不動産投資における法人化のタイミングとは?メリットとデメリットも比較

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不動産投資により、年間所得の合計が一定額を超えたら、法人化を検討するタイミングです。ただし、税金面のメリットが期待できる一方で、コストがかかる点も知っておかなければなりません。

本記事では、不動産投資を法人化するメリットやデメリットを紹介した上で、法人化すべき具体的なタイミングを解説します。

ポイント

  1. 節税による所得面への効果や相続税対策になりうる点が不動産投資における法人化のメリット
  2. 一方、設立費用や維持費用などのコストがかかる点が不動産投資を法人化するデメリット
  3. 不動産投資により年間所得の合計が900万円を超えた場合が法人化を検討する1つのタイミング
目次

不動産投資の法人化とは

不動産投資の法人化とは、資産管理会社を設立し、個人ではなく法人の代表者として不動産投資することです。法人化の具体的な意味や給与所得者が法人化するときに気をつけることを確認しておきましょう。

法人化の意味

法人化とは、今まで個人事業主として行ってきた事業を、新たに設立した法人に引き継ぐことです。法人成りと表現されることもあります。

一般的な会社設立は資本金の出資のみから開始するのに対し、法人化は個人事業主として営業していた際の資産や負債も引き継いだ状態からスタートする点が異なります

2006年の会社法施行により、資本金や役員数などの面で会社設立のハードルが低くなったため、個人事業主からの法人化もしやすくなりました。

給与所得者が法人化する際に気をつけること

今まで個人で不動産投資を行っていた給与所得者が法人化を決断する場合、いくつか気をつけなければならない点があります。

たとえば、勤務先が就業規則で副業を禁じている場合、別会社の代表には就任できない可能性が高く、法人に事業を引き継がせるためには、配偶者や親族などを代表に立てるといった対策を講じなければなりません。

また、勤務先から代表就任を認められ法人化でき、役員報酬を受け取る場合、健康保険、厚生年金保険といった社会保険への加入義務が発生する点にも注意が必要です。

参考:J-Net21 従業員を雇う場合の社会保険

不動産投資を法人化するメリット4つ

個人事業主で不動産投資している方が法人化するメリットは、主に4つです。それぞれ解説していきます。

節税による所得面への効果を期待できる

個人所得と法人所得とでは、所得税の税率が異なります。所得が一定額を超えた場合、個人所得に対する税率の方が高くなります。法人化により低い税率が適用されるため、節税による所得面での効果を期待できる点がメリットです。

個人の所得税は超過累進税率が採用されており、所得が増えるほど税率が上がっていくのに対し、資本金が1億円以下の法人(2019年4月1日以降事業開始)は年800万円以下の所得部分が15%(適用除外事業者以外)、年800万円超の所得部分が23.20%の税率に統一されています。

参考:国税庁 No.2660 所得税の税率
国税庁 
No.5759 法人税の税率

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相続税対策になりうる

個人事業主として不動産投資を行っている場合、投資対象の不動産は個人で所有することになるため、投資家に万が一のことがあった際には、相続税が課される可能性があります。

一方、法人化して法人名義の不動産にしておけば、投資家が亡くなった後も会社の資産となるため相続税がかからず、相続税対策になる点がメリットです。

法人化しておけば相続税対策として不動産の生前贈与を検討する必要もありません。

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損失時の繰越期間が長くなる

青色申告の制度を適用する個人事業主は、事業所得などで発生した損失(赤字)を翌年以後3年間にわたって繰り越し、各年分の所得金額から控除できます。

法人化した場合の期間はさらに長く、10年間も繰越できる点がメリットです(2018年4月1日前に開始した事業年度に生じた欠損金額の繰越期間は9年)。

法人化して数年後に黒字化した場合に赤字の期間の損失を繰り越して通算できるため、節税につながるでしょう。

参考:国税庁 No.2070 青色申告制度
国税庁 No.5762 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除

経費計上の範囲が広がる

個人事業主の場合、事業収入から事業を行うために必要な経費を差し引いた金額に対して課税されます。一方、法人化をすると、必要経費以外に役員報酬や退職金積立分も差し引けるため、経費計上の範囲が広がり節税効果を高められる点がメリットです。

さらに、減価償却費の計上方法にも個人事業主と法人では違いがあります。減価償却とは、資産の取得に要した金額を一定の方法で各年分の必要経費として配分する手続きのことです。

個人事業主は減価償却が強制であるのに対して法人は任意のため、法人化すると決算内容に応じて減価償却する額を調整することができます

参考:国税庁 No.5202 役員に対する経済的利益
国税庁 No.5231 確定給付企業年金等に係る課税関係

国税庁 No.2100 減価償却のあらまし

不動産投資を法人化するデメリット4つ

一方で、法人化を行うことによる、デメリットも存在します。ここでは、4つのデメリットについて解説していきます。

設立費用や維持費用などのコストがかかる

法人設立には、さまざまな費用がかかります。主な設立費用は以下の通りです。

  1. 収入印紙代や登録免許税など法人設立手続きにかかる費用
  2. 名刺作成代や取引先への挨拶状作成・郵送費用
  3. 法人の実印作成費用(1万〜3万円)
  4. 設立者の印鑑証明書取得費用(数百円〜千円)
  5. 司法書士や行政書士などの専門家に依頼する際の報酬(数万円)

法人設立手続きにかかる費用については、後ほど詳しく解説します。

また、法人を設立後も、以下の維持費用がかかる点がデメリットです。

  1. 会計処理のため税理士に依頼する際の報酬
  2. 人件費(法人化にあたり人を増やした場合)
  3. 事務所の家賃や光熱費(法人化にあたり事務所を設置した場合)

不動産を長期保有すると売却時の税率が高くなる

個人が所有する不動産を売却した際に得られる所得の税率は、短期所有(所有期間5年以内)で30%、長期所有(所有期間5年超)の場合は15%です。

個人の場合、長期保有した方が売却時の税率が低くなるのに対し、法人は所有期間の長短による違いはなく一律に税金が課されるため、長期保有の場合、相対的に売却時の税率が高くなる点がデメリットです。

参考:国税庁 No.1440 譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)

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手間がかかる

法人化するには、まず法人設立の手続きを行わなければなりません。また、設立以降も決算処理など個人事業主時代には発生しなかった複雑な対応が必要なため、手間がかかる点がデメリットです。

たとえば、設立した法人が株式会社の場合、毎年事業年度終了後一定期間内に株主総会を招集して開催しなければなりません(会社法第296条第1項)。

また、株主総会終結後に遅滞なく、貸借対照表を公告しなければならないという義務も定められています(会社法第440条第1項)。

参考:J-Net21 個人事業から法人成りした場合のデメリットについて教えてください。

自由に使えるお金が制限される

個人事業主の場合、基本的に事業で得た利益を自由に使えます。一方、法人化すると法人と個人は別人格にあたるため、代表者であっても得た利益を自由に使えない点がデメリットです。

会社が大きな利益をあげたので、個人的に欲しいものを買いたいという場合も、会社の利益を自由に使うことはできません。使える金額は、あくまでも、役員報酬として得た範囲に限られます。

加えて、役員報酬は定款か株主総会決議で決められる点(会社法第361条第1項)、役員報酬が大きければ個人に課される所得税率が上がる点にも注意が必要です。

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不動産投資を法人化するタイミング

不動産投資を開始し、年間所得の合計が900万円を超えた時が、法人化する1つのタイミングです。また、まず個人事業主から始めて一定の所得を超えてから法人化するのではなく、不動産投資開始と同時に法人設立する方法もあります。

それぞれの意味を解説します。

不動産投資開始と同時

不動産投資を始める時点で、本業や他の副業で大きな収入を得ている場合、最初から法人を設立した方がよいでしょう。

不動産投資を始めると同時に法人を設立することで、個人事業主から始め、のちに法人を設立する場合と比べ、余計な手間や費用の削減ができることや、事業開始時点から対外的な信頼度を高めることができるなど、さまざまなメリットがあります。 ただし、会社設立の手続きをしなければならない点や法人名義で不動産を所有する点など、個人事業主のケースと比べると不動産投資を手軽に始めることができません

不動産投資により年間所得の合計が900万円を超えた時

個人の所得税率は、課税される所得金額が899万9,000円までの税率が23%であるのに対し、900万円からの税率は33%以上となり、法人税率23.20%(年800万円超の部分)を超えることが分かります。つまり、法人化による節税効果が期待できるのは、課税所得が900万円のあたりです。

課税所得には給与所得も含まれます。また、大幅な不動産収入を期待していても、予想通りの数字になるとは限りません。収入が900万円を超えそうだからといって、慌てて法人化をしないようにしましょう。

参考:国税庁 No.2260 所得税の税率
国税庁 No.5759 法人税の税率

不動産投資を法人化するには?

最後に、法人化の手続きや費用を解説します。

法人化の手続き

法人化する際の手続きの流れは、以下の通りです。

1.
法人登記のために、社名・本社所在地・事業目的を決めておく
2.
行政書士や司法書士に依頼し、定款の作成や公証役場での認証を進める
3.
司法書士に依頼し、法人登記申請を進める
4.
税務署に開業届や個人事業の廃業届を提出する

なお、定款とは会社の組織や運営に関する根本的な規則を定めたものです。

参考:J-Net21 定款とはどんなものですか?一から自分で作れるものですか?

法人化にかかる費用

法人化に必要な主な費用内訳は以下の通りです。

  1. 定款認証に伴う印紙代4万円(電子定款の場合は不要)
  2. 定款認証手数料3万〜5万円(資本金の額による)
  3. 謄本手数料2千円程度(1枚250円)
  4. 登録免許税15万円もしくは出資額の0.7%

専門家への報酬以外に、合計20万円以上はかかる点をあらかじめ理解しておきましょう。

参考:日本公証人連合会 公証事務
日本公証人連合会 会社の定款手数料の改定

まとめ

法人化することで、節税効果が期待できます。個人と法人の所得税率の違いから、年間所得の合計が900万円を超えた時が法人化の1つのタイミングです。

ただし、法人化には、さまざまな費用や手間がかかる点も理解しておかなければなりません。不動産投資を行っている個人事業主の皆さんは、法人化のメリット・デメリットを意識しつつ自身の収入額を把握して、法人化のタイミングを検討しましょう。

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監修者

中川 祐一

資格
宅地建物取引士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士
略歴
現在、不動産会社で建築請負営業と土地・収益物件の仕入れを中心に担当している。これまで約20年間培ってきた、現場に密着した営業経験と建築知識、不動産知識を活かして業務に携わっている。

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