2022年5月法改正における賃貸借契約電子化のポイントとメリット

カテゴリ
貸す  制度のこと 
タグ
不動産DX  契約 

不動産投資家K

B!

不動産の賃貸借に関して、いよいよ契約の電子化が可能になりました。不動産業者のみならず、不動産投資家にとっても影響が大きい改正です。今回の記事では法改正の背景、不動産賃貸借契約の電子化のポイントやメリットをわかりやすく解説します。

ポイント

  1. 2022年5月の宅建業法改正により不動産の契約の電子化が認められる
  2. 不動産の契約の電子化は多くのメリットと少しの必要条件がある
  3. 不動産の契約の電子化には重要書類の電子化と宅地建物取引士の押印不要の2つのポイントがある
目次

2022年5月の宅建業法改正の法改正とは

2020年4月、民法第522条において、「契約の成立」については書面である必要はないことが明記されました。また、デジタル改革関連法が2021年9月1日に施行され、そこには宅建業法改正の法改正も含まれています。

そして2022年5月18日から、不動産に関する賃貸および売買の取引において電子契約が認められました。

賃貸借契約電子化の背景

長い間、書面形式かつ当事者の押印を必要とした賃貸借契約が、いよいよデジタルで行えるようになりました。

この賃貸借契約電子化が実現した背景には、主に以下の3つの事情があります。

  1. 行政が不動産契約のデジタル化を推奨
  2. 電子契約を望む投資家が増加
  3. 不動産業界のDX化

行政が不動産契約のデジタル化を推奨

デジタル改革関連法の施行を受けて、行政も不動産契約のデジタル化を具体的に実現してゆくための政策を推進してきました。

国土交通省は2017年以降、一部の不動産契約におけるデジタル手法を活用した書面交付に関する社会実験を、継続して実施してきました。

電子契約を望む投資家が増えている

デジタル改革関連法の成立は、不動産ビジネスに携わる事業者のみならず、エンドユーザーである投資家からの期待にも応えるものとなりました。

コロナ禍が長期化していることも手伝って、少しでも不要な接触を避けたい投資家の望みがかなえられることになったのです。

不動産業界DX導入が進んでいる

国際競争力を身につけるために、各産業界がDXを推進しています。

デジタル化の機運が到来している中、不動産業界全体としてもDXが進んでおり、電子契約の導入準備が整ってきたわけです。

不動産賃貸借契約の電子化2つのポイント

今回の不動産賃貸借契約の電子化には、以下の2つのポイントがあります。

重要事項説明書等のデジタル化

宅建業法改正によって「重要事項説明書」「契約締結時書面」「媒介契約締結時書面」等をデジタル文書で交付することが可能になりました。

これまでもオンライン手続きは導入されていたものの、重要事項説明書などの各種書類は前もって取引相手に郵送する必要がありました。つまり、双方が手元にある紙の書類を確認しながら重要事項説明を行っていたのです。

今回の法改正で、電子ファイルをメールで送信すればよくなりました

宅地建物取引士の押印が不要に

これまでの宅建業法では、契約者に交付する書類の一部には、宅地建物取引士の記名・押印が義務づけられてきました。デジタル化された書類には物理的な押印は不要となります。

不動産賃貸借契約の電子化のメリット

不動産賃貸借契約の電子化によってもららされるメリットとしては、次の5つがあげられます。

  1. 契約手続きがスムーズになる
  2. 書類の閲覧・確認が容易になる
  3. ペーパーレスで保管できる
  4. コストを削減できる
  5. 改ざんなどの不正が起こりにくくなる

契約手続きがスムーズになる

メリットのひとつめは、書類作成がしやすくなり、郵送の手間も不要となるなど、契約手続きがスムーズになることです。

一般的な商取引とは大きく異なり、不動産取引の場合は複数の当事者(オーナー・借主・買主・仲介会社・管理会社・連帯保証人など)が契約名義人となります。

これだけの当事者が一同に集まることは困難なので、新たな書面が発生するたびに、不在者への書面郵送手続きが発生します。書面の郵送でのやりとりは、往復の時間だけでなくプラスアルファの手間もかかります。

デジタル契約を導入することで、この時間と手間が節約できます。

リモート・非対面でも契約ができる

ビデオチャットなどオンラインコミュニケーションツールを用いたリモートでの契約であれば、非接触・非対面で行えます。契約書類の取り交わしはデータの送受信で可能です。

コロナ禍が長期化するなか、感染症対策の意味においても、リモート形式で契約ができることは大きなメリットとなります。

書類の閲覧・確認が容易になる

2つ目のメリットは、書類の閲覧や確認が容易になることです。デジタルデバイスを使える環境であれば、いつでもどこでも契約の内容を閲覧することができます。 

不動産所有者や投資家には、高齢の方も少なくありません。デジタルの書類なら、PDFリーダーの機能で文字の拡大や音声による読み上げも可能なので、紙の書面よりも確認がしやすいともいえます。

PC画面だけでなく、タブレット端末などでの閲覧にも適しています。

ペーパーレスに保管できる

3つ目のメリットは、データとしてペーパーレスに保管できるので、物理的な保管場所が不要になることです。

これまでの不動産取引では、大量の書面が発生していました。大量の書類すべてを、いつでもすぐに取り出せるようにしておくことは困難です。しかしデジタル契約なら、いつでもどこでも必要に応じて検索することができます。

コストが削減できる

4つ目のメリットは、さまざまな事務費用や印紙税などが不要になることです。

どのような新技術であっても、従来と比べて確実にコストが削減できるメリットがなければ、ユーザーを増やすことはできません。デジタル契約に関しては、このコスト削減効果が大変優れているといえるでしょう。

紙ベースでの契約では1件の契約をまとめるだけでも、郵送費や用紙代、印刷代、収入印紙代など大量のコストが発生します。また、そのための人件費や保管スペースにもコストがかかります。

デジタル契約の場合、これらのコストを大幅に削減することができます。1件の契約だけで考えれば小さな金額でも、件数が増えていけば無視できない額になるでしょう。

改ざんなどの不正が起こりにくくなる

デジタルの書類は、閲覧制限をかけたり、アクセスログのデータが残るようにしておくことも可能なため、紙の書類のように勝手に持ち出したり、盗み出したり、改ざんしたりすることは難しくなるでしょう。

またパソコンに保管することで、書類の紛失なども起こりません。一方で、サーバーやストレージ上で管理するには、外部からの不正アクセスに注意するなど、セキュリティ対策の強化も重要になります。

電子署名の効力

2001年4月に「電子署名法」が施行され、本人による一定の要件を満たす電子署名は有効であると認められるようになりました。電子署名とは、デジタルデータ上での、紙の書類における捺印や署名に該当するものです。

ただし、本人が署名捺印したものであるという証明(本人性)と電子署名について改ざんが行われていないという証明(非改ざん性)の、2つを満たすことが求められます。これを証明するためには、認証局という第三者機関が発行する電子証明書が必要です。 これは印鑑証明のような役割をもっています。

また、締結した契約内容の電子データは、電子帳簿保存法により保管することが義務づけられています。その際、真実性、検索性、見読性の確保が求められます。

  1. 真実性の確保:タイムスタンプの付与やデータの訂正・削除の記録などによって、保存したデータの真実性を担保できるようにすること
  2. 見読性の確保:保存場所には操作説明書を備え付け、ディスプレイ上に速やかに出力できるようにしておくこと
  3. 検索性の確保:取引年月日、取引金額など書類の種類に応じた項目を、二つ以上組み合わせて範囲を指定して検索できること

参考:国税庁「電子帳簿保存時の要件」

不動産賃貸借契約の電子化に必要なもの

デジタル契約を導入するにあたっては、少なくとも以下の2点が必要です。

  1. 最低限のデジタルリテラシー
  2. ネット環境の整備

これらが整っていなければ、いくら利便性の高いデジタル契約でも、簡単には導入できません。導入前には最低限の下準備が必要です。

>最低限のデジタルリテラシー

不動産賃貸借契約の電子化に必要なもののひとつ目は、最低限のデジタルリテラシーです。

デジタルリテラシーとはデジタルデバイスであるPCやスマートフォン、タブレット端末などを使いこなす能力や、コンピューター上のアプリケーションを使用して作業ができる能力を意味します。

つまり、不動産投資を行う当事者に、デジタル機器を使いこなす最低限の能力がなければ、そのメリットを享受することはできません

最近ではタブレット端末やスマートフォンを問題なく使いこなせる高齢者の方も増えていますが、一方でデジタルが苦手な方々がいることも事実です。デジタル契約を進めるためには、苦手であっても、デバイスやアプリケーションの使い方を学ぶ必要があります。

ネット環境の整備

不動産賃貸借契約の電子化に必要なものの2つ目は、ネット環境の整備です。

いくらデジタル契約を望んでいても、自宅や事務所が問題なくインターネットに接続できる環境でなければ、オンラインコミュニケーションツールでのやり取りや書類の取り交わし、閲覧などができません。

もしインターネットへの接続が不安定な環境であれば、安定した接続を継続できるネット環境を作っておく必要があります。

まとめ

不動産関係の契約には、これまで長い間、紙の書類かつ押印が必要でしたが、時代の流れと共に電子契約が認められるようになりました。

コストや手間の削減、保管、閲覧の利便性などの多くのメリットがあり、ほとんどデメリットはありません。最低限のデジタルリテラシーとネット環境さえあれば、誰でもメリットを享受できます。

ここで紹介した情報を参考に、不動産投資を行う際にも、ぜひ電子契約を取り入れてください。

監修者

長谷川 憲一

資格
宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士
略歴
20年以上にわたり不動産業界に従事。中古物件の仕入れ販売、賃貸管理業務、マンスリーマンション事業の立ち上げ、リーシング事業の立ち上げなどに携わる。現在は、幅広い経験と知識を生かし、プロパティマネジメント・アセットマネジメントを担っている。

関連記事

大家になるには何が必要? アパート経営の流れや注意点、成功のポイント

大家になるために、特別な資格は不要ですが、アパート経営を行う目的や理由を明確にしたり、不動産投資の基本知識を身につけたりする必要はあります。また、どのように資金を調達するかまで考えることも必要です。 この記事では、大家になるにあたってどのような準備が必要なのか、またどのような流れで大家になるかなどについて解説します。将来的に大家になりたい人は、ぜひ最後までご覧ください。 ポイント 大家になるための...

資産承継とは?相続との違いや準備の流れ、円滑に承継するためのポイントを解説

資産承継は、財産を次世代に安全かつ計画的に引き継ぐための手段です。承継対象資産の整理や承継者の明確化を行い、遺言書や信託を活用することで、相続時の手続きや税負担を軽減できます。 本記事では、資産承継のステップや円滑に進めるためのポイントなどを詳しく解説します。 ポイント 資産承継とは、保有する資産を次世代や後継者へ引き継ぐこと 資産承継を円滑に進めるためには、計画と手順に沿った準備が大切 円満に資...

土地信託とは? 仕組みやメリット・デメリット

土地信託とは、土地の所有者が土地を専門家に信託し、管理や運用を任せることで収入を得る仕組みのことです。不動産運用の経験がない方でも始めやすく、自己資金がなくても土地活用ができるのがメリットですが、土地を自由に利用できなくなる、信託報酬が発生するなどのデメリットもあります。 この記事では、土地信託の概要をはじめ、土地信託の流れや主な運用方法などについて解説します。土地信託に興味をお持ちの方は、ぜひ最...

資金なしで土地活用をする方法4選!少額で始められる方法も紹介

所有している土地を有効活用したいけれど、「多額の初期費用がかかるのではないか」と不安に感じている人も多いのではないでしょうか。実は、まとまった資金なしでも、所有している土地を活用して利益を得られる方法はいくつかあります。ただし、そのリスクや注意点はしっかり確認しておく必要があります。 本記事では、資金なし・少額で土地活用を始める方法や注意点、土地活用が可能な土地の条件について解説します。 ポイント...

東京でアパート経営を行うメリットと注意点

東京でのアパート経営は、賃貸需要の高さや家賃水準の高さといったメリットがある一方で、地価や建築費の高さ、利回りの低さといった課題もあります。 本記事では、東京ならではの特性を踏まえ、アパート経営のメリットと注意点をわかりやすく解説します。 ポイント 東京でのアパート経営は安定した賃貸需要と高い家賃収入が見込める 東京でアパート経営する際は、地価の高さや利回りの低さ、税金の高さに注意が必要 東京のア...

不動産所有者が海外移住する際に必要な準備とは?不動産投資の課題と解決策

海外移住を予定していたり、海外赴任の可能性のある賃貸不動産のオーナーにとって、日本国内の賃貸経営や税務対応は大きな課題となります。入居者対応や家賃管理、家賃収入の確定申告などは現地から直接行うことができないため、管理会社への委託や納税管理人の選任が不可欠です。 本記事では、海外に移住・赴任するオーナーが直面するリスクや対応策を解説し、安心して賃貸経営を続けるためのポイントを紹介します。 ポイント ...

賃貸物件の入居率と稼働率の違いは?計算方法や活用場面

賃貸経営において入居率と稼働率は、どちらも空室状況や収益性を測るために重要な指標です。入居率はある時点にどれだけ部屋が埋まっているかを示すのに対し、稼働率は一定期間のうち実際に稼働していた割合を表すといった違いがあります。 本記事では、入居率と稼働率の違いやそれぞれが果たす役割、活用場面などをわかりやすく解説します。 ポイント 入居率とはある時点の入居状況、稼働率は一定期間の入居状況を示す指標であ...

不動産経営で入居率を上げる12の方法!すぐに実践したい具体的な空室対策

入居率を上げることで、賃貸経営の安定と収益確保に直結します。集客戦略の見直しや人気設備の導入、管理体制の見直しといった対策を総合的に行うことで、空室リスクを抑え、安定した入居率の実現が可能です。 本記事では、不動産経営で入居率を上げる12の方法を紹介しますので、ぜひ参考にしてください。 ポイント 入居率を上げる方法を考えるには、課題を分析することが重要となる 入居率を上げるためには、集客に向けた戦...

一括借り上げとは?仕組みやサブリースとの違い、メリット・デメリット

不動産経営の手法の1つに「一括借り上げ」があります。一括借り上げはオーナーにとって多くのメリットがある一方で、一括借り上げの仕組みや他の手法との違いについて正確に理解されていないケースも少なくありません。 この記事では、不動産経営における一括借り上げの仕組みやメリット、さらにサブリース・管理委託との違いについて解説します。 ポイント 一括借り上げとは、転貸を前提にアパートなどの物件一棟丸ごと借り上...

不動産の減価償却とは?計算方法や節税方法までわかりやすく解説

不動産の減価償却とは、建物など資産の価値が時間とともに減少していくという考えに基づき、その価値の目減り分を一定期間にわたって費用として計上していく会計上の仕組みのことです。 この記事では、不動産の減価償却の基礎知識から計算方法、節税に役立つポイントまでわかりやすく解説します。 ポイント 時間とともに減少する建物の価値を費用計上する手続きが減価償却 減価償却は、賃貸収入がある場合や不動産を売却した場...