確定申告での修繕費の扱いは?勘定科目や資本的支出の判断基準

カテゴリ
貸す  制度のこと 
タグ
不動産投資  税金  アパート経営  確定申告  修繕 

不動産投資家K

B!

マンションやアパートにおいて重要な修繕。ただし経理処理には注意が必要です。「修繕費」と「資本的支出」のどちらにするかで利益額が変わり、税金に影響します。本記事は確定申告で役立つ、修繕費の計上方法を解説します。

ポイント

  1. 修繕費は、事業用の資産の修理・補修など、破損をもとの状態に戻す原状回復のために支出した費用
  2. 修繕費と資本的支出の違いと判断基準を理解することが重要
  3. 修繕費か資本的支出かで経計上の方法や仕訳が異なる
目次

修繕費とは

修繕費は、固定資産の修理、改良等のために支出した金額のうち、その固定資産の維持管理や原状回復のために要したと認められる部分の金額です。

アパート経営においては、雨漏りの補修や、塗装・壁紙などの劣化・剥がれ落ちなどの、修復・メンテナンス・原状回復などにかかる費用は修繕費としてみなされます。

また、地震や台風などの自然災害によってアパートが損傷した場合、原状回復のための修理費用に関しても修繕費とみなされます。

ただし、修繕費として計上できるのは、あくまでも原状回復にかかった費用に限られることから、修理によって耐久性と資産価値が向上したとみなされた場合には修繕費とは判断されず、資本的支出となります。

修繕費と消耗品費の違い

修繕費を、消耗品費と混同しないように注意しましょう。修繕費は、あくまでも原状回復のための費用です。

消耗品費とは、たとえばアパート経営の管理のためのデスク・椅子・パソコンなどが該当し、数万円未満で購入される耐用年数が1年未満の備品です。これらの備品のうち、すでに購入済みのものを修理した場合は修繕費となります。

あわせて読みたい

修繕費が資産として扱われる場合

通常、修繕費は原状回復に必要な修理のための費用として経費計上が可能となっています。ただし、一定の条件を満たすことで資産としての取り扱いが可能です。

修繕費が資本的支出として計上される場合と、例外とされる場合について以下に解説します。

資本的支出とは

修繕することで結果的に有形固定資産の資産価値が向上した場合の費用は資本的支出とみなされます。資本的支出は修繕した年度には経費計上されず、複数年かけて減価償却される経費として計上されなければなりません。

すなわち修繕費は、あくまで有形固定資産の原状回復の経費です。これに対し、修理または補修などによって付加価値が付与され、資産価値が上がった場合は資本的支出と判断される点が大きな相違点といえるでしょう。

資本的支出の例外

資本的支出は、減価償却が原則であるものの、以下の規定を満たせば当該年度での経費計上が可能です。

  1. 一回の修繕費用が20万円未満。
  2. 修繕は3年以内の周期で行われている。

なお、修繕費か資本的支出かが不明な修理においては、以下の規定に該当すれば修繕費となります。

  1. 60万円以内の修理費または前期末における当該資産取得金額の1割以下の場合。
  2. 毎年継続的修理が必要な場合、修理金額の3割相当額、または当該資産取得金額の1割相当額のいずれか少額な方。

修繕費と資本的支出の判断基準

修理費用が修繕費になるのか、それとも資本的支出にすべきなのか、判然としない場合は、以下の基準に沿って判断します。

  1. 通常の原状回復のみの修理であれば修繕費となる。
  2. 修理することで資産価値が向上すれば資本的支出となる。
  3. 資本的支出と修繕費の比率が7:3となっていること。

これらの基準をわかりやすくフローチャートにまとめると以下のとおりとなります。一つの目安として、確認をしておきましょう。

なお、資本的支出と修繕費は、あくまでも、客観的な判断ができるかどうかで決まります。判断に迷う場合には、税理士などの専門家の意見を参考にするのが賢明でしょう。

修繕費と資本的支出の判定事例

1.照明器具の取り替え

照明用ランプの交換費用のみであれば修繕費となります。照明器具類は建物の付属設備の一部に過ぎず、LEDランプへの交換で寿命が延びたとしても、建物の付属設備全体の価値が高まるのでないことから修繕費とみなされます。

2.壁紙の張替え

壁紙の張替えは、原状回復に必要な費用とみなされるため、修繕費として経費計上が可能です。

3.屋上の防水工事を行う場合

屋上の防水工事は修繕費と資本的支出の判断が微妙な場合があります。単なる水漏れ対策の応急的な補修ではなく、屋根の対応年数を延長する工事の場合は、資本的支出となります。

修繕費と資本的支出の帳簿上の仕訳方法

ここでは、会計帳簿上での両者の仕訳方法について解説します。

修繕費の仕訳

会計帳簿においては以下に示すとおり、修繕費として経費計上をする場合には、借方の勘定科目に修繕費と記載し、貸方には支払い方法を記載する形式をとります。

上記壁紙を張り替えた際の工事費用の12万円を、企業の預金口座から支出して支払ったケースにおける会計帳簿の記入例です。

資本的支出の仕訳

資本的支出として会計帳簿上に仕訳する際には、試算の種類別にかかった費用を記載する形式となります。

上記の表は、外壁補修費が130万円です。さらに外壁の見栄えを良くするための塗装費として30万円、合計160万円を支出し、代金を預金口座から支払ったケースです。

資本的支出を減価償却する場合

外壁補修費が130万円で、塗装費が30万円のケースでは、塗装により資産価値を向上させた改良費として30万円が資本的支出に該当します。この場合の会計帳簿への記載は、以下の表に示すとおりです。

機材の耐用年数が10年の場合、減価償却資産の定額償却率は0.1です。数式にすると300,000×0.1=30,000となり、3万円が年間減価償却費となります。

勘定科目の違いによる税金への影響

アパートオーナーにとっては、修繕費あるいは資本的支出の勘定科目の違いによる課税が気になるところでしょう。そこで、修繕費または資本的支出との違いと税金への影響について、以下に示した比較シミュレーションを参考にしてください。

比較シミュレーション

アパートの補修費用のケースをみてみましょう。

  1. 修繕費として計上するケース

アパートの外壁の経年劣化に対して、同じ塗料による塗装工事に220万円かかった場合、220万円全額が経費となり、補修した年度内で修繕費として一括に経費計上されます。

  1. 資本的支出として計上するケース

塗装工事によって資産価値が向上したとみなされる場合は、工事費用220万円は全額が固定資産として、法律が定める対応年数に応じる減価償却費として計上されます。アパートが木造の場合、法定の耐用年数は22年です。

このケースでの減価償却費の計算式は、2,200,000÷22=100,000 となり、減価償却費は年間10万円です。

このように修繕費ならば、220万円全額が年度内で一括して経費以上できますが、資本的支出では1年間で10万円の経費計上となります。節税の観点からみると修繕費の方が、一時的には節税効果が高いといえます。

しかし、節税効果が高いからと実態を無視して修繕費に計上することはおすすめできません。判断が難しい場合は、税理士など専門家の判断をあおぐようにしましょう。

まとめ

アパート経営において、定期的な修理やメンテナンスは資産価値を維持し安定した賃貸経営を行うためにも重要です。節税や収益のバランスを考え、修繕費と資本的支出の違いをしっかりと理解し、計画的に修繕を進めることをおすすめします。

監修者

宅地建物取引士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士

中川 祐一

現在、不動産会社で建築請負営業と土地・収益物件の仕入れを中心に担当している。これまで約20年間培ってきた、現場に密着した営業経験と建築知識、不動産知識を活かして業務に携わっている。

不動産投資家Kでは無料相談を承っております!

不動産投資家Kとその仲間たちでは、「土地を相続する予定だけど、どうすれば良いか検討している」「管理が大変なので、土地を売却したいと思っている」など、土地・建物のさまざまなご相談を承っております。

あなたやあなたの家族の大切な資産を有効に活用できるよう、お気軽にご相談ください!

関連記事

大家になるには何が必要? アパート経営の流れや注意点、成功のポイント

大家になるために、特別な資格は不要ですが、アパート経営を行う目的や理由を明確にしたり、不動産投資の基本知識を身につけたりする必要はあります。また、どのように資金を調達するかまで考えることも必要です。 この記事では、大家になるにあたってどのような準備が必要なのか、またどのような流れで大家になるかなどについて解説します。将来的に大家になりたい人は、ぜひ最後までご覧ください。 ポイント 大家になるための...

資産承継とは?相続との違いや準備の流れ、円滑に承継するためのポイントを解説

資産承継は、財産を次世代に安全かつ計画的に引き継ぐための手段です。承継対象資産の整理や承継者の明確化を行い、遺言書や信託を活用することで、相続時の手続きや税負担を軽減できます。 本記事では、資産承継のステップや円滑に進めるためのポイントなどを詳しく解説します。 ポイント 資産承継とは、保有する資産を次世代や後継者へ引き継ぐこと 資産承継を円滑に進めるためには、計画と手順に沿った準備が大切 円満に資...

土地信託とは? 仕組みやメリット・デメリット

土地信託とは、土地の所有者が土地を専門家に信託し、管理や運用を任せることで収入を得る仕組みのことです。不動産運用の経験がない方でも始めやすく、自己資金がなくても土地活用ができるのがメリットですが、土地を自由に利用できなくなる、信託報酬が発生するなどのデメリットもあります。 この記事では、土地信託の概要をはじめ、土地信託の流れや主な運用方法などについて解説します。土地信託に興味をお持ちの方は、ぜひ最...

資金なしで土地活用をする方法4選!少額で始められる方法も紹介

所有している土地を有効活用したいけれど、「多額の初期費用がかかるのではないか」と不安に感じている人も多いのではないでしょうか。実は、まとまった資金なしでも、所有している土地を活用して利益を得られる方法はいくつかあります。ただし、そのリスクや注意点はしっかり確認しておく必要があります。 本記事では、資金なし・少額で土地活用を始める方法や注意点、土地活用が可能な土地の条件について解説します。 ポイント...

東京でアパート経営を行うメリットと注意点

東京でのアパート経営は、賃貸需要の高さや家賃水準の高さといったメリットがある一方で、地価や建築費の高さ、利回りの低さといった課題もあります。 本記事では、東京ならではの特性を踏まえ、アパート経営のメリットと注意点をわかりやすく解説します。 ポイント 東京でのアパート経営は安定した賃貸需要と高い家賃収入が見込める 東京でアパート経営する際は、地価の高さや利回りの低さ、税金の高さに注意が必要 東京のア...

不動産所有者が海外移住する際に必要な準備とは?不動産投資の課題と解決策

海外移住を予定していたり、海外赴任の可能性のある賃貸不動産のオーナーにとって、日本国内の賃貸経営や税務対応は大きな課題となります。入居者対応や家賃管理、家賃収入の確定申告などは現地から直接行うことができないため、管理会社への委託や納税管理人の選任が不可欠です。 本記事では、海外に移住・赴任するオーナーが直面するリスクや対応策を解説し、安心して賃貸経営を続けるためのポイントを紹介します。 ポイント ...

富裕層の投資戦略に学ぶ|どのように資産を守りながら安定的に資産を伸ばすか

「富裕層の投資戦略」と聞くと、多くの人が「特別な金融商品」や「限られたネットワーク内での情報交換」を想像するかもしれません。しかし、実際に長年にわたって資産を守り増やしてきた富裕層を観察すると、その答えは意外とシンプルです。 『どのように資産を守りながら安定的に資産を伸ばすか』 この問いを軸に投資戦略を組み立てているのです。 ここで注目すべきは、日本の富裕層が一様ではないという点です。資産形成の経...

資産価値とは?価値の高い不動産の条件や維持するポイント

資産価値とは、現金や不動産、株式などの資産が持つ経済的な価値を指し、不動産の場合は土地や建物の市場での取引価格や評価額で表されるのが一般的です。不動産の資産価値は立地条件や築年数、建物の状態など多くの要素で左右されるため、適切な管理や市場動向の把握によって維持・向上させることが可能です。 本記事では、資産価値の概要や価値の高い土地・建物の条件、維持するために必要なことを解説します。 ポイント 不動...

賃貸物件の入居率と稼働率の違いは?計算方法や活用場面

賃貸経営において入居率と稼働率は、どちらも空室状況や収益性を測るために重要な指標です。入居率はある時点にどれだけ部屋が埋まっているかを示すのに対し、稼働率は一定期間のうち実際に稼働していた割合を表すといった違いがあります。 本記事では、入居率と稼働率の違いやそれぞれが果たす役割、活用場面などをわかりやすく解説します。 ポイント 入居率とはある時点の入居状況、稼働率は一定期間の入居状況を示す指標であ...

不動産経営で入居率を上げる12の方法!すぐに実践したい具体的な空室対策

入居率を上げることで、賃貸経営の安定と収益確保に直結します。集客戦略の見直しや人気設備の導入、管理体制の見直しといった対策を総合的に行うことで、空室リスクを抑え、安定した入居率の実現が可能です。 本記事では、不動産経営で入居率を上げる12の方法を紹介しますので、ぜひ参考にしてください。 ポイント 入居率を上げる方法を考えるには、課題を分析することが重要となる 入居率を上げるためには、集客に向けた戦...