不動産を家族信託する方法は?メリット・デメリットや注意点、手続きの流れ

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不動産の家族信託とは、信頼する家族に不動産の管理・運用を任せることです。家族信託することで、所有者の判断能力が低下しても不動産を管理・運用でき、将来の相続や承継に備えることができます。

一方で、契約作成や登記手続きには手間や費用がかかり、受託者の負担も生じるなどの注意点を把握しておくことも重要です。

本記事では、不動産を家族信託するメリットや手続きの流れ、おすすめの人などについて、わかりやすく解説します。

ポイント

  1. 不動産の家族信託とは、不動産の管理・運用を家族に託し、将来の承継や相続に備える仕組み
  2. 不動産を家族信託することで、将来の承継や相続トラブルを防止できる
  3. 不動産の家族信託はデメリット・注意点も把握して慎重に進めることが大切
目次

不動産の家族信託とは?

不動産の家族信託とは、所有する不動産を信頼できる家族に託し、管理・運用・相続までをスムーズに行う仕組みです。将来の相続トラブルや認知症対策として注目されています。

ここでは、家族信託の仕組みや不動産の家族信託が注目されている背景を解説します。

家族信託の仕組み

家族信託とは、保有する財産の管理や運用を信頼できる家族に託すことで、財産の活用や承継を柔軟に行える制度です。仕組みは主に、以下の三者で構成されます。

委託者 財産を委託する
受託者 財産を管理・運用する
受益者 財産から生まれる利益を受け取る

家族信託では、財産の「名義」、「実際の管理」、「利益の受け取り」を分けて取り扱います。これにより、委託者が元気なうちから信頼できる家族に財産の管理を任せることができ、受益者はあらかじめ定められた権利に基づき利益を受け取れます。

また、将来、委託者の判断能力が低下した場合でも、受託者が契約に沿って財産を適切に管理・運用できるため、認知症対策や相続トラブルの防止にも役立ちます。

さらに、信託契約の内容によっては、複数世代にわたる財産承継や遺言書の代替としても活用可能であり、家族の財産管理に柔軟性と安心を与える制度です。

不動産の家族信託が注目される背景

不動産の家族信託が注目される背景には、認知症の問題があげられます。内閣府が公表したデータによれば、2022年から2023年にかけて実施した調査において、2022年における65歳以上の認知症高齢者は約443万人、MCI(軽度認知障害)の高齢者は約559万人と推計されました。

また、性・年齢階級別の有病率が一定であると仮定すると、2040年には認知症は約584万人、MCIは約613万人に増えると見込まれています。

認知症などで判断能力が低下した場合、本人名義の不動産を売却・賃貸・修繕するといった管理が難しくなるのが実情です。

こうした状況に対応するため、信頼できる家族に財産の管理・運用を託し、柔軟に不動産を活用しながら本人の生活や資産を守る仕組みとして、家族信託が注目されています。

高齢化や認知症への対策として成年後見制度も選択肢の1つですが、手続きが煩雑で資産運用の自由度が低いといった問題があり、家族信託の活用に関心が高まっています。

参考:内閣府 令和6年版高齢社会白書

不動産を家族信託するメリット

家族信託により、信頼できる家族に不動産の管理・運用を任せながら、将来の認知症対策や相続トラブルの回避が可能になります。所有者の意思を尊重しつつ、財産を柔軟に活用できる点が大きなメリットです。

ここでは、不動産を家族信託することで得られる主なメリットを紹介します。

成年後見制度に代わる柔軟な財産管理ができる

不動産の家族信託は、柔軟な財産管理ができる点がメリットです。家族信託と同じく財産管理を任せる方法に成年後見制度(法定後見・任意後見)がありますが、手続きの負担が大きく、運用にも制約が多いという課題があります。

一方、家族信託であれば、元気なときから信頼できる家族に資産の管理や処分を託すことが可能です。

まだ元気なうちは本人の指示に基づいた財産管理を行い、判断能力を喪失したあとも、本人の意向に沿った財産管理をスムーズに継続できる点が大きなメリットです。

成年後見制度と家族信託の違い

成年後見制度と家族信託は、次のような違いがあります。

項目 家族信託 成年後見制度
開始時期 元気なうちから開始できる ・法定後見:判断能力が低下してから開始
・任意後見:判断能力の低下前に契約するが、発効は低下後
主な担い手 受託者 (家族など信頼できる人) 後見人 (親族または専門家)
手続き 信託契約書を作成すれば開始できる 家庭裁判所の関与が多く、手続きが複雑
財産管理 運用・売却・賃貸など柔軟に対応可能 資産運用に制約が多く、基本は保全が中心
対応できる財産 信託契約で指定した財産のみ 原則としてすべての財産
財産承継 契約で次世代以降の財産承継を指定できる 財産承継は制度の本来の目的には含まれていない

家族信託は、本人に判断能力がある段階で契約を結び、家族へ財産管理を任せられる柔軟な仕組みです。

これに対し、成年後見制度は判断能力が低下したあとに法的な手続きで開始され、家庭裁判所の管理下で必要最小限の財産管理を行います。あくまで本人(被後見人)の利益を守ることが優先となるため、後見人が行えるのは財産の維持・保全が中心です。

財産を売却したり処分したりといった大きな判断は、原則として簡単には行えません。また、現行では成年後見人は一度就任すると途中で辞任することができず、長期的な関わりが前提となります。

家族信託では、積極的な資産運用や相続を見据えた承継計画まで含め、自由に設計できる点が大きな特徴です。

参考:厚生労働省 成年後見はやわかり

判断能力が低下しても不動産を売却できる

家族信託では、本人の判断能力が低下したときも不動産を売却できる点がメリットです。

家族信託を利用していない場合、親が認知症で判断能力を失うと、売買契約そのものが成立しないため、たとえ家族が必要だと考えても不動産を売却できません。結果として、施設入居費や生活費にあてたい場合でも、不動産を売却できず困るケースが多くみられます。

しかし、家族信託であれば、不動産の名義は受託者に移るため、本人の判断能力の低下に左右されず、事前に決めた目的に沿って売却や資金化が可能です。これにより、将来の資金確保や柔軟な不動産活用を実現できます。

管理は任せて不動産収入を得られる

家族信託を活用すれば、不動産の管理は受託者である家族に任せながら、これまで通りその不動産が生み出す収益を受け取ることができます。

たとえば、自分を委託者兼受益者とし、信頼できる親族を受託者に指定しておけば、賃貸物件の管理・契約・修繕などの実務を自分で行う必要はありません。

受託者が日常の管理を担う一方、賃料収入は受益者である本人に入る仕組みとなるため、負担を減らしながら安定した収入を確保できます。

高齢になって管理が難しくなっても、継続的に収益を受け取れる点が大きなメリットです。

遺言書の代わりとして機能する

家族信託は、契約書の中で委託者の死亡後に信託財産を誰に引き継ぐかを明確に指定できるため、遺言書の代わりとして活用できます。

通常、遺言書がなければ相続人同士で分配方法を協議する必要がありますが、家族信託では生前に委託者が希望する承継方法を詳細に決めておけるため、相続時の混乱やトラブルを大幅に減らすことが可能です。

また、遺言書と異なり、家族信託は財産の管理や運用のルールも同時に設計できる点が特徴で、死亡後の承継先だけでなく、承継までの過程や条件も柔軟に定められます。そのため、家族構成や資産状況に合わせたオーダーメイドの承継計画を実現できる点がメリットです。

不動産共有によるトラブルを未然に防止できる

家族信託を活用すれば、相続後にありがちな「不動産の共有」によるトラブルを未然に防止できます。信頼できる家族の中から1人を受託者として指定しておくことで、不動産の管理・運用・処分を一元的に任せられるためです。

家族信託がなく共有名義になると、売却や修繕などの手続きに相続人全員の同意が必要になり、意見の相違から手続きが進まないケースも少なくありません。家族信託では、受託者が契約内容に基づき不動産を柔軟に扱えるため、こうした合意形成の負担を避けられます。

また、委託者に相続が発生した場合でも、不動産の承継方法や管理方針が事前に決められているため、相続人の手続きや調整の負担が大幅に軽減される点もメリットです。

孫の代まで承継先を決められる

家族信託は、配偶者や子どもへの一次相続だけでなく、その次の世代である孫やひ孫といった2代先、3代先と複数世代にわたる承継先まで、あらかじめ契約の中で指定できる点が大きな特徴です。

通常の相続制度では、一度の相続ごとに遺言書を用意したり、次世代が改めて相続手続きを行ったりしなければなりません。しかし、家族信託であれば、生前に将来の承継順序を長期的に設計できるため、世代ごとの受益権の承継者をコントロールできます。

複雑な家族構成の場合や、特定の人へ確実に財産を残したい場合などでも柔軟に対応でき、世代間のトラブルや意図しない相続分散を防ぐ効果も期待できます。

家族の将来を見据えた、安定した資産承継プランを構築できる点がメリットです。

ただし、信託法で定められた30年ルールには注意が必要です。信託開始から30年が経過したあとに行われる受益権の承継は1回のみになり、それ以降は承継されません。

万が一の倒産時にも資産を分離して保全できる

家族信託には、委託者や受託者が将来的に破産したり、信託とは無関係の債務を抱えたりしても、信託財産が巻き込まれない「倒産隔離機能」が備わっています(信託法23条・25条)。

倒産隔離機能とは、信託によって預けられた財産は委託者、受託者いずれの財産からも独立して存在するため、その財産に対して債権者が差し押さえを行うことができない仕組みです。

たとえば、受託者が事業に失敗して負債を抱えても、信託された不動産や預金は受託者個人の財産とは扱われないため、信託契約で定めた目的どおりに保全されます。

この機能により、長期的な資産管理や家族への承継を考える際にも、予期せぬトラブルから財産を守れるため安心です。

不動産を家族信託するデメリット

不動産を家族信託で管理することには多くのメリットがありますが、一方で契約書の作成や税務対応などの手間、費用負担、受託者への負担といったデメリットも存在します。導入前には、これらの注意点を十分に理解することが重要です。

ここでは、不動産を家族信託する主なデメリットを紹介します。

手続きの手間がかかる

不動産を家族信託の対象とする場合、手続きの手間が通常の家族信託よりも増える点に注意が必要です。

不動産を信託財産とするには、信託登記に加えて所有権移転登記などの登記手続きを行う必要があり、契約の開始時だけでなく、契約内容を変更した場合や信託を終了する際にも同様の手続きが求められます。

これらの登記手続きは専門知識が必要で、場合によっては司法書士への依頼やそのための費用も発生します。契約前に手続きの流れや必要書類、費用などを十分に確認し、計画的に進めることが大切です。

家族信託契約を結ぶ費用が発生する

家族信託を設定する際には、契約書の作成や登記手続きなど、さまざまな費用が発生します。信託の設計や運用方法について専門家に相談する場合は、コンサルティング費用も必要です。

そのため、家族信託にかかる費用について、事前に把握しておくことが大切です。

家族信託の組成に必要な費用

家族信託の組成にかかる費用は、具体的な手続きに必要な費用と、コンサルティングにかかる費用に分けられます。

手続きに必要な費用

・信託契約書の公正証書作成にかかる費用
・不動産登記にかかる費用 登録免許税
・信託口口座開設にかかる費用

コンサルティングにかかる費用 ・税務・法務の相談料
・家族信託の設計・コンサル費用
・信託契約書の作成支援にかかる費用

手続き費用として発生するのが、公正証書作成費用や信託登記に必要な登録免許税です。契約書は必ず公正証書にしなければならないというわけではありませんが、基本的には公正証書での作成が好ましいとされています。私文書よりも公正証書のほうが、契約の信頼性を高めるためです。

また、家族信託した財産を管理するための専用口座である「信託口口座」を作る際には、公正証書による信託契約書を求められるケースが一般的です。

不動産を信託財産に含める場合は、信託登記や所有権移転登記が必要となり、司法書士への依頼料や、登記に必要な登録免許税が費用の大部分を占めます。

また、信託用の銀行口座の開設や、住民票・登記事項証明書の取得などの細かな費用も必要です。

家族信託の相談や各種手続きを専門家に任せる場合は、これらの実費に加えてコンサルティング料金が発生します。

家族信託は契約内容が将来の財産管理を左右するため、委託者の目的、財産内容、家族構成などに合わせた慎重な設計が欠かせません。そのため、設計・契約書作成・税務面のアドバイスなどを専門家に依頼することが一般的です。

専門家によるコンサルティング費用は、家族信託の内容や対象となる資産の規模によって幅があります。

手続きに必要な費用は信託財産額(固定資産税評価額)の1.5〜2%程度、コンサルティングにかかる費用は、信託財産の1%程度(最低報酬額が設定されていることもあり)が目安となります。

制度を正しく活用するためには、事前に費用の内訳を理解し、必要な支援の範囲を明確にしておくことが重要です。

受託者の負担が大きくなる

家族信託では、実際に財産の管理や運用を行うのは受託者であり、役割には多くの責任と義務が伴います。受託者は信託契約に基づき、財産の管理・運用・処分を適切に行わなければなりません。信託財産は、自己の財産と区別して扱う必要があります。

また、賃貸不動産であれば、契約管理や修繕対応、税務申告などの事務作業も発生します。

さらに、契約内容や法律に従わなかった場合には受託者が損害賠償責任を負う可能性もあるため、精神的・実務的な負担が大きくなるでしょう。

受託者に不動産の管理能力が求められる

家族信託で不動産を管理・運用する場合、受託者には単に信頼できるかどうかだけでなく、実務的な管理能力も求められます。特に賃貸物件の場合、受託者は、賃貸契約の管理や修繕手配、税務申告など不動産に関するさまざまな業務を適切に行う必要があり、契約内容や法律に従った運用が求められます。

そのため、信頼できる家族の中にこうした管理能力を持つ人物がいなければ、家族信託を適切に運用することは難しくなるでしょう。

受託者の能力が不足していると、管理ミスやトラブルが発生するリスクもあるため、受託者選びは慎重に行う必要があります。事前に必要な知識や経験を確認し、必要であれば、専門家の支援を受けることをおすすめします。

節税対策にはならない

家族信託は、あくまで財産の管理や承継をスムーズに行うための仕組みであり、直接的な節税対策にはなりません。信託契約そのものに税金を軽減する効果はないため、節税だけを目的に導入することは適さないでしょう。

ただし、法律や税務に精通した専門家の助言を得て信託を組成することで、結果的に相続税や贈与税の負担を抑えられる場合があります。

家族信託は主に資産管理・承継の柔軟性を高める制度であり、節税は副次的に得られることもあると考えておいたほうがよいでしょう。

家族信託を行う際の注意点

家族信託は財産管理や相続対策に有効ですが、導入の際は信託目的の明確化や受託者の権限範囲を具体的に定めることなど、いくつか注意すべきポイントがあります。

ここでは、導入前に把握しておきたい注意点を解説します。

契約内容の目的を明確にする

家族信託を行う際は、契約書に記載する内容を明確に定めることが重要です。契約書は信託の「設計図」として機能し、信託の目的、受託者の権限、財産の管理・運用方法、信託の終了条件などを具体的に規定します。

特に「何のために信託を行うのか」という信託目的は、契約全体の方向性を決める重要な要素です。信託目的が曖昧だと、受託者の判断に迷いが生じたり、契約の趣旨と異なる運用が行われたりする可能性があります。

契約内容を詳細に設計することで、将来のトラブルを防ぎ、意図した通りに財産を管理・承継できます。専門家の助言を受けながら、慎重に目的と条項を定めることが大切です。

受託者の権限範囲を具体的に定める

家族信託では、受託者に与える権限の範囲を具体的に定めることが重要です。受託者が行える管理・運用・処分の範囲を明確に規定しておかないと、必要な手続きを行えず信託の目的が達成できない場合があります。

一方で、権限を広く与えすぎると、財産の濫用やトラブルのリスクが高まるでしょう。そのため、受託者が円滑に信託財産を管理できる程度に権限を設定しながら、契約書で具体的な範囲や制限、承認手続きなどを明記することが大切です。

適切な権限設定は、信託の運用の安全性と透明性を確保するうえで欠かせません。

状況の変化を考慮した条項を盛り込む

家族信託の契約内容は、原則として委託者・受託者・受益者の全員の合意がなければ変更できません。そのため、将来の状況変化に柔軟に対応できる条項をあらかじめ盛り込む必要があります。

たとえば、受託者の交代や信託財産の一部変更、受益者の生活状況の変化に応じた対応などを想定しておくことで、契約後に起こりうるトラブルや運用上の制約を最小限に抑えることができるでしょう。

状況変化に対応できる条項を設計することで、信託契約を長期的に安定して運用し、委託者の意向を確実に反映させることが可能です。

不動産を家族信託する手続き

不動産を家族信託する際には、契約書の作成や登記手続きなど複数のステップを踏まなければなりません。信託契約の設計から不動産の名義変更まで、手順を理解して準備することが、スムーズな運用につながります。

ここでは、不動産を家族信託する手続きについて、順を追って解説します。

家族信託の目的と内容を決める

不動産を家族信託する手続きを始めるにあたり、まずは信託の目的と内容を家族間で十分に話し合うことが必要です。どの不動産を信託財産とするのか、受託者や受益者は誰にするのか、財産の管理・運用・処分の方法はどうするのか、といった具体的な事項を明確にします。

全員が内容を理解し、納得したうえで信託契約を結ぶことで、トラブルや誤解を防ぎ、円滑な運用が可能です。

特に不動産は価値が大きく、家族間の意見の相違が影響しやすいため、事前の合意形成と契約内容の共有が重要なステップとなります。

専門家に相談する

不動産を家族信託の対象とする場合、契約書の作成や信託登記、所有権移転登記などの手続きには専門的な知識が必要になり、自力で進めるのは難しいのが実情です。

信託契約の条項設計や税務上の取り扱いも含め、法的・実務的な判断を誤るとトラブルや余計な費用が発生する可能性があります。

そのため、専門家に相談しながら手続きを進める必要があるでしょう。専門家の助言を受けることで、信託契約の内容を適切に設計でき、登記手続きも正確に行えます。

その結果、家族信託の目的である財産管理や承継を円滑に実現でき、将来のトラブル防止にもつながるでしょう。

家族信託の手続きの依頼先

家族信託の主な相談先としては、次のような専門家があげられます。

  1. 弁護士:信託契約の設計や法的リスクの確認を行う
  2. 司法書士:契約書作成や登記手続きに詳しい
  3. 税理士:税務上の影響や最適な税負担を検討できる

不動産の管理だけであれば、これらの専門家だけでも対応可能ですが、将来的に不動産を運用したい場合は、運用の専門知識を持つ不動産会社に依頼するのもよいでしょう。具体的な運用方法や収益化の相談にも的確なアドバイスが期待できます。

どの専門家に依頼するか迷ったときは、家族信託コーディネーターに依頼する方法もあります。家族信託コーディネーターとは、家族信託の活用を検討する人に対して、信託契約の設計から手続きの流れまでを総合的にサポートする専門家です。

弁護士、司法書士、税理士などの各分野の専門家と連携しながら、家族の状況や財産内容に応じた最適な信託内容を提案します。特に不動産をはじめ複雑な財産を対象とする場合、家族信託コーディネーターが入ることで、手続きの漏れやトラブルを防ぎ、スムーズに信託を組成できるのがメリットです。

必要書類を揃える

家族信託を設定する際には、契約書作成や登記手続きをスムーズに進めるため、必要書類をあらかじめ揃えておくことが重要です。書類が揃っていないと手続きが遅れたり、契約内容に不備が生じたりする可能性があります。

家族信託全般で必要になる書類と、不動産を信託財産とする場合に追加で必要となる書類は異なるため、以下の通り整理して準備すると安心です。

【家族信託全般で必要な書類】

  1. 委託者・受託者・受益者の本人確認書類(運転免許証・マイナンバーカードなど)
  2. 印鑑証明書(委託者および受託者)
  3. 信託契約書(専門家作成を推奨)
  4. 財産目録(現金、預金、有価証券など信託財産の一覧)
  5. 委託者の家族関係がわかる資料(戸籍謄本/抄本、住民票など)

【不動産を信託財産とする場合の登記関連書類】

  1. 信託対象不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)
  2. 固定資産税評価証明書
  3. 受託者の印鑑証明書
  4. 委託者・受託者の実印
  5. 信託登記申請書および登記原因証明情報
  6. 所有権移転登記が必要な場合は、登記申請書や必要書類一式

これらの書類を事前に整理しておくことで、契約書作成や登記手続きがスムーズに進み、円滑な財産管理・承継を実現できます。

信託契約書を作成・公正証書で締結する

家族間で話し合って決めた内容をもとに、信託契約書を作成します。信託の目的や受託者の権限、財産の管理・運用方法など、契約の基本事項を記載する書類です。

信託契約書における書面の指定はありませんが、公証人による公正証書で作成することで法的な証拠能力や証明力が格段に高まり、有効性を示すことができます。

家族信託は長期にわたる財産管理や承継に関わるため、公正証書による締結はトラブル防止や第三者への証明のためにも効果的で、安心して信託を運用するための重要な手段といえるでしょう。

不動産の管理体制を整える

信託契約書を作成したあとは、実際に不動産を管理・運用していくための体制を整えます。まず、分別管理の義務があるため、信託財産をほかの資産と明確に区分する家族信託専用の信託口口座等の開設が必要です。これにより、信託財産の動きが一目で確認できるため、収支を適切に管理できます。

さらに、不動産を信託財産として扱うために、登記上の名義を受託者へ変更する登記手続きを行います。賃貸物件の場合は、賃貸契約や家賃口座の変更などもあわせて確認しておくと安心です。

これらの準備を整えることで、信託契約に沿ったスムーズな管理・運用ができ、将来的なトラブルや相続時の混乱を防止できるでしょう。

不動産の管理・運用を開始する

不動産の管理体制が整ったら、受託者は実際に財産の管理・運用を行います。受託者は、委託者から託された不動産を信託契約で定められた規則に沿って扱わなければなりません。

賃貸物件の管理や修繕の手配、必要に応じた売却や契約更新などを行い、日々の収支管理も適切に行うことが求められます。

これらを契約通りに運用することで、信託の目的である財産の保全や収益確保、将来の承継計画を実現できるでしょう。

家族信託した不動産にかかる税金

家族信託を設定した不動産には、委託者・受託者・受益者のそれぞれに税金が課される可能性があります。

ここでは、家族信託した不動産に関わる税金の種類について解説します。

委託者

家族信託そのものによって、委託者に新たな税金が発生するわけではありません。しかし、委託者が受益者となる「自益信託」と、委託者と受益者が異なる「他益信託」では、委託者にかかる贈与税の扱いが異なります。

自益信託の場合、委託者自身が利益を受けるため財産の移動はなく、贈与税は発生しません。

これに対して、他益信託では、信託財産から生じた利益が委託者から別の受益者に移転することになり、贈与とみなされて受益者に贈与税が課される可能性があります。

受託者

家族信託で不動産を受託者名義に変更すると、所有権が移転するため、受託者に登録免許税と固定資産税が発生します。また、建物火災保険の加入なども必要です。

まず、信託財産として不動産を登記する際には、登録免許税が必要です。これは、不動産の所有権移転や信託登記の際に国に納める税金で、登記簿上の所有者である受託者が納付します。

信託財産として不動産の名義が受託者に移るため、固定資産税の納税通知書も受託者のもとに届きます。ただし、受託者は、あくまで委託者から託された財産を管理・運用する役割を担う立場であり、形式的な所有者にすぎません。

自益信託であれば運用によって得られる利益は受益者に帰属するため、登記上の所有者であっても実質的には名義だけの場合が多く、固定資産税を受託者が負担することは不都合な場合もあるでしょう。

そのため、不動産を家族信託する際には、固定資産税を誰が実際に支払うのかについて、事前に家族間で確認しておく必要があります。

受益者

家族信託における受益者は、信託財産から生じる利益や財産の移転に応じて、次のような税金が課される可能性があります。

  1. 贈与税
  2. 相続税
  3. 譲渡による所得税
  4. 所得税・住民税

まず、信託設定時に委託者から第三者に受益権が移る場合は、贈与税がかかることがあります。また、委託者の死亡時に信託財産が受益者に帰属する場合は、相続税の課税対象になるでしょう。

さらに、信託財産の不動産を売却した場合には、売却益に対して譲渡所得税が発生します。

家賃収入など信託財産から利益を得た場合は、受益者の所得として所得税や住民税の対象となります。

家族信託では受益者に関わる税金の種類が多岐にわたるため、事前に税務上の影響を確認しておく必要があるでしょう。

家族信託した不動産を売却する方法

家族信託で管理している不動産を売却する場合、手続きは信託契約に売買条項が定められている場合と定められていない場合で異なります。売却の際は信託契約の条項を確認し、契約内容に沿った手続きが必要です。

ここでは、家族信託した不動産を適切に売却するための手順や注意点について解説します。

信託契約に売買条項が定められている場合

信託契約で受託者に不動産の売買権限が付与され、信託登記の登記簿にもその旨が記載されていれば、受託者は不動産の売却手続きを進めることが可能です。

売却方法には、不動産そのものを売却する場合と、信託財産に対する受益権を譲渡する場合の2通りがあります。

不動産自体を売却する

信託契約に不動産の売却条項が明記されている場合、売主は受託者になり、受託者は契約内容に沿って不動産を第三者に売却できます。売買契約の締結や重要事項の確認、登記の移転などは受託者が行い、売却代金は信託財産として管理されます。

売却手続きは契約の範囲内で行われなければならず、受益者の利益を損なわないように適正な価格で売却することが重要です。

不動産にかかる受益権を売却する

信託財産である不動産自体を売却せず、受益権だけを第三者に譲渡する方法もあります。受託者は不動産の管理・運用を継続しながら、受益者が得る権利を譲渡するという流れです。

売主は受益者になり、譲渡契約に基づき、受益権を売却する対価として不動産の売買代金に相当する金銭を受け取ります。受託者は、利益の分配方法に変更があることを信託記録に反映させなければなりません。

不動産の所有権は受託者のままであり、固定資産税や登記上の手続きは従来通り受託者が対応します。この方法は、不動産自体を売却せずに、現金化や権利移転を行える柔軟な手段として利用されます。

信託契約に売買条項が定められていない場合

信託契約に不動産の売買に関する条項が定められていない場合、受託者は契約上の権限を持たないため、信託財産である不動産を自由に売却することはできません。

売買条項の定めがない場合に不動産を売却したいときは、まず家族信託契約の内容を見直し、売買権限を追加する必要があります。

また、登記上も信託財産としての名義や権限の記録が変更されていないと、法的に売却手続きを進められません。

そのため、契約書と登記内容を適切に修正し、受託者が信託の目的に沿って安全に不動産を売却できる体制を整える必要があります。

不動産が抵当権付きの場合

不動産に抵当権が設定されている場合、抵当権が残ったままでは売却できません。売却したい場合は、まずローンを返済して抵当権を抹消する必要があります。家族信託をしていても、抵当権の債務者はあくまで委託者のままであるため、繰上げ返済や残債の処理は委託者と受託者が連携して行う必要があります。

委託者が認知症などで判断能力を失っている場合は、単独での返済手続きはできず、成年後見制度や特別代理人の関与が必要になることもあります。

信託をしていても、抵当権付き不動産の売却には事前準備と慎重な手続きが不可欠です。

不動産の家族信託がおすすめの人

不動産の家族信託は、特に以下のような人におすすめです。

  1. 不動産の収益化と相続準備を同時に進めたい人
  2. 不動産相続で家族間の争いを防ぎたい人
  3. 高齢になっても不動産の管理に支障が出ないようにしたい人
  4. 不動産を子や孫にスムーズに引き継ぎたい人

不動産の家族信託は、賃貸物件や一棟所有の不動産など、相続時に分割が難しく、管理や運用に契約や手続きが必要な財産を持つ人に特に適しています。

家族信託を利用することで、所有者である本人が不在でも、受託者が契約に沿って運用や管理を継続できる体制を作れるため、入居者への影響を最小限に抑えながら資産を守ることができます。

一方で、不動産の管理が簡単な場合や、信頼できる家族がいないもしくは管理の能力が不足している場合、契約や登記の手間や受託者の負担を考えると、家族信託は必ずしも適していません。小規模な資産や短期的な運用目的の不動産では、通常の所有や売却方法で十分なこともあります。

まとめ

家族信託は、不動産の管理・運用や収益の確保、相続や承継の柔軟化など多くのメリットがあります。しかし、契約や登記の手間、受託者の負担、税務面の確認など、デメリットや注意点があることも把握しておく必要があります。

信託の目的や受託者の権限、税金の扱いを明確にし、必要な書類や専門家のサポートを整えたうえで手続きを進めることが、トラブルを避け、安全に家族信託を活用するためのポイントです。

監修者

宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士

久保田 克洋

不動産業界に20年以上従事。賃貸管理を中心に管理受託業務・売買仲介・民泊運営を担った幅広い知識と経験をベースに、現在はプロパティマネジメント・アセットマネジメントを担っている。

監修者

宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士

石塚 佳穂

新卒で不動産会社に入社後、一貫して賃貸管理業務に従事。オーナーが所有する物件の価値向上に取り組み、実務経験を積んできた。現在は、セミナーやキャンペーンの企画・立案など、マーケティング業務にも携わっている。

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