
不動産の生前贈与は、相続とは異なり、自分で財産承継をコントロールたり、相続時のもめごとを防ぐ効果が期待できます。ただし、贈与税は相続税よりも課税負担が大きい傾向があり注意が必要です。
本記事では、不動産を生前贈与するメリットやデメリット、税金対策について解説します。

ポイント
- 生前贈与の大きなメリットは、財産承継をコントロールできること
- 贈与税の負担は、相続税よりも大きくなる傾向がある
- 相続開始7年以内の贈与や定期贈与に注意が必要
不動産を生前贈与するメリット

生前贈与は、自分が生きている間に意思決定ができるため、相続よりも能動的に財産の移転が可能です。
相続による移転との違いを理解し、自分に適した方法を検討する必要があります。
まずは、不動産を生前贈与するメリットについて解説しましょう。
財産承継をコントロールできる
不動産を生前贈与することで、自分の意思で財産の行き先を決め、スムーズな承継が実現可能です。
通常、相続では民法で定められた相続分に従って財産が分配されます。しかし、生前贈与であれば、特定の人に特定の不動産を贈与することが可能です。
たとえば、「長男に自宅を、長女に別荘を」といったように、自分の希望に合わせて財産を分配できます。
相続では、相続人同士の話し合いがまとまらず、不動産を共有することになるケースも少なくありません。不動産の共有は、売却や改築などの際に全員の同意が必要となるため、後々トラブルに発展する可能性があります。しかし、生前贈与であれば、共有状態を避けられるでしょう。
さらに、生前贈与は、相続人以外への財産承継も可能です。たとえば、事実婚のパートナーに財産を残したい場合は、生前贈与により確実に意思を反映させられます。
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相続税の節税効果が得られる
生前贈与は、相続税の節税対策となる場合もあります。
相続税は、相続開始時の財産の総額に対して課される税金です。そのため、生前に財産を贈与することで、相続財産の総額を減らし、相続税の負担を軽減できる場合があります。
たとえば、所有する土地を生前に贈与しておけば、相続発生時の財産から切り離せます。生前贈与を行わないと、相続発生時の評価で相続税を計算するため、もしこの土地が値上がりしていた場合には、相続税の負担が大きくなります。
相続時精算課税制度による控除を受けられる
生前贈与の際には、相続時精算課税制度による控除を受けられるため、贈与税の負担を軽減できます。
相続税は、一般的には暦年課税という課税方法で計算しますが、相続時精算課税制度とよばれる課税方法もあります。相続時精算課税制度を利用すると、2,500万円までの贈与に対する贈与税が非課税になり、2,500万円を超えた部分は、一律20%の贈与税が課されます。
ただし、相続時精算課税制度では、贈与された財産は相続が発生した際に相続財産として扱われ、相続税が課せられます。つまり、この制度では、贈与税から相続税へと課税タイミングを繰り延べる効果があるのみで、贈与した財産が完全に非課税となるわけではありません。
相続時精算課税制度は、60歳以上の親や祖父母が18歳以上の子や孫に対して贈与を行うことが適用の条件です。
また、一度この制度を選択すると、その贈与者(贈与をする人)と受贈者(贈与を受ける人)の間では、以降の贈与についてもすべて相続時精算課税制度が適用され、一般贈与に戻ることはできません。
なお、相続時精算課税制度を利用した財産は、贈与時点の評価で相続税の計算をします。
贈与後に財産の価値が上昇した場合には、相続税の評価額が抑えられ、相続税の節税効果が期待できるでしょう。また、2024年1月に改正になった基礎控除新設の点もあわせて検証していく必要があるでしょう。
参考:国税庁 No.4103 相続時精算課税の選択
収益不動産であれば家賃収入を受贈者に移転できる
アパートやマンションなど収益不動産を生前贈与する場合、贈与と同時に家賃収入を受贈者に移転できます。
生前贈与であれば、贈与した時点で家賃収入が受贈者に移転するため、相続発生を待つことなく、受贈者が家賃収入を得られます。
家賃収入を受贈者に移転することで、受贈者はその収入を自身の生活費や将来のための資産形成に充てられます。
また、贈与者にとっては自身の所得が減るため、将来の相続財産の増加を防ぐことができるのみならず、所得税の節税効果も期待できるでしょう。
手続きが短期間でできる
不動産を生前贈与する場合、相続と比べて手続きが短期間で完了するというメリットがあります。
相続の場合、相続が発生してから、相続人確定や遺産分割協議、相続登記などさまざまな手続きが必要となります。これらの手続きには、通常、数か月から1年程度かかるケースが多いです。
一方、生前贈与の場合は、贈与契約を締結し、贈与税の申告と納税、不動産の登記手続きを行うことで完了します。これらの手続きは、早ければ1カ月程度で完了できるでしょう。
相続に比べて手続きが簡素で、短期間で完了するため、贈与者と受贈者の負担を軽減できます。
また、生前贈与であれば、贈与者が元気なうちに手続きを進めることができるため、手続きがスムーズに進みやすいというメリットもあるでしょう。
争続や認知症の対策になる
生前贈与は、将来発生する可能性のある相続争いや、贈与者が認知症になった場合のトラブルの対策としても有効でしょう。
相続では、遺産の分配方法をめぐって相続人同士で争いが起きることがあり、「争族」などといわれることもあります。相続争いは、家族関係の悪化や多大な時間と費用を要するなど、深刻な問題を引き起こします。
生前贈与を行うことで、財産の行き先を明確化すれば、相続争いのリスクを低減できます。
また、もしも贈与者が認知症になった場合、判断能力が低下し、自分の財産を適切に管理できなくなってしまい、たとえば老後資金のための不動産売却などが難しくなる可能性があります。
しかし、意思が明確なうちに不動産を贈与しておけば、贈与者が認知症になったとしても、受贈者が、贈与された不動産を自由に処分や活用が可能です。
生前贈与のデメリット

ここまでメリットを説明してきましたが、生前贈与にはデメリットも存在します。
不動産の移転を検討する際には、税金の負担がどれほどになるのかは、多くの人にとって重要な要素でしょう。税制面で生前贈与と相続を比較した場合には、生前贈与の税負担の方が大きくなる傾向があります。
ここからは、生前贈与のデメリットとして、贈与税や不動産取得税、登録免許税がかかる点について解説しましょう。
贈与税がかかる
不動産生前贈与のデメリットには、贈与税がかかる点があげられます。贈与税は、贈与によって財産を取得した人に課せられる税金です。
贈与税の税率は、贈与額に応じて10%から55%まで段階的に上がります。最高税率の55%が適用される基礎控除後の課税価格は、一般贈与で3,000万円超、特例贈与で4,500万円超となります。
一方、相続税の税率も10%から55%まで段階的に上がります。ただし、最高税率の55%が適用される資産評価は6億円超です。
つまり、贈与税の方が相続税よりも、適用される税率が高くなる傾向があります。
そのため、高額な不動産を贈与する場合には、相続税で支払うよりも多額の贈与税が発生する可能性があります。
参考:国税庁 No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)
国税庁 No.4155 相続税の税率
不動産取得税や登録免許税がかかる
不動産を生前贈与する場合、贈与税以外にも、不動産取得税や登録免許税といった税金が発生します。
不動産取得税は、土地や建物を取得した際に課税される都道府県民税です。土地の場合の税率は固定資産税評価額に3%を乗じた金額となります。しかし、相続による取得の場合には不要です。
一方、登録免許税は国税で、不動産の所有権移転登記など、登記を申請する際に課税されます。税率は不動産の価額によって異なり、たとえば土地の場合は固定資産税評価額に2%を乗じた金額です。しかし、相続による移転の場合は、税率は0.4%になります。
そのため、生前贈与では、相続に比べて不動産取得税や登録免許税の負担が大きくなるでしょう。
参考:総務省 不動産取得税
国税庁 No.7191 登録免許税の税額表
生前贈与と相続の違い

生前贈与と相続の大きな違いは、財産の移転時期と手続きの方法です。
生前贈与は、贈与者が生きている間に、自分の意思で受贈者に財産を無償で譲渡することです。贈与者は、誰にどの財産を贈与するかを自由に決められます。
手続きとしては、贈与契約を締結し、贈与税の申告や納税、そして不動産の登記を行う必要があります。
一方、相続とは、被相続人が亡くなった後に、その財産を相続人が法律で定められた相続分に従って引き継ぐことです。
相続人は、被相続人の配偶者や子などの親族が対象になり、相続人確定や遺産分割協議、相続登記などの手続きが必要です。
贈与税と相続税の違い
生前贈与と相続では、かかる税金の種類が異なります。生前贈与は贈与税、相続は相続税の対象です。
課税の対象となるタイミングは、贈与税が贈与を受けた年、相続税は相続が発生した年に課税されます。税率もそれぞれ異なります。
また、贈与税の計算には2種類あり、直系尊属(父母・祖父母)から18歳以上(贈与を受けた年の1月1日時点)の受贈者が贈与を受けた場合は特例贈与となり、一般贈与とは税率が異なります。
特例贈与の贈与税の税率は次の通りです。
基礎控除後の課税価格 | 贈与税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 0.1 | - |
400万円以下 | 0.15 | 10万円 |
600万円以下 | 0.2 | 30万円 |
1,000万円以下 | 0.3 | 90万円 |
1,500万円以下 | 0.4 | 190万円 |
3,000万円以下 | 0.45 | 265万円 |
4,500万円以下 | 0.5 | 415万円 |
4,500万円超 | 0.55 | 640万円 |
一般贈与贈与の贈与税の税率は次の通りです。
基礎控除後の課税価格 | 贈与税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 0.1 | - |
300万円以下 | 0.15 | 10万円 |
400万円以下 | 0.2 | 25万円 |
600万円以下 | 0.3 | 65万円 |
1,000万円以下 | 0.4 | 125万円 |
1,500万円以下 | 0.45 | 175万円 |
3,000万円以下 | 0.5 | 250万円 |
3,000万円超 | 0.55 | 400万円 |
一方、相続税の税率は次の通りです。
法定相続分に応ずる取得金額 | 相続税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 0.1 | - |
1,000万円超から3,000万円以下 | 0.15 | 50万円 |
3,000万円超から5,000万円以下 | 0.2 | 200万円 |
5,000万円超から1億円以下 | 0.3 | 700万円 |
1億円超から2億円以下 | 0.4 | 1,700万円 |
2億円超から3億円以下 | 0.45 | 2,700万円 |
3億円超から6億円以下 | 0.5 | 4,200万円 |
6億円超 | 0.55 | 7,200万円 |
また、控除の内容も異なり、贈与税には、年間110万円の基礎控除があります。一方、相続税の基礎控除額は、「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」です。
生前贈与を検討するケース

これまで説明してきたように、生前贈与にはメリットとデメリットがあり、状況に合わせて最適な選択をする必要があるでしょう。
しかし、一般的に生前贈与をした方がよいと考えられるケースがいくつか考えられます。
生前贈与を検討する代表的なケースを紹介します。
収益不動産の場合
収益不動産を所有している場合、生前贈与を検討するメリットが大きくなります。
収益不動産は、家賃収入を得られるため、贈与することで受贈者は安定した収入源を確保できるようになります。贈与税の納税資金の一部を、家賃収入から捻出することもできるでしょう。
また、収益不動産には贈与税がかかりますが、毎月入ってくる家賃に贈与税はかかりません。
特に、若いうちに贈与することで、長期間にわたって家賃収入を得ることができ、将来の資産形成に役立ちます。
将来価値が高くなる可能性がある不動産の場合
将来、値上がりが見込まれる不動産は、生前贈与を検討する価値があります。
不動産の価値が上昇した場合、相続時に多額の相続税が発生する可能性があるでしょう。しかし、生前に贈与しておけば、贈与時の低い評価額で財産を移転できるため、相続税の節税につながります。
たとえば、再開発が予定されている地域や駅周辺の土地などは、将来的な値上がりが期待できるでしょう。このような不動産は、早いうちに贈与しておくことで、将来の相続税負担を軽減できる可能性があります。
また、相続時精算課税制度を利用すれば、贈与後に不動産の価値が上昇した場合でも、贈与時の価額で相続税を計算可能です。将来的な値上がりを見据えて、相続時精算課税制度を利用するのも有効な手段でしょう。
争続の懸念がある場合
相続人同士の関係が悪化している場合や、相続財産をめぐって意見が対立している場合は、相続争いに発展する可能性があります。このような争続リスクを避けるために、生前贈与を検討するのも1つの方法です。
生前贈与では、贈与者が自分の意思で財産の行き先を決定できます。特定の相続人に特定の財産を贈与しておくことで、相続時のトラブル軽減につながります。
不動産の生前贈与で相続税が発生しない場合

前述した相続時精算課税制度を利用して不動産を生前贈与した場合でも、一定の条件を満たせば相続税が発生しないケースがあります。
まず、相続時精算課税制度を利用して贈与した不動産の価値が、基礎控除額より低い場合です。
相続税には基礎控除額があり、相続財産の総額が基礎控除額以下であれば、相続税はかかりません。基礎控除額は、「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」で計算されます。
また、「配偶者控除の特例制度」を利用した場合も、相続税が発生しない可能性があります。
配偶者控除の特例制度とは、婚姻期間が20年以上の夫婦が、居住する住宅の贈与をした場合、2,000万円まで贈与税を控除できる制度です。控除額の範囲内の生前贈与であれば、将来の相続税は発生しません。
参考:国税庁 No.4155 相続税の税率
不動産の生前贈与で注意しておきたいこと

不動産の生前贈与を行う場合は、贈与と相続のタイミングや契約書の作成、定期的な贈与など、注意しておくべき点がいくつかあります。
これらの注意点を理解していないと、生前贈与を行ったにもかかわらず相続財産として加算されてしまうことや、親族間や税務署とトラブルになる可能性があります。
不動産の生前贈与で注意しておきたいことを、4つ紹介します。
相続開始前7年以内の贈与の場合
生前贈与は、相続税の節税対策として有効ですが、相続開始前7年以内の贈与については注意が必要です。
相続開始前7年以内に贈与した財産は、相続財産に加算され、相続税の課税対象となります。
相続対策として生前贈与を行っても、すぐに相続が発生してしまうと相続税がかかってしまうでしょう。
なお、2023年の税制改正により、相続開始前3年以内だった贈与財産の加算期間が、7年以内に延長されました。これは、2024年1月1日以降の贈与から適用されます。
参考:国税庁 No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)
国税庁 令和5年分贈与税の申告のしかた【お知らせ】令和6年分の贈与から贈与税・相続税の計算方法が変わります!(PDF)
贈与契約書の作成
不動産を生前贈与する際は、贈与契約書を作成しておくことが重要です。贈与契約書は、贈与者と受贈者の間で、贈与に関する合意内容を明確にするための書面です。
口約束でも贈与は成立しますが、後に相続が発生したときや納税するときにトラブルが発生する可能性があります。贈与契約書を作成することで、贈与の事実や内容を明確に記録し、将来のトラブルを予防できるでしょう。
贈与契約書には、贈与する不動産の内容、贈与の時期、贈与の条件などを記載します。
贈与契約書の作成は、専門的な知識が必要となる場合もあるため、弁護士や司法書士などの専門家に相談することも選択肢です。
生前贈与と相続との比較
不動産を誰かに譲りたいと思った時、生前贈与と相続のどちらの方法が良いのか、それぞれのメリットとデメリットを比較し最適な方法を選択しましょう。
生前贈与のメリットは、財産の行き先をコントロールできる点や相続税の節税効果が期待できる点、手続きが比較的短期間で済む点などがあげられます。
一方、デメリットとしては、贈与税や不動産取得税などの税金が発生する点があげられるでしょう。
相続のメリットは、相続税の基礎控除額が大きいため、税負担が軽くなる可能性がある点があげられます。
デメリットとしては、財産の分配が法律で定められた相続分に従うため、自分の意思を反映できない点や、相続人同士で争いが起こる可能性がある点などが考えられるでしょう。
定期贈与の場合課税対象になる
毎年、あるいは定期的に同じ金額の贈与を繰り返す場合、「定期贈与」とみなされ、贈与税の課税対象となる可能性があります。
通常、110万円以下の贈与であれば、年間の基礎控除額の範囲内であるため贈与税はかかりません。
しかし、定期贈与の場合、将来受け取る権利を贈与したとみなされ、贈与の総額に対して贈与税が課税されることがあります。
たとえば、毎年100万円ずつ10年間贈与する契約を結んだ場合、1回あたりの贈与額は110万円以下であっても、贈与総額の1,000万円に対して贈与税が課税される可能性があります。
定期贈与とみなされないためには、贈与の都度、贈与契約書を作成し、贈与の意思表示を明確にしておくことが重要です。また、贈与する金額や時期を毎回変えることも有効でしょう。
定期贈与の判断は、専門的な知識も要するため事前に税理士のような専門家に相談することをおすすめします。
まとめ

不動産を配偶者や子どもなどの親族に譲る方法に、生前贈与があります。
生前贈与は、自分の意思で財産の行き先を決められるため、スムーズな不動産の移転を実現できるでしょう。
また、贈与のタイミングや相続時精算課税制度の活用などにより、節税できる可能性がある点や、争続や認知症の対策になる点もメリットです。
一方で、贈与税の税率は相続税と比較して、財産評価が少額でも高税率が適用されるため、税負担が大きくなる傾向がある点がデメリットといえます。
不動産の生前贈与を行う場合には、7年以内の贈与は相続財産に加算される点や贈与契約書でトラブルに備える点、定期贈与とならないように対応する点などに注意が必要です。
生前贈与のメリットとデメリットを理解して、状況に合わせた不動産移転を実現しましょう。

監修者
宅地建物取引士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士
中川 祐一
現在、不動産会社で建築請負営業と土地・収益物件の仕入れを中心に担当している。これまで約20年間培ってきた、現場に密着した営業経験と建築知識、不動産知識を活かして業務に携わっている。
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