アパートで入居者死亡時の退去費用はどうなる? 遺品整理や賃貸借契約の取り扱いは?

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賃貸アパートを経営していれば、入居者の死亡は避けて通れない問題です。入居者が死亡した場合の退去費用や遺品整理の手続きなど、不安に感じているオーナーは多いでしょう。

入居者が死亡した場合の退去費用は、連帯保証人や相続人に請求できます。今回の記事では退去費用を請求できる順序や、退去費用負担のリスクを抑えるポイントについて詳しく紹介します。

ポイント

  1. 入居者が死亡した場合の退去費用は、連帯保証人や相続人に請求できる
  2. 退去費用には、未払い家賃や原状回復費用などがある
  3. 退去費用の負担を抑えるためには、保険や見守りサービスを活用する
目次

入居者死亡時の退去費用を負担する人の優先順位

アパートなどの室内で入居者が死亡した場合、原状回復費用など退去費用がかかります。保証会社へ加入している場合は、室内で入居者が死亡した場合の退去費用は保証会社が支払いますが、加入していない場合は誰かが費用を負担する必要があります。

保証会社に加入していない場合の、退去費用を請求する際の優先順位を解説します。

1.連帯保証人

保証会社に加入していない場合に、退去費用を請求する優先順位が一番高いのが連帯保証人です。連帯保証人は入居者と同様に家賃などの費用を支払う義務があるため、入居者が亡くなった場合の未払い賃料や、退去に関するさまざまな費用を負担する責任があります。

不動産オーナーにとっては連帯保証人の支払い能力の有無は、入居を決める重要な要素です。連帯保証人に十分な支払い能力があるかどうかで、費用が回収できるかどうかが決まります。

2.相続人

連帯保証人がいない場合や、連帯保証人に支払い能力がない場合は相続人に請求します。

相続と聞くと亡くなった方が持っている資産を引き継ぐイメージが強いかもしれませんが、実際には資産だけでなく、亡くなった方の債務も相続の対象です。

そのため未払いの賃料や原状回復費用などの債務についても、相続人が引き継ぎます。したがって、退去に関する費用などは、相続人への請求が可能です。

3.オーナー

連帯保証人や相続人がいない場合、あるいは相続人がいても支払い能力がない場合、相続放棄された場合もあります。このように、誰にも請求できないときはオーナー自ら負担するしかないケースも少なくありません。

退去費用の主な内訳は、原状回復費用や未払い賃料などですが、特に室内の原状回復を行わなければ、次の入居者を迎え入れることができず、賃料収入を得られません。そのためオーナーとしては、費用を自己負担してでも、早期に室内を整えるほうが損失は少ないでしょう。

入居者死亡時の退去費用の内訳

ここでは退去費用の内訳について、詳しく紹介します。

遺品整理・家財処分の費用

退去費用の中でも大きな割合を占めるのが、遺品整理や家財処分にかかる費用です。遺品整理などにかかる費用は部屋の広さによって異なり、1LDKが13万円以上、2LDKで21万円以上が目安といわれています。しかし、この金額はあくまで平均であり実際の費用は、当然荷物の量によって大きく変わります

たとえば、いわゆる「ゴミ屋敷」のように物が多い部屋であれば、費用は高くなります。また、エレベーターの有無や搬出の難易度によっても費用は変動するでしょう、さらに、特殊な処分品があれば、それだけ値段も高くなる傾向にあるため、あくまで目安の金額として理解しておきましょう。

原状回復費用(壁紙・床材など)

原状回復費用も、退去費用の中では大きな割合を占める項目です。

原状回復費用は室内の汚れや損傷の程度などによるため、亡くなった状況によっては、通常の退去の場合に比べて高額になる可能性があります。とくに孤独死などで発見が遅れたしまったケースでは、室内の汚れや臭いは簡単には取れません。

このようなケースでは、特殊清掃と呼ばれる専門業者による対応が必要となり、100万円以上の費用が発生することもあります。

退去日までの家賃

契約を解除するまでの賃料も、退去費用の1つです。解約が完了するまで毎月家賃は発生し続け、支払いがなければ未払い賃料が増え続けます。相続人が見つかるまで時間がかかったり、見つかっても対応に時間を要する場合や協力的でない場合は、未払い額が高額になってしまうケースも少なくありません。管理会社を通して連帯保証人、相続人と交渉をしていきましょう。

入居者死亡時の賃貸借契約の取り扱い

入居者が亡くなった場合でも、すぐに賃貸借契約が解除されるわけではないため賃貸借契約の取り扱いについて理解しておくことが重要です。

賃貸借契約は相続人に承継される

入居者が死亡した場合、賃貸借契約は解除されず相続人に承継されます。賃貸借契約は入居者にとっては部屋を借りる権利があるという資産であるため、ほかの資産と同様に相続人に引き継がれます。そのため、賃貸借契約を解除するには、オーナーは相続人と交渉する必要があり、一方的に契約解除はできません

相続人は民法で定められており、配偶者、配偶者の次が子ども、子どもがいない場合は親、というように優先度が決められています。相続人が複数いる場合は、誰がどの財産を引き継ぐかは遺産分割協議によって決めます。

遺産分割協議がまとまらなければ、賃借権を誰が引き継ぐか決まりません。つまり遺産分割協議がまとまるまでは解約の交渉もできないことになります。オーナーの立場からすればできるだけ早く契約を解約し、次の入居者に貸し出すために動きたいところですが、この協議で相続人が決まるまでは原状回復工事もできません。

相続人がいない場合も契約解消はできない

相続人がいない、もしくは相続放棄などで実質的に相続人がいなくなった場合は、契約を解消できる相手がいないということになり、相続財産管理人制度を利用します。相続財産管理人は家庭裁判所の許可を受け、相続人がいない被相続人の財産を管理し、最終的には国庫に帰属させる職務を担う人のことです。

ただし、この手続きの利用には、時間と費用がかかります。

入居者の死亡理由が自殺だった場合の対応

賃貸アパートで入居者が死亡してしまうと、さまざまな手続きが必要になりますが、必要な手続きの内容は死因によって異なります。中でも判断に迷うケースが多いのが、死亡理由が自殺だった場合です。

ここからは入居者の死亡理由が自殺だった場合の対応について紹介します。

自殺の場合は損害賠償の請求が可能

亡くなった原因が自殺の場合は、損害賠償請求が可能です。損害賠償を請求できる範囲は幅広く、自殺によって発生した逸失利益なども請求対象になります。

自殺による入居者の死亡が起きた場合、原状回復のための費用は通常よりも高額になりがちです。

それだけでなく、室内で自殺が発生した物件はいわゆる「事故物件」に該当します。事故物件はインターネットで誰でも確認できるため、どれだけ原状回復できれいにしても賃料低下は避けられません。この影響は自殺が発生した部屋だけでなく、アパート全体に及ぶ可能性もあります。

新居を探す際に事故物件かどうかを調べる入居者は多く、事故物件であることがわかると検討候補から外されてしまうことも多いでしょう。

このように自殺による経済的影響は大きく、オーナーにとっては大きな負担です。病気などの死因と違って自殺は入居者にも過失があるため、損害賠償することが可能です。

自殺が発生している場合は告知が必要

賃貸物件で自殺や殺人などの事件が発生した場合、次の入居者に対して告知義務が発生します。

部屋を借りる人の立場からすれば、自殺や事件があったことを知らずに借りてしまうのは、精神的負担が大きく、トラブルにつながりかねません。そのため、国土交通省のガイドラインでは、人の死に関する事案が相手方に取引の影響を及ぼす場合は、告知しなければならないと定めています。

しかし、これだけでは告知が必要かどうかは、宅建業者の判断によるところが大きいといえます。国土交通省では過去の事例などを参考に、次のようなケースでは告知が不要と定めています。

  1. 自然死や日常生活の中で不慮に発生した要因による死亡(転倒や誤嚥など)
  2. 共有部分で発生した自然死などで、発生から概ね3年が経過した後
  3. 隣接住戸や普段利用しない共用部分で発生した、自然死以外の死亡

ただし、上記のように原則として告知をしなくてよいとされた場合でも、周囲への影響が大きい場合は告知が必要とされています。周辺住民や社会への影響を考えると、自殺の告知はしっかりと行う必要があるといえるでしょう。

参考:国土交通省  「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を策定しました

退去費用負担のリスクを抑えるポイント

賃貸経営において入居者死亡リスクは避けられませんが、入居者死亡による退去費用を抑えることは可能です。ここからは退去費用を抑えるためのポイントを紹介していきます。

定期的な物件巡回を行う

入居者死亡による退去費用を抑えるためのポイントの1つが、定期的な物件巡回です。退去費用を抑えるためには、入居者の死亡にできるだけ早く気付くことが重要です。発見が遅れるほど室内の汚れや臭いもひどくなり、特殊清掃などの費用が高額になる恐れがあります。

そのため、普段から物件巡回を行い、異常がないかチェックすることが重要です。郵便ポストに郵便物やチラシが溜まっていないか、ドアノブや窓に異常がないかなど、普段と違う点がないかを注意して巡回しましょう。また、室内から異臭がないかも、注意して確認しましょう。

管理会社に管理を委託しているのであれば、定期的な巡回を行ってもらうようにしっかりと依頼しましょう。入居者の異変に早めに気づくことで、退去費用を抑えられます。

孤独死保険に加入する

オーナー向けの孤独死保険に加入しておくのも、退去費用を抑えるためには有効です。孤独死保険は、入居者が孤独死してしまった場合の原状回復費用や未払い家賃などを補填してくれる保険です。入居者の孤独死によって発生する損失をカバーできるため、高齢者の入居者が多いアパートを所有しているオーナーは加入を検討する価値があるでしょう。賃料が下落してくると、生活保護受給者やご高齢の方の入居も増加していきます。

保険料の負担はありますが、安いものであれば1部屋あたり月額数百円で加入できる保険もあります。賃料が安いアパートであっても、無理なく加入できます。

見守りサービスを利用してもらう

見守りサービスを利用するのも、退去費用を抑えるためのポイントの1つです。見守りサービスとは警備会社などさまざまな会社が行っているサービスで、家族の安否を24時間365日体制で見守ってくれたり、緊急時に警備会社への連絡を連絡ができたりするサービスです。

たとえば室内の生活導線にセンサーを設置して、一定時間動きがない場合は「異常」として連絡し、すぐにスタッフが駆けつけてくれるなどのサービスがあります。退去費用を抑えるためには、孤独死などの異変にできるだけ早く対応することが重要です。

見守りサービスを利用することで入居者の異変にすぐに気づけるため、孤独死の発見が遅れてしまうといった事態を防げます。

まとめ

賃貸経営を行ううえで、入居者の死亡リスクは避けられません。とくに高齢の入居者が多い物件では、室内での死亡リスクは高まります。入居者が死亡した場合、発見が遅れてしまうと、特殊清掃が必要になるケースもあるでしょう。

連帯保証人や相続人に支払い能力があれば問題ありませんが、オーナーが費用を負担せざるを得ない場合もあります。少しでも退去費用を抑えるためには、定期的な巡回を行ったり、保険や見守りサービスを活用したりするといった対策が有効です。

賃貸経営を安定的に行っていくためにも、ぜひ活用するようにしましょう。

監修者

宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士

長谷川 憲一

20年以上にわたり不動産業界に従事。中古物件の仕入れ販売、賃貸管理業務、マンスリーマンション事業の立ち上げ、リーシング事業の立ち上げなどに携わる。現在は、幅広い経験と知識を生かし、プロパティマネジメント・アセットマネジメントを担っている。

監修者

宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士

久保田 克洋

不動産業界に20年以上従事。賃貸管理を中心に管理受託業務・売買仲介・民泊運営を担った幅広い知識と経験をベースに、現在はプロパティマネジメント・アセットマネジメントを担っている。

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