計算します。
そのため、1年間の贈与の合計額が110万円であれば非課税となり、贈与税はかかりません。
年間110万円とは
暦年課税制度における基礎控除額「年間110万円」は、あくまで該当する1年間に受けた贈与の合計から控除される金額であることには注意が必要です。
たとえば1年間に3回、それぞれ150万円、90万円、120万円の贈与を受けた場合、贈与税の合計額360万円から基礎控除額の110万円を差し引いた250万円に課税されます。贈与1件につき110万円が控除されるわけではありません。
1年間の贈与の金額が110万円を超える場合は贈与税を申告し、納税する義務があります。
参考:国税庁 No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)
相続時精算課税制度:累計2,500万円まで非課税
相続時精算課税制度は、将来の被相続人から将来の相続人への贈与を対象とした課税方式です。原則として60歳以上の父母または祖父母から18歳以上の子どもまたは孫に対して贈与(生前贈与)する場合に選択できます。
この制度では、最大2,500万円の贈与までは贈与税が課せられません。ただこの贈与財産は、贈与者が亡くなって相続する段階で相続財産に持ち戻し、ほかに相続した財産と合わせた金額を対象として相続税が計算されます。贈与時に贈与税はかかりませんが、あとから相続税が課せられます。相続税は贈与時の価額に適用されるため、土地など将来価値の増加が見込まれる財産は、相続時精算課税制度の方が節税になる可能性もあります。
相続時精算課税制度を選択すると、その選択をした年以降すべてこの制度が適用され、暦年課税制度の選択はできなくなります。
また、2024年1月1日からは、上記の2,500万円の非課税枠とは別に、年110万円までの基礎控除が認められるようになりました。こちらはあくまで贈与税の基礎控除であるため相続時に持ち戻されることはありません。
参考:国税庁 No.4103 相続時精算課税の選択
国税庁 令和5年分贈与税の申告のしかた【お知らせ】令和6年分の贈与から贈与税・相続税の計算方法が変わります!
贈与税の計算方法

贈与税額は、贈与のあった年の1年間の贈与金額の合計から求めます。ただそれ以降の計算方法は、選択する課税方式ごとに異なる計算が必要です。
もしまだ贈与の金額やタイミングが決まっていないなら、できるだけ税額を抑えるためそれぞれの計算方法で求めた税額を比較して、有利な課税方式を選べます。
ここでは暦年課税制度と相続時生産課税制度の贈与税額の計算方法について解説します。
暦年課税制度の計算方法
暦年課税制度における贈与税額は、次の計算式で求めます。
( 1年間の贈与金額の合計 - 110万円 ) × 税率 - 控除額
1年間の贈与金額の合計から引く「110万円」は暦年課税制度の基礎控除額です。また適用される税率は、贈与の金額と贈与された財産の性質によって区分される「特例贈与」の税率または「一般贈与」の税率のいずれかが適用されます。
特例贈与と一般贈与の違いは以下のとおりです。
特例贈与:贈与を受けた年の元旦に18歳以上であった受贈者が、父母や祖父母といった直系尊属から受けた場合の贈与
一般贈与:特例税率の要件を満たさないすべての贈与
税率と控除額は、基礎控除額を差し引いた後の金額の一定範囲ごとに次の表のとおり定められています。
合計の贈与金額 | 特例贈与の税率(控除額) | 一般贈与の税率(控除額) |
---|---|---|
200万円以下 | 10% (控除なし) | 10% (控除額なし) |
200万円超300万円以下 | 15% (10万円) | 15% (10万円) |
300万円超400万円以下 | 20% (25万円) | |
400万円超600万円以下 | 20% (30万円) | 30% (65万円) |
600万円超1,000万円以下 | 30% (90万円) | 40% (125万円) |
1,000万円超1,500万円以下 | 40% (190万円) | 45% (175万円) |
1,500万円超3,000万円以下 | 45% (265万円) | 50% (250万円) |
3,000万円超4,500万円以下 | 50% (415万円) | 55% (400万円) |
4,500万円超 | 55% (640万円) |
参考:国税庁 No.4408贈与税の計算と税率(暦年課税
相続時精算課税制度の計算方法
相続時精算課税制度の税額計算には、それまでの間に贈与された累計の贈与金額をもとに、計算します。
( (各年の贈与額 ー 110万円 )の累計金額 ー 2,500万円 ) × 20%
各年の贈与額から引く「110万円」は1年間の贈与に認められた基礎控除額、税率は一律20%です。また、累計2,500万円までは贈与税はかかりません。
たとえば、相続時精算課税制度を選択し届け出ている受贈者が、前年に2,610万円、今年210万円受け取っていたら、贈与税額は次のとおり計算できます。
(( 2,610万円 ー 110万円)+(210万円 ー 110万円)ー 2,500万円)× 20%
= 20万円
参考:国税庁 No.4103 相続時精算課税の選択
贈与税が軽減できる特例・控除

個人から個人へのすべての贈与が贈与税の課税対象になるわけではありません。たとえば結婚、子育て、教育や生活の基盤となる住宅を得るための贈与には一定の軽減措置が設けられています。
ここでは贈与税が軽減される特例または控除の制度を詳しくみていきましょう。
教育資金の一括贈与の特例
受贈者が2026年3月31日までに30歳未満で、贈与者が親または祖父母の場合、入学金や授業料、学用品の購入など教育に関する支出のための贈与資金は、1,500万円まで非課税とされます。ただし、塾や習い事への支出の場合は非課税枠が500万円までです。
この特例の適用を受けるには、まず受贈者が贈与資金を管理するための教育資金口座を開設し、金融機関を通して税務署へ「教育資金非課税申告書」を提出する必要があります。資金は口座から引き出せますが、その際は教育費用への支出であることの証明として金融機関へ領収書を提出しなければなりません。
また、贈与された資金のうち30歳までに使いきれず残ってしまった金額には、一般贈与の税率の適用された贈与税が課せられます。
結婚・子育て資金の一括贈与
受贈者が2025年3月31日までに20歳以上50歳未満で、贈与者が親または祖父母の場合、結婚のための資金の一括贈与は300万円まで、さらに子育てのための資金も合わせれば合計1,000万円までが非課税とされます。
ただし、この特例の適用を受けるには、まず受贈者が贈与資金を管理するための結婚・子育て資金専用口座を開設し、金融機関を通して税務署まで「結婚・子育て資金非課税申告書」を提出する必要があります。資金は必要に応じて引き出すことはできますが、その際は結婚または子育ての費用であると証明するための領収書を提出しなければなりません。
もし贈与された資金が50歳までに使いきれず残ってしまった場合、残額には一般税率の適用される贈与税が課せられます。
住宅購入資金贈与の特例
住宅購入資金の贈与の特例が適用されれば、親または祖父母が贈与者として、18歳以上の受贈者がマイホーム購入資金の贈与を受けたとき、最大1,000万円まで非課税になります。さらに暦年贈与と併用すれば最大1,110万円までが非課税です。
ただし、非課税枠を最大限適用したい場合は、購入する住宅が省エネ、耐震または免震、バリアフリーなどの要件を満たしていなければなりません。要件を満たしていない場合、非課税枠は500万円までとされるため注意が必要です。
配偶者控除
配偶者控除とは、贈与者と受贈者が20年以上法的な婚姻関係にある夫婦である場合に、居住するための不動産やその購入資金の贈与を受けた場合の特例です。贈与税は最大2,000万円まで非課税とされ、さらに暦年贈与と併用すれば最大2,110万円までが非課税となります。
また、配偶者控除の適用された贈与財産は、相続の際に相続財産として持ち戻さなくてよいため、より節税効果の高い特例といえるでしょう。
贈与税の申告手続き

贈与税を納めるには、まず贈与を受けた翌年の2月1日から3月15日までの間に、贈与税を申告しなければなりません。申告方法には、紙の申告書を作成して直接税務署の窓口で提出する方法や郵送で提出する方法、さらにインターネットを使った電子申告(e-Tax)がありますが、どの方法でも申告する書類や記載内容は同じです。
ここでは贈与税の申告に必要な書類と、申告期限に遅れた場合の対処法を解説します。
申告に必要な書類
贈与税の申告に使える書類は次の通りですが、実際の申告では申告内容ごとに必要な書類を提出します。
- 贈与税の申告書(第一表):暦年課税制度の申告に使用
- 贈与税の申告書(第二表):相続時精算課税制度の申告に使用
- 贈与税の申告書(第一表の二):住宅取得等資金の贈与税の非課税措置を受ける場合に使用
贈与税の納付は、納付書で税務署への申告と同時にすることも可能ですが、金融機関の窓口でも納付できます。他にもクレジットカードやインターネットバンキングでの支払いも可能です。また、e-Taxを利用していればダイレクト納付という口座振替での支払いもできます。
申告期限に遅れた場合の対処法
贈与税を期限までに申告・納付しなかった場合、次のようなペナルティが科せられます。
- 延滞税:申告期限の翌日から贈与税の納付までの期間、一定の利率に応じて加算される
- 過少申告加算税:申告した金額が納めるべき税額より少なかった場合に課せられる
- 無申告加算税:申告期限を過ぎて申告した場合に課せられる(最大15%)
- 重加算税:申告を隠蔽・仮装した場合に課せられる(最大50%)
- 刑事罰:脱税(10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金・併科の場合あり)や故意の申告書不提出(5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金・併科の場合あり)、過失による無申告(1年以下の懲役もしくは50万円以下の罰金)
もし一括納付ができない場合は、別途に利子税が課せられるものの「延納」するという方法もあります。ただし、延納を利用するには下記の要件をすべて満たす必要があります。
・納付額が10万円以上
・一括納付が難しいことを証明可能
・担保の提供(延納税額100万円以下、延納期間3年以下の場合は不要)
条件を満たした上で、納付期限までに必要書類を税務署に提出しなければなりません。
生前贈与の注意点

「将来相続する財産を、被相続人がまだ生きている間に受け取る」制度が生前贈与です。
生前贈与には注意すべき点もいくつかあります。しっかり把握した上で利用しなければ大きな税金を負担することにもなりかねません。ここでは生前贈与にあたって注意が必要なことを解説します。
相続開始前7年以内の法定相続人への贈与は相続税の対象になる
被相続人が亡くなって相続するときに課せられるのが相続税です。相続税を逃れるための生前贈与を防止するため、生前でも相続開始前7年以内の法定相続人への贈与は相続税の対象とされます。
7年以内の贈与であれば、基礎控除額以下の贈与もすべて相続財産に含まれ、相続税を逃れるためなどの意図は関係ありません。生前贈与するのであればできるだけ早くに手続きする必要があるでしょう。
双方の同意が必要
生前贈与が成立するには、贈与者と受贈者、双方の同意が欠かせません。たとえば親が子どもの名義で開設した口座に積み立てた資金も、子どもが認知していなければ贈与ではなく「名義預金」として親の財産とされます。この状態で親が亡くなった場合、口座の資金は親の財産となり、子どもが受け取るには相続するしかありません。
名義預金とみなされないためには、口座や印鑑は受贈者自身が管理したり、贈与であることを示すものを作成したり、対策が必要です。
定期贈与と判断される恐れがある
暦年贈与制度を利用すれば、1年あたり110万円まで贈与税は課せられません。しかし、だからといって毎年100万円をたとえば10年間にわたり贈与していると、この行為が定期贈与と判断される恐れがあります。
定期贈与と判断されると「贈与開始年の1,000万円の一括贈与」とみなされ、課税対象額も合計額の1,000万円となり、これから基礎控除額の110万円を差し引いた890万円に贈与税が課せられます。
このような事態を避けるには、毎年贈与するたびに贈与契約書を作成したり、贈与する時期や金額を毎年一定にしないようにしたりするとよいでしょう。
まとめ

贈与税は1月1日から12月31日までに受けた贈与金額をもとに計算できますが、金額は選択する課税方式によって異なる計算式を用います。課税方式は2種類ですが税率も控除額も異なるため、贈与の規模やタイミングなどを考慮して選ぶことが大切です。
また贈与税には、結婚や子育て、住宅購入などのための贈与には一定の軽減措置が用意されています。実際の贈与の内容や性質をきちんと把握し、適切に申告する必要があるでしょう。

監修者
宅地建物取引士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士
中川 祐一
現在、不動産会社で建築請負営業と土地・収益物件の仕入れを中心に担当している。これまで約20年間培ってきた、現場に密着した営業経験と建築知識、不動産知識を活かして業務に携わっている。
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