不動産投資の損益分岐点とは?仕組みや計算方法について解説

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不動産投資において最も重要なことは、最終的な利益の確保です。そのためには利益の構成要素である「収入」と「支出」を正確に把握しなくてはなりません。同時に、利益が出始めるポイント「損益分岐点」についての十分な理解も不可欠です。

この記事では、不動産投資における損益分岐点の仕組みと計算方法、また損益分岐点から見た物件を選ぶポイントを解説します。

ポイント

  1. 不動産投資では、運用時の損益分岐点と売却時の損益分岐点がある
  2. 運用時の損益分岐点を把握しておくことは、全体収益をプラスにするために大切
  3. 出口戦略を計画する際は、売却時の損益分岐点を意識する
目次

損益分岐点(BER)とは

損益分岐点(Break Even Ratio=BER)とは、収入と支出の金額がちょうど同じになるポイントのことを指します。差し引きすれば利益がゼロ、黒字でも赤字でもない状態です。損益分岐点を上回ると利益が出始めることから、経営において把握しておかなくてはならない必須の要素といえます。

特に不動産投資でいえば、運用における損益分岐点と、売却における損益分岐点という、損益が確定する手順が異なるふたつの損益分岐点について正しく理解することが大切です。

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運用時の損益分岐点

不動産を運用する場合の収入と支出は、次のとおりです。

  1. 収入:家賃収入
  2. 支出:管理費・修繕費など運用に関わる諸経費の総額と借入金の返済額の合計

家賃収入は入居率(物件に入居があるかどうか)によって変わります。損益分岐点といえる入居率は、一戸建てであれば入居があるかどうか、複数の戸数があるアパートなどの集合住宅であれば満室時(全戸に入居がある場合)の家賃収入を基準として、損益分岐点といえる入居率は、次のような計算式で表すことができます。

運用の損益分岐点となる入居率 = 運用にかかる支出の総額 / 満室時の収入の合計

売却時の損益分岐点

これまで運用していた不動産を売却する場合の損益分岐点は、売却とそれにかかる支出だけでなく、これまで運用してきた損益や不動産購入時にかかった支出も含めて計算する必要があります。売却時の収入と支出は、次のとおりです。

  1. 収入:売却価格 + これまでの家賃収入
  2. 支出:売却にかかった経費 + 運用にかかった経費 + 購入にかかった経費

上記の「売却にかかった支出」には、直接売却にかかった諸経費と売却時の残債の金額が含まれ「購入にかかった支出」には直接購入にかかった諸経費と頭金が含まれることに注意しましょう。

不動産投資の損益分岐点の仕組み

不動産投資における損益には実にさまざまな要素が関係しています。そのため損益分岐点を正確に計算するには、すべての要素の数字だけでなく、要素同士の関係性を正しく把握しておくことが不可欠です。

ここでは不動産投資における収入と支出の細かな内訳や損益分岐点と空室率との関係、利益と損益分岐点の具体例について詳しく解説します。

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不動産収入の内訳

不動産投資における収入には、およそ次のようなものが含まれます。


<月ごとの収入>

  1. 家賃
  2. 共益費や管理費:共同で使用する設備の運営・維持のための費用として受け取る収入
  3. 敷地にある駐車場・駐輪場などの賃料


<それ以外の収入>

  1. 礼金:賃貸に関する家主への感謝を表す慣習からくる収入
  2. 更新料:賃貸契約の終了後、契約を継続する場合の手数料
  3. その他:敷地内にある自動販売機の収入や太陽光発電システムによる電力売却の収入など

不動産経営にかかる費用と内訳

不動産投資における経営上の費用には、次のようなものがあります。


<定期的に支払う費用>

  1. 借入金の返済:借入金額や契約によって金額が異なる
  2. 管理委託料:不動産の管理を委託するための費用
  3. 保険料:不動産の種類や契約内容によって金額が異なる
  4. 水道光熱費:共用部分にかかる費用


<発生ごとに支払う費用>

  1. 修繕費:建物などの経年劣化に伴い必要となる修繕にかかる費用
  2. 広告費:入居を促すための入居募集にかかる費用
  3. 仲介手数料:新規入居を仲介した不動産会社に支払う費用
  4. 退居費用:住人に退去してもらうための費用
  5. 解体費用:建て替えなどのため、建物の解体にかかる費用

この他にも、固定資産税や都市計画税、賃貸契約ごとに発生する印紙税などの税金も納める必要があります。

空室率と損益分岐点

一般に損益分岐点を大きく左右するのは「家賃収入」です。特に複数の戸数があるアパートのような集合住宅では、全室に対する空室率の割合=空室率は、損益分岐点の指標となり得る重要な数値といえます。

たとえば損益分岐点が60%、全6戸の集合住宅の場合、黒字となるには最低でも4戸の入居が必要(入居4戸=空室2戸、入居率66.7%)です。ここから空室が1戸増えれば入居率は50%に低下し、損益分岐点を下回る、つまり赤字に陥ります。

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損益分岐点が低いと黒字を出しやすい

支出を小さく、収入を大きくすることで、損益分岐点の数値を低くすることができます。損益分岐点が低ければ、入居率が低くても黒字を維持しやすくなります

しかし、収入を大きくするのは簡単なことではありません。一般的に、家賃は賃貸物件を選ぶ際の非常に大きな要素です。収入を大きくするためだけに家賃を上げてしまうと、入居づけが難しくなってしまい、かえって入居率が悪くなる可能性があります。

損益分岐点を低くするためには支出を小さくする工夫が必要です。水道光熱費の節約はもちろん、不動産購入時の借入金や金利、管理委託のための手数料、予想される修繕費といったさまざまな支出を軽減するための工夫が重要だといえるでしょう。

不動産投資の損益分岐点の計算方法

不動産投資における損益分岐点の内訳や仕組みがわかったところで、具体例を見てみましょう。数値はいずれも仮想のものですが、大切なことは、それぞれの関連性を把握することと、それぞれの変化によって損益分岐点がどのように上下するかを知ることです。

不動産を運用している場合と売却する場合に分けて解説しますので、該当する数値を置き換えて計算するためのテンプレートとして使うのもよいでしょう。

運用時の損益分岐点の計算例

1戸あたりの家賃・共益費の合計が7万6,000円で、全6戸の集合住宅を運用する場合の損益分岐点を考えてみましょう。毎月の諸費用が9万円、借入返済が20万円のとき、損益分岐点となる入居率の計算は次のとおりです。

1) 空室なしの場合の家賃収入の合計:7万6,000円 X 6戸 = 45万6,000円
2) 月あたりの支出の合計:9万円 + 20万円 = 29万円
3) 損益分岐点となる入居率:29万円 / 45万6,000円 = 63.6%

つまりこの場合、入居率が63.6%を下回ると赤字になるということです。6戸のうち2戸が空室だとすると、入居率は66.7%ですから、かろうじて黒字ということになります。

売却時の損益分岐点の計算例

次に、以下の条件の不動産を10年間運用した後に売却する場合の損益分岐点を見てみましょう。この場合の損益分岐点は、黒字になる売却価格を求めるために利用できます。

  1. 購入価格=借入金額:2,500万円(残債:1,800万円)
  2. 家賃収入:月14万円(年間168万円)
  3. 借入返済額:月8万円(年間96万円)
  4. 運用諸経費:月3万円(年間36万円)
  5. 購入時の諸経費:100万円
  6. 売却時の諸経費:100万円

1) 10年間の家賃収入:1,680万円
2) 10年間の運用支出:(96万円 + 36万円)X 10年間 = 1,320万円
3) 現時点の支出および残債の合計:1,320万円 + 100万円 + 100万円 + 1,800万円 = 3,320万円
4) 損益分岐点となる売却価格:3,320万円 ー 1,680万円 = 1,640万円

つまりこの時点で、この不動産を1,640万円以上で売却できれば黒字です。

損益分岐点から考える良い物件の条件

不動産の条件から損益分岐点を計算できるということは、逆に損益分岐点から運用に適した、いわゆる「良い物件」を見分けることもできるはずです。不動産を運用する場合、物件の状態だけでなく修繕の頻度や立地などさまざまな要素が関係します。

ここでは損益分岐点に欠かせないさまざまな要素から見た、良い物件の条件について考えてみましょう。

長く付き合える企業の物件

不動産、特に建物を運用するにあたり費用となり得る要素の1つに「修繕費」があります。ある程度の経年劣化は仕方ないとしても、管理の手法や頻度しだいでは、より長期にわたって維持することも可能です。しかし自身でそのノウハウを持っていない場合、管理を委託する会社の力量にかかってきます。

損益分岐点を低く抑えるためには、維持管理費や大規模修繕といった適切な資産価値の保全と賃貸管理力に優れた、長いお付き合いを期待できる会社が管理している物件が適しているといえるでしょう。

空室リスクが低い物件

不動産を運用する際に前提となるのが、その賃貸物件にニーズがあることです。ニーズがなければ入居希望者は現れず、長期間空室となり収入を得ることはできません。集合住宅であればなおのこと、満室となるまでには複数の契約が必要です。できるだけ空室リスクの低い物件が、良い物件だといえるでしょう。

空室リスクを回避したいからと言って、相場以上に「家賃を下げる」ことはおすすめできません。家賃を下げることは、その部屋の資産価値を下げるだけでなく、他の契約にも影響を及ぼす可能性があるからです。常に周辺の家賃相場とあわせ、自身の事業計画のバランスを保つことと、入居募集力の高い管理会社を選ぶことが大切だといえます。

地震などの災害に強い物件

不動産を運用する際は、災害によるリスクに対しても、何らかの対策を打つ必要があります。これから不動産を購入するのであれば、災害に強い物件がおすすめです。実際、大きな災害に見舞われたエリアであっても、周囲が大規模修繕や建て替えに追われる中、倒壊せず、変わらず収益をあげている物件も多数あります。

とりわけ木造物件は、他の構造の建物よりも耐久性が低くなりがちです。2000年に義務付けられた、次の耐震基準を満たしていることは、良い物件の前提といえるでしょう。

  1. 地盤に応じた基礎の設計
  2. 接合部への金具の取り付け
  3. 偏りのない耐震壁の配置

将来性の高い土地

損益分岐点を総合的に判断するには、建物だけでなく、土地についても高い将来性があるかどうか確認する必要があります。現在の価値が高いからといって、長期の運用に適しているとは限りません。将来損益分岐点を下回ってしまう可能性もあります。

周囲の状況や建築予定施設など、土地を取り巻くさまざまな情報を集めて分析し、長期的に需要があると考えられる土地は、良い物件であるといえるでしょう。

不動産投資の損益分岐点から考える出口戦略

不動産投資も他のさまざまな投資商品と同様、どこまで続けるか、どこでやめるかといった出口戦略を明確にしておく必要があります。損益分岐点には、運用状況や不動産価値の変化などの要素が含まれており、運用の出口戦略を検討するために利用できる指標のひとつです。

ここでは損益分岐点から考える出口戦略について、その利用方法と傾向について解説します。

出口戦略は売却時の損益分岐点を目安にする

不動産を運用する際の損益分岐点は、確かに毎年の運用実績を把握するために欠かせない数値です。しかしそれをたどっているだけでは出口戦略とはいえません。なぜなら出口戦略には、売却金額や売却にかかるさまざまな費用、また購入にかかった費用までを含める必要があるからです。

たとえ運用実績がプラスでも、売却時に損益分岐点を下回ってしまうこともあり得ます。トータルで黒字にするには、売却時の損益分岐点を目安にすることが重要です。

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長期間の保有により出口戦略は簡単になる傾向

売却する場合の損益分岐点に大きく影響するのは、その時点での残りの借入返済額です。借入返済額は返済を続ける限り減っていくため、長期間保有することにより、売却で黒字となる金額が低くなる、つまり出口戦略が簡単になる傾向があります

借入返済には元利均等返済と元金均等返済がありますが、元利均等返済は返済開始当初、元金が減りづらいという特徴があるため、早期に売却する出口戦略の場合、不利に作用しがちです。出口戦略で黒字にしたい場合は、できるだけ長期間保有することをおすすめします。

まとめ

ここまで不動産投資における損益分岐点の概要と仕組み、活用方法について解説してきました。損益分岐点は、毎年の利益の管理はもちろん、最終的な出口戦略(=不動産売却)の際の売却価格の検討にも活用できる有用な指標です。

また損益分岐点は、これから運用する不動産の見極めにも役立ちます。実際に活用する際は、何のために活用するのかを考えて、適切な手法を用いるようにしましょう。

監修者

2宅地建物取引士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士

中川 祐一

現在、不動産会社で建築請負営業と土地・収益物件の仕入れを中心に担当している。これまで約20年間培ってきた、現場に密着した営業経験と建築知識、不動産知識を活かして業務に携わっている。

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