賃貸用不動産の相続税評価額における5年ルールとは? 〜オーナーが知っておきたい影響と実務ポイント〜

カテゴリ
特集記事 
タグ
税金  オススメ  人気  資産運用  水野崇 

不動産投資家K

B!

2026年度税制改正大綱で、不動産オーナーが見落とせない論点のひとつが、賃貸用不動産の相続税評価額に関する見直しです。

これまで賃貸用不動産は、相続税評価額を抑えやすい資産として活用される場面も多くありました。土地は路線価、建物は固定資産税評価額をベースに評価され、さらに賃貸されている場合には、貸家建付地や貸家として一定の評価減が見込まれることがあります。物件によっては、購入価額を大きく下回る相続税評価額になるケースもありました。

しかし今後は、相続開始前の短い期間に取得・新築した不動産について、従来と同じ感覚で評価差を見込んだ節税対策は難しくなる可能性があります。

今回取り上げるのは、いわゆる「5年ルール」です。

すでに物件を持っているオーナーがどの情報を整理しておくべきか。これから相続対策として不動産取得を検討する場合、どこに注意すべきか。現時点でわかる範囲から、実務上のポイントを見ていきます。

目次

取得・新築から5年以内の賃貸用不動産は、評価方法が変わる可能性がある

取得日・新築日の扱いが、これまで以上に問われる

5年ルールを考えるうえで押さえておきたいのは、単に「賃貸用不動産を持っているかどうか」が問題になるわけではないという点です。焦点になるのは、取得または新築の時期、取得した人、対象となる不動産の内容です。

財務省の「令和8年度税制改正の大綱」では、貸付用不動産の市場価格と相続税評価額との乖離の実態を踏まえ、相続税等の財産評価を見直す方向が示されています。

具体的には、被相続人等が課税時期前5年以内に、対価を伴う取引により取得または新築した一定の貸付用不動産について、課税時期における通常の取引価額に相当する金額で評価するとされています。

ここでいう「課税時期前5年以内」とは、相続開始などのタイミングからさかのぼって5年以内という意味です。相続が近い段階で賃貸マンションを購入したり、アパートを新築したりした場合、従来の相続税評価額だけを前提にした対策は取りにくくなる可能性があります。

大綱では、課税上の弊害がない限り、取得価額を基に地価の変動等を考慮して計算した価額の80%相当額で評価できる方向も示されています。大まかにいうと、亡くなる前の5年以内に取得・新築した一定の賃貸不動産については、従来の路線価評価や固定資産税評価を前提にした評価差を見込みにくくなる、ということです。

相続直前に財産の形を変えて評価差を得るような短期対策については、今後、より実態を重視して判断される流れが強まっていくと見られます。

5年を過ぎれば安心、とは言い切れない

5年ルールという言葉からは、「5年を超えていれば問題ない」「5年以内ならすべて不利」といった単純な理解になりがちです。しかし、実務上はそこまで一律に判断できるとは限りません。

現時点では、税制改正大綱で方向性が示された段階です。適用は、令和9年1月1日以後の相続等により取得する財産からとされています。ただし、大綱では「一定の貸付用不動産」とされており、具体的にどのような物件が対象になるのかは、今後の法令や通達、評価実務を見ながら判断していく必要があります。空室がある物件や、親族に貸している物件などは、今後の実務で扱いを確認したいケースといえます。

相続税評価では、取得時期だけでなく、取得の経緯、取得資金、借入れの有無、賃貸の実態、家族間の合意など、複数の要素が関係します。取得の日や新築の日がどの時点を起点として扱われるかによって、5年ルールとの関係が変わる可能性もあります。

「うちの物件は大丈夫だろう」と感覚で判断するのではなく、自分の不動産が今回の5年ルールとどう関係するのかを押さえておきたいものです。

既存オーナーは、取得時期・名義・取得資金を確認する

物件ごとの契約日・引渡し日・建築時期を整理する

すでに賃貸用不動産を保有しているオーナーは、物件ごとの取得時期や新築時期を把握しておきましょう。制度改正というと、つい「対象になるか、ならないか」に意識が向きがちです。しかし5年ルールでは、相続開始などの課税時期からさかのぼって、取得または新築の時期がひとつの判断材料になります。

複数の物件を保有している場合、物件ごとの状況が異なることも少なくありません。相続対策として近年取得した物件もあれば、以前から長く保有している物件もあるでしょう。

それぞれの不動産について、契約日、引渡し日、建築時期、登記情報などを一覧化しておくことが出発点になります。購入した物件であれば売買契約書や引渡し関係の書類、建物を新築した場合は工事請負契約書、検査済証、引渡し書類などが手がかりになります。

物件ごとの取得時期や新築時期をまとめておくと、5年ルールとの関係をつかみやすくなり、将来の相続対策全体を見直す際にも役立ちます。

名義と取得資金は、書類でたどれるようにしておく

次に見ておきたいのが、誰の名義で取得した不動産で、取得資金をどのように用意したかという点です。親名義で購入した物件なのか、子どもや法人との共有名義なのか。購入資金についても、自己資金、金融機関からの借入れ、親子間の資金移動など、整理すべき点があります。

名義や取得資金の経緯は、相続税評価だけでなく、将来の承継や遺産分割にも関係します。不動産の取得・新築時に親子間で資金のやり取りがある場合などは、それが贈与なのか、貸付なのか、単なる立替えなのかが後から問題になるケースも少なくありません。

売買契約書や登記簿、借入れに関する書類、通帳の入出金記録などをそろえておけば、誰の資金で、誰の名義で取得した不動産なのかを後から説明する際の根拠になります。

賃貸用不動産として扱われる以上、実際の賃貸状況も見落とせません。入居状況、空室期間、賃貸借契約の内容、管理会社との契約、家賃の入金状況などを整理しておくことで、収益物件としての運用実態もたどりやすくなります。

新たに取得するなら、節税効果より収益性と出口を優先する

家賃収入で返済・維持管理が回るかを見極める

これから賃貸用不動産の取得を検討する場合は、これまで以上に慎重なシミュレーションが欠かせません。販売資料や提案書のなかで、相続税評価額の圧縮効果が大きく強調されているケースでは、なおさらです。

もちろん、相続税評価額の考え方を押さえること自体は必要です。しかし、税制改正によって評価方法の前提が変わる可能性がある以上、過去のルールをもとにした節税効果をそのまま前提にするのは慎重に考えたほうがよいでしょう。

大綱では、一定の貸付用不動産について、課税時期における通常の取引価額に相当する金額で評価する方向が示されています。また、課税上の弊害がない限り、取得価額を基に地価の変動等を考慮して計算した価額の80%相当額で評価できることも示されています。

これは、「相続税評価額が大きく下がる」という従来型の説明とは異なる評価の考え方です。そのため、「相続税評価額が下がるから」という理由だけで物件を取得するのではなく、まずは基本的な収支を見たうえで判断したいものです。

家賃収入で返済や維持管理をまかなえるか。空室や修繕費をどの程度見込むか。金利が上昇した場合にも無理なく保有を続けられるか。こうした点を押さえておくことが、節税効果だけに偏らない判断につながります。

相続人が持ち続ける場合と売却する場合を想定する

不動産は、取得して終わりではありません。固定資産税、管理修繕に伴う費用、入退去時の原状回復、住宅設備の更新など、取得後にも継続的なコストがかかります。

相続をきっかけに物件を引き継いだ人は、その後も通常の賃貸経営として管理していくことになります。そのため、取得前の段階で、相続人が持ち続ける場合と、将来売却する場合の両方を想定しておくと、判断の軸がぶれにくくなります。

築年数が進んだときの修繕負担、エリアの賃貸需要、売却時の流動性などは、早い段階で整理しておきたいポイントです。出口の見通しが不十分なまま取得すると、相続税評価額を抑えるつもりが、相続後に管理や売却で苦労することになりかねません。

不動産取得では、「節税効果があるか」だけでなく、家賃収入、修繕負担、借入返済、将来の売却可能性まで含めて、無理のない計画かどうかを考えておく必要があります。

まとめ:賃貸用不動産の相続税評価額における5年ルールは、長期の資産設計へ移るサイン

賃貸用不動産の相続税評価額における5年ルールを、単純に「不動産を使った相続対策ができなくなる」と受け止める必要はありません。不動産を使った相続対策そのものを否定するものではないからです。

ただし、相続直前の評価差だけに頼る対策については、これまで以上に慎重に見られる流れになっています。

不動産を相続対策に活用するなら、取得時期だけでなく、保有目的、引き継ぐ人、管理を続けられる体制まで含めて考える必要があります。長期的な家賃収入を得るための物件なのか、土地活用の一環なのか、相続人に収益資産を残すためのものなのか。目的が変われば、選ぶ物件も、借入れの組み方も、保有期間も、相続人への説明の仕方も変わります。

税制改正大綱は、あくまで今後の方向性を示すものです。具体的な実務判断については、今後の法令や通達、評価実務を見ながら、税理士などの専門家と相談して進めることになるでしょう。

不動産オーナーは、税制の変化を追うだけでなく、取得時期や賃貸の実態、取得資金の経緯まで含めて、自分の物件が家族にとって引き継ぎやすい資産になっているかを見直すタイミングに来ています。

参考:財務省 「令和8年度税制改正の大綱」
国税庁「No.4602 土地家屋の評価」 「No.4614 貸家建付地の評価」

執筆者

1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP®認定者、宅地建物取引士

水野 崇

水野総合FP事務所代表。東京理科大学理学部卒業。相談、執筆・監修、講演・講師、取材協力、メディア出演など多方面で活躍する独立系ファイナンシャルプランナー。テレビ朝日「グッド!モーニング」、BSテレ東「マネーのまなび」などに出演。NHK土曜ドラマ「3000万」の家計監修を担当。学校法人専門学校東京ビジネス・アカデミー非常勤講師。一般社団法人相続・事業承継コンサルティング協会会員。

<保有資格>1級ファイナンシャル・プランニング技能士|CFP認定者|宅地建物取引士|日本証券アナリスト協会検定会員補|証券外務員1種 ほか

【URL】https://mizunotakashi.com/

不動産投資家Kでは無料相談を承っております!

不動産投資家Kとその仲間たちでは、「土地を相続する予定だけど、どうすれば良いか検討している」「管理が大変なので、土地を売却したいと思っている」など、土地・建物のさまざまなご相談を承っております。

あなたやあなたの家族の大切な資産を有効に活用できるよう、お気軽にご相談ください!

関連記事

土地を生前贈与した場合にかかる税金は?節税対策や相続との比較

土地の生前贈与は、相続税対策や相続時のトラブル防止に有効な手段のひとつです。ただし、贈与税や登録免許税、不動産取得税など複数の税金が発生するため、事前に理解が欠かせません。 本記事では、土地の生前贈与でかかる税金や相続との比較、節税対策ができる控除や特例、土地を生前贈与するメリット・デメリットなどを解説します。 ポイント 土地の生前贈与では、贈与税・登録免許税・不動産取得税がかかる 基礎控除や特例...

不動産(土地・家屋)の遺産相続に必要な手続きは?相続登記の流れもチェック

不動産(土地・家屋)を遺産相続した場合、名義変更だけでなく、相続人の確定や遺産分割、相続税の申告など、さまざまな手続きが必要です。手順を間違えたり対応が遅れたりすると、相続人同士のトラブルや相続登記の遅れ、相続税の申告漏れなどにつながります。 本記事では、不動産の遺産相続に必要な手続きや不動産の分割方法、相続登記の流れなどを解説します。 ポイント 不動産の遺産相続は、相続人の確定や遺産の評価など所...

2026年度税制改正大綱で、不動産オーナーが押さえたい3つの変化

2026年度(令和8年度)税制改正大綱では、基礎控除や年収の壁など、家計や給与まわりの制度変更が注目を集めました。一方で、NISAの制度改正の方向性など、資産形成に関わる論点も含まれています。不動産分野でも、賃貸用不動産の相続税評価の見直し、不動産関連商品をめぐる動き、住宅・不動産周辺税制の延長など、不動産オーナーにとって見逃せない内容が盛り込まれました。 不動産投資は、目先の利回りや税負担だけで...

土地活用の相談はどこにする?土地活用の種類別相談先とパートナーの選び方

ただ所有しているだけの土地にも固定資産税は課せられます。しかし、土地をうまく活用すれば、それらの費用をまかなえるばかりか利益が得られるかもしれません。 本記事では、土地を活用しようとするときの相談先とその選び方を解説します。所有する土地に適した活用法を見つけるため、ぜひ参考にしてください。 ポイント 土地活用の相談では、事前に相談先に何を求めるのか整理しておくことが重要 土地活用の相談先は多く、活...

新NISAは、枠を“埋める”より“整える” 開始2年で見えてきた資産配分の新常識

新NISAが始まって2年が過ぎました。制度開始当初は、まず始めること自体が大きなテーマでした。いまはそこから一歩進み、このままの配分で続けてよいのかを考える段階に入ってきています。 現在の新NISAは2024年1月1日に始まった制度で、つみたて投資枠と成長投資枠を併用でき、非課税保有期間は無期限です。年間投資枠は合計360万円、非課税保有限度額は総枠1,800万円へと広がり、従来のNISAよりも長...

新NISAか、不動産投資か 〜金利のある世界で考える資産形成の組み合わせ〜

新NISAがスタートして一定の時間が経ち、資産形成を考える中で「まず新NISAか。それとも不動産投資か」と迷う人が増えています。 デフレと超低金利が続いた時代には、融資を活用した投資や事業運営が広がりましたが、インフレの進行により金融環境は「金利のある世界」へと移行しつつあります。 預金や国債といった低リスク資産でも利息が得られる現在、金融資産のリスクとリターンの考え方は大きく変わりました。同時に...

不動産投資はフルローンで組める?フルローンを利用するポイントや注意点などについて解説

フルローンとは、不動産を購入するにあたってかかる費用を、すべて金融機関の融資でまかなうことです。 フルローンを利用すると頭金がない人でも希望の物件を購入できる可能性が広がりますが、キャッシュフローが出にくくなる、金利の上昇の影響を受けやすくなるなどのリスクも存在する点に注意が必要です。また、利用には、一定以上の金融資産を有している、不動産投資ですでに成功していることなどがあげられます。 本記事では...

家賃収入には確定申告が必要?課される税金と申告方法の流れ

確定申告とは、1年間の所得に対する納税額を計算して申告、そして実際に納税するまでの一連の手続きのことです。アパート経営による所得が20万円を超えた場合は、必ず確定申告をしなければなりません。 本記事では、アパート経営をするうえで知っておきたい、確定申告の基本的な知識をはじめ、確定申告が必要な場合、そして必要ない場合について解説します。 ポイント 不動産所得が20万円を超える場合、確定申告が必要 確...

土地のみの固定資産税は高い?計算方法と5つの節税対策

土地にかかる固定資産税は、住宅が建っている土地に比べて更地の方が高くなります。住宅が建っている土地には住宅用地の軽減措置が適用されるためです。宅地を更地のままにしている人は、不動産投資などで住宅を建築することで固定資産税の節約になる場合があります。 本記事では、土地のみの場合の固定資産税の計算式や計算方法、節税方法を解説します。 ポイント 更地の固定資産税は、住宅用地の特例が適用できないため住宅が...

不動産投資の種類14選!メリット・デメリットや選び方

不動産投資の種類は数多く、それぞれ特徴や収益を得る仕組みが異なります。また、不動産投資の目的は「収入の増加」「相続税対策」「インフレ対策」「老後のための資産形成」の大きく4つに分けられます。どの目的を重視するかによって最適な投資方法は変わるため、慎重な選択が必要です。 この記事では、14種類の不動産投資の特徴やメリット・デメリットを解説します。 ポイント 不動産投資の主目的は「収入の増加」「相続税...