資産運用の土台をつくる「アセットアロケーション」入門

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今回から、ファイナンシャルプランナーの水野崇氏のコラムがスタート。不動産投資をはじめ、富裕層が実践する多様な資産運用の実例を交えながら、知っておきたい最新の運用手法や考え方をわかりやすく解説していただきます。

目次

貯蓄から投資へ

2024年末時点の家計の金融資産残高は前年比で4%増え、過去最高の2,230兆円(2024年第4四半期の資金循環・速報/日本銀行)を記録しました。株価の回復を背景にした株式や投資信託の時価上昇、円安進行による外貨建て資産の円換算額の増加で、保有資産全体が押し上げられています。

構成比の内訳をみると、「現預金」が50.9%と過半数を占めており、リスク性資産の「株式等」が13.4%、「投資信託」は6.1%。振り返れば、2024年は新NISA(少額投資非課税制度)元年として、多くのメディアで取り上げられたのは記憶に新しいところです。

金融庁によると、NISA口座は2024年12月時点で2,560万口座を突破し、2024年単年の買い付け額は過去最大。年間投資枠の上限額が従来よりも引き上げられた効果は大きく、金融資産残高の前年比較では「株式等」が9.5%増え、「投資信託」は27.4%増加。リスク性資産への資金流入が目立つ一方で、「現預金」の増加率は0.6%に留まっています。これらの数字からも、政府が推し進める貯蓄から投資への流れが、さらに広がりを見せていることが伺えます。

投資ではリターンにばかり目を向けがちですが、リスクについて気になる方も多いでしょう。投資におけるリスクとは、「危険」という意味ではありません。一般的には、「リターンの振れ幅」の大きさを表します。資金を一つの投資対象に集中させるのではなく、複数の投資先に分散してリスクを低減させ、全体でのリターン向上を目指す必要があります。

そこで、投資で重要な役割を果たす「アセットアロケーション」について確認してみましょう。

参考:日本銀行 資金循環統計(速報)(2024年第4四半期)
金融庁 NISA口座の利用状況に関する調査結果の公表について

アセットアロケーションの基本概念

アセットアロケーションとは、資産(アセット)の配分(アロケーション)を意味し、運用資金を複数の資産クラス(株式、債券、投資信託、外貨など)に分散して保有することで、リスクとリターンのバランスを最適化する戦略です。個別の銘柄選定の優劣よりも、「どの資産クラス」に「どれだけの割合」を投じるかが、最終的な運用成績を左右するという研究結果もあります。

たとえば、国内外の株式と債券はそれぞれ異なる値動きの特徴を持っており、組み合わせることによって全体の価格変動リスクを抑えつつ、リターンを底上げすることが期待できます。経済環境が変化しても複数の資産クラスを保有しておけば、一部の下落を他の上昇が補う可能性が高まるため、大きなリスクを負わずに安定した運用が目指せます。

この分散投資の考え方は、日本の公的年金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)など、長期運用を前提とする機関投資家にとって特に重要です。時間軸が長ければマーケットのサイクルを捉えやすくなる反面、大きな下落局面も必ず経験します。そのリスクを最小化しながら資産を伸ばすために、長期的な観点から各資産クラスの保有割合を定め、定期的なリバランスで最適な状態を保つことが欠かせません。こうした仕組みこそ、アセットアロケーションの核心といえます。

世界有数の機関投資家が実践するアセットアロケーション

GPIFは、運用資産約260兆円を抱える世界最大級の機関投資家で、厚生年金や国民年金といった年金積立金を管理・運用しています。公的年金の運用であるため、運用スパンが数十年と非常に長く、「市場のクジラ」の異名を持った超長期投資家として世界で知られています。

GPIFは、「国内債券」「外国債券」「国内株式」「外国株式」と4つの資産クラスにわたる配分比率を公表し、これを基本ポートフォリオ(資産構成割合)として位置づけています。過去には国内債券を主体とする保守的な運用スタンスをとっていましたが、近年は外国債券や株式比率を高めるなど、時代の変化や市場環境に応じて見直しを行ってきました。

こうした資産配分の変更は、内外の経済状況、金利、物価動向などを総合的に判断して行われ、厚生労働省から提示された運用目標をベースに、原則として5年に1度見直しています。GPIFは長期的視点を重視しつつ、必要に応じて基本ポートフォリオの調整やリバランスを行い、短期的な市場の動揺に安易に振り回されることはありません。

「第5期中期目標期間(2025年度からの5カ年)」は、4つの資産クラスをそれぞれ25%という基本ポートフォリオのもとで、巨額資金の運用を続けます。各資産構成には乖離許容幅も定められ、外国債券が±5%、それ以外の3資産は±6%で、内外合わせた債券と株式の許容幅はそれぞれ±9%です。

GPIFは2001年度に市場での運用をスタートさせましたが、2001年度から2023年度までの実質的な利回りは運用目標を上回る年平均4.24%。運用開始から20年以上を経過した2024年末現在の累積収益額は、実に約164兆円もの黒字となっています。GPIFの長期的な運用目標(名目賃金上昇率を差し引いた運用利回り1.9%/第5期中期目標期間)とその堅実強固な運用スタイルは、富裕層にとっても大いに参考になるものではないでしょうか。

参考:GPIF 基本ポートフォリオの考え方

リスクを抑えたアセットアロケーションに欠かせないオルタナティブ資産

もう一つ、GPIFには割合こそ高くないものの、注目すべき投資先があるのをご存知でしょうか。「第5期中期目標期間における基本ポートフォリオについて」には、次のような記載があります。

オルタナティブ資産(インフラストラクチャー、プライベートエクイティ、不動産)については、引き続き、独立した資産区分としては位置づけず、リスク・リターン特性に応じて国内債券、外国債券、国内株式、外国株式の中で管理することとし、資産全体の5%を上限とすることとしました。

出典:GPIF 第5期中期目標期間における基本ポートフォリオについて(PDF)

オルタナティブ資産とは、株式や債券といった伝統的資産を代替する資産クラス(不動産、金など)を指します。株式や債券とは異なるリスク・リターン特性を有していることから、資金の一部をオルタナティブ資産へ配分することで、株式と債券の相関が高くなる局面の下落リスクを軽減し、ポートフォリオの安定性を高めながら超過リターンも期待できます。

海外ではオルタナティブ資産への分散投資をいち早く進め、欧米の年金基金や大学基金などが伝統的資産の配分を減らし、オルタナティブ資産の投資比重を高めてきました。数兆円を運用するイエール大学やハーバード大学などがよく知られる存在ですが、伝統的資産だけのポートフォリオを大きく上回るリターンを上げてきた実績があります。

オルタナティブ投資では、ヘッジファンドやプライベートエクイティのほか、不動産、金、アート、ワインなどの現物資産が対象になります。日本の機関投資家でもオルタナティブ投資を手がけるケースは増えており、今後もこの流れは続くと予想されます。リスクを抑えたアセットアロケーションを行うために、すでに欠かせない存在といえるでしょう。

「まとめ」と次回コラムの案内

アセットアロケーションの目的は、異なるリスク・リターン特性を持つ資産クラスに資金を分散させ、運用資産全体のリスクを軽減しながら目標以上のリターンを得ることです。多額の資産を保有する富裕層ほど、「増やすこと」と同様に、「守ること」も重視します。一つの投資先にリスクが集中することを最も嫌いますので、複数の市場における運用が欠かせないでしょう。これにより、一部の投資先が不調であっても、他の投資先で安定的かつ十分なリターンを得られる可能性が高まります

アセットアロケーションを考えるにあたって、昨今の物価上昇局面において注目されているのが「不動産投資」です。不動産は代表的なオルタナティブ資産ですが、不動産への投資は安定したキャッシュフローやインフレヘッジ効果、実物資産としての安心感が得られることが大きな魅力であり、資産価値を維持したまま次世代へスムーズに引き継ぐためにも効果的です。さらに、不動産投資は生前贈与・相続税対策といった面でも有利です。これらのメリットを活かし、不動産をどのように組み込むかが、富裕層の資産運用における重要なポイントになります。

次回は、富裕層が考えるべきアセットアロケーションと不動産投資について、詳しくお伝えします。

執筆者

1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP認定者、宅地建物取引士

水野 崇

水野総合FP事務所代表。東京理科大学理学部卒業。相談、執筆・監修、講演・講師、取材協力、メディア出演など多方面で活躍する独立系ファイナンシャルプランナー。テレビ朝日「グッド!モーニング」、BSテレ東「マネーのまなび」などに出演。NHK土曜ドラマ「3000万」の家計監修を担当。学校法人専門学校東京ビジネス・アカデミー非常勤講師。一般社団法人相続・事業承継コンサルティング協会会員。

<保有資格>1級ファイナンシャル・プランニング技能士|CFP認定者|宅地建物取引士|日本証券アナリスト協会検定会員補|証券外務員1種 ほか

【URL】https://mizunotakashi.com/

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