老後の資金は「公的年金だけでは心配」という人も多く、退職金の運用方法の1つとして、不動産投資が注目されています。けれども、iDeCoやNISAなどと比較すると、不動産投資にはなじみがなく、なかなか始められないという人も多いでしょう。
この記事では、不動産投資の初心者に向けて、投資の始め方や注意点などを解説します。投資対象の種類ごとにメリットやデメリットも紹介するので、ぜひ実際の不動産投資に役立ててください。
ポイント
- 不動産投資は投資対象によってメリットやデメリットが違うため、自分に合った対象を選ぶことが大切
- 金融機関でのローン利用時は不正に巻き込まれないよう、事前の知識や流れをしっかり把握しておく必要がある
- 不動産投資を続けるには、信頼できる不動産会社の利用も視野に入れる
不動産投資の始め方とは?
何かを始めるときには、入念な準備をしてさまざまな事態に備えることが大切です。不動産投資では、「自分のような初心者にもできるのか」といった疑問を持つことも多いかもしれません。
ここでは、不動産投資を始めるまでの手順を10のステップに分けて解説します。
不動産投資を始めることを想定してステップごとにしっかり把握し、まずは疑問点や不明点を1つずつ解消しましょう。
まずは投資目標、ゴールを考える
まずは投資の目的を明確にし、目標やゴールを具体的に設定することが大切です。
不動産投資を始める目的は、人によって異なります。たとえば、年金だけでは暮らせないため、生活費の補填として始める人もいるでしょう。
ある人は地域に住宅が足りないことから独立した事業として、またある人は子どもや孫に残す資産として……というように、それぞれ目的があります。不動産投資の目的がぼんやりしているようなら、より具体的に、詳細に考えてみましょう。
目的が違えば必要な収入額も変わり、収入を得るための不動産投資の種類や運営方法も変わります。目的が定まれば自然と収支計画や資金計画が明確になるため、事業の運営方針が決まります。まずは自由に、不動産投資に何を求めるかを設定しましょう。
不動産投資について基本的な知識を得る
不動産投資をうまく続けるためには、不動産投資の全体像から業務や手続きの手順や注意点といった詳細までを正しく理解することが必要です。関連する法律や税金のしくみ、制度は多く、それぞれが互いに影響しあうことも少なくありません。
まずは、不動産投資にまつわる基本的な知識を得ることから始めましょう。不動産会社と投資家の間の知識や情報には、大きな格差があります。格差を埋めるには、次のような知識を得ることが大切です。
- 不動産物件を選ぶときのポイント
- 不動産投資のメリット・デメリットやリスク
- 不動産に関連する税金のしくみ
- 不動産投資に必要な融資の情報 など
これらの知識は、不動産投資関連の書籍やインターネット、不動産投資セミナーなどから得られます。まずは自分で正しく判断できるよう、不動産投資に関するリテラシーを高められるよう意識しましょう。
投資するエリアを決める
不動産投資は、物件を借りる人があって初めて成立します。どれほど上質の物件であっても、公共交通機関へのアクセスが困難なエリアや人口が少なく借り手が見込めないエリアでは、家賃収入が得られないかもしれません。
投資をする際は、物件だけでなく投資するエリアを重視し、慎重に調査・検討しましょう。
投資に適したエリアを見極める際には、次のような判断基準を用いるのがオススメです。
- 将来にわたって人口が増える傾向にあるか
- 再開発や公共事業などのプロジェクトが予定されているか
- 災害発生時に液状化現象や建物の倒壊、火災のリスクがないか など
人口の推移は、自治体のホームページに掲載されています。また災害のリスク等は、市区町村が出している「地域危険度マップ」等で確認可能です。気になるエリアが被害を受けやすいかどうか、確認してください。
不動産会社に問い合わせをする
不動産投資の目的や対象のエリアが絞り込めたら、次は実際に不動産会社に問い合わせましょう。この時点では、実際に利用する不動産会社を決める必要はありません。
むしろ、信頼できる不動産会社を見極める段階です。問い合わせに対して、真摯かつ丁寧に対応してもらえるかをチェックする目的も兼ねています。
不動産会社は、物件の契約から売買、場合によっては事業の運営まで相談できる貴重な取引先です。最初に問い合わせた会社だけに頼るのではなく、できるだけ複数の会社に問い合わせ、自分の目標に適した、対象エリアに強いものを見極める必要があります。
土地や物件を実際に見に行く
不動産会社への問い合わせと並行して、それぞれが仲介する土地や物件を実際に見に行くことも始めましょう。案内してもらう過程も、不動産会社を見極めるポイントの1つです。物件の何を、どのように評価し注目するかをチェックしてみましょう。
物件の状況を評価するには、次のようなポイントを確認します。
- モニター付きインターホンがあるか
- 壁の厚さや近隣住人の生活音が聞こえるか
- 窓やベランダの防犯性能
- キッチンやトイレなどの水回りの使い勝手
- 駐車場の数と割り当て状況
- 公共交通機関へのアクセスが情報通りか
- 周辺の道路や施設の状況 など
慣れないうちは、一度で細かいポイントまで見きれない可能性もあります。そのようなときは仲介する会社に依頼してもう一度見に行けるかどうか尋ね、その際に快く了承してくれるかどうかも会社の見極めに役立てましょう。
見に行く際に不安な場合は、チェックリストを持っていくのもおすすめです。不動産投資家Kでは不動産売買のプロが作成した購入検討チェックリストを配布しているので、こちらも積極的に活用しましょう。
物件を購入する
購入したい物件が見つかったら、もう一度慎重に検討しましょう。あまり期間が空いてしまうと、同じように物件を探している人に先を越されてしまう可能性があります。できるだけ速やかに検討し、結果を不動産会社に伝えるのが得策です。
その際、物件を購入する意思は「買付申込書の提出」によって伝えます。買付申込書は、次のような内容が記載されている書類です。
- 物件の所在地や名称
- 購入の希望金額や手付金の金額
- 予定している支払い方法
- 買付申込書の有効期限 など
この買付申込書は、購入を約束する書類ではありません。逆に、提出すれば必ず購入できるわけではないことにも、注意が必要です。買い手が複数の場合は、購入できないこともあり得ます。
売り手は、現金払いで確実に購入できる人や購入の希望金額が高い人に売りたいと考えるものです。買付申込書を提出する際は、そのような状況も加味して記入しましょう。
【事前審査】金融機関へローン(融資)の申込みをする
不動産の購入には多額の資金が必要であるため、ローンを利用するのが一般的です。不動産投資のための物件に利用できるローンは、事業用の「融資」にあたり、自分が住む家を買うときの住宅ローンとは異なります。通常、同じ金額のローンでも事業用は審査が厳しく、住宅ローンとは異なる種類の書類が必要です。
- 【融資申し込みに必要な書類】
- 購入物件で予定している収益の計画表
- 借入金額の返済予定表
- 保有している不動産の評価額がわかるもの
- その他の金融資産がわかるもの
- 身分証明書
- 源泉徴収票
この段階の申し込みは、あくまで「事前審査」であることに注意しましょう。物件購入のための融資は、次の本審査で決まります。
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売買契約の締結を行う
融資の事前審査を申し込んだら、次はいよいよ売買契約の締結です。この段階で、宅地建物取引士から重要事項の説明を受けます。締結後のトラブルを防ぐためにも、これまでの交渉の経緯や契約内容をよく確認しましょう。
内容に問題がなければ、契約書に署名・捺印し、手付金を支払って正式に契約が成立します。ただし、この時点で融資が決定しているわけではありません。そのため、「融資特約」をつけるのが一般的です。
融資特約は、金融機関での融資が承認されなかった場合には売買契約をキャンセルできる特約です。融資特約があれば、キャンセルしても手付金が戻ります。売買契約では、ぜひつけておきたい特約です。
【本審査】金融機関へローン(融資)の申込みをする
売買契約が成立したら、次は金融機関へ本審査を申し込みます。本審査の承認までにかかる期間は、通常2週間から1か月ほどです。
承認されたら、今度は金融機関とローン契約を締結します。ローン契約を締結したら、その後金利や融資期間といった条件の変更はできません。締結の前に契約内容をすべて理解して、了承しておく必要があります。
物件の引き渡しを行う
最後に、売り手と買い手、不動産会社が立ち会って、物件が引渡可能な状態かどうかを確認し、問題がなければ物件の引き渡しが行われます。
その後、代金の決済と同時に登記手続きや融資が行われ、買い手は売り手から鍵や物件に関する書類などを受け取って引き渡しは完了です。
その後、不動産投資としての運用を開始し、必要に応じて管理会社へ管理を委託したり、保険に加入したりといった手続きに入ります。
物件にすでに賃借人がいれば、慌ただしく入居者の募集や修繕の手配もありません。傷みの激しい空室があれば、個別に修繕やリフォームを検討するのもよいでしょう。
不動産投資に向いている人の特徴を3つのポイントで解説
不動産投資は、多くの人が始められる投資といえます。しかし「なかなか踏み切れない」「不安が先行してしまう」といった人も多いのが現実です。これは、不動産投資にある向き不向きが原因かもしれません。
ここでは、不動産投資に向いている人の特徴を3つあげ、それぞれの理由を詳しく解説します。
安定した収入があり余裕がある人
不動産投資を長期にわたって運用するためには、他の安定した収入があり経済的に余裕のあることが重要です。
不動産投資は、始めたその日から収入が得られる訳ではありません。慎重に準備すればおおむね順調に収益を上げられますが、事業として長期にわたる運用です。なかには災害で大きな損害を被ったり、家賃が回収できなかったり、空室によって収入が得られなかったりといったことも十分あり得ます。
資金的にギリギリの運用をしていると、ちょっとした支出にも対応できないかもしれません。とくに始めて間もない人ほど、急な支出に備え、一定の経済的な余裕は必要です。
行動力がある人
不動産投資も投資である以上、リスクがまったくない状態での運用はできません。リスクを恐れすぎると決断できず、萎縮してしまい思い切った行動ができなくなってしまいます。不動産投資を続けるには、リスクをしっかり把握して的確に対処することが大切です。
また、いくら目的に適した良質な物件を見つけても、リスクを恐れすぎると素早く判断できず収益アップのチャンスを失ってしまいます。不動産投資において良質な物件情報を幅広く得るには、インターネットや電話で調べるだけでなく、自分の足で不動産会社や物件を訪れ、実際に自分の目で見ることが欠かせません。
こうして見ると、不動産投資には何事にも前向きに、積極的に取り組む行動力のある人が向いているといえます。
冷静に物事を判断する人
不動産投資を長く運用していれば、どう対処すればいいかわからないような緊急事態が発生することもあります。しかし、不動産投資ではあらゆる事態に対して常に冷静に状況を把握し、適切に判断することが重要です。
いくら行動力が欠かせないとはいっても、考えなしに行動していてはいつ大きな損害を被っても不思議ではありません。
資金計画についても、根拠に乏しい見かけの数字に頼りすぎていないか、当初設定した目標とかけ離れた運用となっていないか、これから考えられるリスクを把握できているかなど、常に冷静に把握しいつでも対応できるよう準備しておく必要があります。
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コラム:不動産投資に向いていない人は?
不動産投資は、長期的な視点と自分で冷静に判断する力が必要です。逆に不動産投資に向きにくい人の特徴もあります。
- 人の話を鵜呑みにしてしまう、すぐに信じてしまう人
自分で物件や市場を調べて、自分で判断することが大切です。金融機関や営業マン、友人知人や専門家の言うことをそのまま信じてしまうと、自分にとって本当に良い物件かどうかを見極めることができません。情報収集だけでなく、物件購入を検討する際もぜひ自身の目で物件を見ることをおすすめします。
- 短期間での利益が欲しい人
不動産投資は長期間でのリスクとリターンのバランスに優れた投資商品です。そのため、短期間での利益が欲しい人には向いていないと言えるでしょう。
また、目先の利益を追い求めるがあまり、高い利回りや安い価格だけに惹かれて、リスクを見落としてしまう可能性もあります。そのような選び方では利益どころか損失を出すことになるかもしれないため、長期的に保有する前提で考える方が不動産投資との相性が良いです。
- 他責の人
当たり前ですが、不動産投資は自分の責任で行うものです。他責思考が強い人は、物件が空室になったり収入が減ったりした場合に、管理会社や仲介会社・借主側のせいだと考えてしまうことがあります。しかし、それでは問題の解決にはなりません。自分で原因を分析して、改善策を考えて回していくことが必要です。
以上のように、不動産投資に向いていない人は、自分で考える力や責任感が欠けています。不動産投資は決して簡単なものではありません。自分に合った物件を選び、適切な管理を行い、長期的な視点で運用することが必要です。
区分投資のメリットとデメリット
区分投資とは、区分マンション投資のことを指し、マンションの1室を所有して行う不動産投資です。
区分投資は1棟投資に比べ少ない初期費用でも始めやすく、管理の手間が少ないため、突発的な修繕の負担がないという特徴があります。
また、1室単位での所有なので、他の投資対象に比べると売却しやすく、出口戦略が立てやすいという点がメリットです。
しかし、1室単位での投資であるため、単体では空室リスクの回避が難しい点や、初期投資に対して高利回りが期待しにくい点はデメリットといえます。
また賃貸に利用できるのが建物の一室のみであるだけに建物全体の外壁塗装修繕や、入居条件変更などの自由度は低く、思うような投資がしづらい点もデメリットです。
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戸建て投資のメリットとデメリット
戸建て投資は、戸建て住宅を使った不動産投資です。戸建て住宅は新築だと購入に数千万円規模の高額な資金を必要としますが、中古だと数百万円から始めることもできることから、比較的低リスクな投資方法だといえます。
戸建て投資は少ない初期投資で始めやすいこと以外に、比較的長期の入居が期待できる、立地や周辺状況によって高利回りが期待できることがメリットです。
デメリットとしては、状態によっては初期にリフォームが必要になる場合がある点、退去時の修繕費用高額になりやすい点、空室リスクを回避しにくい点などがあげられます。また周辺状況にマイナスの変化があると売却も難しくなることもデメリットといえるでしょう。
不動産投資の初心者が気をつける3つの注意点
ここまで解説してきたポイント以外にも、不動産投資には注意すべきことがいくつかあります。どれも不動産投資に関わったことのない初心者は、とくに意識しておく必要のある重要なものです。
ここではとくに初心者が注意したい、不動産投資ならではのポイントを解説します。
不正な融資の誘い/巻き込まれ
不動産投資にまつわる不正融資関連の事件は残念ながら今も度々発生しています。不正に加担すると、なんらかのペナルティを受けるのは必須です。
最悪の場合、物件を手放すことにもなりかねないため、次のような手口には注意する必要があります。
融資の際の自己資金や年収の水増し
これは不動産業者が、ローン審査に通過するよう銀行の通帳や預金残高、源泉徴収票といった証明書類を改ざんする類の不正です。
自分が正しい資料を提出していても、知らないところで勝手に数字を変えられていたら、不正に加担したことになりかねません。
金融機関もかなり厳しく慎重に審査しますが、正しく融資を受けるためにはこのような不正もあるということを投資家自身も認識し、注意しましょう。
販売価格の水増し
売買価格が記載されている契約書について、本来の価格のものと水増しした価格のものをそれぞれ作成する不正です。
ローン契約での審査の際に金融機関には水増しした価格の契約書を提出することで、本来ならある程度の自己資金が必要となるところを全額ローンで賄えるほどの融資を引き出せます。
ローン契約に関連して見たことのない販売価格の契約書が出てきたら、その場で手続きを止め、内容をもう一度見直しましょう。
家賃収入の水増し
さまざまな手法を用いて、家賃収入が実際より多いと見せかける不正です。この手法には、賃借人と締結する賃貸借契約書やその状況が記載されている書類を改ざんしたり、家賃収入を水増ししたり、空室なのに入居していると見せかけたりといったものがあげられます。
この不正を見抜くためには、物件周辺の家賃相場や現在の入居状況を正しく把握しておくことが大切です。書類や業者からの情報だけに頼るのではなく、実際に現地を視察するなどして自分の目で現状を把握するよう努めましょう。
データで判断する
不動産物件を視察するとき、なんとなく見ているだけでは「新しい」「きれい」「便利そう」というような表面的な印象にとどまってしまいがちです。そのため、不動産投資物件として必要な評価ポイントを押さえられない可能性があります。
重要なのは、長期的に借り手が見つかりやすいかどうかです。周辺の似た物件との家賃差額や、周辺にある病院・スーパーの種類や数、駅やバス停までの距離と運行している便数、エリア全体の人口の推移など、できるだけ客観的な数字で把握し、比較しましょう。
物件にまつわる評価は、受ける印象だけでなくデータでも判断することが重要です。
不動産会社選びに気をつける
不動産投資を続けるうえで、不動産会社の果たす役割は大きいです。不動産会社が関わる物件の評価や手続の正当性、透明性などをチェックし、慎重に選ぶ必要があります。
物件を売ることで利益を得ている不動産会社は、メリットばかりを強調して買ってもらおうとするかもしれません。業者任せにせず、自分でも詳しく調べることが大切です。
まとめ
不動産投資は、初心者でも始められる投資といえます。不動産会社や金融機関、管理会社など多くの人の協力によって成立するものですが、実際に判断するのは投資をする所有者自身です。 初心者だからこそ必要な知識の習得や情報収集、投資の目的の明確化が必要であり、実際の手続きや運営には信頼できる不動産会社の見極めが求められます。 不動産投資を始めることは、大きな決断です。これから長期にわたって投資を継続するため、投資家として適切に判断できるよう、不動産投資に関する知識や情報を集め、投資のスタートに備えましょう。
監修者
宅地建物取引士
佐藤 智彦
東京・仙台を中心に、20年以上アパート・マンション建築賃貸業界に従事している。これまで500棟以上の新築アパート・マンションの企画・設計・建築・運営に携わり培ってきたリアルな知見が強み。
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